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朝鮮半島

2023.12.02

北朝鮮問題の現況

 北朝鮮は今年の5月と8月、偵察衛星打ち上げに失敗したが、11月21日「万里鏡(マンリギョン)1号」を地球周回軌道に投入することに成功した。北朝鮮メディアは、金正恩総書記の満面の笑顔とともに、日米韓の米軍基地や米ホワイトハウスなどの主要施設の撮影に成功したことを連日伝えている。ただし、施設の画像はまだ放映していない。もろもろの事情があるのだろうが、画像の精度が低いためかもしれない。

 北朝鮮の軍事力が今回の成功により一段と向上したことは間違いない。いまや、北朝鮮の衛星が上空から世界の軍事施設を見るようになってきたのであり、いずれ1メートル、さらに数十センチのものも見分けることとなるだろう。北朝鮮のこのような軍事能力の向上は日本にとって重大な脅威となるが、米国の国防総省(ペンタゴン)にとっても由々しい事態であるに違いない。もっとも、北朝鮮は以前から米国などの衛星で動向を逐一フォローされており、脅威も感じていたのだろうが、これからは、というか、いずれは米国とも対等に近い立場で偵察しあうことになるのだろう。

 我々はどのように対応すべきか。米政府は30日、大量破壊兵器プログラムに使われる資金や技術の制裁逃れを助長しているとして、外国を拠点とする代理人らを新たに対象とする追加制裁措置を発表した。

 米国の宇宙軍司令部は「北朝鮮の偵察衛星が活動できないようにすることもできる」との考えを示したと報じられた。具体的な方法については、韓国メディアは「レーザーなどを利用して、衛星に搭載されているカメラの機能などを作動しないようにすることや、衛星を破壊することを意味する」と報じている。しかし、これは極めて危険なことであり、米軍としてもそう簡単にできることでない。もしそんなことをすれば、地球を周回している米国の衛星も攻撃を受け、宇宙は収拾のつかない大混乱に陥るからである。

 制裁の強化は合理的な対応だとみられている。だが、これも簡単でない。核実験やミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対して、国連安保理で2006年10月以降10数回の制裁決議が採択されている。毎回、制裁措置は強められているが、中国やロシアが反対に回ることが多かった。
 北朝鮮が6回目の核実験を強行した際には、決議案は全会一致で採択された(決議第2375号:2017年9月採択)。
 2017年11月に北朝鮮が新型のICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験だとして、弾道ミサイルを発射した時にも制裁決議が全会一致で採択された(決議第2379号: 2017年12月採択)。

 しかし制裁決議はどのていど効き目があったか。北朝鮮が米国との交渉において、なんとか制裁の撤廃、あるいは緩和を実現しようとしたのは事実である。2019年2月のハノイにおけるトランプ大統領・金正恩総書記の第2回会談では、制裁の緩和が最大の争点であった。

 この会談は失敗に終わったが、北朝鮮はその後も必要物資を何とか、どこからか調達してきた。国民が塗炭の苦しみにあえいでいるのは100%でないかもしれないが、事実である。にもかかわらず、北朝鮮は執拗に弾道ミサイルを発射し、偵察衛星まで打ち上げに成功したのである。軍事面だけでない。平壌などでは自動車が増えており、一部の民間人はそれを利用している。このような事実にかんがみると、北朝鮮に対する制裁措置の効果を測るのは難しいといわざるを得ない。

 今年も師走、北朝鮮をめぐる情勢を大きくまとめてみると、北朝鮮だけが政策目的を実現するため盛んに動いており、一定の成果を挙げている。その政策が各国にとっては認められないものであっても突き進んでいる。

 一方、日本や米国は政策を持たないわけではないが、その実現のため動いているとは思えない。北朝鮮がミサイル実験や偵察衛星の発射などを行うのでその非難に明け暮れたのは事実であるが、その効果は、前述したように、小さい。

 米国の場合は政権ごとに対北朝鮮政策が異なる。現バイデン政権は北朝鮮問題に熱意をもって臨んでいるとは思えない。中国との関係、ウクライナ侵攻とロシアとの対峙、パレスチナのガザ問題などの急務があるので、北朝鮮に割ける余力はないという事情も確かにあるが、それにしても現政権はトランプ前政権とくらべて北朝鮮に関心を向けていない。米国は来年大統領選挙であり、次の政権になると北朝鮮政策が変わるか、保証の限りでないが、少なくとも現政権ではこれまでのやり方を踏襲すること以上は期待できないと思われる。

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