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2018.04.10

バチカン・中国関係

 さる2月末、バチカンと中国が司教の任命に関して原則合意に達し、細部の詰めに入っている、最終合意が成立すると中国とバチカンが国交を結ぶのは時間の問題になる、と西側のメディアで報道された。
 しかし、この合意は短時日のうちに成立しそうにないようだ。交渉事だから、双方が、あるいは一方が妥協して合意に至る可能性が完全になくなったわけではないだろうが、一時の楽観的な雰囲気はなくなっている。

 あらためて振り返ってみると、バチカンと中国との間の最大問題は司教の任命権である。バチカンは司教の任命はあくまで教皇が行い、外国政府が介入することを認めないという立場である一方、中国は政府のコントロール下にない宗教活動は認められない、司教の任命は中国政府が行うという立場であり、両者の主張は長らく並行状態にあった。
 教皇フランシスコは2013年に就任して以来中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。その背景には、中国内に約1000万人のカトリック信者いる(推定)という事実があった。教皇の積極姿勢を支持する人たちは、これだけの数のカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりは一定の関係を作ったほうが彼らを保護することになるという考えだったと言う。

 両者の間で成立するとうわさされた妥協はどのような内容か。バチカンは、「中国政府の同意を条件として司教を任命する」ことにする一方、「中国政府が任命した司教をバチカンは認める」ことになったとも言われていたが、推測の域を出るものではなかった。なお、後者は、中国政府寄りの「愛国教会」がバチカンの許可を得ないで任命している司教のことである。

 バチカン側では、妥協に賛成する人たちもいたが、あくまで反対の人もおり、意見統一はできていなかったらしい。反対派の主張は、中国政府に限らず、昔から各国の政府が司教の任命権を教皇から奪おうとするのにバチカンは戦い、多くの人が犠牲になってきた、そのカトリックの伝統と原則に反しているということである。

 一方、中国は最近、宗教面での統制を以前にもまして強化しており、2017年9月には、旧「宗教事務条例」を修正して新条例を制定した。これは、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、実際の監督を強化したものである。妥協が成立するとうわさが出たのは、今年の2月1日に新条例が施行されたからだとも言われていた。
 中国政府はその後態度を硬化させたらしい。4月3日に発表された「中国の宗教政策に関する白書」の中では「宗教の中国化を堅持する」と異例の、反宗教的ともとれる言及をした。
また、「外国勢力が宗教を利用して中国に浸透するのを防御する」「カトリックとプロテスタントに基づき、植民地主義、帝国主義によって中国人民が長きにわたって統制・利用されてきた」「中国の宗教に関与し、はなはだしきは中国の政権と社会主義制度の転覆をはかるのに中国政府は決然と反対し法に基づき処理する」など、かねてからの主張ではあるが、共産主義歴史観をあらためて記載した。
 
 中国がなんらかの妥協をするとすれば、台湾に対する圧力を強化するためだ。バチカンが中国との関係を樹立するには台湾との関係を切らざるを得なくなるからだ。
 しかし、過去数週間に起こったことを見ると、中国としては、台湾問題は別に処理する、宗教の扱いに関連させないという考えを固めたのではないかと思われる。

 このような習近平政権の強硬姿勢は、民主化を求める人たちに対する弾圧や、言論の自由の統制などとともに国内を引き締めるためであるとみられる。

2018.04.05

米朝首脳会談の見通し

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2018.04.04

「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か―米韓の相違

 「北朝鮮の非核化か朝鮮半島の非核化か」シリーズの第3回。北朝鮮の非核化問題について各国の立場は一致していない。

 韓国は「朝鮮半島の非核化」を主張している。「北朝鮮の非核化」に反対しているのではないが、それは一部の問題であると考えているのだろう。文在寅大統領が示した「包括的かつ段階的な方法」は「朝鮮半島の非核化」問題である。

 これまで、韓国は「北朝鮮の非核化」に関われないできた。北朝鮮が、この問題は米国だけが相手であるとして韓国の関与を拒否してきたからである。米国だけが相手だというのは、朝鮮戦争以来の経緯からして北朝鮮に脅威を与えているのは米国だけであり、米国からの脅威に対抗するため核やミサイルを開発しているという考えに基づいていた。
 実際、多国間協議の場で北朝鮮の代表と同席することになった韓国代表が話し合いを持ちかけても北朝鮮側はかたくなに拒否し続けた。
 また、韓国は米国からも冷たくあしらわれてきた。文在寅大統領になってから韓国に対する米国の信頼はいっそう低下し、韓国が南北関係を改善しようとする姿勢を見せるのに対し、非核化問題については余計なことをするなと言わんばかりのサインを送っていた。

 ところが、金正恩委員長が対外協調姿勢を取り始めてから状況が一変し、韓国は「北朝鮮の非核化」の舞台に突然躍り出ることとなった。
 北朝鮮が変化したのは、制裁がかつてないほど強化され、経済に著しい悪影響が生じる恐れが出てきたことと、核とミサイルの開発が進展し、金委員長の言葉では、ほぼ完成に近づいたことが理由であった。そして、金委員長は、それまでの韓国に対する拒否方針をかなぐり捨て、一転して韓国に抱き着き、突破口を開いたのである。平昌オリンピックはそのために格好の舞台となった。

 一方、米国が求めているのは、「北朝鮮の非核化」であり、「韓国の非核化」は問題でなくなっている。米国はかつて韓国内に核兵器を保有していたが、冷戦終結後の1991年に撤去したので、韓国内には核兵器は存在しない。その意味では、米国にとって「北朝鮮の非核化」でも「朝鮮半島の非核化」でも同じことになっているのである。
 ただし、そういうと第2回目の関連記事で述べたように、「核の傘」の問題があるから、「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」はやはり違うという指摘が出るかもしれないが、それは物事の反面しか見ない議論であることは前述した。

 しかし、米国が「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」とを明確に区別しているか、よくわからない。2005年9月の6者協議共同声明は、「6者は、6者会議の目標は、平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化であることを一致して再確認した」と謳った。6者とは、北朝鮮、韓国、日本、中国、米国およびロシアであり、米国も「朝鮮半島の非核化」として扱うことに同意したのである。

 経緯はともかく、米国の現在の立場は何か。また、来る米朝首脳会議で米国はどのような立場で臨むだろうか。
 米国にとって最重要課題の「北朝鮮の非核化」を達成できるのであれば、「朝鮮半島の非核化」として扱ってもよいと考えるかもしれない。前述の共同声明はそのことを示唆しているが、核の傘、在韓米軍の撤退、在韓米軍に対する査察などはほんとうに受け入れる姿勢があるか、疑問なしとしない。「朝鮮半島の非核化」は、米国は表立って反対していないが、本当は受け入れ難い面があるのではないか。
 さらに、米朝対話を成功させるという目的からすれば、変数の多い「朝鮮半島の非核化」より「北朝鮮の非核化」に焦点を絞り、関連する「韓国の非核化」問題、すなわち、在韓米軍に対する査察やその撤退問題はその枠内で処理するのが得策である。
 核の傘問題は、韓国のみならず、北朝鮮にもありうることとして見直すべきである。私見では、この問題を「朝鮮半島の非核化」に含めると、米朝間の対話は先へ進めなくなると思う。
 米国には、これまでの方針、すなわち、2005年の6者協議から変化していない考えも依然として有力である。そんな中にあってトランプ大統領はどのような考えで臨むのか。これが最大の不透明要因かもしれない。

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