中国
2015.06.12
中国はかねてより、アウン・サン・スー・チー氏を軟禁していたミャンマーの軍事政権との関係が緊密であり、国際的に孤立していた同政権にとって数少ない支持国であった。
2011年、テイン・セイン大統領が率いる新政府が発足し、ミャンマーは民主的な国家への道を歩み始めた。軍人の影響力はまだかなり残っており、テイン・セイン大統領にとっては困難なかじ取りであるが、比較的着実に民主化を進め、2013年には欧米諸国が問題視していた政治犯全員に恩赦を与えた。また、対外面では2014年にASEANの議長国を務め、責任ある民主国家であることを内外にアピールしてきた。
一方、スー・チー氏が率いるミャンマー最大の野党、NLDは政府と対立しつつ国民の支持を増やし、2012年の議会補欠選挙では圧勝した。2015年末に予定されている総選挙でも勝利すると予想されている。
中国は、これまで軍事政権を支持し、西側寄りのスー・チー氏には近寄らないようにしていたが、ミャンマー内の政治状況の変化に対応してスー・チー氏へ接近を図り始めた。まず、2013年に李小琳(李鵬元首相の娘)が代表を務める中国国際友好連絡会の招待という形で訪中を要請したが、スー・チー氏はすでに国会議員になっており、民間である中国国際友好連絡会の招待に応じることは不適当と考え訪中しなかった。その後、2014年12月に訪中が実現しそうになったが、この時も儀礼上の理由で延期された。スー・チー氏側はあくまで公の立場であることに固執したと言われている。
そこで中国側は、今回、共産党中央連絡部からの招待としつつ、習近平主席と李克強首相との会見も実現するという破格の待遇をすることとしたので、スー・チー氏側も公の立場にこだわらず、招待に応じた(中国系の新聞の報道による)。
かくして、ミャンマーの軍事政権を支持していた中国と親西欧のアウン・サン・スー・チー氏が率いるNLDとの交流が始まった。中国が譲歩したのは、来るミャンマーの総選挙でNLDが大勝することは確実という状況の中で、将来への手掛かりを強化しておこうという狙いからであろう。
両国間には懸案がある。ミャンマー側では、中国資本が投下されているLetpadaung銅鉱山やMyitsoneダムなどが資源破壊のため住民の激烈な反対に遭っている。
中国内では、アウン・サン・スー・チー氏の訪中が、同じくノーベル平和賞を獲得して軟禁されている劉暁波の解放につながることを期待する声が上がっている。しかし、NLDと中国の交流は始まったばかりであり、両国間のデリケートな問題については双方とも慎重に扱うので、進展は期待できない。
これら二国間の問題もさることながら、中国の外交戦略においてミャンマーは重要な地位を占めている。南シナ海の問題で中国に批判的な姿勢を取る東南アジア諸国が増加傾向にあるなかで、中国としては「海のシルクロード」上の一重要拠点であるミャンマーを強い影響力を行使して手なずけていこうとするのか。それとも親西欧の政権がミャンマーに誕生した場合、新しい感覚で対応する用意があるか。
中国が躍起となって推進しようとしている「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行においてミャンマーを優遇できるかも注目される。
アウン・サン・スー・チー・ミャンマー国民民主連盟(NLD)議長の訪中
アウン・サン・スー・チー・ミャンマー国民民主連盟(NLD)議長が6月10日から14日までの日程で訪中している。これは従来の中国とミャンマーの関係においては見られなかった展開である。中国はかねてより、アウン・サン・スー・チー氏を軟禁していたミャンマーの軍事政権との関係が緊密であり、国際的に孤立していた同政権にとって数少ない支持国であった。
2011年、テイン・セイン大統領が率いる新政府が発足し、ミャンマーは民主的な国家への道を歩み始めた。軍人の影響力はまだかなり残っており、テイン・セイン大統領にとっては困難なかじ取りであるが、比較的着実に民主化を進め、2013年には欧米諸国が問題視していた政治犯全員に恩赦を与えた。また、対外面では2014年にASEANの議長国を務め、責任ある民主国家であることを内外にアピールしてきた。
一方、スー・チー氏が率いるミャンマー最大の野党、NLDは政府と対立しつつ国民の支持を増やし、2012年の議会補欠選挙では圧勝した。2015年末に予定されている総選挙でも勝利すると予想されている。
中国は、これまで軍事政権を支持し、西側寄りのスー・チー氏には近寄らないようにしていたが、ミャンマー内の政治状況の変化に対応してスー・チー氏へ接近を図り始めた。まず、2013年に李小琳(李鵬元首相の娘)が代表を務める中国国際友好連絡会の招待という形で訪中を要請したが、スー・チー氏はすでに国会議員になっており、民間である中国国際友好連絡会の招待に応じることは不適当と考え訪中しなかった。その後、2014年12月に訪中が実現しそうになったが、この時も儀礼上の理由で延期された。スー・チー氏側はあくまで公の立場であることに固執したと言われている。
そこで中国側は、今回、共産党中央連絡部からの招待としつつ、習近平主席と李克強首相との会見も実現するという破格の待遇をすることとしたので、スー・チー氏側も公の立場にこだわらず、招待に応じた(中国系の新聞の報道による)。
かくして、ミャンマーの軍事政権を支持していた中国と親西欧のアウン・サン・スー・チー氏が率いるNLDとの交流が始まった。中国が譲歩したのは、来るミャンマーの総選挙でNLDが大勝することは確実という状況の中で、将来への手掛かりを強化しておこうという狙いからであろう。
両国間には懸案がある。ミャンマー側では、中国資本が投下されているLetpadaung銅鉱山やMyitsoneダムなどが資源破壊のため住民の激烈な反対に遭っている。
中国内では、アウン・サン・スー・チー氏の訪中が、同じくノーベル平和賞を獲得して軟禁されている劉暁波の解放につながることを期待する声が上がっている。しかし、NLDと中国の交流は始まったばかりであり、両国間のデリケートな問題については双方とも慎重に扱うので、進展は期待できない。
これら二国間の問題もさることながら、中国の外交戦略においてミャンマーは重要な地位を占めている。南シナ海の問題で中国に批判的な姿勢を取る東南アジア諸国が増加傾向にあるなかで、中国としては「海のシルクロード」上の一重要拠点であるミャンマーを強い影響力を行使して手なずけていこうとするのか。それとも親西欧の政権がミャンマーに誕生した場合、新しい感覚で対応する用意があるか。
中国が躍起となって推進しようとしている「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行においてミャンマーを優遇できるかも注目される。
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