2016 - 平和外交研究所 - Page 29
2016.07.04
中国も英国の外交力を利用して国際社会での発信力を強化しようとしている節がある。日本としても英国を欧州市場への橋頭保としてだけでなく、戦略的な観点から英国との関係強化を図るべきだ。(詳しくは東洋経済オンライン6月27日付、「英国のEU離脱と中国への接近」を参照いただきたい。)
英国の外交力を示す例として、戦前、戦後、それに最近の事例を一つずつ挙げておく。
戦前の例としては1902年に結ばれた日英同盟があった。日本は清国との戦争で勝利したが、ロシアの満州、朝鮮への進出の圧力を受けており、それにいかに対抗するかが外交・安全保障上の最大課題であった。一方、英国は世界各地でロシアの南下を警戒しており、利害関係が一致した日英両国は同盟関係を結んだ。英国は日本とともにロシアと戦争したわけではないが、日本がロシアと戦争するのに、情報の提供、ロシア・バルチック艦隊が遠路極東へ回航する際に英国の支配地では水や食料の供給を拒否するなどの間接的支援を与えた。ソフトの面で強力な援軍だったのだ。
戦後、米国をはじめとする連合国は日本との戦争を終了させ、清算するためにサンフランシスコで平和条約交渉を行った。最大の難問はソ連をいかに満足させるかであり、米ソは、日本の関連では北方領土問題を巡って鋭く対立した。米国は、歯舞・色丹両島のみならず国後および択捉両島も日本の領土だという日本の主張を支持していたが、戦争終了数カ月前のヤルタ会談で米国のルーズベルト大統領はソ連のスターリン書記長に対し「千島列島を引き渡す」と述べた経緯があり、苦慮していた。
日本は、「千島列島」は国後・択捉両島を含まないと主張していたが、この主張は成り立たないとする意見も強かった。米国は日本の主張を支持しつつ、法的解釈については英国の意見を求めた。英国は「国後・択捉は千島列島に含まれない」という解釈には難点があるとしつつ、解決策を複数提示し、その後の交渉進展に貢献した。当時米国は連合国を勝利に導いた国として圧倒的な影響力を持っていたが、国際的に解釈が分かれる問題については英国の意見を求めた。英国の主張は国際的に説得力があると米国は思っていたのだ。
最近の例としては2013年に国連で採択された武器貿易条約がある。武器の取引を規制すべきだという考えは戦前からあり、日本は戦後、国連を中心に規制の推進に熱心に取り組んできた。
米国では銃による市民の殺傷事件が発生するたびに銃の規制が必要だと指摘されるが、憲法による銃保持の権利保障を根拠に、かつ、武器産業からの反対が強いため実際には規制が進展しないのが実情だ。米国は国連などの場でも銃規制が進展することを強く警戒しており、そのような方向に進みそうになると早期に芽を摘み取ろうとするのが通例である。
英国は主要な武器生産国の一つであるが、EUの一員として武器の取引規制には積極的であり、今から約十年前より武器貿易条約の原提案国となって日本など規制に積極的な国とともに条約を成立させた。米国はこの条約を原案の段階から反対してつぶすことも可能であり、またそうするのが米国らしい対応だったが、英国は米国の拒否を巧みに回避して、条約交渉を進めた。これができたのは英国だけであり、英国が動かなければ2013年の条約成立は困難だったと思われる。
英国のEU離脱―その2 英国の外交力
EU離脱と英国の外交力とは何の関係があるのか。簡単に言えば、英国の外交力はコミュニケーション能力に加え、外交についての豊富な経験とノウハウに基づいており、この特質はEUを離脱しても変わらない。今後その力がどのように発揮されるかが一つの注目点だと思う。中国も英国の外交力を利用して国際社会での発信力を強化しようとしている節がある。日本としても英国を欧州市場への橋頭保としてだけでなく、戦略的な観点から英国との関係強化を図るべきだ。(詳しくは東洋経済オンライン6月27日付、「英国のEU離脱と中国への接近」を参照いただきたい。)
英国の外交力を示す例として、戦前、戦後、それに最近の事例を一つずつ挙げておく。
戦前の例としては1902年に結ばれた日英同盟があった。日本は清国との戦争で勝利したが、ロシアの満州、朝鮮への進出の圧力を受けており、それにいかに対抗するかが外交・安全保障上の最大課題であった。一方、英国は世界各地でロシアの南下を警戒しており、利害関係が一致した日英両国は同盟関係を結んだ。英国は日本とともにロシアと戦争したわけではないが、日本がロシアと戦争するのに、情報の提供、ロシア・バルチック艦隊が遠路極東へ回航する際に英国の支配地では水や食料の供給を拒否するなどの間接的支援を与えた。ソフトの面で強力な援軍だったのだ。
戦後、米国をはじめとする連合国は日本との戦争を終了させ、清算するためにサンフランシスコで平和条約交渉を行った。最大の難問はソ連をいかに満足させるかであり、米ソは、日本の関連では北方領土問題を巡って鋭く対立した。米国は、歯舞・色丹両島のみならず国後および択捉両島も日本の領土だという日本の主張を支持していたが、戦争終了数カ月前のヤルタ会談で米国のルーズベルト大統領はソ連のスターリン書記長に対し「千島列島を引き渡す」と述べた経緯があり、苦慮していた。
日本は、「千島列島」は国後・択捉両島を含まないと主張していたが、この主張は成り立たないとする意見も強かった。米国は日本の主張を支持しつつ、法的解釈については英国の意見を求めた。英国は「国後・択捉は千島列島に含まれない」という解釈には難点があるとしつつ、解決策を複数提示し、その後の交渉進展に貢献した。当時米国は連合国を勝利に導いた国として圧倒的な影響力を持っていたが、国際的に解釈が分かれる問題については英国の意見を求めた。英国の主張は国際的に説得力があると米国は思っていたのだ。
最近の例としては2013年に国連で採択された武器貿易条約がある。武器の取引を規制すべきだという考えは戦前からあり、日本は戦後、国連を中心に規制の推進に熱心に取り組んできた。
米国では銃による市民の殺傷事件が発生するたびに銃の規制が必要だと指摘されるが、憲法による銃保持の権利保障を根拠に、かつ、武器産業からの反対が強いため実際には規制が進展しないのが実情だ。米国は国連などの場でも銃規制が進展することを強く警戒しており、そのような方向に進みそうになると早期に芽を摘み取ろうとするのが通例である。
英国は主要な武器生産国の一つであるが、EUの一員として武器の取引規制には積極的であり、今から約十年前より武器貿易条約の原提案国となって日本など規制に積極的な国とともに条約を成立させた。米国はこの条約を原案の段階から反対してつぶすことも可能であり、またそうするのが米国らしい対応だったが、英国は米国の拒否を巧みに回避して、条約交渉を進めた。これができたのは英国だけであり、英国が動かなければ2013年の条約成立は困難だったと思われる。
2016.07.01
予想される英国とEUとの交渉はどうなるか。英国はEUを離脱しても欧州の大国であり、NATOはもちろん、その他の分野でも果たす役割は大きい。移民・難民についても英国の歴史的責任は大きく、結局はEUともよく協力していかなければならない。英国の国際社会における地位や重要性は低下するとみられているが、英国の外交力は今後も健在だ。中国との接近は注目すべきだ。日本にとっても今後の英国の役割をどのように考えるか検討が必要だ。
英国のEU離脱-その1
東洋経済オンラインに6月27日、「英国のEU離脱と中国への接近」の一文を寄稿した。要点は以下の通りだ。予想される英国とEUとの交渉はどうなるか。英国はEUを離脱しても欧州の大国であり、NATOはもちろん、その他の分野でも果たす役割は大きい。移民・難民についても英国の歴史的責任は大きく、結局はEUともよく協力していかなければならない。英国の国際社会における地位や重要性は低下するとみられているが、英国の外交力は今後も健在だ。中国との接近は注目すべきだ。日本にとっても今後の英国の役割をどのように考えるか検討が必要だ。
2016.06.30
3日間に2回の中ロ首脳会談であり、しかも、プーチン大統領の北京滞在は24時間に満たなかった。プーチン大統領がこのような日程をよく受け入れたものだと思う。
中国側はプーチン大統領の訪問を、時間は短かったが「公式訪問」と位置付けた。そうすると派手な歓迎行事が可能となるからだろう。また25日には、中国が力を入れているアジアインフラ投資銀行の第1回年次総会を北京で開くというお膳立てまでした。プーチン大統領としてAIIB総会への出席という目的が加われば訪中しやすくなるからではなかったか。
中国はなぜそのような行動に出たのか。それは、中国が国際的な活動の中心であることを示し、中国の国際的重要性をアピールしようとしたためだろう。このような発想は他の国にもあるが、中国には特に強い。
中国が激しく動いている背景には、南シナ海での紛争に関しフィリピンが申し立てていた国際仲裁裁判の決定が7月12日に下ることがあるが、本論ではそのことはさておいて、中国とロシアが密接に協力し合っていることが日本にどのような影響があるかに注目した。
中国側からロシア側に対して共同行動を持ちかけることが多く、ロシア側はそれに対して、いわば「お付き合いしている」という感じである。先般、我が国の領海・接続水域付近で中ロ両国による艦船が通過したのも類似の例だった。さらに以前には、東シナ海の尖閣諸島に近いところで合同演習を行ったこともある。中ロ両国は事実上同盟関係にあるという人もいるが、中国からの願い事はできるだけ応じるというのがロシアの方針らしい。
ロシアの海軍はわが海上自衛隊とも一定の友好関係にあるが、政治の影響を受けるのは避けがたい。一方、太平洋地域においてロシア海軍は中国海軍と利益を異にすることもあるが、最近は協力的行動が目立っている。
ロシアとして、現在の最大問題は米国への対抗であり、ロシアと米国の関係は「新冷戦」と呼ばれることもあるほど低調だ。ロシアはそのためにも中国と協力することを基本方針にしており、単に「お付き合いしている」という程度のことではなくなっているようだ。このような状況のなかでロシアは日本との交渉に熱を入れられるだろうか。少なくとも日本はロシアをめぐる国際情勢には十分な注意が必要だ。
(短評)日ロ交渉と国際情勢
中ロ両国が緊密な関係を誇示している。習近平主席とプーチン大統領はウズベキスタンの首都タシケントで開かれた上海協力機構首脳会議の前日(6月23日)に会談したばかりであったが、25日、北京に移動して再度会談した。3日間に2回の中ロ首脳会談であり、しかも、プーチン大統領の北京滞在は24時間に満たなかった。プーチン大統領がこのような日程をよく受け入れたものだと思う。
中国側はプーチン大統領の訪問を、時間は短かったが「公式訪問」と位置付けた。そうすると派手な歓迎行事が可能となるからだろう。また25日には、中国が力を入れているアジアインフラ投資銀行の第1回年次総会を北京で開くというお膳立てまでした。プーチン大統領としてAIIB総会への出席という目的が加われば訪中しやすくなるからではなかったか。
中国はなぜそのような行動に出たのか。それは、中国が国際的な活動の中心であることを示し、中国の国際的重要性をアピールしようとしたためだろう。このような発想は他の国にもあるが、中国には特に強い。
中国が激しく動いている背景には、南シナ海での紛争に関しフィリピンが申し立てていた国際仲裁裁判の決定が7月12日に下ることがあるが、本論ではそのことはさておいて、中国とロシアが密接に協力し合っていることが日本にどのような影響があるかに注目した。
中国側からロシア側に対して共同行動を持ちかけることが多く、ロシア側はそれに対して、いわば「お付き合いしている」という感じである。先般、我が国の領海・接続水域付近で中ロ両国による艦船が通過したのも類似の例だった。さらに以前には、東シナ海の尖閣諸島に近いところで合同演習を行ったこともある。中ロ両国は事実上同盟関係にあるという人もいるが、中国からの願い事はできるだけ応じるというのがロシアの方針らしい。
ロシアの海軍はわが海上自衛隊とも一定の友好関係にあるが、政治の影響を受けるのは避けがたい。一方、太平洋地域においてロシア海軍は中国海軍と利益を異にすることもあるが、最近は協力的行動が目立っている。
ロシアとして、現在の最大問題は米国への対抗であり、ロシアと米国の関係は「新冷戦」と呼ばれることもあるほど低調だ。ロシアはそのためにも中国と協力することを基本方針にしており、単に「お付き合いしている」という程度のことではなくなっているようだ。このような状況のなかでロシアは日本との交渉に熱を入れられるだろうか。少なくとも日本はロシアをめぐる国際情勢には十分な注意が必要だ。
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