2月, 2014 - 平和外交研究所 - Page 6
2014.02.10
岸田外相が置かれている立場はきわめて困難であると思う。ケリー長官とこの時点で直接話し合うことが必要なのは、米中韓3国の間に日本の姿勢を問題視する共通の基盤が醸成されていく危険があるからであり、今回の訪米はそのような危険性に対処しようとしている点で評価できる。
先の大戦が終了して以来、そのような危険性を考慮する必要はなかった。日本は政治、経済、安全保障の面で、つまり事実上すべての面で米国との協力関係を重視してきたからであり、日本は米国に依存し過ぎると批判されることはあっても、日米間にそのような危険が生じる心配はなかったのである。
しかし、先の戦争においては、日米は敵対し、おたがいに相手を軍事力で打倒することに努め、その結果双方とも何百万人もの犠牲者を出した。戦争は終わり、平和条約が結ばれ、日米両国は世界の歴史でもまれに見る友好協力の実績をあげてきたが、戦争の歴史的事実が消えたわけではない。日米両国とも将来そのような状況に再び陥ることなどありえないと考える人が大多数であるとしても、歴史が無意味になるほど両国が変身したとも言えない。
先の戦争に関する米国の考えは、中韓両国と完全に一致しているのでもないだろうが、日本から極東軍事裁判など戦争処理のあり方を問題視し、適切でなかったと主張することは、そのことを議論する場を作ろうとするものであり、ひいては日米両国は、少なくとも心理的には戦争時に引き戻される恐れがある。米国には、日本がいつか核武装するかもしれないという悪夢を完全に忘れ去ることができない人が指導者層にもいる。日本側で戦争のことを議論している人にはそのような深刻な認識はないとすれば、あまりにおめでたいと言わざるをえない。
首相の靖国神社参拝もおなじ意味合いを持つ。戦争指導者を尊敬して何が悪いと開き直るのは、戦争行為自体は悪くなかったと主張することに他ならない。また、戦争指導者を祭ってある神社を参拝しておきながら彼らを尊崇しているのではないということは、天照大神を祭っている神社に参拝しておいて尊崇しているのではないというのと同じくらいナンセンスである。
今日のブログでは、戦争を悪くなかったと論じることの是非はさておいて、米中韓の3国の間では、日本からこのような主張が出れば出るほど共通の基盤が醸成されていくであろう。一国の指導者にはそのことに早く気付いてほしい。
私は、国家の安全は自国で確保するのが基本であり、必要であると思っており、そのために必要な国家制度は整えるべきであるという考えを抱いており、憲法改正は必要に応じ行なうべきであると思っており、その点で模範となるスイスの憲法について本を書いたこともある。いわゆる平和主義者からは容易に攻撃されそうな思想を持っていることは自覚している。しかし、自国の偏狭な感情をぶつけておいて、米国に理解を求めるとか、米国が親日であれば分かってくれるはずだというような独りよがりの主張には身震いがする。
今次岸田外相の訪米において、ケリー長官は、中国による防空識別圏(ADIZ)設置については明確に反対することを表明した。岸田‐ケリー会談に先立って(5日)、ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は下院外交委員会アジア・太平洋小委員会の公聴会で、東シナ海や南シナ海で中国の挑発行動が増えていると批判して自制を促し、中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏も容認しない考えを改めて強調した。この姿勢は従来より強硬である。
しかし、韓国との関係についてケリー長官は、日本も関係改善の努力するよう促したそうである。これも戦争の問題と絡んでおり、日本の指導者が歴史に対して正しい姿勢を取ることが先決であるという韓国側の主張に米国は一定の理解がある。
尖閣諸島については、ケリー長官は「米国は引き続き同盟国に対する条約義務を果たす。東シナ海でもそうだ」と述べたそうである(日経新聞2月8日付)。この発言はこれまでに米国の指導者が述べたコミットメントの発言より一般的であり、それだけに不明確さが残る。ケリー長官がここまでしか言わなかったのは、米国が安倍総理の靖国神社参拝に失望したからではないか。ケリー長官からすれば、昨秋ヘーゲル国防長官とともに千鳥が淵墓苑へ参拝することにより、靖国神社参拝に関する米国の立場を明確に示しておいたにもかかわらず、安倍総理はそのメッセージを無視して靖国神社へ参拝を強行したという思いがあるであろう。
念のため、付言しておくと、日米両国がありとあらゆる問題について意見を一致させることは現実的にありえないし、意見が違っていてもなんら不思議でない。捕鯨やイルカ処分の問題、同性愛などについての考えは異なっているが、そんなことは個別に解決を図っていけばよい。しかし、日本が行なった戦争は悪くなかったとか、日米両国とも問題があったとか、戦争指導者を祭ることは止めよう。止めなければ、国際的にも日本の立場は危うくなる。
オバマ大統領がこの春訪日するか否かが話題になっている。岸田・ケリー会談でこのことがどのように扱われたのか。「岸田外相は「国賓として迎えたい。成功に向け協力したい」と伝えた。日程発表には至らなかった。」と日経新聞は伝えている。オバマ大統領にとって、日本との同盟関係が重要であるのはもちろんであるが、中国との間でも争いの種は少なくし、協力を進展させなければならない。その関係で日本にも期待しているであろう。日本はそのような期待にこたえていると言えるか。岸田外相は尖閣諸島の問題に関し、どのような展望を述べたのであろうか。国際司法裁判所での解決など、米国も納得できる具体的方策を説明したのであろうか。それとも、従来からの立場である、国際法に従って解決するという当たり前のことを繰り返したに過ぎないのか。
岸田外相とケリー国務長官との会談2014年2月
岸田外相が国会審議の合間を縫って訪米し、2月7日、ケリー国務長官と会談した。中国および韓国はいわゆる歴史問題や領土問題を理由に日本との関係を改善・強化・進展させることに消極的な態度を取る一方、米国との関係を重視し、米国が彼らの外交姿勢を理解・支持するよう求めている。中国の報道には、米国を日本からできるだけ引き離し、彼ら寄りに引きよせることを戦略的目標とすべきであると言わんばかりの論調もある。岸田外相が置かれている立場はきわめて困難であると思う。ケリー長官とこの時点で直接話し合うことが必要なのは、米中韓3国の間に日本の姿勢を問題視する共通の基盤が醸成されていく危険があるからであり、今回の訪米はそのような危険性に対処しようとしている点で評価できる。
先の大戦が終了して以来、そのような危険性を考慮する必要はなかった。日本は政治、経済、安全保障の面で、つまり事実上すべての面で米国との協力関係を重視してきたからであり、日本は米国に依存し過ぎると批判されることはあっても、日米間にそのような危険が生じる心配はなかったのである。
しかし、先の戦争においては、日米は敵対し、おたがいに相手を軍事力で打倒することに努め、その結果双方とも何百万人もの犠牲者を出した。戦争は終わり、平和条約が結ばれ、日米両国は世界の歴史でもまれに見る友好協力の実績をあげてきたが、戦争の歴史的事実が消えたわけではない。日米両国とも将来そのような状況に再び陥ることなどありえないと考える人が大多数であるとしても、歴史が無意味になるほど両国が変身したとも言えない。
先の戦争に関する米国の考えは、中韓両国と完全に一致しているのでもないだろうが、日本から極東軍事裁判など戦争処理のあり方を問題視し、適切でなかったと主張することは、そのことを議論する場を作ろうとするものであり、ひいては日米両国は、少なくとも心理的には戦争時に引き戻される恐れがある。米国には、日本がいつか核武装するかもしれないという悪夢を完全に忘れ去ることができない人が指導者層にもいる。日本側で戦争のことを議論している人にはそのような深刻な認識はないとすれば、あまりにおめでたいと言わざるをえない。
首相の靖国神社参拝もおなじ意味合いを持つ。戦争指導者を尊敬して何が悪いと開き直るのは、戦争行為自体は悪くなかったと主張することに他ならない。また、戦争指導者を祭ってある神社を参拝しておきながら彼らを尊崇しているのではないということは、天照大神を祭っている神社に参拝しておいて尊崇しているのではないというのと同じくらいナンセンスである。
今日のブログでは、戦争を悪くなかったと論じることの是非はさておいて、米中韓の3国の間では、日本からこのような主張が出れば出るほど共通の基盤が醸成されていくであろう。一国の指導者にはそのことに早く気付いてほしい。
私は、国家の安全は自国で確保するのが基本であり、必要であると思っており、そのために必要な国家制度は整えるべきであるという考えを抱いており、憲法改正は必要に応じ行なうべきであると思っており、その点で模範となるスイスの憲法について本を書いたこともある。いわゆる平和主義者からは容易に攻撃されそうな思想を持っていることは自覚している。しかし、自国の偏狭な感情をぶつけておいて、米国に理解を求めるとか、米国が親日であれば分かってくれるはずだというような独りよがりの主張には身震いがする。
今次岸田外相の訪米において、ケリー長官は、中国による防空識別圏(ADIZ)設置については明確に反対することを表明した。岸田‐ケリー会談に先立って(5日)、ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は下院外交委員会アジア・太平洋小委員会の公聴会で、東シナ海や南シナ海で中国の挑発行動が増えていると批判して自制を促し、中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏も容認しない考えを改めて強調した。この姿勢は従来より強硬である。
しかし、韓国との関係についてケリー長官は、日本も関係改善の努力するよう促したそうである。これも戦争の問題と絡んでおり、日本の指導者が歴史に対して正しい姿勢を取ることが先決であるという韓国側の主張に米国は一定の理解がある。
尖閣諸島については、ケリー長官は「米国は引き続き同盟国に対する条約義務を果たす。東シナ海でもそうだ」と述べたそうである(日経新聞2月8日付)。この発言はこれまでに米国の指導者が述べたコミットメントの発言より一般的であり、それだけに不明確さが残る。ケリー長官がここまでしか言わなかったのは、米国が安倍総理の靖国神社参拝に失望したからではないか。ケリー長官からすれば、昨秋ヘーゲル国防長官とともに千鳥が淵墓苑へ参拝することにより、靖国神社参拝に関する米国の立場を明確に示しておいたにもかかわらず、安倍総理はそのメッセージを無視して靖国神社へ参拝を強行したという思いがあるであろう。
念のため、付言しておくと、日米両国がありとあらゆる問題について意見を一致させることは現実的にありえないし、意見が違っていてもなんら不思議でない。捕鯨やイルカ処分の問題、同性愛などについての考えは異なっているが、そんなことは個別に解決を図っていけばよい。しかし、日本が行なった戦争は悪くなかったとか、日米両国とも問題があったとか、戦争指導者を祭ることは止めよう。止めなければ、国際的にも日本の立場は危うくなる。
オバマ大統領がこの春訪日するか否かが話題になっている。岸田・ケリー会談でこのことがどのように扱われたのか。「岸田外相は「国賓として迎えたい。成功に向け協力したい」と伝えた。日程発表には至らなかった。」と日経新聞は伝えている。オバマ大統領にとって、日本との同盟関係が重要であるのはもちろんであるが、中国との間でも争いの種は少なくし、協力を進展させなければならない。その関係で日本にも期待しているであろう。日本はそのような期待にこたえていると言えるか。岸田外相は尖閣諸島の問題に関し、どのような展望を述べたのであろうか。国際司法裁判所での解決など、米国も納得できる具体的方策を説明したのであろうか。それとも、従来からの立場である、国際法に従って解決するという当たり前のことを繰り返したに過ぎないのか。
2014.02.08
百田氏の発言と相前後して、NHKの籾井会長による慰安婦問題に関する発言があり、昨年末の安倍首相による靖国神社参拝以来、先の大戦についての日本人の認識が問われる行動が相ついだ。
安倍首相の靖国神社参拝と百田氏の発言について米国は否定的なコメントを発表し、籾井発言についてはとくにそうしなかったが、慰安婦問題についての米国の考えはすでに明確になっており、どの問題であれ、いわゆる歴史問題について日本から時折出てくる、日本だけが責められるべきでないという趣旨の主張には批判的である。
百田発言については、朝日新聞によると、「米国務省の報道官は7日、「不合理な示唆だ。日本の責任ある立場の人々は地域の緊張を高めるようなコメントを避けることを望む」と反論した。米タイム誌(電子版)が7日、在日米国大使館の談話としてこの発言を報道。朝日新聞が米国務省に確認したところ、同じ文言の反論を国務省報道官名で回答した。」と少々わかりにくいが、要するに、米国は百田発言に対して否定的である。
引用された米タイム誌は、次のように述べている。
In the clearest signal yet of U.S. unhappiness with the rightward tilt of Japan’s political
leadership – and by extension, Prime Minister Shinzo Abe — the U.S. Embassy in Tokyo condemned
charges by a top official at Japan’s national public broadcaster that Americans fabricated war crimes
against Japanese leaders during World War II in order to cover up American atrocities.
“These suggestions are preposterous. We hope that people in positions of responsibility in Japan and
elsewhere would seek to avoid comments that inflame tensions in the region,” an embassy spokesman
said early Friday.
この英文は朝日新聞の報道より強烈である。とくに、米大使館のスポークスマンが百田氏の主張をcondemnしたと表現している点である。辞書ではcondemnは「強く非難する」などと訳されており「強く」に注目すべきであるが、それでも足りないくらい強い言葉であり、「断罪する」に近い意味である。「外交辞令を弄す」と揶揄される傾向のある外交官のコメントについて記者(Kirk Spitzer)はそのような強烈な言葉を使って伝えているのであり、よほどのことであると見なければならない。
百田氏の演説と米側の反応のいずれが正しいか。あきらかに米側の反応のほうが正しい。百田氏の演説は日本人からも支持されないと思う。それは一方的で、日本が戦争したことは悪くなかったと開き直ろうとする姿勢さえ感じさせるものである。
百田氏のような発言は日本国の利益を損ねる。日本政府にとっても有害である。言うまでもないが、日本の安全は日米安保条約によって保たれているが、それが信頼できるものであるためには日米両国が冷静に、合理的に行動することが必要であり、先の戦争において日本が行ったことは悪くなかったという趣旨の主張はもっとも有害であり、日米間の信頼関係を損なう。百田氏のような発言が日本で執拗に繰り返されれば米国が感情的に反発する恐れもあることに早く気付くべきである。
百田氏発言と米国の批判
NHK経営委員の百田尚樹氏が東京都知事選の応援演説で米軍による原爆投下や東京大空襲を批判し「東京裁判は大虐殺をごまかすための裁判だった」などと述べたと伝えられている。応援演説の場であったため正確な表現を確かめることは困難であるが、日本の新聞のみならず米国でもそのように報道されており、それに基づいて米国務省がコメントしたのに対し百田氏は反論していないようだ。報道内容は正しいものと考える。百田氏の発言と相前後して、NHKの籾井会長による慰安婦問題に関する発言があり、昨年末の安倍首相による靖国神社参拝以来、先の大戦についての日本人の認識が問われる行動が相ついだ。
安倍首相の靖国神社参拝と百田氏の発言について米国は否定的なコメントを発表し、籾井発言についてはとくにそうしなかったが、慰安婦問題についての米国の考えはすでに明確になっており、どの問題であれ、いわゆる歴史問題について日本から時折出てくる、日本だけが責められるべきでないという趣旨の主張には批判的である。
百田発言については、朝日新聞によると、「米国務省の報道官は7日、「不合理な示唆だ。日本の責任ある立場の人々は地域の緊張を高めるようなコメントを避けることを望む」と反論した。米タイム誌(電子版)が7日、在日米国大使館の談話としてこの発言を報道。朝日新聞が米国務省に確認したところ、同じ文言の反論を国務省報道官名で回答した。」と少々わかりにくいが、要するに、米国は百田発言に対して否定的である。
引用された米タイム誌は、次のように述べている。
In the clearest signal yet of U.S. unhappiness with the rightward tilt of Japan’s political
leadership – and by extension, Prime Minister Shinzo Abe — the U.S. Embassy in Tokyo condemned
charges by a top official at Japan’s national public broadcaster that Americans fabricated war crimes
against Japanese leaders during World War II in order to cover up American atrocities.
“These suggestions are preposterous. We hope that people in positions of responsibility in Japan and
elsewhere would seek to avoid comments that inflame tensions in the region,” an embassy spokesman
said early Friday.
この英文は朝日新聞の報道より強烈である。とくに、米大使館のスポークスマンが百田氏の主張をcondemnしたと表現している点である。辞書ではcondemnは「強く非難する」などと訳されており「強く」に注目すべきであるが、それでも足りないくらい強い言葉であり、「断罪する」に近い意味である。「外交辞令を弄す」と揶揄される傾向のある外交官のコメントについて記者(Kirk Spitzer)はそのような強烈な言葉を使って伝えているのであり、よほどのことであると見なければならない。
百田氏の演説と米側の反応のいずれが正しいか。あきらかに米側の反応のほうが正しい。百田氏の演説は日本人からも支持されないと思う。それは一方的で、日本が戦争したことは悪くなかったと開き直ろうとする姿勢さえ感じさせるものである。
百田氏のような発言は日本国の利益を損ねる。日本政府にとっても有害である。言うまでもないが、日本の安全は日米安保条約によって保たれているが、それが信頼できるものであるためには日米両国が冷静に、合理的に行動することが必要であり、先の戦争において日本が行ったことは悪くなかったという趣旨の主張はもっとも有害であり、日米間の信頼関係を損なう。百田氏のような発言が日本で執拗に繰り返されれば米国が感情的に反発する恐れもあることに早く気付くべきである。
2014.02.07
○プーチン政権が投下した資本はこれまでのどの冬季オリンピックより多額であるが、汚職、ネポティズム(縁故主義)、無能などのため、現地の経済はほとんど潤っていない。ソチ内外の村落は強制的に移住させられ、労働者は苛酷な待遇を強いられ、環境は破壊されており、現地の人たちの間には不満が高じている。
○ソチは紛争に明け暮れている北コーカサス地方にあり、プーチン政権は安全確保のため厳しい取り締まりを行なっている。その結果、紛争地域で続けられてきた対話と交渉は影を潜め、弾圧が強化されている。また、ロシアのかつての植民地政策によって引き起こされたサーカシアとの国境紛争に火をつける結果となっている。
○ロシアの警備隊は、安全対策として南オセチアで防御壁、監視カメラおよび国境検問所を設置したが、これらの措置はグルジアでの紛争を激化させている。
○この1月、ロシア政府はテロ対策と称して、ロシアと隣接するアブハジア地方との間で争いの対象となっている地域をソチ周辺の安全地帯に含めると発表した。これに対し、グルジア政府とNATOの事務総長はロシアの国境拡大に深刻な懸念を表明している。
○オリンピックは無事過ごせるかもしれないが、このままでは将来、地元の人々の不満がさらにひどくなり、暴力に転じる恐れがある。この地域で永続的な平和を実現するには地元の真のニーズにあった包括的・政治的なアプローチが必要である。
ソチ・オリンピックの陰にある政治問題
2月6日付のSIPRI(ストックホルム国際平和研究所)レポートは、ソチ・オリンピックを成功させるためプーチン政権は500億ドル以上の投資を行ない、4万人もの警備員を投入しているが、すでに深刻な政治・国際問題が発生し、オリンピックが成功しても後に禍根が残るであろうという、Neil Melvin研究員のレポートを掲載している。○プーチン政権が投下した資本はこれまでのどの冬季オリンピックより多額であるが、汚職、ネポティズム(縁故主義)、無能などのため、現地の経済はほとんど潤っていない。ソチ内外の村落は強制的に移住させられ、労働者は苛酷な待遇を強いられ、環境は破壊されており、現地の人たちの間には不満が高じている。
○ソチは紛争に明け暮れている北コーカサス地方にあり、プーチン政権は安全確保のため厳しい取り締まりを行なっている。その結果、紛争地域で続けられてきた対話と交渉は影を潜め、弾圧が強化されている。また、ロシアのかつての植民地政策によって引き起こされたサーカシアとの国境紛争に火をつける結果となっている。
○ロシアの警備隊は、安全対策として南オセチアで防御壁、監視カメラおよび国境検問所を設置したが、これらの措置はグルジアでの紛争を激化させている。
○この1月、ロシア政府はテロ対策と称して、ロシアと隣接するアブハジア地方との間で争いの対象となっている地域をソチ周辺の安全地帯に含めると発表した。これに対し、グルジア政府とNATOの事務総長はロシアの国境拡大に深刻な懸念を表明している。
○オリンピックは無事過ごせるかもしれないが、このままでは将来、地元の人々の不満がさらにひどくなり、暴力に転じる恐れがある。この地域で永続的な平和を実現するには地元の真のニーズにあった包括的・政治的なアプローチが必要である。
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