オピニオン
2015.06.16
しかし、この議論はアカデミックな面が強く、また、複雑な経緯が前提になっているので一般には必ずしも分かりやすいことでない。さまざまな意見をフォローするだけでも困難であろう。
しかるに、国会に提出されている法案のどの部分に問題があるのか。これが憲法違反か否かを判断する場合に出発点となるのは法案に何と記載されているかであるが、実は、この改正案自体がきわめて複雑なため、一般には、どのような文言になっているのかさえ分かりにくいのが現状である。
さらに、国会では多くの質問が、すべてというわけではないが、改正案の文言に即しては行なわれず、具体的な問題、たとえば、機雷の除去をできるかとか、他国の領土にまで自衛隊は派遣されるかというような問題に対する政府の考えを質すという形で行なわれている。つまり、質疑は法案の記載に即して行われないことが多いのである。このような質疑からは政府の考えや方針が適切か否かは明確になっても、法案の内容が適切か否かは明確にならないのではないか。
このような考えから、当HPでは過去2回にわたって、「問」と「答」という形で、法案の内容を見、その上でどの点が憲法に違反しているかを検討した。便宜のために以下に再掲しておく。
(問)安保法制改正案は憲法違反でないか。
(答)憲法9条は、国際紛争を解決する手段として武力を行使することを禁止している。この規定によって、日本が国際紛争に巻き込まれること、他国と武力紛争に陥ることはかたく禁止されている。この禁止は日本国憲法の基本精神である。
憲法制定の数年後、「自衛」の場合には例外的に武力行使が認められると解釈されるようになった。これは国民的に受け入れられている。
今回の安保法制改正案が憲法に違反しているか否かを見るには、改正案を提出した政府の方針や考えを質すこともさることながら、改正案の規定が適切か否かを吟味する必要がある。具体的には、「重要影響事態法」、「国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)」および「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」の規定が問題となる。
「重要影響事態法」においては、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件が満たされていると政府が判断すれば、後方支援などのため自衛隊を派遣できることになっている。この要件は改正前の周辺事態法で認められていたことであり、自衛隊の行動範囲は必ずしも我が国の領域に限られず、その外であるが朝鮮半島や我が国周辺の公海なども「自衛」のために必要であれば含まれた。しかし、そのような範囲を超える地域においては「自衛」でなくなり、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件を満たすとしても国際紛争に巻き込まれてはならないという憲法の禁止に触れる恐れがある。
「国際平和支援法」は、国連決議にしたがって各国が軍事行動を行なう場合、日本としては後方支援(国際平和支援法の用語では「協力支援活動」)などを行なうことができることとした。同法の定める国連決議要件が満たされれば、自衛隊が参加しても国際紛争に巻き込まれる恐れはないように見えるかもしれないが、国連決議は平和維持活動のように紛争が終わったことを確認して採択される場合と、紛争が残存あるいは継続しているが採択される場合がある。イラクやアフガニスタンでの紛争や、いわゆる多国籍軍が派遣されるのは後者の例であり、しかも厄介なことに、イラクの場合は国連決議があるか否か不明確であり、そのこと自体が紛争の原因になった。
今次改正法案では、紛争が終了した後の問題は「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(つまりPKO法)」で扱われる。一方、「国際平和支援法」が定める国連決議の場合はそのような限定はなく、紛争が継続していることがありうる。したがって、同法によって自衛隊を派遣すると国際紛争に巻き込まれる恐れがあり、この新法は憲法違反になる危険がある行為を認めているので問題である。
同法は、自衛隊は後方支援などはできるが、武力の行使はできないとし(2条2)、自衛隊が活動できる場所は、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としている(同条3)が、それは日本国が自衛隊に課している規範であっても、国際的に承認される保証はない。
また、「武力の行使」でなければよいということではない。紛争の中で一方に加担することは、その時点では必ずしも武力の行使でなくても、紛争がある限り武力の行使は不可避となるのでやはり禁止していると見るべきである。紛争の一方に加担しておいて自衛隊に武器を行使させないということは日本の法律で担保できることでなく、国際社会の現実に即して見れば、それは困難である。
自衛隊の行動する場所についても、紛争の一方に加担しておきながら、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としてもそれは日本の法律の規定に過ぎず、戦闘で必要な物資などを供給することは、加担した一方の敵方から見れば、敵対行為の一環として見られることは不可避である。つまり、このような場所による限定は国内法として憲法に違反していないことを示す論理に過ぎず、各国が認めることにはならない。日本国憲法は国際社会での日本の在り方を論じて紛争の一方に加担することを禁止しているのであり、憲法違反となるか否かは国内法の憲法との論理的整合性のみならず、国際社会によりそのように受け入れられるかも問題となる。
「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」においては、「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない(同法3条4)」とされた。つまり、必要と判断すれば、自衛隊は「武力行使」でき、米軍のみならず「外国軍隊」とも協力でき(同法2条7など)、また、自衛隊が行動できる場所の限定はなくなり、どこでも可能となった。
この法律の運用方針について政府がどのような説明しようと、それは政府の方針説明に過ぎず、法律の定めを超えるものではない。
このように見ていくと、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は、「自衛」のためであり、日米安保条約の下での「米軍」との協力、日本と周辺が活動場所であるという、憲法の許容範囲すれすれの現「武力攻撃事態」の枠組みを明らかに越えており、憲法違反の疑いが濃厚である。
(問)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が「存立危機事態」として認定するのは、危険の発生源はともかく、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」であるのでつまるところ「自衛」の場合である。だから新法は問題ないのではないか。
(答)1954年以来、日本が認めてきた「自衛」の事態と「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」とは明らかに異なっている。もし、まったく同じならば、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は必要でない。「自衛」の場合には武力行使もやむをえないと国家的に、つまり、政府も司法も、また国民も受け入れてきたのであるが、禁止の例外を拡大するのは憲法違反となるおそれが濃厚である。
(注)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」は、他国が攻撃された場合といういわゆる集団的自衛権の行使が問題となる事態と日本の「自衛」が必要となる事態のハイブリットである。政府はこのような性格の要件を3要件(の一部)として盛り込んだのであるが、それは従来の憲法解釈との一貫性を損なわない形で集団的自衛権の行使を認めるための文言にはなりえても、自衛隊が行動できる事態を拡張していることは否めない。もし、まったく拡張していないならば、従来から認めてきた「自衛」だけで十分である。
(問)重要影響事態法があれば平和協力支援法は要らないのではないか。
(答)両方の法律に共通の面があるのは確かである。
しかし、重要影響事態法では「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件の有無が問題となり、国連決議の有無は問われない。他方、平和協力支援法では国連決議の有無が問われ、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件は問われない。つまり、一方の要件だけを満たす事態はありうるので、そのような現実に応じて法律を整備しておく必要がある。
ただし、改正案のように2本の法律にするか1本にまとめるかは立法技術に属することである。
(注)平和協力支援法がいらないということを主張するには、国連決議の在り方自体を問題にする必要があるのは(問)「安保法制改正案は憲法違反でないか」に対する答えで述べたとおりである。
(問)機雷除去はどの法律により対処するか。
(答)改正法案に即して言えば、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」と認定されれば「重要影響事態法」によることとなる。国連決議があり、その下で各国が軍事行動を行なう場合は「国際平和支援法」による。政府が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と認定すれば「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」によることとなる。国連決議があり、しかも政府が「重要影響事態」あるいは「存立危機事態」として認定する結果、複数の法律が適用されることもありうる。そのような場合、矛盾が生じないかも問題となる。
(問)政府は、自衛隊は「他国の領土、領海、領空」「ISIL(イスラム国)」「イラク戦争のような場合」などへ派遣しないと、全面否定、あるいは原則的否定、あるいは一般的否定として答弁しているが、法律の根拠はあるか。
(答)ない。改正法案からそのような結論を導き出せるか疑問である。政府がそのように答弁していることは、自制を示す意味では評価できるが、安倍内閣としての方針以上の意味は、当然のことながらもちえない。
(問)「存立危機事態」の認定は非常に厳格な要件を満たさなければ行なわれない。したがって、自衛隊が派遣される場合の歯止めはしっかりと作られており、一内閣の恣意で左右されないのではないか。
(答)3要件が熟慮の末決められたことは承知している。しかし、いったん政府が認定した後、自衛隊がどこで、どの国の軍隊と協力し、どのような業務を行なうかは、3要件では判断できず、改正法案の「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」という同法3条4の解釈に委ねられている。
つまり、3要件自体は厳格であっても、法律の内容はしり抜けになっているので改正法は憲法違反である疑いが濃厚である。
政府が、厳格に運用すると言っても法律以上の効力は持ちえない。
(問)国連憲章でも認められている集団的自衛権について、日本はこれを保有しているが行使できないと解するのは不当でないか。
(答)今回の改正案は集団的自衛権の行使を認めるものであると認識されていることは承知している。集団的自衛権については国連憲章制定の経緯、相互防衛同盟条約の有無などを含め学問的に議論されていることなども承知しているが、本国会で審議されているのは提出されている法案であり、法案の内容に即して審議すべきである。
(再掲)安保法制改正案が憲法違反の理由
安保法制改正案が憲法違反か否かについては、日本国憲法の法理、過去の憲法解釈との整合性、最高裁の砂川判決が集団的自衛権を認めたか否か、などの重要論点が議論されている。しかし、この議論はアカデミックな面が強く、また、複雑な経緯が前提になっているので一般には必ずしも分かりやすいことでない。さまざまな意見をフォローするだけでも困難であろう。
しかるに、国会に提出されている法案のどの部分に問題があるのか。これが憲法違反か否かを判断する場合に出発点となるのは法案に何と記載されているかであるが、実は、この改正案自体がきわめて複雑なため、一般には、どのような文言になっているのかさえ分かりにくいのが現状である。
さらに、国会では多くの質問が、すべてというわけではないが、改正案の文言に即しては行なわれず、具体的な問題、たとえば、機雷の除去をできるかとか、他国の領土にまで自衛隊は派遣されるかというような問題に対する政府の考えを質すという形で行なわれている。つまり、質疑は法案の記載に即して行われないことが多いのである。このような質疑からは政府の考えや方針が適切か否かは明確になっても、法案の内容が適切か否かは明確にならないのではないか。
このような考えから、当HPでは過去2回にわたって、「問」と「答」という形で、法案の内容を見、その上でどの点が憲法に違反しているかを検討した。便宜のために以下に再掲しておく。
(問)安保法制改正案は憲法違反でないか。
(答)憲法9条は、国際紛争を解決する手段として武力を行使することを禁止している。この規定によって、日本が国際紛争に巻き込まれること、他国と武力紛争に陥ることはかたく禁止されている。この禁止は日本国憲法の基本精神である。
憲法制定の数年後、「自衛」の場合には例外的に武力行使が認められると解釈されるようになった。これは国民的に受け入れられている。
今回の安保法制改正案が憲法に違反しているか否かを見るには、改正案を提出した政府の方針や考えを質すこともさることながら、改正案の規定が適切か否かを吟味する必要がある。具体的には、「重要影響事態法」、「国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)」および「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」の規定が問題となる。
「重要影響事態法」においては、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件が満たされていると政府が判断すれば、後方支援などのため自衛隊を派遣できることになっている。この要件は改正前の周辺事態法で認められていたことであり、自衛隊の行動範囲は必ずしも我が国の領域に限られず、その外であるが朝鮮半島や我が国周辺の公海なども「自衛」のために必要であれば含まれた。しかし、そのような範囲を超える地域においては「自衛」でなくなり、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件を満たすとしても国際紛争に巻き込まれてはならないという憲法の禁止に触れる恐れがある。
「国際平和支援法」は、国連決議にしたがって各国が軍事行動を行なう場合、日本としては後方支援(国際平和支援法の用語では「協力支援活動」)などを行なうことができることとした。同法の定める国連決議要件が満たされれば、自衛隊が参加しても国際紛争に巻き込まれる恐れはないように見えるかもしれないが、国連決議は平和維持活動のように紛争が終わったことを確認して採択される場合と、紛争が残存あるいは継続しているが採択される場合がある。イラクやアフガニスタンでの紛争や、いわゆる多国籍軍が派遣されるのは後者の例であり、しかも厄介なことに、イラクの場合は国連決議があるか否か不明確であり、そのこと自体が紛争の原因になった。
今次改正法案では、紛争が終了した後の問題は「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(つまりPKO法)」で扱われる。一方、「国際平和支援法」が定める国連決議の場合はそのような限定はなく、紛争が継続していることがありうる。したがって、同法によって自衛隊を派遣すると国際紛争に巻き込まれる恐れがあり、この新法は憲法違反になる危険がある行為を認めているので問題である。
同法は、自衛隊は後方支援などはできるが、武力の行使はできないとし(2条2)、自衛隊が活動できる場所は、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としている(同条3)が、それは日本国が自衛隊に課している規範であっても、国際的に承認される保証はない。
また、「武力の行使」でなければよいということではない。紛争の中で一方に加担することは、その時点では必ずしも武力の行使でなくても、紛争がある限り武力の行使は不可避となるのでやはり禁止していると見るべきである。紛争の一方に加担しておいて自衛隊に武器を行使させないということは日本の法律で担保できることでなく、国際社会の現実に即して見れば、それは困難である。
自衛隊の行動する場所についても、紛争の一方に加担しておきながら、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としてもそれは日本の法律の規定に過ぎず、戦闘で必要な物資などを供給することは、加担した一方の敵方から見れば、敵対行為の一環として見られることは不可避である。つまり、このような場所による限定は国内法として憲法に違反していないことを示す論理に過ぎず、各国が認めることにはならない。日本国憲法は国際社会での日本の在り方を論じて紛争の一方に加担することを禁止しているのであり、憲法違反となるか否かは国内法の憲法との論理的整合性のみならず、国際社会によりそのように受け入れられるかも問題となる。
「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」においては、「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない(同法3条4)」とされた。つまり、必要と判断すれば、自衛隊は「武力行使」でき、米軍のみならず「外国軍隊」とも協力でき(同法2条7など)、また、自衛隊が行動できる場所の限定はなくなり、どこでも可能となった。
この法律の運用方針について政府がどのような説明しようと、それは政府の方針説明に過ぎず、法律の定めを超えるものではない。
このように見ていくと、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は、「自衛」のためであり、日米安保条約の下での「米軍」との協力、日本と周辺が活動場所であるという、憲法の許容範囲すれすれの現「武力攻撃事態」の枠組みを明らかに越えており、憲法違反の疑いが濃厚である。
(問)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が「存立危機事態」として認定するのは、危険の発生源はともかく、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」であるのでつまるところ「自衛」の場合である。だから新法は問題ないのではないか。
(答)1954年以来、日本が認めてきた「自衛」の事態と「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」とは明らかに異なっている。もし、まったく同じならば、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は必要でない。「自衛」の場合には武力行使もやむをえないと国家的に、つまり、政府も司法も、また国民も受け入れてきたのであるが、禁止の例外を拡大するのは憲法違反となるおそれが濃厚である。
(注)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」は、他国が攻撃された場合といういわゆる集団的自衛権の行使が問題となる事態と日本の「自衛」が必要となる事態のハイブリットである。政府はこのような性格の要件を3要件(の一部)として盛り込んだのであるが、それは従来の憲法解釈との一貫性を損なわない形で集団的自衛権の行使を認めるための文言にはなりえても、自衛隊が行動できる事態を拡張していることは否めない。もし、まったく拡張していないならば、従来から認めてきた「自衛」だけで十分である。
(問)重要影響事態法があれば平和協力支援法は要らないのではないか。
(答)両方の法律に共通の面があるのは確かである。
しかし、重要影響事態法では「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件の有無が問題となり、国連決議の有無は問われない。他方、平和協力支援法では国連決議の有無が問われ、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件は問われない。つまり、一方の要件だけを満たす事態はありうるので、そのような現実に応じて法律を整備しておく必要がある。
ただし、改正案のように2本の法律にするか1本にまとめるかは立法技術に属することである。
(注)平和協力支援法がいらないということを主張するには、国連決議の在り方自体を問題にする必要があるのは(問)「安保法制改正案は憲法違反でないか」に対する答えで述べたとおりである。
(問)機雷除去はどの法律により対処するか。
(答)改正法案に即して言えば、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」と認定されれば「重要影響事態法」によることとなる。国連決議があり、その下で各国が軍事行動を行なう場合は「国際平和支援法」による。政府が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と認定すれば「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」によることとなる。国連決議があり、しかも政府が「重要影響事態」あるいは「存立危機事態」として認定する結果、複数の法律が適用されることもありうる。そのような場合、矛盾が生じないかも問題となる。
(問)政府は、自衛隊は「他国の領土、領海、領空」「ISIL(イスラム国)」「イラク戦争のような場合」などへ派遣しないと、全面否定、あるいは原則的否定、あるいは一般的否定として答弁しているが、法律の根拠はあるか。
(答)ない。改正法案からそのような結論を導き出せるか疑問である。政府がそのように答弁していることは、自制を示す意味では評価できるが、安倍内閣としての方針以上の意味は、当然のことながらもちえない。
(問)「存立危機事態」の認定は非常に厳格な要件を満たさなければ行なわれない。したがって、自衛隊が派遣される場合の歯止めはしっかりと作られており、一内閣の恣意で左右されないのではないか。
(答)3要件が熟慮の末決められたことは承知している。しかし、いったん政府が認定した後、自衛隊がどこで、どの国の軍隊と協力し、どのような業務を行なうかは、3要件では判断できず、改正法案の「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」という同法3条4の解釈に委ねられている。
つまり、3要件自体は厳格であっても、法律の内容はしり抜けになっているので改正法は憲法違反である疑いが濃厚である。
政府が、厳格に運用すると言っても法律以上の効力は持ちえない。
(問)国連憲章でも認められている集団的自衛権について、日本はこれを保有しているが行使できないと解するのは不当でないか。
(答)今回の改正案は集団的自衛権の行使を認めるものであると認識されていることは承知している。集団的自衛権については国連憲章制定の経緯、相互防衛同盟条約の有無などを含め学問的に議論されていることなども承知しているが、本国会で審議されているのは提出されている法案であり、法案の内容に即して審議すべきである。
2015.06.11
これに対し日本側は、登録の対象となっている一部施設が徴用工を雇ったのは後の時代のことであり、明治時代の産業革命とは時期がずれていると反論していると報道されている。
日韓間で協議が行われているが、日本側の反論がこれだけであれば心配である。世界遺産への登録は世界のために行なわれることであり、各国から祝福されてしかるべきことである。そういう世界遺産の性格にかんがみると、異議を唱える韓国が問題視する「徴用工」が問題になった時期は、遺産が評価された時期とずれているというだけではあまりに技術的であり、国際的には説得力を持ちえないのではないか。メディアなどには7月8日に開催される世界遺産委員会で日韓双方が獲得するであろう票数の予測も出ているが、多くの国は日韓両国が話し合いで解決してほしい、投票などを強いられたくないという思いだとも伝えられている。これが正しい見方であろう。
両国は今後どのように解決するのがよいか選択肢を考えてみたいが、大前提として、双方とも偏狭なナショナリズムをあおらないよう十分注意すべきである。
第1に、世界遺産委員会は協議がまとまるまで延期するか、委員会の開催時期は決められているのであれば、議題とするのを延期できないか。
第2に、来る委員会では、日韓間で合意のある遺産のみを登録の議題とし、残りについては合意が成立した時に追加登録するのも一案である。
第3に、韓国側からは、徴用工の問題があったことを何らかの形で表示するという案が出されているそうだが、これは一つの妥協案となりうる。地元の人々にとっては、何かケチがついたような感じが残るかもしれないが、徴用工の問題があったことは隠匿すべきことでなく、当該施設は明治時代の産業革命で立派な役割を果たしたこととともに、後に「徴用工」として知られる歴史を経たことは客観的な事実として公に表示してよいではないかと思う。
他にも選択肢があるかもしれない。両国間協議の中で日本側は時期がずれていること以外に種々主張し、その中に有力な選択肢が含まれているかもしれない。公表されていないので分からないが、ともかく技術的な理由だけで来る委員会を突破するようなことはしないでもらいたい。そうすることは、日韓関係を損なう恐れがあるのみならず、世界の良識に訴えることにならないと思うからである。
明治時代の産業革命遺産が世界遺産として登録されることへの韓国の異議
明治時代の産業革命遺産がユネスコの世界遺産(文化遺産)として登録されることについて、技術的・専門的な立場から審査するイコモスはすでに登録を勧告したので実現する可能性が大きくなったが、韓国から異議が出た。いわゆる「徴用工」を雇ったことがある施設は世界遺産として登録されるのは適切でないというのが主たる理由である。これに対し日本側は、登録の対象となっている一部施設が徴用工を雇ったのは後の時代のことであり、明治時代の産業革命とは時期がずれていると反論していると報道されている。
日韓間で協議が行われているが、日本側の反論がこれだけであれば心配である。世界遺産への登録は世界のために行なわれることであり、各国から祝福されてしかるべきことである。そういう世界遺産の性格にかんがみると、異議を唱える韓国が問題視する「徴用工」が問題になった時期は、遺産が評価された時期とずれているというだけではあまりに技術的であり、国際的には説得力を持ちえないのではないか。メディアなどには7月8日に開催される世界遺産委員会で日韓双方が獲得するであろう票数の予測も出ているが、多くの国は日韓両国が話し合いで解決してほしい、投票などを強いられたくないという思いだとも伝えられている。これが正しい見方であろう。
両国は今後どのように解決するのがよいか選択肢を考えてみたいが、大前提として、双方とも偏狭なナショナリズムをあおらないよう十分注意すべきである。
第1に、世界遺産委員会は協議がまとまるまで延期するか、委員会の開催時期は決められているのであれば、議題とするのを延期できないか。
第2に、来る委員会では、日韓間で合意のある遺産のみを登録の議題とし、残りについては合意が成立した時に追加登録するのも一案である。
第3に、韓国側からは、徴用工の問題があったことを何らかの形で表示するという案が出されているそうだが、これは一つの妥協案となりうる。地元の人々にとっては、何かケチがついたような感じが残るかもしれないが、徴用工の問題があったことは隠匿すべきことでなく、当該施設は明治時代の産業革命で立派な役割を果たしたこととともに、後に「徴用工」として知られる歴史を経たことは客観的な事実として公に表示してよいではないかと思う。
他にも選択肢があるかもしれない。両国間協議の中で日本側は時期がずれていること以外に種々主張し、その中に有力な選択肢が含まれているかもしれない。公表されていないので分からないが、ともかく技術的な理由だけで来る委員会を突破するようなことはしないでもらいたい。そうすることは、日韓関係を損なう恐れがあるのみならず、世界の良識に訴えることにならないと思うからである。
2015.06.10
日本が重視していた南シナ海での中国の行動への関心は比較的低かったという見方もあるようだが、ロシアと中国に対する扱いをバランスよく比較するのは困難である。また、サミットに先立ち、4月にリューベックで開催されたG7外相会議では「海上の安全保障に関する宣言」が採択されており、G7として南シナ海問題にどのように対応したかについては、その宣言もあわせて考慮する必要がある。
それはともかく、今年のサミットでは、ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点であり、議論の結果は、ロシアがミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守し、ウクライナ領内の親ロシア派に対するロシアからの越境支援を中止することを求め、さもなければロシアに対する制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となった。
ロシアとの関係では、米国、欧州諸国、それに日本の立場が違っているのは事実であり、そのため、ロシアに対しもっとも強硬な米国に欧州と日本がどこまで同調するかが注目された。しかし、この違いは誇張されるきらいがあり、とくに、オバマ大統領の任期が終わりに近づいているためにその政治的立場が弱くなっていることと関連付けて見られることがあるが、今回の首脳宣言は米国の主導かつ主張する強い姿勢が他のG7諸国にとっても必要であることを再確認する結果となった。
しかしロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨むことに不満であり、日ロ関係にも悪影響が及ぶとなかば脅しのようなことも口にする。
一方、米国は、日本がロシアとの関係を進めると西側としての連帯を弱めると警戒し、牽制とも受け取れる発言を行なう。
日本は、このように微妙な状況の中でロシアとの関係をいかに進めていくべきか。安倍首相にとっては、今次G7サミットは日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする一つの機会であっただろう。安倍首相はフランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのレンツィ首相と相次いで会談し、ロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解が得られたと言われている。
サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。
具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っている。
しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らない保証はない。この度のG7エルマウ・サミットにおいて、安倍首相は日ロ関係を進める見通しがついたという判断があるかもしれないが、事態はまだかなり流動的であると思われる。
エルマウ・サミットと日ロ関係
2015年のG7サミットは、6月7~8日、ドイツ南部のエルマウで開催された。サミットの有用性、必要性についてはかねてからさまざまな議論があり、今年も会議場の周辺でサミット反対の示威行動があったが、自由、領土保全、国際法、人権尊重などの価値を共有するG7諸国が、ロシアと中国に対し注文を付ける形になった今年のG7サミットは、その有用性をあらためて強調する機会になったと思われる。日本が重視していた南シナ海での中国の行動への関心は比較的低かったという見方もあるようだが、ロシアと中国に対する扱いをバランスよく比較するのは困難である。また、サミットに先立ち、4月にリューベックで開催されたG7外相会議では「海上の安全保障に関する宣言」が採択されており、G7として南シナ海問題にどのように対応したかについては、その宣言もあわせて考慮する必要がある。
それはともかく、今年のサミットでは、ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点であり、議論の結果は、ロシアがミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守し、ウクライナ領内の親ロシア派に対するロシアからの越境支援を中止することを求め、さもなければロシアに対する制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となった。
ロシアとの関係では、米国、欧州諸国、それに日本の立場が違っているのは事実であり、そのため、ロシアに対しもっとも強硬な米国に欧州と日本がどこまで同調するかが注目された。しかし、この違いは誇張されるきらいがあり、とくに、オバマ大統領の任期が終わりに近づいているためにその政治的立場が弱くなっていることと関連付けて見られることがあるが、今回の首脳宣言は米国の主導かつ主張する強い姿勢が他のG7諸国にとっても必要であることを再確認する結果となった。
しかしロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨むことに不満であり、日ロ関係にも悪影響が及ぶとなかば脅しのようなことも口にする。
一方、米国は、日本がロシアとの関係を進めると西側としての連帯を弱めると警戒し、牽制とも受け取れる発言を行なう。
日本は、このように微妙な状況の中でロシアとの関係をいかに進めていくべきか。安倍首相にとっては、今次G7サミットは日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする一つの機会であっただろう。安倍首相はフランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのレンツィ首相と相次いで会談し、ロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解が得られたと言われている。
サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。
具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っている。
しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らない保証はない。この度のG7エルマウ・サミットにおいて、安倍首相は日ロ関係を進める見通しがついたという判断があるかもしれないが、事態はまだかなり流動的であると思われる。
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