平和外交研究所

2014 - 平和外交研究所 - Page 4

2014.12.20

米・キューバ関係の正常化

米国とキューバは12月17日、国交を正常化するため交渉を行うことを発表した。すでに約1年半予備交渉をしており、交渉を成功させるめどがついたので今回の発表となったのであろう。お互いに長年拘束してきた政治犯を釈放済みである。

オバマ大統領が就任以来目指してきたキューバとの関係改善がようやく実りそうになっているのであり、外交面でなにかと不人気であったオバマ大統領として久しぶりの朗報であろう。米国内には反対意見がないわけではないが、6割以上の米国人が賛成しているそうだ。

キューバの人口は1千万人を超える。経済水準はまだ低いが、活力がある。医療など対外的にも評価を得ている分野もある。米国がキューバに対してかけていた制裁の解除が日程に上ってくる。米国と中南米を含む自由貿易圏が成立する可能性も大きくなっている。米国の経済界はキューバとの関係正常化を歓迎しており、日本の企業進出も活発化する可能性がある。米国とキューバは長年の確執から多くの問題を解決しなければならないが、移民の面でも前進が期待されているようだ。文化面ではすでに交流が増大している。

キューバは従来反米の最前線に立つことが多かった。国連などで米国に正面から挑むのは第1がキューバであり、第2がベラルーシであった。後者はロシア一辺倒である。今後はキューバとしてもそのような戦闘的な姿勢を取るのは難しくなるものと思われる。キューバと米国が関係を正常化すれば、多国間交渉の場でも力関係に変化が起こるのは確実である。

キューバの第三国との関係にも変化が出るであろう。ロシアとはソ連時代からの債務が320億ドルあり、ロシアは2013年末にその9割を放棄することに合意し、さらに今年の7月、プーチン大統領がキューバを訪問した際には、残りの1割についてもロシアが放棄したと伝えられた。これは米国とキューバが今回の発表を行うわずか5か月前のことである。キューバは旧ソ連と長年にわたる軍事協力関係があったので今でもロシアとの関係が深いのは不思議でないが、キューバは一方ではロシアから大きな譲歩を勝ち取りつつ、米国との交渉を進めていたことになる。したたかな外交かもしれないが、今後米国との関係が進むにつれロシアとの関係も変化し、どちらかと言えばロシアとの密接な関係は徐々に薄らいでいくのではないか。

プーチン大統領がキューバを訪問した際には、旧ソ連が冷戦時代に運用していた、米国を監視するルルデス電子情報基地が再開されると報じられた。この報道が事実であるならば、同基地の扱いが米国との間で問題になるのは避けられないだろう。もっとも、この基地は閉鎖された後コンピューター専門大学に転用されており、かつての軍事関係施設は老朽化しており使い物にならないという大学関係者もいるそうである。

キューバとロシアとの関係もさることながら、北朝鮮との関係についてもキューバは以前のようにふるまうことは困難になるだろう。2013年7月、キューバの港から出航した北朝鮮の船がミサイルを積み込んでいたためパナマで拘束された事件は記憶に新しい。その情報をパナマ政府に与えたのは米国である。キューバは北朝鮮船に積載した兵器はキューバの防衛のために必要なものだと弁明していたが、今後、キューバはこのようなことはできなくなるだろう。

米国にとってキューバも北朝鮮もやりにくい相手であっただけに、今回の米国とキューバとの合意は米国外交の成功を示すものである。北朝鮮にとっては、もちろん歓迎できないニュースであろうが。

2014.12.18

国際関係・慰安婦問題・ナショナリズム

12月17日、ある講演会で次の趣旨を発言した。

大きな着眼点が3つある。
第1は、先の大戦の処理。
第2は、冷戦の終了
第3は、国際関係が構造的に変化し、個人、NGOなど非国家主体の役割が増大していること。

それぞれが大きなテーマである。慰安婦問題を例として取り上げる。この問題は特殊なケースという印象が一般に持たれているが、この3つに深くかかわっており、典型的な国際問題である。

戦争の中で生じた問題であることは誰でも知っている。
冷戦の終了後、女性や子供の権利擁護についての関心が高くなった。冷戦中も取り組まれていたが、冷戦が終了した後は一段と強くなった。女性の権利を擁護する運動の中で慰安婦問題に光が当てられるようになった。このことに対する認識が日本では著しく低い。
慰安婦問題を含め、戦争中に発生した請求権の問題は政府間で処理される。法的にはこれで解決されるが、それでは満足しない人が関係国に請求するケースが増えている。3つ目の観点である。政府は「法的には決着済み」と言っても納得しない。韓国政府を見ていると、被害者から突き上げられるのを恐れ、日本政府との関係で責任ある態度を取れないことが多くなっているのではないか。

慰安婦問題について日本政府がアジア女性基金を立ち上げ、協力していることに批判的な人たちは、慰安婦問題にこの3つの大きな側面があることを理解していない。日本が悪く言われたり、日本軍の名誉を傷つけられたりしたと言って反対する。単純な発想であり、視野が狭い。

韓国や中国では日本の対応がよくないと言って世論が硬化し、日本を批判する。しかし、下手をすれば日本もそのために感情を害され、反発する。昨年末安倍首相が靖国神社を参拝した。このことについて新聞社が世論調査を行なった。その結果、かなりの数の人が靖国参拝を支持した。とくに若者の間では支持率が高く、6割以上に上った。若者は中韓の批判に辟易しており、それが彼らの気持ちとなって現れる。しかし、彼らは3百万の日本人が犠牲となったことや、そのような戦争を指導した人たちに責任があるのではないかと質問すると、それには同意する。彼らは戦争責任について考える力がある。

中韓両国と日本の間でナショナリズムがいたずらに相手方を刺激すると関係が悪化する。ナショナリズムは心地よいが危険である。慰安婦問題であれ、靖国参拝であれ、国民生活に関係の深い問題だけにナショナリズムを刺激しやすい。日本はもちろん中韓両国もナショナリズムが燃え上がらないよう慎重に対処する必要がある。
2014.12.16

南シナ海に対する中国の主張を米国はどう見ているか

THEPAGEに12月16日、掲載されたバージョン

「米国務省は今月初め、南シナ海での中国の「九段線」の主張について、「国際海洋法に合致していない」と報告書で発表しました。この報告書は、実は重要な意味を持つものです。それはどうしてなのでしょうか。報告書の内容と合わせてみていきましょう。

■南シナ海で領有権争いする中国
我が国の領土である尖閣諸島について領有権を主張する中国は、南シナ海の島嶼についてフィリピン、ベトナム、マレイシア、台湾などとも争いを起こしています。
フィリピンは、2013年1月、中国を相手に仲裁裁判に訴えました。仲裁裁判は2国間で争いがある場合、紛争当事国、この場合はフィリピンと中国がこの裁判について合意し、裁判官を選任して行われます。このような方法は紛争を平和的に解決するのに適していますが、中国は仲裁に同意しないという姿勢を取っており、2014年12月7日に「仲裁裁判所には管轄権がない」とする文書を公表しました。正式の仲裁裁判拒否宣言です。
一方、ベトナムもこの直後、南シナ海の一部島嶼に対する権利を改めて主張し、ベトナムとしても仲裁裁判を求める考えを示しました。今後、フィリピンの場合と同様予備的な調査が行われることになるでしょう。フィリピンやベトナムがこのような行動を取った背景には、中国の南シナ海での活動の再活発化があります。

■第三国の領土紛争に介入しない米国
米国はこれまで第三国間の領土紛争に介入しないという方針でしたが、国務省の海洋国際環境科学局は12月5日付で、南シナ海に対する中国の「九段線」の主張(筆者注 南シナ海のほぼ全域を点線で囲み、中国の権利を主張したもの)は根拠が乏しく、「国際海洋法に合致していない」とする報告書を発表しました。この報告書は極めて重要ですが、日本では選挙の影響などのためかその重要性が正しく伝えられていません。一部には、米国が中国にその主張の不十分な点を補うよう促しているというような報道がありますが、それはこの報告書の趣旨でありません。
この報告書は、これまで種々の機会に表明された中国の主張を綿密に調べ上げ、国連海洋法条約など国際海洋法に照らして適切な主張であるか、判断しています。具体的には次のような指摘をしています。
○南シナ海全域、いわゆる「九段線」で囲まれる海域に対する中国の主張は国際海洋法に合致しない(does not accord with the international law of the sea)。
○中国による九段線の主張は、その範囲内の島嶼に対する領有権主張なのか、他国との境界線のことか、歴史的経緯の主張なのか明確でない。
○中国で出版されている種々の地図は正確さ、明確さ、一貫性を欠き、中国の主張の性格と範囲(nature and scope)は不明確である。
○中国の歴史的理由に基づく主張は、国際法で使われる、「公開の、周知の(notorious)、実効支配」の3基準に照らして成り立たない。
○歴史的理由に基づく主張よりも、海洋法条約で定められた沿岸国の主権に基づく権利の方が優先すると同条約は明記している。

■米報道官の説明
この報告書をもって米国の方針が変わったと言えるか微妙です。報告書の目的は、「国家による海洋に関する主張や境界を精査(examine)し、国際法との整合性を評価(assess)することである」「この検討は、その中で取り上げられていることに関する米国政府の見解(view)を示すが、主張されていることを受け入れることを必ずしも反映しない」と記されています。つまり、国際法に合致しているか否かの判断はするが、政治的に特定国の主張に加担するのではない、という意味でしょう。
しかし、米国政府として違法だと判断しておきながら、政治的には中立の態度を取れるでしょうか。12月10日の国務省における記者ブリーフでは、これまでの米国政府の「第三国間の領土紛争においていずれかの国に加担することはしない」という方針と一貫していないのではないかという質問が出ました。もっともだと思います。

これに対しサキ報道官は、「これはただの報告書である、80もおこなった法的な検討の一つである、、、」と苦しげに答え(注 他にも多くのケースについて法的検討が行われていることを言っているのでしょう)、その答えでは満足しない記者が、「しかし、この報告書は東南アジア諸国の利益に味方(favor)している」とたたみかけたので、同報道官は「それは非常にテクニカルなものであり、政治的なものでない(they are very technical, they’re not political)」とだけ述べ、後は従来からの米第三国間の領土紛争に介入しないという米国政府の方針は不変であることを繰り返すのがやっとでした。答えになっていない説明です。

■公式の文書で断言した意味
米国政府が公式の文書で中国の南シナ海に対する主張は国際法に合致しないと断言したことの意味は大きいと思います。米国がそれでも中立的態度を取るならば、フィリピンやベトナムが、「米国政府は中国の主張を違法だと判断しておきながら、東南アジア諸国を支持しないのは理解に苦しむ」というような疑問を呈する可能性もあります。さらに、違法だと判断しておきながら中立的態度を取るのは、「不作為により違法行為国を味方することになる」という議論を誘発するかもしれません。これに対して米国政府は明快な説明ができるでしょうか。
米国務省の報告書は尖閣諸島の関連でも重要な意味合いがあります。同諸島に関する中国の主張についても米国は法的な整合性を検討しているのでしょうか。もししていないのであれば、日本政府は米国政府に対し、中国の主張の違法性を明らかにするよう求めるべきではないでしょうか。米国政府は尖閣諸島の防衛が安保条約上の義務であることを確認していますが、同諸島に対する中国の主張が国際法に違反しているという法的解釈を下せば、それに劣らない強力な援軍となるからです。



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