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2017.07.21

孫政才重慶市書記の解任

 7月15日、中国共産党は重慶市(北京、上海とならぶ直轄市)のナンバーワン、孫政才書記の解任を発表した。
中国共産党の序列から見れば孫政才よりハイレベルの人物が汚職を理由に逮捕・訴追されている。たとえば、周永康は元政治局常務委員、つまりトップ9の一人であった。孫政才は平の政治局員、つまりトップ25の一人に過ぎない。
 しかし、孫政才はバリバリの現役であり、2022年に習近平主席が退任(その前に今秋開かれる共産党第19回全国代表大会で再任されることが前提であるが、それはほぼ確実視されている)した後に中国共産党のナンバー1か2に昇格する可能性が高いと目されていた。いわゆる「第6世代」のホープだったのだ。

 孫政才は北京で開かれた金融工作会議に出席している間に突然拉致されたという。同人は、党中央が拉致の準備をしていたことを知らずに重慶市の書記としてふるまっていたのだ。
 中国でも法を犯せば、訴追され、裁判にかけられる。一定の手続きがあるが、政治性の強い場合、逮捕されればまず間違いなく有罪となる。おそらく今回もそうなるだろう。裁判が行われても、それは形式的なことに過ぎない。

 おなぜこのように強引な措置が取られるのか。党中央が特定の指導者について排除すると判断せざるをえなかった例は中国共産党の歴史上いくらもあり、決して珍しいことでない。その場合、共産党体制を不安定化させないよう必要な措置が取られる。これは組織防衛の観点からはある意味、当然なのであろう。孫政才のような現役の重要人物の場合は排除の影響がそれだけ大きくなるので、当局としては周到な準備をしたうえで一気呵成に案件の処理を行おうとした。今回、同人の解任と同時に新書記、陳敏爾の就任を発表したのもその一環であり、今回の措置が最終的なものであることを示す狙いがあったと思われる。
 劉暁波の場合も孫政才と共通する面がある。当局は劉暁波が共産党体制を不安定化させる危険があると判断したから投獄したのであり、また、死亡後、一気呵成に遺骨の処理まで進めてしまおうとしたのも、民主化を求める運動に利用されたくないからであった。

 共産党政権は、必要であれば人権の制約も辞さない。とくに習近平主席は国家の安全、すなわち共産党体制の安定を重視し、そのため、言論の統制、反腐敗運動、国家安全関連法の整備など各種の統制措置を最大限強化してきた。孫悟空の緊箍児よろしく、暴れだして共産党体制に危険が及びそうになると締め付けておとなしくさせるわけである。この習近平体制は有効に機能しており、5年に1回の中国共産党全国代表大会は、予定通り今秋に開催されそうだ。
 
 しかし、このような手法が中国のためになるのか。孫政才の場合も劉暁波の場合も反対意見はあまり出ていないように見える。しかし、それは、習近平政権がパワーで反対意見を封じ込んでいるからだ。
 習近平政権は力づくで押さえつけるだけでなく、経済成長にも成功し、それによって人民の不満は緩和されている。膨大な数の中国人が豊かな生活を謳歌しているのは事実である。
 しかし、大多数の人は心の底ではおびえているのではないか。孫政才と劉暁波に対する当局の対応は、共産党体制の闇の深さをあらためてうかがわせる機会になった。

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