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2018.07.03

トルコの大統領選挙-新体制は安定するか

 トルコの大統領選挙は6月24日に行われ、エルドアン大統領が再選された。トルコでは、昨年の国民投票で憲法改正が僅差で承認されており、今回の大統領選挙と総選挙を経て新体制へ移行することになった。現行の議院内閣制は廃止され、新大統領は閣僚の任命や非常事態令の発令のほか、司法にも影響力を持つなど強い権限を与えられている。
 
 エルドアンは2003年に首相になって以来常に権力の座にあり、2014年、初めての直接選挙で大統領になったが、従来型の形式だけの大統領でなく実権を保持してきた。今回の大統領選で再選されたエルドアンは今後2期、10年間大統領職を続けられる。選挙時期を早めれば、さらに5年間延長することも可能だそうだ。そうすると、エルドアンは前後30年間最高権力を保持することになる。共和制トルコの「建国の父」としてあがめられているケマル・アタチュルクよりはるかに長い期間トルコの指導者となる道が開けたわけだ。

 エルドアンが国民の支持を受けた大きな理由は、建国以来の強い世俗主義をあらため、イスラムの復権を進めた点にあった。エルドアンは敬虔なイスラム教徒であり、かつて原理主義を扇動したとして実刑判決を受け服役したこともある。2001年にはイスラム主義の公正発展党(AKP)を立ち上げた。それ以来AKPは一貫してエルドアンを支持してきた。

 しかし、エルドアンは「世俗主義」をどこまで変えられたか。実は、選挙結果で見ると、AKPのかつての勢いは衰えを見せており、2015年の総選挙での支持率は半数を割り込んだ。
 2016年7月には、エルドアンのイスラム化方針に危機感を抱いた軍の一部勢力が都市部の知識階級やリベラル派の世俗主義者をバックにクーデタを起こした。クーデタ後、関与を疑われて拘束された者は10万人以上に上り、多数の軍人や公務員が職を追われた。メディアも100社以上が閉鎖を命じられ、200人以上の記者が逮捕された。締め付けは社会全体を萎縮させたと言われている。この事件は、エルドアンの力を見せつける一方、軍と司法機関にとっては大きなダメージであったが、世俗主義が後退したとみる人は少ない。
 そして今回の大統領選挙と総選挙でも、AKPは過半数の支持を獲得できず、極右政党との連立を余儀なくされた。

 一方、トルコは「世俗主義か、イスラム主義か」とは関係ないところで困難な問題を抱えている。

 第1は、シリア内戦と難民への対応である。シリアでは政府軍が支配地を拡大しつつあるが、トルコは反政府軍を支援してきたのでシリア政府との関係は困難になっている。また、シリア政府軍が勢力を拡大すればするほど難民が多くなるという、トルコにとってはまことにつらい状況がある。

 第2に、経済不振である。2017年は、トルコ・リラが20%ダウンしたことにもよるが、ドルベースではマイナス成長に陥った。対外債務も増加傾向にある。とくに、エルドアンの強権的かつ反西欧的姿勢を嫌って外国からの投資は2016年、17年と2年連続で減少した。これにはエルドアンとしても対応策を迫られるといわれている。

 第3に、山岳民族クルド人の動向もエルドアン体制を揺るがす危険がある。長い傾向で見れば、クルド人の自治権を拡大する方向で進んできが、最近はシリア内戦との関係でクルド人問題がふたたび険悪化してきた。
シリア内戦と過激派組織ISとの戦いにおいて、クルド人武装組織の「人民防衛隊(YPG)」は大きな役割を果たしたが、最近、トルコ政府はYPGをテロ組織とみなすようになり、多数のクルド人政治家を投獄した。これに対しクルド人は強く反発し、トルコ政府とクルド人は一種の悪循環に陥っている。
この問題はトルコと米国との関係にも影響を及ぼしている。米国はIS掃討作戦においてYPGの力を利用しており、トルコ政府を支持できないのである。

 トルコの内外の状況はかように厳しいので、新体制はこのままでは維持できなくなり、2,3年後には再選挙を余儀なくされるとの声もある。

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