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2014.08.04

日本の対ロシア追加制裁措置

マレーシア航空機撃墜事件などにより東部ウクライナ情勢が緊迫化するなか、菅官房長官は7月28日の記者会見で、日本はロシアに対しつぎのような制裁措置を新たに実施すると発表した。所定の手続きが完了した後、措置の対象となる個人および団体のリストが公表される。
第一に、クリミア併合またはウクライナ東部の不安定化に直接関与していると判断される個人及び団体に対して、日本国内に有する資産を凍結する。
第二に、EUが先般発表した欧州復興開発銀行(EBRD)におけるロシア向け新規案件への対応に関し、日本はEUと協調して対応する。
第三に、日本はクリミア産品の輸入を制限する措置を導入する。

今回の日本政府による追加制裁の発表は、マレーシア航空機の事故処理を含め東部ウクライナの状況が改善されること、また、ロシアがそのために強い影響力を発揮することを希望して行なったものであるが、7月末に米欧諸国が取った対ロシア追加制裁措置を日本としても支持し、またそれに協力するという側面があるのはもちろんである。
日本の国際社会における地位からして当然であるが、ロシアとすれば、日本が米欧に偏り過ぎているとみなし、反発してもなんら不思議でない。ロシアとしては、さらに、かねてから予定されていたプーチン大統領の訪日をできるだけプレーアップするためにも日本が米欧と違って抑制的に対応してほしいという気持ちがあるかもしれない。意地悪な言い方をすれば、ロシアは日本の対応を悪用して自己の立場を有利に運ぼうとするかもしれない。
ロシア外務省は29日、日本が発表した追加制裁を「非友好的で近視眼的な措置」と批判する声明を発表した。また声明は、日本政府がロシアとの関係拡大を図る姿勢を打ち出してきたのは「日本の政治家が米国への追随から脱却して、自国の根本的な利益にかなう独自の道を歩めない実態を覆い隠すためだった」と指摘した(共同電)。プーチン大統領の訪日問題は宙に浮いた状態になっている。

日本は、プーチン大統領の訪日が北方領土問題の解決につながることを期待してきた。クリミアでロシアが行なったことを是認できないのはもちろんであるが、日ロ関係には影響させないようにと願い、3月に取った最初の対ロ制裁措置も実態的には影響が及ぶのを最小限に抑えるよう工夫した。今回追加措置を取るに及んで、少なくとも局部的にはロシアとの関係が以前にも増して困難になるであろう。
しかし、ロシアに対して友好的な姿勢を示し続けなければ北方領土問題が解決しないと考えるのは危険な発想である。ロシアは、クリミア問題が発生するまでG8の一員であったが、民主主義と価値を共有できない面があるのは否定できず、ロシアの安保理での行動にはそのような性格が反映されることがある。中国と共同で行動することが多いが、保守的な対応をし、人道問題についても主権を振りかざして安保理の動きを止めることである。
北方領土問題は早く解決したい。ロシアとの友好関係は増進したいが、日本の基本的立場を犠牲にしてまでロシアを喜ばせるわけにはいかない。


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