平和外交研究所

10月, 2016 - 平和外交研究所 - Page 3

2016.10.18

北朝鮮による5回目の核実験

北朝鮮が9月9日に行った第5回目の核実験の後で共同通信の「識者評論」に寄稿した一文です。

「北朝鮮が今年に入り2回目の核実験を行った。ミサイルは今年だけで既に20発超発射している。いずれも国連安全保障理事会決議に違反する重大な行為だが、今後さらに計6回目となる核実験を行う可能性もあると報じられている。
 北朝鮮のこのような行動は日本など周辺の国にとって危険極まりない。日本の排他的経済水域(EEZ)へ落下したミサイルもあるという。かつては、日本上空を飛び越えて太平洋に向かっていったミサイルもあった。
 安倍晋三首相、オバマ米大統領および韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は今回の核実験を受け、緊急に連絡を取り合い、北朝鮮を「最大限強く非難」した。国連安保理では新しい制裁決議の採択を目指した協議が続いている。
 今年3月に採択された安保理決議は「史上最強」と言われるほど強い内容だったが、全ての関係国が忠実に実行することが前提だった。
 しかし、北朝鮮に対し強い影響力のある中国は今も北朝鮮と取引を続けていると伝えられており、決議の履行には問題がある。最近訪朝した人も北朝鮮は一向に困窮している様子ではないと語っていた。
 新しい決議には、強力な追加制裁とその実効性を担保するメカニズムを盛り込むことが肝要だ。米国は単独でも強い措置を取れる。例えば、北朝鮮と取引する企業を米国で活動できなくする単独制裁が挙げられる。オバマ大統領は北朝鮮に重大な代償を払わせると主張しており、それを裏書きする行為となる。
 並行して、中国が安保理決議を本気で実行することが絶対的に必要だ。今回の核実験後、中国は北朝鮮に抗議したが、口先だけでなく本心から北朝鮮への働き掛けを強めてもらいたい。
 しかし、私はそれでもまだ足りないと思っている。これらの措置では北朝鮮問題の核心に迫ることができないからだ。
 北朝鮮には、国家の安全を確保しなければならないという究極の問題がある。そんな国は他にはまずないだろう。各国から見れば北朝鮮が各国に脅威を与えており、まるで正反対の状況に見えるだろうが、北朝鮮が安全を確保できていないと感じているのは事実だ。
 この問題を解決できるのは、米国だけだ。中国は既に北朝鮮という国を承認している。
 米国はグローバルパワーとして世界各地で多大な犠牲と負担を強いられており、各国の十分な理解と協力が必要だ。だが、北朝鮮の安全保障問題は米国以外、他のどの国にも解決できない。
 米国は中国が真剣に決議を履行すれば北朝鮮の核・ミサイル問題を解決できるとの立場だが、中国が米国に代わって北朝鮮を認めることはできないのは自明の理である。
 北朝鮮の核と弾道ミサイルはいかなる理由でも認められないが、北朝鮮に核兵器を放棄させるには安全保障問題の根本的な解決が不可欠だ。
 米国は嫌がるかもしれないが、真の問題解決には米国が北朝鮮と平和条約交渉を行い、核兵器を放棄させるしかない。日朝平壌宣言の調印から14年が過ぎた。核・ミサイルに加え、拉致の問題を抱える日本も米国を説得するべきだ。」
2016.10.17

(短評)ユネスコ分担金の支払い保留は国益を害する

 日本政府が今年のユネスコ(国連教育科学文化機関)の分担金、約38億5千万円の支払いを保留していることについてはすでに多くの人が批判しているが、私も同感だ。
 かりに、南京大虐殺の扱いについてユネスコの対応に不満であっても、分担金の支払いと結びつけるべきでない。分担金を支払わなければ、日本は日本の言うことを聞かないとカネや力づくで解決しようとすると言われる恐れが大きい。
 南京の問題について日本政府がどのような交渉をしているのか、詳細は承知していないが、かりにどうしても登録するのならば、反対する国の意見を掲載するとかして日本の考えを表明し、問題点を国際社会に対し広く指摘できるはずだ。他にも方法はありうる。
 そのようなことを尽くさずに、言うことを聞かなければ払わないというのは、もっとも粗野で俗悪な振る舞いだ。そんなことをすれば、その結果はブーメランのように跳ね返ってきて日本の国益を害することになるだろう。

2016.10.14

東アジアの協力は進むか

 東アジアにおける各国間の協力は甚だ弱い。東アジアに地域協力の構想がないのではなく、東アジア共同体を実現させようという考えはこれまで何回も議論されてきたが一向に進まない。構想に問題があるのかもしれない。
 しかし、100年の期間で見れば変化はありうる。150年となると変化は確実に起こると見るべきだ。
 では東アジアではどんな変化が起こりそうか、国際アジア共同体学会発行「グローバルアジアレヴュー』第2号(2016年10月1発行)へ寄稿した以下の一文で考えを整理してみた。

 「東アジアにおける各国間の協力は甚だ弱い。ヨーロッパでは戦後の和解・協力が進み、さらに統合に向かっている。英国のEUからの離脱決定により一とん挫したが、それでも東アジアとは比較にならないくらい進んでいる。
 また、同じアジアでも東南アジアにおいては、各国はASEANを形成し、各種協議を定期的に開催し、政策の調整も行っている。
 東アジアに地域協力の構想がないのではない。東アジア共同体を実現させようという考えはこれまで何回も議論されてきた。日本海を取り巻く各国の協力という考えもあった。こちらは現在も続いているが、最初に打ち出された時のインパクトはすでに失われているのではないか。また、東アジアを核兵器のない地域、いわゆる「東アジア非核地帯」とする構想もあるが、一向に実現しない。
 そんななか、日中韓の3国が対話をするかしないかということが注目の的になる。その理由は大きく言って2つある。
 その1つは、3国間の協議を定期的に開催しようと言われるが、実際には2013年と14年のように関係が悪化すると開かれなくなるからだ。去る8月末に東京で日中韓の外相会談が開催されたときもやはり「開かれてよかったね」という感じがあった。
 もう1つの理由は、3カ国で協力することよりも、それぞれの国の対外姿勢が注目されるからである。
たとえば、2012年末から13年にかけ日中韓3国とも首脳が交代し、中国と韓国はいわゆる歴史問題をめぐって安倍政権の日本に強い姿勢で臨むようになった。また、尖閣諸島の国有化(習近平政権成立の直前である2012年9月)に中国が強く反発したことなどが重なり、日本と中韓両国の関係は落ち込んだ。
 しかしその後、3国の状況は再び大きく変化した。中国は南シナ海、とくにスプラトリー諸島(南沙諸島)などで埋め立てや飛行場などの建設を進め、各国の懸念表明や反対に耳を貸さず、公海における航行の自由を重視する米国などと鋭く対立するに至った。
 一方、韓国の朴槿恵大統領は北朝鮮の度重なる挑発的行動に刺激されたこともあり、また米国から強い説得を受け、それまでの中国傾斜の姿勢を改め、日本や米国との協力を重視するようになった。そのような新しい外交姿勢を象徴的に表していたのが日本との慰安婦問題に関する合意であった。
 要するに東アジアでは、地域の協力を論じる前に3国それぞれの対外姿勢が重要な問題となるのだ。

 地域的な協力が進むのはまだかなり先のようにも思えるが、視点を変えればそれほど遠い先のことでないかもしれない。
 100年先のことを考えるのは、言葉では大事だと言われるが、実際には難しい。しかし、100前のことを振り返るのは比較的簡単であり、ある程度参考になる。
 今から100年前というと1916年、当時世界は第一次世界大戦のさなかにあった。ライト兄弟が飛行機による初の飛行に成功してからわずか13年後であり、その時戦争に使われた飛行機は翼が二重の、稚拙なものであった。100年というとそれほど物事が変わりうる。
 東アジアで現在の政治秩序が成立したのは第二次大戦の終了後であった。それ以来すでに70年以上経過したが、状況は変わっていない。世界的に見れば、東西の冷戦が終了するという大変化が起こったが、アジアではそのような根本的変化は起こらなかった。日本が起こした戦争の影響もまだ残っている。
 しかし、100年間も変化しないことはありえないという考えに立てば、今後30年間に大きな変化が起こるかもしれない。
 その第1の候補が、北朝鮮が安定し日中韓とともに協力関係になるかという問題だろう。現在は皮肉なことに、これら3国は北朝鮮非難で一致協力しているが、今後30年を考えるのであれば、北朝鮮がどのように変化し、日中韓3国とどのような関係になるか、協力関係に立つか、などの問題が浮上してくる。4カ国が協力する関係になることはないと決めつけることはできない。歴史の教訓からもそんな勝手な思い込みはできないと思う。
 北朝鮮との協力関係を作り上げていくためには、日中韓3国が米国に対して、北朝鮮の非核化と平和条約を目的に直接交渉するよう勧めるべきだ。もちろん米国には米国の事情があり、グローバル・パワーとしての負担は大きい。中東問題、IS問題、テロ問題などで多大の負担と犠牲を強いられており、北朝鮮問題は日中韓ロなどと共同で解決したいという気持ちは十分理解する必要があるが、北朝鮮との平和条約は米国しか解決しえない。
 北朝鮮が日中韓の3国と協力関係になるかということだけでなく、南北が統一しているかという問題もある。これも今の時点で考えれば極めて非現実的だが、いつまでも分かれていると考えることもできないのではないか。

 第2の問題は、中国が将来どのような国になるかである。かつて中国は東アジアの中心であったが、欧米やさらには日本などの侵略や圧力を受け国力は疲弊し、旧体制は崩壊した。しかし、第二次大戦以後中国は立ち直り、1970年代の末から始まった改革開放政策により飛躍的に発展し、今や世界で注目され、必要とされ、恐れられる存在にまで回復している。
 しかし、今後の中国については大きな不安定要因がある。どの国でも将来のことは分からないが、中国の場合は共産主義体制が今後どうなるかとくに問題となる。その帰趨は中国国内はもちろん、地域的にも重大な影響を及ぼす。
 中国の政治体制は中国人が決定することであり、日本がどうこう言うことでないが、中国人自身、この独裁体制が永遠に続くとは思っていない、中国の指導者もかつてそう言っていたと理解している。
 現在の中国の強みは、人的、物的資源を共産党の判断に従い特定の事業に集中できることであり、中国経済の急速な発展はそのような指導によって支えられてきた。つまり、経済合理性に基づく発展ではなく、戦略的に人的物的資源を集中的に投入して実現した発展だ。共産党の一党独裁でなくなり民主主義国家となった場合はこれまでのような集中的な国家運営はできなくなり、中国の力はそがれるかもしれない。
 しかし、積極的な影響も計り知れない。今の中国は、力は強いが国民の間では不信感が満ち満ちている。民主主義国家になれば、軍事力は低下するかもしれないが国民は本当の才能を発揮する可能性がある。
 
 今後30年間に生じる変化によって東アジアの秩序も各国間の協力関係も大きく左右されそうだ。30年は短すぎるかもしれないが、戦後から150年、現在から80年後を考えると変化はまず確実に起こるだろう。今から150年前、日本は明治維新直前であり、韓国は李氏朝鮮で開国前であり、中国は清朝末期、内外で苦しんでいた。今はその時からすれば想像を絶する世界になっている。戦後から150年後、現在から80年後には、東アジアにも建設的で、かつ安定的な協力関係が生まれている可能性がある。我々としてもそのような展望を持ちつつ現在の問題に対処していくことが必要だ。


アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.