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2018.10.10

国際刑事警察機構総裁の拘束

 孟宏偉国際刑事警察機構(ICPO、本部フランス・リヨン)総裁が母国の中国へ一時帰国中に消息不明となっていたところ、中国当局によって拘束されていたことが判明した。
 この件については、中国における権力闘争、反腐敗運動のすさまじさなどの観点から語られる傾向があるが、以下のような視点も必要である。

 孟氏の妻が10月4日夜、リヨン警察に夫の失踪を届け出、フランス内務省が翌5日に声明を出して孟宏偉総裁の行方不明が公になった。孟氏から最後に連絡があったのは10日前で、最近SNSや電話を通じて脅迫を受けたと話していたという。
 中国公安省の幹部らが出席した8日の会議で、孟氏が国家監察委員会によって取り調べを受けていることが報告されたと言われている。

 その後、公安部のサイトは同総裁に関する「公布」を掲載した。「発表」のことであるが、それによると、「孟宏偉による収賄は違法になることであり、その拘束は時間的に猶予がなく、完全に正しく、賢明である。法律の前ではだれも特権を持たず、法律に違反したものはだれでも厳罰に処せられる」などの言葉が書きつらねられている。

 今回の孟宏偉総裁の拘束は、数日前に当HPで論じた女優、ファン・ビンビンさんや、香港の書店主、日本滞在中の中国人研究者などの拘束と共通点がある。
これらの人たちは拘束された後、家族などにすぐに通報されず、かなりの期間「行方不明」となった。孟宏偉総裁の場合は、ICPOとの関係があるので比較的短い間に拘束の事実が判明したが、そのような地位でなければやはり数か月間「行方不明」となった可能性がある。
 また、拘束されている間はもとより、その後も調査が終了するまで面会は許されない点でも共通している。

 中国は、孟宏偉の逮捕が法律上当然だと主張しているようだが、問題がある。同人の行為が違法であった疑いをかけ、調査を始めることは合法的であっても、逮捕の手続きとその後の被疑者との面会を許さないなどの扱いは恣意的であり、違法ではないのか。中国は政治優先、つまり共産党の指導優先であり、法律の解釈も党の考え次第だとみなしていると思えてならない。

 被疑者の立場、人権は守らなければならず、そのためには拘束にしても、法の適用にしても、すべて法律に従い、また、透明にしなければならない。当局が違法だと判断しても、それは当局限りのことであり、違った判断がありうることを認める必要がある。
 被疑者を危険にさらすことなどもってのほかである。孟宏偉総裁は拘束される直前、妻に対して「危険な状況にある」ことを示すナイフの絵文字を送ってきていたそうだ。

 しかも、孟宏偉総裁は国際機関の代表者である。そのような立場の人を、違法行為の疑いがあるというだけで、いきなり拘束するのは許されない。国際公務員は守られなければならない。かりに何らかの事情により違法行為の嫌疑がかけられても、当人の立場、名誉、さらには所属する機関の名誉が損なわれないよう最大限の注意と配慮が必要である。いきなりの拘束はそのようなことを無視した暴挙と言われてもしかたがないだろう。

 中国は、国内でも国外でも、恣意的な疑いの濃い拘束や扱いを止めるべきである。違法と嫌疑をかければ、あとは当局の判断次第という対応は恐ろしい。中国は、巨大化し、世界における影響力を増大させた今でも、あくまで中国流に行動あるいは対応しようとしているのか。中国は、「中国の特色ある社会主義」としてそのようなふるまいを正当化しているのだろうか。それは国際法、国際慣習の無視につながる危険な傾向ではないか。

 最後に、ICPOは孟宏偉総裁からの辞職届(?)を受理したと7日に発表したが、ICPOとして今回の拘束に抗議したのか。総裁は辞職したというが、本人の意思を確かめたのか、確かめたというのであればどのような方法であったか。ICPOの規則に照らして辞職届は有効か、など様々な疑問が残る。ICPOの側にも問題があったのではないかと思えてならない。

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