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2024.01.27

孔子学院は先細っていくか 2024年1月

 中国は胡錦涛政権下の2004年、孔子学院を設立し、世界各国に広めてきた。2023年12月の時点では、160の国・地域の498校と設置契約を結んでいる。
 
 孔子学院は文化面での「一帯一路」といえるもので、世界各国の民衆が中国語を学び、中国文化を理解するのを援助することが目的である。孔子学院には本部から中国語教科書、教師、活動資金が送られてくる。財政難に陥っている各国の大学などにとって貴重な資金源となっている。

 孔子学院には習近平主席自身力を入れており、2015年10月、ロンドンで開かれた英国全土の学院関係者が集まる年次総会に出席し、同学院の意義を強調したこともある。

 ところが最近、各地で孔子学院を閉鎖する事例が増えてきた。米国の場合、多い時には100以上の学校に孔子学院が置かれていたが、その後廃止する学校が続出し、2023年6月の全米科学者協会(National Association of Scholars NAS)の報告では、孔子学院として残っているのは10校になっていた。ただし、米国における孔子学院に対する警戒心が強くなるに伴い、名称を変えるなどして生き残りを図っているところもある。教育内容はほとんど変わらないという。
 スウェーデンは2005年、欧州で初めて孔子学院を開校したが、2020年までに8校すべてを閉鎖した。政府が指示したわけでなく、大学や自治体が自ら決めたことである。

 これらのほか、カナダ、ベルギー、オランダなどでも孔子学院を存続するべきか、検討が始められており、いずれ閉鎖される可能性が高いとみられている。

 日本においては2023年5月、政府は早稲田大や立命館大など国内の少なくとも13大学に、中国政府による中国語や自国文化の普及を目的とした教育機関「孔子学院」設置が確認されていると明らかにした(参政党の神谷宗幣参院議員の質問に対する答弁書 内閣参質二一一第六三号)。このうち、福山大(広島県福山市)は2024年3月での閉鎖を決めている。日本全国では3校目の閉鎖となる。
 
 このような動きが広まってきた理由について、全米科学者協会(National Association of Scholars NAS)、米国大学教授協会(American Association Of University Professors AAUP)、カリフォルニア大学・アネンバーグ校(USC Annenberg)などの報告・声明は以下のような問題を指摘している。
・孔子学院は中国政府の一機関で、学問の自由を無視している。世界の孔子学院を統括する北京の孔子学院本部は独立法人だが、その最高幹部の人選には国務院(政府)の承認が必要である。孔子学院の運営には、中国政府や共産党の意向が働く仕組みになっている。

・孔子学院は教育支援の目的を離れ、中国共産党の宣伝機関になっている。最近中国はそのことを隠そうとしなくなっており、李長春中国共産党中央政治局常務委員は、「(孔子学院は)中国の外国におけるプロパガンダ組織の重要な一部」と述べている。

・孔子学院本部と大学側が結ぶ合意文書のほとんどに非開示条項があり、教員を管理することや授業内容の選択をすることが孔子学院側に許されている。大学側は「中国の国益を害する行為に関与すれば契約を打ち切る」とする誓約書を提出させられている。

・孔子学院は台湾独立問題や天安門事件など物議を醸す議題は扱わない。
 
・孔子学院は国家安全保障の脅威となっている。彼らは情報機関や国営企業、民間企業を始め、大学院生や研究者ら様々な人々を使って情報を取っている。
 
・中国政府は米国が中国の教育機関に支援することをきらい、妨害している。
 
・(スウェーデンの場合)習近平体制のもとで民主や人権、言論の自由などの価値が後退し、権威主義的な政治潮流が高まり、官民ともに幻滅している。中国政府はビザの制限などをちらつかせ、批判的なメディアや政府を威嚇しており、スウェーデン政府は何度も抗議している。中国に不愉快に感じる市民も多く、姉妹都市などの交流を打ち切る自治体も増えている。

 孔子学院を創設して以来驚異的なペースで世界に広げられたのは、中国にとって一大成果であったが、各国で警戒心が強まり、学院の閉鎖が相次いでいることは習近平政権として心穏やかでないだろう。

 だが中国は以上述べたような世界の状況変化に柔軟に対応するか。意に介さないかもしれない。米国で指摘されている名称変更などは役立たないどころか有害であろう。
 
 2023年10月に全国人民代表大会(全人代)常務委員会で「愛国主義教育法」という新法が可決されたことが想起される。同法は、「中華民族と偉大な祖国への思い入れを育み、愛国の力を結集させる」などと中華の伝統を称揚し、国民はそれに沿って行動するよう求めている。孔子学院は世界的に減少傾向になるなかで、その背景においてはこのような中華意識の高揚が謳われているのである。

ともかく、各国における孔子学院の閉鎖傾向は今後も続いていくとみられる。一定期間をおいてまた検討してみたい。

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