2月, 2018 - 平和外交研究所 - Page 2
2018.02.13
〇ホワイトハウスと韓国大統領の間で新しい了解(understanding)が作られた。
〇米国と韓国は、北朝鮮問題について、今後、まず韓国が行動し、そして米国が、すぐに参加する可能性があることで合意した。The United States and South Korea agreed on terms for further engagement with North Korea — first by the South Koreans and potentially with the United States soon thereafter.
〇米国と同盟国は北朝鮮が非核化のために明確な措置(clear steps toward denuclearization)を講じない限り、制裁措置を強化し続ける。しかし、北朝鮮がそのような措置をとることは、予備会談(preliminary talks)の条件でない。もし北朝鮮が対話したいのであれば、我々も対話に応じる。
〇北朝鮮は対話に応じる代わりに米韓合同演習の延期を求めてくるかもしれないが、それはありえない。また、米国が近く発表する追加的制裁はかつてない強いものであり、北朝鮮は核・ミサイルの実験を再開するかもしれない。そうなると、外交的話し合いは停止するだろう。
〇文大統領はそういう事態にならないよう努力している。文氏は北朝鮮の招待に応じて、ピョンヤンを訪問することを検討している。文氏は、また、北朝鮮に対して米国とできるだけ早期に対話するよう勧めている。
〇ペンス副大統領は今回アジアを訪問中、毎日トランプ大統領と相談した。
2.トランプ政権は圧力を強化する点では日本政府と同じ考えだが、北朝鮮との対話について前向きである。少なくとも、その可能性を考慮しているのは明らかであり、日本政府の発表とは異なっている。
米国にとって日本は重要な同盟国であり、日本政府に真意を隠すことは考えられず、安倍首相には説明しているはずであるが、なぜそれは日本国内に伝わらないのか。日本政府の北朝鮮問題の扱いには問題がある。
なお、ペンス副大統領の説明では、文在寅大統領がピョンヤンを訪問することに米国は必ずしも反対でないことがうかがわれる。
北朝鮮との対話に関するペンス副大統領と文大統領との会談
1.ペンス副大統領はトランプ政権の中で、北朝鮮に対して圧力を強化することのみを重視する人物の一人だとみられていたが、今回平昌オリンピックに出席した際に文在寅大統領と会談した内容は、そのような先入観を打ち破るものであった。2月11日の『ワシントンポスト』紙が掲載した、Josh Rogin記者のペンス副大統領とのインタビュー記事であり、次の諸点が注目された。〇ホワイトハウスと韓国大統領の間で新しい了解(understanding)が作られた。
〇米国と韓国は、北朝鮮問題について、今後、まず韓国が行動し、そして米国が、すぐに参加する可能性があることで合意した。The United States and South Korea agreed on terms for further engagement with North Korea — first by the South Koreans and potentially with the United States soon thereafter.
〇米国と同盟国は北朝鮮が非核化のために明確な措置(clear steps toward denuclearization)を講じない限り、制裁措置を強化し続ける。しかし、北朝鮮がそのような措置をとることは、予備会談(preliminary talks)の条件でない。もし北朝鮮が対話したいのであれば、我々も対話に応じる。
〇北朝鮮は対話に応じる代わりに米韓合同演習の延期を求めてくるかもしれないが、それはありえない。また、米国が近く発表する追加的制裁はかつてない強いものであり、北朝鮮は核・ミサイルの実験を再開するかもしれない。そうなると、外交的話し合いは停止するだろう。
〇文大統領はそういう事態にならないよう努力している。文氏は北朝鮮の招待に応じて、ピョンヤンを訪問することを検討している。文氏は、また、北朝鮮に対して米国とできるだけ早期に対話するよう勧めている。
〇ペンス副大統領は今回アジアを訪問中、毎日トランプ大統領と相談した。
2.トランプ政権は圧力を強化する点では日本政府と同じ考えだが、北朝鮮との対話について前向きである。少なくとも、その可能性を考慮しているのは明らかであり、日本政府の発表とは異なっている。
米国にとって日本は重要な同盟国であり、日本政府に真意を隠すことは考えられず、安倍首相には説明しているはずであるが、なぜそれは日本国内に伝わらないのか。日本政府の北朝鮮問題の扱いには問題がある。
なお、ペンス副大統領の説明では、文在寅大統領がピョンヤンを訪問することに米国は必ずしも反対でないことがうかがわれる。
2018.02.12
それを象徴的に表していたのが、金正恩委員長の、「ついに国家核戦力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現された」との宣言であった。核・ロケット戦力は完成したと過去形で述べていたのである。
この発言は、11月末、新型の大陸間弾道ロケット「火星15」型の発射実験を「成功」させた際に行われた。当然注目すべきであったが、その後どの国もこの発言を重視しなかった。各国はこの実験が完全な成功でなかったと分析し、とくに米国は、北朝鮮が「今後短期間に米本土を攻撃可能なICBMを開発する恐れが大である」として核・ミサイル開発の完成は将来のことだという認識を示していたからである。
金委員長の発言が正しいか、米国の認識が正しいかを論じる必要も気持ちもないが、北朝鮮と各国との間でまたもや認識のずれが生じたことだけは指摘しておきたい。
金委員長は、当然だが、自己の発言に沿って核・ミサイル戦力完成後の外交方針を立てていた。平昌オリンピックは新方針を実行するために格好の舞台となり、新年の辞で参加の意向を示したのであった。
北朝鮮の新方針は、その後韓国とオリンピック参加のための協議をする段階でもにじみ出ていた。韓国に対して強く出るときと我慢するときを使い分けていたことである。これには微妙なかじ取りが必要だ。推測に過ぎないが、金正恩委員長には強力な側近がおり、その一人が妹の金与正なのかもしれない。同氏は、以前から、金正恩委員長が演説を行うときなどに柱の陰で見え隠れしていたが、それは実妹としての自由な行動というより、側近中の側近として見守っていたとも考えられる。訪韓後、金永南最高人民会議常任委員長の金与正に対する気の使い方は尋常でなく、何度勧められても先に着席しようとしなかった。テレビで報道されたので見ていた人は多かったはずである。
ともかく、オリンピックへの参加問題は北朝鮮の描いたシナリオ通りに展開した。もちろん、文在寅韓国大統領による全面的な協力があったから順調に準備が進められたのであったが、北朝鮮としてはそれも予想通りであったのだろう。韓国としては、制裁の関係でできることは限られていたはずだが、北朝鮮のオリンピック参加という名目のために例外的措置として北朝鮮側の要求を次々に認めた。
金正恩委員長が打った手はオリンピックへの参加だけではなかった。文大統領との首脳会談の提案は、南北間の関係改善を一時的なものとせず継続するための仕掛けでもあった。金委員長はオリンピック後になすべきことをも文大統領に投げかけたのだ。
このような北朝鮮の新方針は、米日両国はもちろん、中国も北朝鮮への圧力強化に積極的になろうとしている状況が背景となっているものと思われる。国連の制裁決議が効いているというのは自然な観察と分析だろうが、正しいかどうかは別問題である。北朝鮮は韓国に抱きつき、突破口を開こうとしたのであるが、これは以前にも採用した手法であった。圧力をかけ続ければ北朝鮮は非核化のための話し合いをしたいと言い出すということは実現しないのではないか。
文大統領としてもさすがに首脳会談の提案はすぐにもろ手で賛成することはできなかった。提案実現には明らかに困難が待ち受けている。米国がそのような行為を認めるか疑問であり、また、そもそも現在の厳しい制裁下であえて平壌を訪問しても韓国としてオファーできることは非常に限られている。開城工業団地の再開も無理である。したがって、文大統領としては、金委員長からのせっかくの提案ではあるが、「今後、条件を整えて実現させよう」と答えるほかなかった。
今後、金委員長は新方針にしたがってソフトムードで攻勢をかけ続けるだろう。そして、文大統領は逆に困難な立場に立つだろう。
当面の最大問題は米韓合同軍事演習である。これは毎年2月末から3月初めにかけて行われるが、今年は北朝鮮のオリンピック参加のためにとくに延期されている。これが再開されるか、またそれはいつかである。
文大統領はこれを再開したくない。再開せざるを得ないとしてもできるだけ遅らせたいのが本音だろう。米韓演習を再開すれば、北朝鮮が文大統領を非難するのは必至だ。また、核・ミサイルの実験を再開するだろう。北朝鮮は、これらの実験を停止すると発表したことはないが、米韓演習が行われない間は実験もしない形になっている。両者は実質的に関連しているのである。
一方、米韓演習をめぐって奇妙な状況が現れた。安倍首相はオリンピック会場の近くで文大統領と会談し、その内容は、日韓双方が発表ぶりを合わせることなく、各自の判断で発表することとなった。重要な会談内容がこのように扱われること自体異例であるが、さらにおかしなことに、米韓演習について安倍首相と文大統領が会談したことが説明にまったく含まれていなかった。日本の主要メディアの報道にもこの問題は触れられなかった。
しかし、韓国のメディア、それに中国のメディアも安倍首相が米韓演習に言及し、「延期する段階ではない。予定通り実施することが重要だ」との考えを示し、それに対し文大統領は「この問題はわれわれの主権問題であり、内政の問題」と反発したと伝えはじめた。そして、日本のメディアも1日遅れで報道を始めた。小さな記事で。
推測するに、安倍首相と文大統領との会談では、合同演習問題は発表しないように打ち合わせたのだろう。それで済むと思ったとしか考えられないが、お粗末きわまる外交感覚である。日本政府は韓国政府がメディアにリークしたと思っているだろうが、リークされないと思うほうがおかしい。
米国、というよりペンス米副大統領は北朝鮮に対する圧力をさらに強化するということしか言わなかったことも注目された。ペンス氏は文大統領主催の歓迎レセプション(と言っても着席するもので席が決まっている)に欠席した。北朝鮮の金永南氏と言葉を交わしたくなかったのだろう。ペンス氏は韓国入りする前から北朝鮮側とは会わないと明言しており、その通りに振舞ったのだ。
トランプ大統領は文大統領と会談する際、もっと幅のある物言いをする。自分は金正恩委員長と話し合いしてもよいと言わんばかりの発言もする。それに比べ、ペンス副大統領が圧力しか念頭にないという姿勢を示したのはなぜか。トランプ政権のなかでの自分の立ち位置をそのように決めているからではないか。平たく言えば、ペンス氏はトランプ大統領の忠実なしもべに徹しているのだ。ペンス氏はトランプ氏から安倍首相とよく相談するようにとアドバイスされていた(くぎを刺されていた?)可能性もある。平昌でもペンス氏はしきりに安倍首相と対応をすり合わせようとしていたことが目撃されていた。
このようなペンス大統領の姿勢は安倍首相にとって都合のよいものだっただろうが、今後も米国はそのような姿勢を続けるか。安倍首相をはじめ日本政府の関係者は「日米は同じ立場にある」とさかんに主張するが、はたしてそうなのか。現在のような人為的にゆがめられた北朝鮮に対する政策はほころびが生じるのではないか。
平昌オリンピックに見る北朝鮮外交
平昌オリンピックは南北朝鮮それに日米の外交舞台となった。きっかけとなったのは金正恩委員長が新年の辞で北朝鮮は参加する用意があると発言したことだったが、北朝鮮は昨年秋から外交姿勢の転換を図っていた。それを象徴的に表していたのが、金正恩委員長の、「ついに国家核戦力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現された」との宣言であった。核・ロケット戦力は完成したと過去形で述べていたのである。
この発言は、11月末、新型の大陸間弾道ロケット「火星15」型の発射実験を「成功」させた際に行われた。当然注目すべきであったが、その後どの国もこの発言を重視しなかった。各国はこの実験が完全な成功でなかったと分析し、とくに米国は、北朝鮮が「今後短期間に米本土を攻撃可能なICBMを開発する恐れが大である」として核・ミサイル開発の完成は将来のことだという認識を示していたからである。
金委員長の発言が正しいか、米国の認識が正しいかを論じる必要も気持ちもないが、北朝鮮と各国との間でまたもや認識のずれが生じたことだけは指摘しておきたい。
金委員長は、当然だが、自己の発言に沿って核・ミサイル戦力完成後の外交方針を立てていた。平昌オリンピックは新方針を実行するために格好の舞台となり、新年の辞で参加の意向を示したのであった。
北朝鮮の新方針は、その後韓国とオリンピック参加のための協議をする段階でもにじみ出ていた。韓国に対して強く出るときと我慢するときを使い分けていたことである。これには微妙なかじ取りが必要だ。推測に過ぎないが、金正恩委員長には強力な側近がおり、その一人が妹の金与正なのかもしれない。同氏は、以前から、金正恩委員長が演説を行うときなどに柱の陰で見え隠れしていたが、それは実妹としての自由な行動というより、側近中の側近として見守っていたとも考えられる。訪韓後、金永南最高人民会議常任委員長の金与正に対する気の使い方は尋常でなく、何度勧められても先に着席しようとしなかった。テレビで報道されたので見ていた人は多かったはずである。
ともかく、オリンピックへの参加問題は北朝鮮の描いたシナリオ通りに展開した。もちろん、文在寅韓国大統領による全面的な協力があったから順調に準備が進められたのであったが、北朝鮮としてはそれも予想通りであったのだろう。韓国としては、制裁の関係でできることは限られていたはずだが、北朝鮮のオリンピック参加という名目のために例外的措置として北朝鮮側の要求を次々に認めた。
金正恩委員長が打った手はオリンピックへの参加だけではなかった。文大統領との首脳会談の提案は、南北間の関係改善を一時的なものとせず継続するための仕掛けでもあった。金委員長はオリンピック後になすべきことをも文大統領に投げかけたのだ。
このような北朝鮮の新方針は、米日両国はもちろん、中国も北朝鮮への圧力強化に積極的になろうとしている状況が背景となっているものと思われる。国連の制裁決議が効いているというのは自然な観察と分析だろうが、正しいかどうかは別問題である。北朝鮮は韓国に抱きつき、突破口を開こうとしたのであるが、これは以前にも採用した手法であった。圧力をかけ続ければ北朝鮮は非核化のための話し合いをしたいと言い出すということは実現しないのではないか。
文大統領としてもさすがに首脳会談の提案はすぐにもろ手で賛成することはできなかった。提案実現には明らかに困難が待ち受けている。米国がそのような行為を認めるか疑問であり、また、そもそも現在の厳しい制裁下であえて平壌を訪問しても韓国としてオファーできることは非常に限られている。開城工業団地の再開も無理である。したがって、文大統領としては、金委員長からのせっかくの提案ではあるが、「今後、条件を整えて実現させよう」と答えるほかなかった。
今後、金委員長は新方針にしたがってソフトムードで攻勢をかけ続けるだろう。そして、文大統領は逆に困難な立場に立つだろう。
当面の最大問題は米韓合同軍事演習である。これは毎年2月末から3月初めにかけて行われるが、今年は北朝鮮のオリンピック参加のためにとくに延期されている。これが再開されるか、またそれはいつかである。
文大統領はこれを再開したくない。再開せざるを得ないとしてもできるだけ遅らせたいのが本音だろう。米韓演習を再開すれば、北朝鮮が文大統領を非難するのは必至だ。また、核・ミサイルの実験を再開するだろう。北朝鮮は、これらの実験を停止すると発表したことはないが、米韓演習が行われない間は実験もしない形になっている。両者は実質的に関連しているのである。
一方、米韓演習をめぐって奇妙な状況が現れた。安倍首相はオリンピック会場の近くで文大統領と会談し、その内容は、日韓双方が発表ぶりを合わせることなく、各自の判断で発表することとなった。重要な会談内容がこのように扱われること自体異例であるが、さらにおかしなことに、米韓演習について安倍首相と文大統領が会談したことが説明にまったく含まれていなかった。日本の主要メディアの報道にもこの問題は触れられなかった。
しかし、韓国のメディア、それに中国のメディアも安倍首相が米韓演習に言及し、「延期する段階ではない。予定通り実施することが重要だ」との考えを示し、それに対し文大統領は「この問題はわれわれの主権問題であり、内政の問題」と反発したと伝えはじめた。そして、日本のメディアも1日遅れで報道を始めた。小さな記事で。
推測するに、安倍首相と文大統領との会談では、合同演習問題は発表しないように打ち合わせたのだろう。それで済むと思ったとしか考えられないが、お粗末きわまる外交感覚である。日本政府は韓国政府がメディアにリークしたと思っているだろうが、リークされないと思うほうがおかしい。
米国、というよりペンス米副大統領は北朝鮮に対する圧力をさらに強化するということしか言わなかったことも注目された。ペンス氏は文大統領主催の歓迎レセプション(と言っても着席するもので席が決まっている)に欠席した。北朝鮮の金永南氏と言葉を交わしたくなかったのだろう。ペンス氏は韓国入りする前から北朝鮮側とは会わないと明言しており、その通りに振舞ったのだ。
トランプ大統領は文大統領と会談する際、もっと幅のある物言いをする。自分は金正恩委員長と話し合いしてもよいと言わんばかりの発言もする。それに比べ、ペンス副大統領が圧力しか念頭にないという姿勢を示したのはなぜか。トランプ政権のなかでの自分の立ち位置をそのように決めているからではないか。平たく言えば、ペンス氏はトランプ大統領の忠実なしもべに徹しているのだ。ペンス氏はトランプ氏から安倍首相とよく相談するようにとアドバイスされていた(くぎを刺されていた?)可能性もある。平昌でもペンス氏はしきりに安倍首相と対応をすり合わせようとしていたことが目撃されていた。
このようなペンス大統領の姿勢は安倍首相にとって都合のよいものだっただろうが、今後も米国はそのような姿勢を続けるか。安倍首相をはじめ日本政府の関係者は「日米は同じ立場にある」とさかんに主張するが、はたしてそうなのか。現在のような人為的にゆがめられた北朝鮮に対する政策はほころびが生じるのではないか。
2018.02.07
なぜ「国家監察委員会」を新設することにしたのか。これがわかりにくい。
これまで、反腐敗運動を強力に実施してきたのは「規律検査委員会」であり、これは共産党の機関であり、「監察委員会」は国務院の機関であると区別されている。そこまでははっきりしているが、「規律検査委員会」に加えてなぜ「国家監察委員会」を設置することにしたのかが問題である。「規律検査委員会」は党員を対象に、「国家監察委員会」は公務員を対象にするという説明はほとんど意味をなさない。中国ではほとんどすべての公務員は党員だからである。
もし、「規律検査委員会」がよく機能しなかったのであれば、わからないでもない。しかし、「規律検査委員会」は非常によく機能し、その責任者であった王岐山は習近平によって功績を高く評価された。この「規律検査委員会」は地方にも支部があり、共産党の支部よりも恐れられるくらい強力であった。「規律検査委員会」は党の機関であるが、実際には各地で、本来の党支部と「規律検査委員会」の支部が並立していたのである。
両方とも党の機関であるならば一緒にしてしまえばよいというのは日本的な発想と言わざるを得ない。日本でもよく探せば似たような現象があるかもしれない。
ともかく、それほど強力であり、人々におそれられた「規律検査委員会」であったのだが、それでも「国家監察委員会」を設置することにしたのはそれなりに必要だったからであろう。
国務院にはもともと「監察部」があり、いまでも存続しているが、実際の取り締まりはこれまで政府や検察内に分散して設けられていた複数の部門が担当していたのを、今後は統合して「国家監察委員会」とするようだ。これは単に技術的な問題でない。「監察部」では腐敗を十分取り締まることはできないので「国家監察委員会」を作り、憲法にも記載して強力な機関とすることにしたのだ(第19期中央委員会第2回全体会議(2中全会)の決定)。
「規律検査委員会」との比較、および、この経緯からいえることは、腐敗があまりにも根が深く、かつ広範にはびこっており、今後の摘発は膨大な量に上るということである。「規律検査委員会」の発表によれば、習近平政権の第1期目において、件数にして13・9万件、人数にして18・7万人の国家工作人員(国家公務員など)が有罪となっている。これだけではまだまだ問題の一部に手を付けたに過ぎないのである。
習近平政権の2期目(2017~21年)においては第1期目にもまして強力に反腐敗運動が展開されるのだろう。
では、「規律検査委員会」と「国家監察委員会」の関係は今後どうなるか。これがまたわかりにくい。「国家監察委員会」を憲法上の機関にしてまで格上げしたことにかんがみると、むしろこちらのほうが上に立つ印象さえあるが、中国においては党の支配は絶対であり、習近平氏自身、党の指導を強化しなければならないと何回も強調している。
習氏は「規律検査委員会」と「国家監察委員会」については、「根本目的は反腐敗運動における党の指導を強化することであり、そのもとで、両委員会が一体として業務を行う」との趣旨を述べているが、抽象的な説明である。実際にどうなるかは、今後の状況を見て判断していくしかない。これは法律にしたがった取り締まりを誰が行うかというような技術的問題ではすまない、権力闘争にかかわることである。
現在、北京市、山西省、浙江省ではすでに試験的に監察委員会が導入されており、さらに28の省・自治区・直轄市で設立される予定であるという。公権力を行使する全ての公務員を監視する網が従来以上に広く、かつ厚くなりそうだが、中国での腐敗が半端でないことが今回の「国家監察委員会」の設置にともない改めて露呈される結果となった。
これからますます激しくなる反腐敗運動
「国家監察委員会」は、2017年秋に開催された中国共産党第19回党大会で習近平主席が設置の方針を打ち出したものであり、近く開催される全国人民代表大会(日本の国会に相当)で改正される憲法に書き込む準備が進められている。なぜ「国家監察委員会」を新設することにしたのか。これがわかりにくい。
これまで、反腐敗運動を強力に実施してきたのは「規律検査委員会」であり、これは共産党の機関であり、「監察委員会」は国務院の機関であると区別されている。そこまでははっきりしているが、「規律検査委員会」に加えてなぜ「国家監察委員会」を設置することにしたのかが問題である。「規律検査委員会」は党員を対象に、「国家監察委員会」は公務員を対象にするという説明はほとんど意味をなさない。中国ではほとんどすべての公務員は党員だからである。
もし、「規律検査委員会」がよく機能しなかったのであれば、わからないでもない。しかし、「規律検査委員会」は非常によく機能し、その責任者であった王岐山は習近平によって功績を高く評価された。この「規律検査委員会」は地方にも支部があり、共産党の支部よりも恐れられるくらい強力であった。「規律検査委員会」は党の機関であるが、実際には各地で、本来の党支部と「規律検査委員会」の支部が並立していたのである。
両方とも党の機関であるならば一緒にしてしまえばよいというのは日本的な発想と言わざるを得ない。日本でもよく探せば似たような現象があるかもしれない。
ともかく、それほど強力であり、人々におそれられた「規律検査委員会」であったのだが、それでも「国家監察委員会」を設置することにしたのはそれなりに必要だったからであろう。
国務院にはもともと「監察部」があり、いまでも存続しているが、実際の取り締まりはこれまで政府や検察内に分散して設けられていた複数の部門が担当していたのを、今後は統合して「国家監察委員会」とするようだ。これは単に技術的な問題でない。「監察部」では腐敗を十分取り締まることはできないので「国家監察委員会」を作り、憲法にも記載して強力な機関とすることにしたのだ(第19期中央委員会第2回全体会議(2中全会)の決定)。
「規律検査委員会」との比較、および、この経緯からいえることは、腐敗があまりにも根が深く、かつ広範にはびこっており、今後の摘発は膨大な量に上るということである。「規律検査委員会」の発表によれば、習近平政権の第1期目において、件数にして13・9万件、人数にして18・7万人の国家工作人員(国家公務員など)が有罪となっている。これだけではまだまだ問題の一部に手を付けたに過ぎないのである。
習近平政権の2期目(2017~21年)においては第1期目にもまして強力に反腐敗運動が展開されるのだろう。
では、「規律検査委員会」と「国家監察委員会」の関係は今後どうなるか。これがまたわかりにくい。「国家監察委員会」を憲法上の機関にしてまで格上げしたことにかんがみると、むしろこちらのほうが上に立つ印象さえあるが、中国においては党の支配は絶対であり、習近平氏自身、党の指導を強化しなければならないと何回も強調している。
習氏は「規律検査委員会」と「国家監察委員会」については、「根本目的は反腐敗運動における党の指導を強化することであり、そのもとで、両委員会が一体として業務を行う」との趣旨を述べているが、抽象的な説明である。実際にどうなるかは、今後の状況を見て判断していくしかない。これは法律にしたがった取り締まりを誰が行うかというような技術的問題ではすまない、権力闘争にかかわることである。
現在、北京市、山西省、浙江省ではすでに試験的に監察委員会が導入されており、さらに28の省・自治区・直轄市で設立される予定であるという。公権力を行使する全ての公務員を監視する網が従来以上に広く、かつ厚くなりそうだが、中国での腐敗が半端でないことが今回の「国家監察委員会」の設置にともない改めて露呈される結果となった。
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