平和外交研究所

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2014.08.07

ロシアの対抗措置

ウクライナ情勢との関係で米欧が7月、対ロシア追加制裁措置を取り、日本も8月5日、追加措置を閣議で決定した(閣議了解)。内容は7月28日に菅官房長官が発表していた通りである(当ブログ8月4日「日本の対ロシア追加制裁措置」)。クリミアとの貿易制限は双方にとってほとんど影響はないだろう。資産凍結は、日本はプーチンの側近等は外した。かりに米欧のように含めていても、日本には彼らの資産はあまりないだろうから実質的意味は小さい。ただ、資本取引の制限は、欧州と共同歩調を取るなかで、一定の影響はあるかもしれない。
予想されていたことであるが、ロシアは米欧諸国および日本に対して一連の対抗措置を実施している。日本との関係では、官房長官の発表の翌日、日本が発表した追加制裁を「非友好的で近視眼的な措置」と批判する声明を発表した。
また、ロシアは8月末に予定されていた日ロ次官級協議を日本の対ロ制裁を理由に一方的に延期した。官房長官が6日の記者会見で説明している。この協議はプーチン大統領の訪日問題などについて準備を行なう重要な機会になるはずであった。しかし、日本としては過度に反応することなく、情勢の推移を見守りつつ、日ロ関係の進展を図っていくのであろう。

一方、ロシアは欧米からの食料品輸入について検査を強化しており、禁止される食品も出てきている。ロシア国内で営業しているファストフード店なども影響を受けているらしい。これもおそらく対抗措置の一環であろうが、マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、コーラ、果物、野菜、豚肉などロシア人の生活に関わることはどこまで締めあげられるか。衛生状態を保つことなど当然であるが、下手をすれば自分たちにその影響が及んでくる。また、ロシア自身がクリーンでおいしい食料を十分供給できるかという問題もあろう。
ロシアの対抗措置は1987年に米国と合意した中距離核戦力廃棄条約(INF)を無視するのではないが、一定程度サボることにも及んでいる可能性がある。この条約によって米ロは射程310マイル(500キロ)~3400マイル(5500キロ)の地上発射核戦力の保持・実験・開発を禁止されている(船舶・航空機から発射されるものは除かれる)がこれに違反してミサイルの発射実験をしたことである。米国務省が議会に提出した各国の軍備管理条約の遵守状況に関する報告書に記載されている。
しかし、実験の事実を米欧の制裁と短絡的に結びつけることは危険である。米国もかつて違反したことがあったらしい。ロシアの違反は今回始まったことでなく、2008年以来続いており、米側からこの問題をロシア側に何回も提起したとホワイトハウスの報道官が述べている(Josh Earnest報道官 7月29日)。
米国では、ロシアの条約違反を問題視するあまり、条約を廃棄してしまえと主張する者もいるが、研究者のなかには、大事なことはロシアを条約順守に戻すことであり、以前にもそういうことはあったと指摘する意見がある。いずれにしてもINFは冷戦の末期に結ばれた画期的な意義のある条約であり、締結以来の歴史を踏まえて見ていく必要がある。

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2014.08.06

「中東、ウクライナ……激動の国際情勢で日本外交の独自性とは?」

THEPAGEに8月4日掲載された一文

「安倍首相は、7月25日から8月2日まで中南米の5か国(メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリおよびブラジル)を歴訪しました。9月にはさらに南西アジアのバングラデシュとスリランカへの訪問が予定されています。これを含めると安倍首相は政権発足以来49か国を訪問したことになり、小泉首相が記録した48か国を抜いて歴代トップになります。外国訪問の頻度は1か月あたり2、3か国で、これは小泉首相をはるかに上回っています。
「地球儀を俯瞰する」外交
 首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、安倍首相は矢継ぎ早に各国を訪問し、友好親善関係の増進に努めています。
 首脳間ではどのような話し合いが行なわれているのでしょうか。たとえば、メキシコでは、安倍首相はペニャ・ニエト大統領と金融危機の克服、企業の進出・投資、エネルギー面での協力拡大など経済関係の諸問題から地震対策、学術交流、スポーツ交流、さらには400年前に欧州へ向かう途次メキシコに立ち寄った支倉常長のことなど実に幅広く話し合いを行なっています。世界がグローバル化した今日、日本が各国と協力して、解決、あるいは推進していく事柄は非常に多くなっているのです。
 安倍首相の積極外交は、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」と呼ばれています。「俯瞰」とは高いところから広い範囲を見渡すことです。政府は、「単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚した外交」と説明しています。第1次安倍内閣の時には「自由と繁栄の弧」が外交の基本方針を象徴的に示すものとして掲げられましたが、「地球儀俯瞰外交」と基本的には同じ内容でした。
各地の紛争で存在感薄い日本
 一方、世界各地で起こっている紛争の関連では、日本外交は存在感が薄いという印象を持たれていると思います。ウクライナでは、クリミアの独立とロシアの承認から発生した混乱が東ウクライナにも飛び火し、その上悲惨な事故が起こったのにその処理は遅々として進んでいません。イラクではイスラムのスンニ派武装勢力が反政府攻勢を強めイラク第2の都市モスルを制圧し、首都バグダッドに迫ろうとしていますが、マリキ首相が率いる政府はこれに対処するのに難渋しています。パレスチナでは、イスラム原理主義のハマスとイスラエルがガザ地区で戦闘を再開しており、民間人の犠牲が急速に増えていますが、事態が鎮静化する見通しはまったく立っておらず、米国の仲介も効果をあげるに至っていません。
 日本は、中東ではとくに石油輸入の面で関係が深いですが、紛争となると、日本として独自に政治的・軍事的な役割を果たす状況にはありません。国連やG8の一員として紛争当事者に自制を求め、和平の達成を促し、また、復興援助など平和構築の支援をしています。このような地道な外交努力は派手さはありませんが、国連を中心とする国際社会の仕組みや日本国憲法の下で平和主義に徹する国是にかんがみますと、それも日本外交の特色と考えられます。
 国際的紛争において目立った役割を果たすのはやはり米国です。米国に匹敵する外交力を持つ国は他にありませんが、ロシア、中国などは国連安全保障理事会の常任理事国、いわゆるP5としての役割があります。とくに中国の台頭はめざましいものがあります。
このような一般的な状況に加えて、個別の地域に特有の事情もあり、ウクライナでは米国とロシアの他、欧州連合(EU)も大きな役割があります。パレスチナ問題ではヨーロッパ諸国が関与することも時折ありますが、圧倒的に影響力が強いのはやはり米国です。
日本の外交にとって最重要な国は米国であり、また、中国と韓国です。日本と米国の関係が変化する、しかも日本の主導でそのようなことが起これば、これは世界の耳目を驚かすことになるでしょうが、そういうことは考えられません。一方、日本は中国および韓国と、他の国とは比較にならないくらい長い期間にわたって交流の歴史があり、また、グローバル化にともない経済的な関係は飛躍的に発展していますが、政治的な関係は安定していると言えない面があります。
 一つの原因はいわゆる歴史問題です。これは日本においてはすでに過去のことという目で見られがちですが、中韓両国においては決してそうではありません。戦後日本は戦争の処理のために努力を積み重ねてきました。その結果、諸国との関係は改善し、ともに発展してきました。しかし、歴史問題は決着ずみであり、過去のこととして今後は未来志向で行こうと言うだけではすみません。日本の若者の中にはこれら両国から繰り返し批判されてきたのでうんざりしている人が少なくありませんが、この歴史問題はこちらの判断を押し付けるわけにはいきません。相手国の国民感情に十分配慮しながら慎重に対処する必要があります。
 また、中韓両国とも著しい経済発展を遂げ、世界における地位は格段に向上しています。とくに中国は、経済面のみならず、政治面でも独自のカラーを打ち出そうとしており、「中国の特色」を強調し、そのための政策を大々的に実施しています。今後の世界情勢においては中国がますます大きな役割を演じることになるでしょう。
 日本としてはこれら両国との関係を改善し、発展させていかなければなりません。政府が言うように、「単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して」というのはどういう意味でしょうか。世界の諸国との友好関係増進も必要ですが、中韓両国との関係改善なくしては「画竜点睛を欠く」のではないでしょうか。これらの国との関係を今後どのように増進していくか、日本外交の真価が問われます。

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2014.08.05

中国の中東和平5項目提案

王毅外交部長は8月3日、シュクリ・エジプト外相と会談した後の記者会見で、中東和平に関する5項目の和平提案を説明したと同日の新華社電が伝えている。提案の内容は次の通りである。
① イスラエルとパレスチナは即時に停戦し、空襲、地上の軍事行動、ミサイルの発射等すべてを停止すべきである。武力を乱用し、市民を殺傷する行為は認められない。力を持って力を抑える(以暴制暴)ことを止めるべきである。
② 中国はエジプトなど諸国が提出した停戦案を支持する。イスラエルもパレスチナも武力で一方の要求を実現しようとすることを放棄し、責任を持って交渉し、双方の安全を実現し、またそのために必要な保障体制を設立するべきである。その過程において、イスラエルはガザ地区の封鎖を解除し、拘留しているパレスチナ人を解放すべきである。同時に、イスラエルの合理的な安全への懸念を重視すべきである。
③ イスラエルとパレスチナの衝突の起源はパレスチナ問題が長期にわたって解決できないところにある。中国は一貫してパレスチナ人の独立と建国への正当な要求と合法的権利を支持している。イスラエルとパレスチナの双方は和平交渉を揺るぎのない戦略的選択とし、おたがいに善意を示し、和平交渉をできるだけ早期に再開すべきである。和平交渉においては面と向き合って行なわなければならず、反対方向に走ってはならない。
④ イスラエルとパレスチナの衝突は国際の平和と安全に関わる。安保理は衝突を回避するのに責任を負い、コンセンサス作りに努め、その機能を発揮しなければならない。国際社会はおたがいに協力し、和平を推進する力を形成しなければならない。
⑤ パレスチナ、とくにガザ地区の人道問題に関わる状況を重視し、その有効な解決を図らなければならない。国際社会は適時に必要な援助と支持を与えるべきである。中国は、ガザの人々に150万ドルの緊急人道援助をキャッシュで行なう。中国紅十字回も人道援助を行なう。

7月21日に「平和外交研究」で紹介したが、中国はイスラエルおよびパレスチとの関係を積極的に進めており、2014年に入って3回特使を派遣した。王毅外交部長のエジプト訪問はそれに続く外交攻勢である。
米国がこの中国の姿勢をどのように見ているか、興味をそそられる。イスラエル・パレスチナ問題が困難であるのは言うまでもなく、米国でさえ難渋しているのに中国として何ができるか、中国自身楽観的になれないはずであるが、中国としては新疆ウイグルの問題などに関連してイスラム原理主義者の動向に神経をとがらせている現在、中東外交の幅を広げる必要性を感じているものと思わる。また、中東問題で圧倒的な影響力を持つ米国の動向を横目で見ながらの外交攻勢であろう。
おりしも、『大公報』紙は4日、ケリー米国務長官がイスラエル側と交渉する一方で中東の他の諸国の指導者と電話で協議するのをイスラエルと「さらに1カ国」の情報機関に盗聴されていたことを報道し、米・イスラエル関係が緊張する可能性があるとコメントしたドイツの週刊誌スピーゲルの記事を紹介している。ケリー長官は協議を行なうためこれまで10回以上イスラエルを訪問しているが、うまく行っていないというのはほぼ常識になっており、大公報に限らず中国系の新聞はかなり綿密に米国の動向を報道している。
大公報の報道の直後(おなじ4日)に、ハマスとイスラエルはともに3日間の停戦を受け入れると発表した。今後本格的な停戦交渉に入るそうだ。

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