9月, 2018 - 平和外交研究所 - Page 2
2018.09.07
中国のアフリカに対する援助は近年急増し、各国から注目されている。アフリカでは、欧米諸国の外交官が集まるといつも中国が話題になるという。欧州諸国は、自分たち自身中国との協力、中国からの投資受け入れに熱心であるが、アフリカへの中国の進出については競合関係にある。
中国が「中国アフリカ協力フォーラム」を開催しているのはアフリカ諸国の不満を吸い上げ、援助の「質」を改善するためである。習近平主席は今回、無償援助150億ドルを含む総額600億ドル(約6兆6500億円)の拠出を表明した。中国の援助は原則有償、つまり返済が必要な借款であるが、アフリカ諸国には無償援助を増加せざるをえなくなっているのである。これまでの借款についても、18年末までに償還できない国には債務を免除する方針を示した。
このほか、アフリカ経済の成長に必要な農業支援や、環境保護対策も重視するとも表明した。
中国は2000年以来3年ごとに、この「中国アフリカ協力フォーラム」を開催している。日本が1993年から、国連、アフリカ連合、世界銀行などと共同で開催しているTICAD(Tokyo International Conference on African Development アフリカ開発会議)を意識して始めたことであろうと思われる。
最近のTICADⅥは2016年、ケニア・ナイロビで開催した。アフリカでの開催は初めてであった。この会議で日本は2016~18年で300億ドルの「質の高い投資」を表明した。
中国の援助について問題点として挙げられるのは、資源獲得と政治的理由が目的であることだ。
アフリカでは、資源が中国によって持ち去られること自体にも批判がある。また、プロジェクトを認めるとしても、中国が巨額の投資を行って工場やインフラを建設するのはよいが、中国人労働者を多数送り込んでくることには批判が起こっている。中国としては言葉もろくに通じない現地の労働者よりも、中国人のほうが使いやすいのだろうが、アフリカ側では雇用につながらないので不満である。
ともかく、中国人のアフリカへの流入量は尋常でなく、一カ国に万の台の中国人が入り込んでいる。日本などはだいたい百の台である。欧米諸国は日本より多いかもしれないが、五十歩百歩である。
中国の援助のもう一つの特徴は、強い政治目的のために行われていることである。例えば中国との関係が深い諸国は国連でも中国の立場を支持する傾向がある。中国はまさにそのために援助をしている場合も多いのだ。
なかでも、台湾を孤立化させるために援助を使っているのは問題だが、中国はそのことを隠そうとしない。中国の習近平(シーチンピン)国家主席は今回の「中国アフリカ協力フォーラム」での冒頭演説で、台湾と断交して新たに加盟したガンビア、サントメ・プリンシペ、ブルキナファソを「熱烈な拍手で歓迎」した。
中国パワーのひけらかしだけが目立ったが、このようなことでは援助の「質」の向上は到底望めない。
欧米諸国は、中国のこのようなふるまいを「新植民地主義」だと批判している。中国はこの批判に対し、欧米諸国が以前してきたことだという気持ちがあるのだろうが、だからと言って免責されるわけではない。政治目的が強ければ強いほど批判されるのは当たり前である。
台湾と外交関係がある国に対して援助で台湾と断交させるのは、本来の援助の目的から大きく逸脱している。政治目的のために手段を択ばない強引な行為であろう。
中国のアフリカ援助は「新植民地主義」でないか
「中国アフリカ協力フォーラム」が9月3~4日、北京で開催され、「北京宣言」と「行動計画」が発表された。中国のアフリカに対する援助は近年急増し、各国から注目されている。アフリカでは、欧米諸国の外交官が集まるといつも中国が話題になるという。欧州諸国は、自分たち自身中国との協力、中国からの投資受け入れに熱心であるが、アフリカへの中国の進出については競合関係にある。
中国が「中国アフリカ協力フォーラム」を開催しているのはアフリカ諸国の不満を吸い上げ、援助の「質」を改善するためである。習近平主席は今回、無償援助150億ドルを含む総額600億ドル(約6兆6500億円)の拠出を表明した。中国の援助は原則有償、つまり返済が必要な借款であるが、アフリカ諸国には無償援助を増加せざるをえなくなっているのである。これまでの借款についても、18年末までに償還できない国には債務を免除する方針を示した。
このほか、アフリカ経済の成長に必要な農業支援や、環境保護対策も重視するとも表明した。
中国は2000年以来3年ごとに、この「中国アフリカ協力フォーラム」を開催している。日本が1993年から、国連、アフリカ連合、世界銀行などと共同で開催しているTICAD(Tokyo International Conference on African Development アフリカ開発会議)を意識して始めたことであろうと思われる。
最近のTICADⅥは2016年、ケニア・ナイロビで開催した。アフリカでの開催は初めてであった。この会議で日本は2016~18年で300億ドルの「質の高い投資」を表明した。
中国の援助について問題点として挙げられるのは、資源獲得と政治的理由が目的であることだ。
アフリカでは、資源が中国によって持ち去られること自体にも批判がある。また、プロジェクトを認めるとしても、中国が巨額の投資を行って工場やインフラを建設するのはよいが、中国人労働者を多数送り込んでくることには批判が起こっている。中国としては言葉もろくに通じない現地の労働者よりも、中国人のほうが使いやすいのだろうが、アフリカ側では雇用につながらないので不満である。
ともかく、中国人のアフリカへの流入量は尋常でなく、一カ国に万の台の中国人が入り込んでいる。日本などはだいたい百の台である。欧米諸国は日本より多いかもしれないが、五十歩百歩である。
中国の援助のもう一つの特徴は、強い政治目的のために行われていることである。例えば中国との関係が深い諸国は国連でも中国の立場を支持する傾向がある。中国はまさにそのために援助をしている場合も多いのだ。
なかでも、台湾を孤立化させるために援助を使っているのは問題だが、中国はそのことを隠そうとしない。中国の習近平(シーチンピン)国家主席は今回の「中国アフリカ協力フォーラム」での冒頭演説で、台湾と断交して新たに加盟したガンビア、サントメ・プリンシペ、ブルキナファソを「熱烈な拍手で歓迎」した。
中国パワーのひけらかしだけが目立ったが、このようなことでは援助の「質」の向上は到底望めない。
欧米諸国は、中国のこのようなふるまいを「新植民地主義」だと批判している。中国はこの批判に対し、欧米諸国が以前してきたことだという気持ちがあるのだろうが、だからと言って免責されるわけではない。政治目的が強ければ強いほど批判されるのは当たり前である。
台湾と外交関係がある国に対して援助で台湾と断交させるのは、本来の援助の目的から大きく逸脱している。政治目的のために手段を択ばない強引な行為であろう。
2018.09.04
混乱が起きる最大の原因は、北朝鮮の「非核化」のために米国が北朝鮮に求めていることが理解されていないためである。
たとえば、いわゆるCVID、すなわち、「完全な、検証可能な、不可逆的な、廃棄」を意味する4文字の言葉が米朝の合意に入っているかどうか、よく問題にされる。米朝首脳会談後の共同声明についてもCVIDが記載されていないといわれた。その後も、北朝鮮はCVIDに合意したのかということが何回も問題視された。
しかし、米国が北朝鮮に求めていることはCVIDを確認することではなく、もっと先に進んで、「具体的な非核化の予定と工程」を作成することである。作成されれば、後に国際原子力機関(IAEA)に提出され、その内容が正しいか検証されることになる。
「具体的な非核化の予定と工程」と言っても分かりにくいだろうが、その中で求められている第1の問題は、北朝鮮は核兵器を何発保有しているか、それはどこにあるか、どのような手順で、誰が廃棄するかである。このほか、技術的、専門的な事柄が多数ある。
「具体的な非核化の予定と工程」はそれほど重要なものであるが、メディアではごく最近になってようやく取り上げられるようになった。しかし、その名称は、たとえば「非核化のリストと工程」とされている。これも誤りではないが、これだけではその重要性は伝わらない。
ともかく、米朝首脳会談で合意された高官協議において米側は北朝鮮側にこの作成を求めている。ポンペオ長官が首脳会談後も訪朝しているのはそのためであり、北朝鮮側に促すためである。
一方、北朝鮮側は、「具体的な非核化の予定と工程」を作成しないとは言っていないが、作成の準備を進めているか不明である。米側が期待する通りには動いていないように見えるのは事実なのであろう。
しかし、このような状態を「停滞」と見るのが適当か、簡単には言えないはずである。北朝鮮が「核兵器は何発」ということを米側にさらけ出すのがいかに困難なことか、多言を要しないであろう。
ともかく、「具体的な非核化の予定と工程」の作成は米朝非核化交渉の本丸であり、北朝鮮の「非核化」が進展しているかどうかは、それを中心に見ていく必要がある。
もう一つの混乱は、トランプ大統領と金委員長の周囲から生じている。とくに、北朝鮮のメディアである。
ポンペオ長官は訪朝を中止する直前、北朝鮮の政府高官から、交渉は「再度危うくなっており、破たんするかもしれない」「核及びミサイルの活動」を再開するかもしれない」と警告する手紙を受け取っていたという(CNN)。
また、これと前後して、北朝鮮の対外宣伝用ウェブサイト「わが民族同士」は、「北朝鮮が先に非核化することは絶対に許容できない」と主張していた。
北朝鮮側のこのような反応を無視すべきでないのはもちろんだが、これが金委員長の考えであるか注意して見ていく必要がある。以前は、北朝鮮メディアの報道や論評は北朝鮮政府の見解をほぼ100%反映していたが、今年になり、金委員長が新戦略を打ち出してからは、金委員長の行動とは一定程度ズレのある報道が目立ってきた。北朝鮮のメディアが金委員長の意に反する報道を行うとは思えないが、米国に対する働きかけとして許容されている可能性がある。
トランプ大統領は、金委員長とその周辺を区別してみているようである。トランプ氏は、北朝鮮が朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨55柱を米国に返還したことについて7月27日、「金正恩委員長に対し、私との約束を果たしてくれたことに感謝申し上げたい」と述べた。
その後も、金委員長に好意的な発言を繰り返しており、8月20日、ロイター通信とのインタビューでは、金委員長と2回目の首脳会談を開く可能性は「非常に高い」と述べつつ、金正恩氏との関係について「私は彼が好きだ。彼も私が好きだ。私は金委員長と個人的に非常に良い関係を築いている」と語った。
ポンペオ長官の訪朝中止後の8月30日にも、トランプ大統領は米ブルームバーグ通信のインタビューで、「(非核化への取り組みをめぐり)私は世界中の誰よりも忍耐強い」と述べ、正恩氏に寛容な姿勢を示すとともに、正恩氏と「良い」人間関係を維持していると発言した。
金正恩氏を高く持ち上げるのは、トランプ氏が大統領就任以来繰り返し行ってきたことであり、その手法は効果的であった。
ともかく、ポンペオ長官が訪朝しようとしたのも、また、トランプ氏がポンペオ長官の訪朝を中止させたのも、北朝鮮側に「具体的な非核化の予定と工程」の早期作成を促すためであったと思われる。
ただし、朝鮮戦争の終戦宣言については、北朝鮮のメディアが言っているだけだと片付けられないかもしれない。トランプ氏は首脳会談後、声明には書かれていないいくつかの点で合意したと米メディアが報道している。おそらく昼食の席であろう。このような合意は正式のものでないが、北朝鮮側は約束と受け取っている可能性がある。それが事実であれば、トランプ氏も終戦宣言については譲歩する可能性がある。
米朝協議はいったいどうなっているのか
トランプ米大統領は8月24日、ポンペオ国務長官が前日に発表した訪朝(第4回目)を中止するよう要請したと、得意のツイッターで表明した。国務長官が発表したことをわずか1日でひっくり返すのは、他の国ではまずありえないことであった。北朝鮮の「非核化」はやはり進展していないという印象があらためて強くなったが、混乱や誤解も少なくない。混乱が起きる最大の原因は、北朝鮮の「非核化」のために米国が北朝鮮に求めていることが理解されていないためである。
たとえば、いわゆるCVID、すなわち、「完全な、検証可能な、不可逆的な、廃棄」を意味する4文字の言葉が米朝の合意に入っているかどうか、よく問題にされる。米朝首脳会談後の共同声明についてもCVIDが記載されていないといわれた。その後も、北朝鮮はCVIDに合意したのかということが何回も問題視された。
しかし、米国が北朝鮮に求めていることはCVIDを確認することではなく、もっと先に進んで、「具体的な非核化の予定と工程」を作成することである。作成されれば、後に国際原子力機関(IAEA)に提出され、その内容が正しいか検証されることになる。
「具体的な非核化の予定と工程」と言っても分かりにくいだろうが、その中で求められている第1の問題は、北朝鮮は核兵器を何発保有しているか、それはどこにあるか、どのような手順で、誰が廃棄するかである。このほか、技術的、専門的な事柄が多数ある。
「具体的な非核化の予定と工程」はそれほど重要なものであるが、メディアではごく最近になってようやく取り上げられるようになった。しかし、その名称は、たとえば「非核化のリストと工程」とされている。これも誤りではないが、これだけではその重要性は伝わらない。
ともかく、米朝首脳会談で合意された高官協議において米側は北朝鮮側にこの作成を求めている。ポンペオ長官が首脳会談後も訪朝しているのはそのためであり、北朝鮮側に促すためである。
一方、北朝鮮側は、「具体的な非核化の予定と工程」を作成しないとは言っていないが、作成の準備を進めているか不明である。米側が期待する通りには動いていないように見えるのは事実なのであろう。
しかし、このような状態を「停滞」と見るのが適当か、簡単には言えないはずである。北朝鮮が「核兵器は何発」ということを米側にさらけ出すのがいかに困難なことか、多言を要しないであろう。
ともかく、「具体的な非核化の予定と工程」の作成は米朝非核化交渉の本丸であり、北朝鮮の「非核化」が進展しているかどうかは、それを中心に見ていく必要がある。
もう一つの混乱は、トランプ大統領と金委員長の周囲から生じている。とくに、北朝鮮のメディアである。
ポンペオ長官は訪朝を中止する直前、北朝鮮の政府高官から、交渉は「再度危うくなっており、破たんするかもしれない」「核及びミサイルの活動」を再開するかもしれない」と警告する手紙を受け取っていたという(CNN)。
また、これと前後して、北朝鮮の対外宣伝用ウェブサイト「わが民族同士」は、「北朝鮮が先に非核化することは絶対に許容できない」と主張していた。
北朝鮮側のこのような反応を無視すべきでないのはもちろんだが、これが金委員長の考えであるか注意して見ていく必要がある。以前は、北朝鮮メディアの報道や論評は北朝鮮政府の見解をほぼ100%反映していたが、今年になり、金委員長が新戦略を打ち出してからは、金委員長の行動とは一定程度ズレのある報道が目立ってきた。北朝鮮のメディアが金委員長の意に反する報道を行うとは思えないが、米国に対する働きかけとして許容されている可能性がある。
トランプ大統領は、金委員長とその周辺を区別してみているようである。トランプ氏は、北朝鮮が朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨55柱を米国に返還したことについて7月27日、「金正恩委員長に対し、私との約束を果たしてくれたことに感謝申し上げたい」と述べた。
その後も、金委員長に好意的な発言を繰り返しており、8月20日、ロイター通信とのインタビューでは、金委員長と2回目の首脳会談を開く可能性は「非常に高い」と述べつつ、金正恩氏との関係について「私は彼が好きだ。彼も私が好きだ。私は金委員長と個人的に非常に良い関係を築いている」と語った。
ポンペオ長官の訪朝中止後の8月30日にも、トランプ大統領は米ブルームバーグ通信のインタビューで、「(非核化への取り組みをめぐり)私は世界中の誰よりも忍耐強い」と述べ、正恩氏に寛容な姿勢を示すとともに、正恩氏と「良い」人間関係を維持していると発言した。
金正恩氏を高く持ち上げるのは、トランプ氏が大統領就任以来繰り返し行ってきたことであり、その手法は効果的であった。
ともかく、ポンペオ長官が訪朝しようとしたのも、また、トランプ氏がポンペオ長官の訪朝を中止させたのも、北朝鮮側に「具体的な非核化の予定と工程」の早期作成を促すためであったと思われる。
ただし、朝鮮戦争の終戦宣言については、北朝鮮のメディアが言っているだけだと片付けられないかもしれない。トランプ氏は首脳会談後、声明には書かれていないいくつかの点で合意したと米メディアが報道している。おそらく昼食の席であろう。このような合意は正式のものでないが、北朝鮮側は約束と受け取っている可能性がある。それが事実であれば、トランプ氏も終戦宣言については譲歩する可能性がある。
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