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2017.08.22

一帯一路2015年12月会議

  中国が提唱する「一帯一路」について2015年12月に開催された会議の模様が明らかになったと報道されている(読売新聞8月21日付)。

 「一帯一路」構想は2013年に習近平主席が打ち出したもので、中国と欧州を結ぶ陸上及び海上のルート(シルクロード)を中心に輸送インフラを整備し、沿線国での投資を活発化させることにより約70カ国にまたがる経済圏を建設することを目指している。
 「一帯一路」と同じく中国の提唱により2015年末に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は「一帯一路」とペアであり、同構想を実現する手段となっている。

 今年の5月には、プーチン・ロシア大統領、エルドアン・トルコ大統領、東南アジア諸国の首脳なども出席する大会議が開催された。日本からは二階自民党幹事長が参加した。
 
 今回報道されたのは、時間をさかのぼるが、2015年12月会議を主催した国防大学の議事録であり、「国防大や国防省、軍総参謀部(当時)の幹部、対外投資にかかわる銀行や石油業界関係者ら約20人が発言。国防大の研究者2人は、中国海軍のインド洋海域展開には12か所の港など「補給基地」が必要との分析を示し、国有海運会社「中国遠洋運輸」など中国企業に「商用名目で他国の港の使用権を獲得させ、海軍の停泊、補給地点とすべきだ」と主張した」ことなどが記録されているという。非常に参考になる文献である。
 
 2017年5月の国際会議の後に当研究所のHPに掲載したコメントのさわりの部分を再度掲げておく。

 「「一帯一路」は、中国が鉄道、道路、パイプラインなどの建設をこれまでの各国別協力から多数の国との協力事業として拡大するものであり、構想の発表からわずか4年でこのような一大国際会議の開催にまでこぎつけられたのは、中国が戦略的に持てる資源を集中的に投入したからであり、中国の新たな成功例だと言えるだろう。
 一方、「一帯一路」も中国主導で進めたいという意図は見え透いていた。中国は各国の意見を聞かないのではなく、各国の参加を求めるし、意見も聞く。しかし、それはあくまで中国主導の妨げにならない範囲のことであり、極端に言えば、各国は中国主導に花を添えているのに過ぎない。
 このようなやりかたは「中華思想」的であり、また、「冊封」、つまり中国が天であり各国はこれに従属するという清朝以前の体制と本質的には変わらないのではないか。
 たとえば、貿易に関する議論において結論となる文書の草案が主催者たる中国側から提示されたが、ほとんど議論をする時間的な余裕がないのに「修正できない」と言われたので、EUの一部諸国は対応できず、最終文書に同意しなかった。中国が各国の意見に本当に耳を傾け、良い意見は採用する用意があるならもっと違った対応になっただろう。今回の会議が終了するまでに一定の結論を出さなければならない、それに異論を唱えることは許さないとするのは中国側の都合に過ぎない。
 「一帯一路」についてはもっと根本的な疑問がある。すなわち、習近平主席は2015年3月末のボアオ・アジアフォーラムで、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要であり、「一帯一路」戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べていた。この中国と周辺諸国が運命共同体であるということは、協力しあうという範囲をはるかに超えているが、「一帯一路」構想の推進によりそこまで盛り上げていくというのが中国の考えなのである。その運命共同体の中心は当然中国なのであろう。やはり「中華思想」的な発想なのではないか。
 また、そもそも中国がBRICs銀行とは別にAIIBを設立したのは、前者ではブラジル、ロシア、インドおよび中国は平等の立場にあり、中国の主導にならないからであった.中国はどうしても中国主導の開発銀行を作りたかったのである。
 
 中国が中国風に振舞っただけでは今次会議は成功しなかったかもしれない。しかし、中国は巨大な資金を提供して会議に実を注入した。インフラ整備に使うシルクロード基金へ1千億元(約1兆6400億円)増資、参加国・地域へ600億元の援助を供与などである。
 さらに、中国は今後5年で「一帯一路」の沿線国家・地区から2兆ドル(約226兆円)の商品を輸入するとも表明した。
 これらの寛大なオファーはもちろん各国から歓迎された。しかし、一方で、各国の意思を軽視しておいて、他方で、恩恵を示して中国に引き付けようとするのは冊封体制と何ら変わりないではないか。

 各国は今次会議にどのような姿勢で臨んだか。二、三の点が注目された。
 米国は日本と同様AIIBに参加していないので「一帯一路」についても警戒的だと見られていたが、今回の会議にはマット・ポッティンジャー国家安全保障会議アジア上級部長を代表として派遣した。また、北京の米大使館は「一帯一路工作チーム」をつくって協力する方針だそうだ。これらは、去る4月のトランプ・習会談で合意された「100日計画」に基づいて実施されたことである。
 一方、中国は6月にワシントン郊外で開催される投資サミット(Select USA 投資サミット。第4回目だが、トランプ政権下で初めて)に参加することに合意した。つまり、今次「一帯一路」会議への米国の出席は、米国投資会議への中国の参加とディールになっているのだ。米国の投資会議は中国の「一帯一路」会議ほど盛大なおぜん立てになっていないかもしれないが、両方とも投資を呼び込むための国際会議である。
 
 インドが今次「一帯一路」会議に参加しなかったことも目立っていた。その海上ルート(「一路」)がインドに脅威となっているためである。つまり、インドはBRICs銀行のように、一方では中国と協力しつつ、海上では中国の行動を警戒しているのである。」


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