11月, 2013 - 平和外交研究所 - Page 6
2013.11.11
このように第一段階は進展しているが、イランの核協議が最終的な合意に到達できるか、この点についてはまだ不透明、というより、明らかな違いがある。米欧は、兵器に使われる高濃縮ウランの製造はもちろん、医療用などに利用される低濃縮度のものもすべて禁止されるべきだという考えであるのに対し、イラン側は低濃度のウラン製造を禁止される理由はない、原子力の平和利用は主権国家が有する権利であり誰にも奪われないと主張している。
ジュネーブでの協議と同時期に岸田外相がイランを訪問し、ロハニ大統領と会談した。日本はイランの核協議に参加していないが、イランの核開発には強い関心を抱いている。また、イランは日本の原子力平和利用、とくに国際的に核サイクルを認められていることに関心を持ち、イランは日本のようになりたいとさえ言っている。そのような事情があるので、日本としてイランの核開発問題の解決に協力する用意があるとの姿勢を示すことは重要なことである。
注目すべき点は2つある。岸田外相がロハニ大統領に対し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准を促したのは、イランは核兵器の開発はしないことを関係国に理解させるために一つの有効な手段となりうるとの考えからである。この条約は平和利用の問題は全く扱っておないので、低濃縮ウランに関するイランの主張の是非を問題にすることなく、核兵器は開発しないというイランの主張を国際社会に理解させるのに役立つわけである。
もうh1つのポイントは、国際原子力機関(IAEA)による査察に対しどのように対応するのがよいか、国際社会に理解してもらうにはどうすればよいかについて日本には経験とノウハウがあることである。これは核兵器国には分からないことであり、現在イランと核協議している国のなかではわずかにドイツでけが日本と同様の状況にあるが、ドイツはEUの一員であるため、日本のようにイランとの協力関係には立てない事情があり、したがって査察に対しどのように応じるかという肝心の問題について日本は独特の立場にある。
イランは今後長期にわたってIAEAの査察を受けることになるだろうが、日本の経験とノウハウが役立つのであり、イランが日本の例に見習うことが望ましい。また、日本としても岸田外相が述べたように、イランとIAEAとの交渉でイランを支援する用意があることを示すことも重要である。
イランの核協議が次の段階にまで進むには、査察について明確な合意が作られ、実行していくことが鍵となるだけに、日本が協力する余地は増大していくのではないかと思われる。
イランの核問題に対する日本の協力」
イランの核協議は、イランの核開発の縮小と引き換えに同国への制裁を緩和するという第一段階は合意に近いと思われていたが、9日と10日の協議で合意は成立しなかった。しかし、交渉は決裂したのではなく、イラン側も米国やEUの代表も今回の協議で重要な進展があったと述べるなど積極的な意義があったことを認めており、20日には協議が再開されるそうである。このように第一段階は進展しているが、イランの核協議が最終的な合意に到達できるか、この点についてはまだ不透明、というより、明らかな違いがある。米欧は、兵器に使われる高濃縮ウランの製造はもちろん、医療用などに利用される低濃縮度のものもすべて禁止されるべきだという考えであるのに対し、イラン側は低濃度のウラン製造を禁止される理由はない、原子力の平和利用は主権国家が有する権利であり誰にも奪われないと主張している。
ジュネーブでの協議と同時期に岸田外相がイランを訪問し、ロハニ大統領と会談した。日本はイランの核協議に参加していないが、イランの核開発には強い関心を抱いている。また、イランは日本の原子力平和利用、とくに国際的に核サイクルを認められていることに関心を持ち、イランは日本のようになりたいとさえ言っている。そのような事情があるので、日本としてイランの核開発問題の解決に協力する用意があるとの姿勢を示すことは重要なことである。
注目すべき点は2つある。岸田外相がロハニ大統領に対し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准を促したのは、イランは核兵器の開発はしないことを関係国に理解させるために一つの有効な手段となりうるとの考えからである。この条約は平和利用の問題は全く扱っておないので、低濃縮ウランに関するイランの主張の是非を問題にすることなく、核兵器は開発しないというイランの主張を国際社会に理解させるのに役立つわけである。
もうh1つのポイントは、国際原子力機関(IAEA)による査察に対しどのように対応するのがよいか、国際社会に理解してもらうにはどうすればよいかについて日本には経験とノウハウがあることである。これは核兵器国には分からないことであり、現在イランと核協議している国のなかではわずかにドイツでけが日本と同様の状況にあるが、ドイツはEUの一員であるため、日本のようにイランとの協力関係には立てない事情があり、したがって査察に対しどのように応じるかという肝心の問題について日本は独特の立場にある。
イランは今後長期にわたってIAEAの査察を受けることになるだろうが、日本の経験とノウハウが役立つのであり、イランが日本の例に見習うことが望ましい。また、日本としても岸田外相が述べたように、イランとIAEAとの交渉でイランを支援する用意があることを示すことも重要である。
イランの核協議が次の段階にまで進むには、査察について明確な合意が作られ、実行していくことが鍵となるだけに、日本が協力する余地は増大していくのではないかと思われる。
2013.11.10
モンゴルでのウラン鉱開発はソ連の手で行われていた。その鉱山はすでに閉山されているが、最近フランスのアレバ社が新しい鉱脈の発見に成功している。また、モンゴルは日本の核廃棄物の処理場として候補に挙がっており、日本政府はモンゴル政府と話し合いを行なっているようである。
問題の放射能汚染は、しかし、深刻であり、ソ連が引き上げた後も建物などは放射線で汚染され危険な状態のまま残っており、生活用水が放射能で汚染されているらしい。また、フランス系の企業による試掘からもすでに被害が出ていると言われている。
とくにひどいのは家畜の被害であり、双頭のヒツジや目が見えないラクダが生まれ、内臓にただれや血腫を持つものもあるそうである。
ウラン資源の利用については経済的なメリットがありうることからモンゴル政府は積極的であり、また、日本との間で廃棄物処理場を提供することについても前向きなようだが、放射能汚染の悲惨な状況については正確な情報の提供が求められる。
11月9日の朝日新聞は、ある日本人女性が中古のカメラ付き携帯を集めて、現地の遊牧民に送っていることを報道した。写真を集め、核汚染の広がりや現状を明らかにしたい、という思いからだそうである。その人は大学でモンゴル語を学び、20年前から毎年ゴビ砂漠に通い、遊牧民の暮らしぶりの変化を追ってきた。「急速な市場化が進み、公害が深刻化している。当地は家畜を血の一滴まで食べる文化。人間に影響が出ないわけがない」として、今夏、研究会誌で核問題特集を組み、論文を掲載した。子どもの被曝(ひばく)を防ぐ冊子のモンゴル語訳にも取り組むそうである。非常に貴重な努力である。
モンゴルにおける核汚染
モンゴルで深刻な核汚染問題が発生しているが、日本では一般にはまだよく知られていない。この問題を最初に報道したのは2011年5月9日付の毎日新聞だそうで、その後、日本以外も含めいくつかの報道が続いている。研究者や活動家は現地からのルポにより被害状況を伝えている。モンゴルでのウラン鉱開発はソ連の手で行われていた。その鉱山はすでに閉山されているが、最近フランスのアレバ社が新しい鉱脈の発見に成功している。また、モンゴルは日本の核廃棄物の処理場として候補に挙がっており、日本政府はモンゴル政府と話し合いを行なっているようである。
問題の放射能汚染は、しかし、深刻であり、ソ連が引き上げた後も建物などは放射線で汚染され危険な状態のまま残っており、生活用水が放射能で汚染されているらしい。また、フランス系の企業による試掘からもすでに被害が出ていると言われている。
とくにひどいのは家畜の被害であり、双頭のヒツジや目が見えないラクダが生まれ、内臓にただれや血腫を持つものもあるそうである。
ウラン資源の利用については経済的なメリットがありうることからモンゴル政府は積極的であり、また、日本との間で廃棄物処理場を提供することについても前向きなようだが、放射能汚染の悲惨な状況については正確な情報の提供が求められる。
11月9日の朝日新聞は、ある日本人女性が中古のカメラ付き携帯を集めて、現地の遊牧民に送っていることを報道した。写真を集め、核汚染の広がりや現状を明らかにしたい、という思いからだそうである。その人は大学でモンゴル語を学び、20年前から毎年ゴビ砂漠に通い、遊牧民の暮らしぶりの変化を追ってきた。「急速な市場化が進み、公害が深刻化している。当地は家畜を血の一滴まで食べる文化。人間に影響が出ないわけがない」として、今夏、研究会誌で核問題特集を組み、論文を掲載した。子どもの被曝(ひばく)を防ぐ冊子のモンゴル語訳にも取り組むそうである。非常に貴重な努力である。
2013.11.09
何を根拠にそのような発言をしたのであろうか。軍事には素人であるが、いくつか考えさせられる。
まず、「米韓同盟を背に戦えば韓国側が圧勝する」と情報本部長が言っている。そんなことは当たり前のことであり、そもそも言及すること自体がおかしいが、それは本論でないので大した問題でない。
南北が一対一でやればどうかという点が本論であるが、「米軍を除き」という想定はそもそもありうるのか。南北の装備は核兵器の有無で大きく違っており、かりに米軍のことを考えなければ、核兵器を持っている北朝鮮と持っていない韓国の比較になるが、その場合軍事力としての優劣は誰の目にも明らかであり、情報本部長はごく当たり前のことを言ったにすぎず、問題になりえないはずである。韓国の通常兵器の装備は最新のものでかなり強力であり、北朝鮮より優れているだろうが、それでも核兵器の軍事的優位性は変わらない。
つまり、核兵器を北朝鮮が保有している限り、南北の軍事力を一対一で比較しても意味がなく、したがってまた、米軍との協力がなければという仮定も意味がないのである。
もう一つの問題点は韓国軍兵士の能力と意志である。かつてベトナム戦争のころ、韓国軍は米側に兵力を派遣していた国のなかでもっとも戦闘力に優れ、かのベトナム軍も恐れていた。しかし、それは半世紀近く以前のことであり、現在の韓国軍兵士に当時の勇猛さが残っているか、疑問視されていても不思議でない。著しい経済成長をなしとげ、豊かな生活に慣れている韓国人は、今やあの手この手で徴兵義務から逃れようとしているらしい。それはどの国でもありうることで、ごく自然なことである。
しかるに、韓国が北朝鮮から軍事的脅威を受けていることはそう変化していない。北朝鮮は相変わらず敵対的な姿勢を韓国に示している。北朝鮮は、韓国側の挑発が先だとよく言っているが、どちらが先にことを始めたかはともかく、南北が敵対することになるのは現在も依然とさほど変わらず継続している。
そうであるにもかかわらず、韓国人、とくに若者の考えがかなり違ってきているのであれば、情報本部長の発言は必ずしも非難されることではない。
韓国内で騒ぎとなったのは、装備の問題でもなく、また、兵士の能力でもなく、軍として北朝鮮と戦う決意が発言から感じられなかったのが本当の原因であったかもしれない。軍人には客観的に情勢を分析することも、かりに状況が不利であっても戦って勝つという気構えを示すことも両方要求されているのであろうか。
韓国軍は強いか
韓国の国会で11月5日、国防省の国防情報本部長が、南北のどちらが勝つかと問われ「米韓同盟を背に戦えばわれわれが圧勝するが、米軍を除き南北が一対一でやれば負ける」と明言し、韓国で騒ぎになっているそうである(共同電11月8日)。何を根拠にそのような発言をしたのであろうか。軍事には素人であるが、いくつか考えさせられる。
まず、「米韓同盟を背に戦えば韓国側が圧勝する」と情報本部長が言っている。そんなことは当たり前のことであり、そもそも言及すること自体がおかしいが、それは本論でないので大した問題でない。
南北が一対一でやればどうかという点が本論であるが、「米軍を除き」という想定はそもそもありうるのか。南北の装備は核兵器の有無で大きく違っており、かりに米軍のことを考えなければ、核兵器を持っている北朝鮮と持っていない韓国の比較になるが、その場合軍事力としての優劣は誰の目にも明らかであり、情報本部長はごく当たり前のことを言ったにすぎず、問題になりえないはずである。韓国の通常兵器の装備は最新のものでかなり強力であり、北朝鮮より優れているだろうが、それでも核兵器の軍事的優位性は変わらない。
つまり、核兵器を北朝鮮が保有している限り、南北の軍事力を一対一で比較しても意味がなく、したがってまた、米軍との協力がなければという仮定も意味がないのである。
もう一つの問題点は韓国軍兵士の能力と意志である。かつてベトナム戦争のころ、韓国軍は米側に兵力を派遣していた国のなかでもっとも戦闘力に優れ、かのベトナム軍も恐れていた。しかし、それは半世紀近く以前のことであり、現在の韓国軍兵士に当時の勇猛さが残っているか、疑問視されていても不思議でない。著しい経済成長をなしとげ、豊かな生活に慣れている韓国人は、今やあの手この手で徴兵義務から逃れようとしているらしい。それはどの国でもありうることで、ごく自然なことである。
しかるに、韓国が北朝鮮から軍事的脅威を受けていることはそう変化していない。北朝鮮は相変わらず敵対的な姿勢を韓国に示している。北朝鮮は、韓国側の挑発が先だとよく言っているが、どちらが先にことを始めたかはともかく、南北が敵対することになるのは現在も依然とさほど変わらず継続している。
そうであるにもかかわらず、韓国人、とくに若者の考えがかなり違ってきているのであれば、情報本部長の発言は必ずしも非難されることではない。
韓国内で騒ぎとなったのは、装備の問題でもなく、また、兵士の能力でもなく、軍として北朝鮮と戦う決意が発言から感じられなかったのが本当の原因であったかもしれない。軍人には客観的に情勢を分析することも、かりに状況が不利であっても戦って勝つという気構えを示すことも両方要求されているのであろうか。
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