平和外交研究所

2014 - 平和外交研究所 - Page 22

2014.09.19

東アジアの安全保障を高める諸原則

2日目のZermatt Roundtableでプレゼンしたこと。テーマは、「お互いに受け入れ可能な原則に基づいて安全保障の枠組みを構成する」

東シナ海、南シナ海での紛争は緩和されていない。激化している面もある。昨日の議論で、冷戦的思考を脱却するべきだとの指摘があった。その通りだが、東アジアでは冷戦は終わっているか。冷戦の定義によるが、共産主義対自由世界という意味では終わっていない。中国は共産党の支配である。共産党支配がいいとか悪いとかいうのではない。共産党の支配と民主主義ではどうしても違いが出ることがある。しかし、重要なことは、「中国とその他」という対立にならないようにすることである。共産主義対民主主義という図式は取り除けないが、「中国とその他」の対立にはならないようにしなければならない。中国も韓国や日本も同じ地域の国家であり、共通にしなければならないことがたくさんある。
双方が受け入れ可能な原則がすでにあれば問題を解決したのも同然であるが、実際にはそのような状況ではなく、受け入れ可能な原則とは何かを探っていかなければ内らない。安全保障の関係では一般的な原則とオペレーショナルな原則がある。
一般的な原則としては、紛争は平和的に解決しなければならず、武力に訴えてはならないことがまず挙げられる。これは国連憲章で明確に定められており、また、日中間では平和友好条約で同じことが定められている。
具体的には、国際司法裁判所(ICJ)で解決を求めるというのが国際的に確立されたルールである。調停や仲裁もある。尖閣諸島について中国が領有権を主張するならば、ICJに出ていけばよいではないか。日本政府はそのことを決めたわけではないようだが、中国政府は拒否していると理解している。両方ともICJで解決を求めるべきだ。それが最も公平な解決方法だ。
オペレーショナルな規則としては海上での行動規範が重要である。ASEANと中国の間では現在行動宣言しかないが、行動規範に高めるべきである。中国と日本の間では緊急時の連絡体制の話し合いを行ってきたが、中断されたままであり、早期に再開すべきである。両国にとって利益だからである。米中では事故が起こった場合に協議することになっているが、これをルールに高めるべきでないか。かつて米ソ間でチキンレースがしばしばおこり、事故にもなったが、INCSEA協定が結ばれ、紛争は激減したと聞いている。これは米中や日中間でも当てはまるのではないか。ルールを作ると守る方が損をするという人もいるが、狭い了見である。
アジアの安全保障については、ASEANとARFが一定の積極的な役割を果たしている。欧州に比べるとまだまだ弱体であるが、ASEANも成長しつつある。それに日中韓、さらには米国が加わり協議をするASEANプラスは貴重な機会であり、有用だ。中国もそれを積極的に活用することを期待している。
シャングリラ対話は中国の軍と諸外国の代表などが直接話し合える重要な場であり、各国ともそれを重視していることを中国からのハイレベルの参加者がいるこの場で話しておきたい。

2014.09.19

東アジアの安全保障と心理的要因

9月16~18日、スイスのモントルーで開催されているツェルマット・ラウンドテーブルで要旨次のプレゼンテーションを行った。このテーマは安全保障における心理的要因である。

日本と中国、韓国との関係はよくない。ナショリズムやいわゆる歴史問題の影響を受けている。また、政治目的に利用されることもある。このような心理的要因を抑制できるかが東アジアの安全保障を左右する一つの重要なカギである。
慰安婦、徴用工、靖国神社参拝、教科書問題などはそれぞれの原因があるが、いずれもかつての日本の帝国主義的、軍事的侵略の中で生まれてきた。当時、中国も韓国もそれに対抗する力を持たなかった。韓国は日本に併合されていた。
日本が敗戦したのち、中国およびロシア以外の国とはサンフランシスコ平和条約を結び戦争にかかわる諸問題を処理した。中華民国とは別途条約を結んだ。中国とは2つの基本的な合意を結んでいる。第1が1972年の日中国交正常化であり、これにより戦争状態を終結し、日本は中華人民共和国を承認した。1978年の平和友好条約では、紛争は平和的に解決し、武力に訴えないことおよびいかなる国の覇権を求める行為にも反対することに合意した。
韓国の関係では、日本はサンフランシスコ平和条約で朝鮮半島を放棄し、その後1965年に日韓基本条約を結んで韓国併合以前の全ての条約を無効にし、また請求権を完全かつ最終的に解決した。
このように中国および韓国との関係は法的には解決しているが、政治的・心理的には解決が不完全な面が残っているのであろう。日本と両国との関係が心理的要因によって左右されるといわれるが、そのような不完全な解決となっていることの表れではないかと考える。
中国は過去30年間急速に発展し、いまや世界の大国になろうとしているが、まだ満足しておらず、さらなる発展を実現し、名実ともに認められる大国となることを欲している。また、それまでの間、中国の進み方はほかの国とは異なる面があるが、それは中国の特色であるとして他国から邪魔されないよう警戒しつつ進んでいる。
中国の海洋戦略は戦後秩序を認めたくないという意識と大国化の願望と密接な関係がある。
領海法で島々に対する領有権を主張し、排他的経済水域として広範な権利を主張しさらに海底で大陸棚の先端まで主張するという3層になっている。さらに台湾問題とも関係している。
韓国は発展し、先進国に仲間入りして久しい。韓国は過去のように日本に追いつくだけでは満足できないのだろう。一部の分野では日本を凌駕している。このような状況で日本を追い越すだけでなく世界においてどのような地位に立つべきか、これからの韓国にふさわしい地位はどこか模索しているように見える。
最近中国と韓国が接近し、日本と離れる傾向にあるということが話題になることがあるが、中韓両国は政治体制も違うし、経済的に強い競合関係がある。今は朴大統領の個人的な中国への関心の強さが中韓の関係緊密化に拍車をかけている面があるが、中長期的には不協和音が多くなる可能性がある。中国の政治は強いが、民主主義国家ではそう強くなれない。
一方日本は中国や韓国との関係改善に努めなければならない。日本では未来志向を好む傾向があるが加害者であったことを忘れてはならない。安倍首相は靖国神社に参拝すべきでなかった。

2014.09.14

ウクライナ問題に関する米欧の制裁強化

EUと米は9月12日に追加制裁を発表した。銀行、天然ガス、石油、防衛関係の主要企業は米欧で取引をするのが非常に困難になる。資金の調達にも支障が生じるであろう。
さる5日にベラルーシのミンスクでウクライナ東部問題に関する協議が行われ、ウクライナと親ロシア派の代表が停戦に合意した。停戦合意は形式的にはロシアは当事者でなかったが、実質的には深くかかわっており、ロシアの支持がなければ停戦の合意はできなかったであろう。プーチン大統領は自ら停戦の内容について発言していた。
この合意から1週間しか経っていないのに米欧は追加制裁に踏み切ったのである。実質的には停戦の合意直後から制裁強化の準備を始めていたものと思われる。米欧の対応は早く、かつ強硬である。そこまでするのかという感じさえする。
冷戦終結のおぜん立てをしたOSCE(欧州安全保障協力機構)はウクライナ東部の状況を監視するために250人の訓練された要員を派遣している。8日には同機構の高位の人が、「ウクライナの情勢は何とか持ちこたえているが、まだ不安定だ」と語っている。OSCEは無人機も飛ばして監視に努めている。衛星からの監視では夜間の状況は分からないのでこのようなOSCEのプロフェッショナルで組織的な監視は強力である。日本では報道されないことを米欧はかなり知っているらしい。だからこそ今回のような強硬な姿勢を取れるのであろう。オバマ大統領は、“We have yet to see conclusive evidence that Russia has ceased its efforts to destabilize Ukraine,”と述べている。
米欧がプーチン大統領を制裁の対象としないのは、プーチンとはこれからも話したいという考えだからだそうである。プーチンは軍の強硬派や議会の保守派に手を焼いていると見ているのかもしれない。

一方、11~12日、タジキスタンの首都ドゥシャンベでロシア、中国および中央アジア4カ国が加盟する上海協力機構の首脳会議が開かれた。これについて一部の邦字紙は、ロシアがこの会議を利用して欧米に対抗しようとしており、ロシアの影響力拡大を狙っているという見出しの記事を掲載しているが、ウクライナ問題について中国はロシアを積極的に支持することはしない。少数民族の問題に跳ね返ってくる恐れがあるからである。今回の首脳会議で発表された宣言はウクライナ問題について、5日の停戦合意を歓迎するだけであり、米欧の制裁強化を非難することは何もしなかった。ロシア支持の姿勢は打ち出さなかったのである。むしろ7月のBRICs首脳会議よりロシアにとっては後退した内容であったとも指摘されている。
そもそも上海協力機構は中国の思い入れが強く、同機構の本部は上海に置き、かつ初代の事務局長は中国人が務めた。国際機関として異例であり、中国がそれだけ力を入れているのである。
ロシアが軍事力を誇っていることは変わらないが、どうもそれ以外のことではロシアは米欧に押され気味であるし、中国やインドなどと比べても影が薄い印象である。

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