オピニオン
2018.11.27
2014年選挙で民進党が大勝したのは、同党が台湾人(いわゆる本省人)の多い党である一方、当時の与党であった国民党は、どちらかといえば、第二次大戦後大陸から台湾に来た人たち(いわゆる外省人)が中心で、中国寄りであり、台湾人が民進党に投票したからであった。
台湾の有権者の選択はわずか4年で完全に逆転したのであるが、今後、国民党色が強まるかといえば、答えはイエス アンド ノーである。
前回の統一地方選挙はその2年後の総統選挙の前哨戦となり、民進党はこの選挙でも、2年後の総統選でも大勝した。
このような前例があるため、次期総統選で民進党の蔡英文総統が再選される可能性は低くなったという見方が強くなっており、国民党は勢いづいている。
また、蔡英文氏は、今回の選挙結果を受け民進党の党首をすでに辞任したので、自ら次回の総統選には出ないこととしたのだろうともいわれている。民進党内では次期総統選の候補選びが始まっているともいう。
しかし、国民党は台湾人の心をつかめるか。今回の選挙結果だけでは台湾の政治状況は測れない。
台湾では、日本と比べ民意は短期間で変化する。台湾が民主化してから約30年しか経過していないので、政治傾向はまだ安定していないのだ。
国民党に対する台湾人のアレルギー(嫌悪感というべきかもしれない)は今なお強い。数年前に台湾人を取り込めなかった国民党は短期間に大きく変化できないとも考えられる。
今回の選挙で圧倒的多数の選挙民が国民党を選んだことは紛れもない事実だが、国民党がどの程度好かれたのかよくわからない。国民党への投票は、台湾人の民進党支持が以前の勢いを失った結果であり、台湾人の国民党に対する期待が高まったとみることは困難である。
民進党政権のイメージが悪くなったのは中国との関係にも原因があった。中台関係についての国民党と民進党の立場は違っており、国民党は中国との関係改善を望んでいるが、民進党は現状維持である。このような状況の中で、中国は、現状維持の蔡英文総統を嫌って徹底的にいじめた。また、台湾と外交関係を維持している国が中国になびくよう、カネにものを言わせて攻勢を強め、結果相次いで台湾との関係を切らせることに成功した。このようなことも今回の選挙で国民党が大躍進する背景になっていたのだろう。
民進党自身にも問題があった。象徴的なのは、今回の地方選挙で柯文哲現市長を応援せず、独自の候補を立てたことだと台湾のメディアはこぞって指摘している。前回の選挙では民進党は独自の候補を立てず、無党派の柯文哲を応援し、当選を助けた。民進党としてはそもそも柯文哲を同党の候補としたかったのだが、同氏は無党派であることにこだわったと言われていた。しかるに、民進党は今回、柯文哲と決別してしまった。民進党がその決定をしたのは今年の5月であったという。
党内事情などもあったのだろう。民進党は、柯文哲氏は2020年の次期総統選に立候補する可能性があるので、早い段階からその芽を摘んでしまおうとしたともいわれている(中国時報11月25日)。もしそうであれば、蔡英文総統は当然承知していただろう。これは民進党として大失敗ではなかったか。
柯文哲氏は「無党派」であり、「第三勢力」とも呼ばれる。民進党でも国民党でもない第三の勢力というわけだ。これが注目され始めたのは、2014年の地方選挙であった。
今回、柯文哲氏が民進党と国民党から反対されながら当選を果たしたことの意義は大きい。国民党の候補、丁守中は選挙結果に異議を唱えているくらい僅差であったが、そうであっても、負けたことに変わりはない。民進党に至っては真っ向から戦いを挑んで惨敗した。台湾の2大政党の候補はどちらも柯文哲氏に敗れたのだ。
第三勢力が勢力を拡大しているのは、民進党に対する台湾人の失望感が増大していることの反映である。民進党が台湾独立を志向していることは周知の事実である。同党の綱領には台湾の独立を求めることが明記されている。最近はそのことを表に出さないよう努めているようにも感じられるが、同党のそのようなイメージは簡単に消えない。
台湾独立は、中国はもとより米国も望んでいない。そのうえ、台湾人でさえ台湾独立を標榜することは問題だと考え始めたのだろうか。第三勢力の台頭はそのような傾向を示唆しているとも考えられる。
ただし、台湾人が民進党よりも第三勢力を選択するようになったと断言するのは早すぎる。第三勢力の支持基盤は弱い。将来、第三勢力が主要な政治勢力になる保証はない。
一方、台湾人の若者は、現実の暮らしぶりを重視し、政治的イデオロギーには関心を持たなくなっているともいわれており、第三勢力がそのような台湾人の気持ちに応えたことは注目されるべきであろう。
長年、民進党の牙城であった高雄市で、今回は国民党の韓國瑜氏が大勝した。このこと自体画期的であり、民進党にとっては手痛い打撃となったが、韓國瑜が勝ったのは国民党候補であったことがどの程度大きな要因であったか。台湾の各紙は、同氏の個人的な魅力が選挙民にアピールしたと指摘している。つまり、国民党の候補であったこともさることながら個人的に魅力的な人物であったことも重要な勝因であったというわけだ。ここにも若い世代の台湾人の動向が関係しているように思われる。
いずれにせよ、民進党にとっても国民党にとっても、台湾人の心に寄り添い、代弁していけるか、また、第三勢力とその支持勢力を取り込めるかが最大の課題となるだろう。
台湾の統一地方選挙と第三の勢力
台湾で11月24日に行われた統一地方選挙で、与党民進党は惨敗した。2014年に行われた前回の選挙と比べ、民進党と国民党の勝敗数がほぼ完全に逆転した。2014年選挙で民進党が大勝したのは、同党が台湾人(いわゆる本省人)の多い党である一方、当時の与党であった国民党は、どちらかといえば、第二次大戦後大陸から台湾に来た人たち(いわゆる外省人)が中心で、中国寄りであり、台湾人が民進党に投票したからであった。
台湾の有権者の選択はわずか4年で完全に逆転したのであるが、今後、国民党色が強まるかといえば、答えはイエス アンド ノーである。
前回の統一地方選挙はその2年後の総統選挙の前哨戦となり、民進党はこの選挙でも、2年後の総統選でも大勝した。
このような前例があるため、次期総統選で民進党の蔡英文総統が再選される可能性は低くなったという見方が強くなっており、国民党は勢いづいている。
また、蔡英文氏は、今回の選挙結果を受け民進党の党首をすでに辞任したので、自ら次回の総統選には出ないこととしたのだろうともいわれている。民進党内では次期総統選の候補選びが始まっているともいう。
しかし、国民党は台湾人の心をつかめるか。今回の選挙結果だけでは台湾の政治状況は測れない。
台湾では、日本と比べ民意は短期間で変化する。台湾が民主化してから約30年しか経過していないので、政治傾向はまだ安定していないのだ。
国民党に対する台湾人のアレルギー(嫌悪感というべきかもしれない)は今なお強い。数年前に台湾人を取り込めなかった国民党は短期間に大きく変化できないとも考えられる。
今回の選挙で圧倒的多数の選挙民が国民党を選んだことは紛れもない事実だが、国民党がどの程度好かれたのかよくわからない。国民党への投票は、台湾人の民進党支持が以前の勢いを失った結果であり、台湾人の国民党に対する期待が高まったとみることは困難である。
民進党政権のイメージが悪くなったのは中国との関係にも原因があった。中台関係についての国民党と民進党の立場は違っており、国民党は中国との関係改善を望んでいるが、民進党は現状維持である。このような状況の中で、中国は、現状維持の蔡英文総統を嫌って徹底的にいじめた。また、台湾と外交関係を維持している国が中国になびくよう、カネにものを言わせて攻勢を強め、結果相次いで台湾との関係を切らせることに成功した。このようなことも今回の選挙で国民党が大躍進する背景になっていたのだろう。
民進党自身にも問題があった。象徴的なのは、今回の地方選挙で柯文哲現市長を応援せず、独自の候補を立てたことだと台湾のメディアはこぞって指摘している。前回の選挙では民進党は独自の候補を立てず、無党派の柯文哲を応援し、当選を助けた。民進党としてはそもそも柯文哲を同党の候補としたかったのだが、同氏は無党派であることにこだわったと言われていた。しかるに、民進党は今回、柯文哲と決別してしまった。民進党がその決定をしたのは今年の5月であったという。
党内事情などもあったのだろう。民進党は、柯文哲氏は2020年の次期総統選に立候補する可能性があるので、早い段階からその芽を摘んでしまおうとしたともいわれている(中国時報11月25日)。もしそうであれば、蔡英文総統は当然承知していただろう。これは民進党として大失敗ではなかったか。
柯文哲氏は「無党派」であり、「第三勢力」とも呼ばれる。民進党でも国民党でもない第三の勢力というわけだ。これが注目され始めたのは、2014年の地方選挙であった。
今回、柯文哲氏が民進党と国民党から反対されながら当選を果たしたことの意義は大きい。国民党の候補、丁守中は選挙結果に異議を唱えているくらい僅差であったが、そうであっても、負けたことに変わりはない。民進党に至っては真っ向から戦いを挑んで惨敗した。台湾の2大政党の候補はどちらも柯文哲氏に敗れたのだ。
第三勢力が勢力を拡大しているのは、民進党に対する台湾人の失望感が増大していることの反映である。民進党が台湾独立を志向していることは周知の事実である。同党の綱領には台湾の独立を求めることが明記されている。最近はそのことを表に出さないよう努めているようにも感じられるが、同党のそのようなイメージは簡単に消えない。
台湾独立は、中国はもとより米国も望んでいない。そのうえ、台湾人でさえ台湾独立を標榜することは問題だと考え始めたのだろうか。第三勢力の台頭はそのような傾向を示唆しているとも考えられる。
ただし、台湾人が民進党よりも第三勢力を選択するようになったと断言するのは早すぎる。第三勢力の支持基盤は弱い。将来、第三勢力が主要な政治勢力になる保証はない。
一方、台湾人の若者は、現実の暮らしぶりを重視し、政治的イデオロギーには関心を持たなくなっているともいわれており、第三勢力がそのような台湾人の気持ちに応えたことは注目されるべきであろう。
長年、民進党の牙城であった高雄市で、今回は国民党の韓國瑜氏が大勝した。このこと自体画期的であり、民進党にとっては手痛い打撃となったが、韓國瑜が勝ったのは国民党候補であったことがどの程度大きな要因であったか。台湾の各紙は、同氏の個人的な魅力が選挙民にアピールしたと指摘している。つまり、国民党の候補であったこともさることながら個人的に魅力的な人物であったことも重要な勝因であったというわけだ。ここにも若い世代の台湾人の動向が関係しているように思われる。
いずれにせよ、民進党にとっても国民党にとっても、台湾人の心に寄り添い、代弁していけるか、また、第三勢力とその支持勢力を取り込めるかが最大の課題となるだろう。
アーカイブ
- 2025年3月
- 2025年2月
- 2025年1月
- 2024年10月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月