平和外交研究所

2月, 2016 - 平和外交研究所 - Page 6

2016.02.02

ベトナムの新指導部

 ベトナム共産党第12回大会(1月21~28日)で決定された新指導部に関する内外の新聞報道や論評の要点である。

 最大の焦点はグエン・タン・ズン首相が新書記長に就任するか否かであり、下馬評では有力とする見方と同人には反発が強いとする見方があったが、結局ズンは新書記長にならず、近く引退することになった。
 ズンはベトナムの改革開放政策「ドイモイ(刷新)」の強力な推進者であった。この政策が始められたのは1986年の第6回党大会であり、市場経済システムの導入と対外開放化が柱であった。それ以来ベトナムは各国から有望な投資先として注目されてきた。
 ズンは共産党内での実務が長く、一時期ベトナム国家銀行(中央銀行 SBV)総裁を兼務し、金融システムの改革に尽力したこともあった。首相に就任したのは2007年である。
 以前、ズンは「中国より」「日本嫌い」と評されたこともあった。ベトナム共産党内での行動や発言にそのように取られることがあったのかもしれないが、本当はどうだったのか、不明だ。
 しかし、最近のズンは旗幟鮮明であり、2014年、中国が西沙諸島で石油開発を強行した際には、「ベトナムは主権と合法的な利権を中国との虚偽で従属的な友情と交換しない」と厳しく中国を批判する一方、米国や日本との関係を重視しつつ経済改革を強力に進めてきた。
 しかし、性急な改革ドイモイの進展の裏で、貧富の差の拡大、汚職の蔓廷、官僚主義の弊害、環境破壊などのマイナス面も顕在化しており、TPPへの参加についても国内産業が打撃を受けるとして強い反対があったが、ズンはそれを押し切って参加したと言われている。まだTPPに参加することを決断できないタイとは対照的だ。

 今後5年間、引き続き書記長を務めることとなったグエン・フー・チョンは、逆に中国との関係を重視し、米国との関係がよくないと言われていた。西沙諸島での石油開発についても、チョンは中国批判をためらったと噂されたことがあった。しかしチョンが2015年7月、訪米したころから米国との関係を重視する姿勢が目立ってきた。それまでベトナム共産党の書記長が訪米したことはなく、訪米すること自体歴史的な意味があった。
 今回の人事で、ズンが退けられたのは、チョンがこれからのベトナムの指導者としてふさわしいと思われたというよりも、ズンが独断で突っ走るところがあるために敬遠されたからだ。チョンはすでに71歳であり、ベトナム共産党規約で定められている引退の年齢を過ぎている。再任に当たり、チョンが指導部のコンセンサス重視を強調したのも象徴的だ。
 ズンは退けられたが、ズンの功績まで否定されたのではない。ズンの息子のグエン・タイン・ギは今回の人事で政治局入りした。トップ19の一人となったのだ。
 ズンが首相を退任した後新しい首相に就任するのはNguyen Xuan Phuc。チョン書記長に近い人物らしい。
 TPPについても既定方針通り本年6月の国会で承認される予定だ。
 国家銀行総裁のNguyen Van Binhも政治局入りした。

 ベトナムと中国の間で矛盾が発生するのは今後も避けがたい。そのような場合に新指導部がどのように対応するか。中国と激しく対立するのは避けたいというのが新指導部考えだが、中国寄りになると見るべきではない。
 重要なことは米国と中国のバランスであり、経済発展にとって米国や日本との友好関係が不可欠であることは今後も変わらない。米国で教育を受け、ズン首相の信頼するファン・ビン・ミン外相が政治局入りしたのも米国と中国をともに重視する姿勢の表れだと見られている。
 
2016.02.01

(短評)馬英九総統の太平島上陸

 馬英九総統が1月28日、南沙諸島の太平島に上陸した。同諸島で台湾が実効支配している唯一の島だ。
 米国はその行動を批判した。そのことについて台湾の国民党系新聞には、2008年に陳水扁総統が太平島に上陸した際米国はあまり強く反発しなかったのに、今回はどうしてそのような批判をするのかといぶかるとともに、米国は態度を変えたなどと論評しているものがある。

 この論評はおかしい。米国から見れば、中国が南沙諸島で埋め立てと建設工事を強行し、米国をはじめ各国と対立している状況の中で、馬英九の行動は中国に味方することになるので問題なのだ。米国は批判の中で「タイミングが悪い」と言っているではないか。
 台湾の与党系新聞は、馬英九総統の行動の持つ意味について、とくに国際的な環境の中でどのような意味を持つかよく考えるべきだ。単純に陳水扁の時と比較し、米国が変わったと批評するのはナンセンスだ。
、陳水扁の行動がよかったというのではない。陳水扁が太平島に上陸したのも人気取りのためであり、馬英九と同じことだった。違っていたのは、当時(2008年)はそうしても中国に味方することにならなかったことである。

 中国は馬英九の行動を歓迎した。中国政府の報道官は、「共にひとつの中国なので、共同で国家主権と領土の完全性を維持する責任がある」と述べている。
 この中国の反応を聞かなくても、米国がどう思うか分からなければならない。そのような国際的観点から物事を見られないのでは、国民党の前途は多難だ。
 国民党は米国との矛盾が大きくなっていることに気付かずにますます中国との同化/統合の方向に向かっているだろうか。
 国民党は台湾人の願望から離れてしまった。少なくとも今回の総統と立法院の選挙ではそのような結果となった。国民党が勢力を回復するには、台湾人からも、米国からも支持を得なければならない。台湾人の中には、総統による太平島上陸を称賛するナショナリステイックな面があるのは事実だが、台湾と米国との関係、ひいては台湾の安全保障にとって太平島上陸は役に立たないどころか妨げになることを台湾人も理解し始めるのではないか。



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