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2014.04.28
しかし、手放しで喜べるわけではない。オバマ大統領は尖閣諸島に関しこれ以外にも発言している。一つは、「尖閣諸島の最終的な主権の帰属について米国としての見解を表明するのでないが」と付言していることであり、もう一つは、オバマ大統領が日本側に対応を促していることである。この2点とも日本では十分伝えられていない。
順序は逆になるが、第2の点を先に見ていこう。オバマ大統領は、”As I’ve said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China. ”と言っていた。これは非常に強いメッセージであるが、報道ではあまり注目されなかった。まったく報道していない新聞もあるようだ。
通訳に問題があったためかもしれない。共同記者会見の通訳はa profound mistakeを「正しくない」と訳したと言われている。4月27日付の『琉球新報』はこのことを指摘している。もっとも、通訳による実際の訳は「正しくない」ではなく、「非常に好ましくない過ち」であった可能性もある(官邸のホームページで録音が聞けるが、私にはそう聞こえる)が、いずれにしても、オバマ大統領が安倍総理に対応を強く促したことは伝わってこない。
『琉球新報』は、a profound mistakeを「重大な誤り」と正しく訳し、オバマ大統領は「同時に私(オバマ大統領)は安倍首相に直接言った。日中間で対話や信頼関係を築くような方法ではなく、事態がエスカレーションしていくのを看過し続けるのは重大な誤りだと」と述べたと報道した上、オバマ大統領は「首相に平和的解決を強く求めた」と解説している。細かい点については訳に異論があるかもしれないが、基本的にはこの説明が正しい。
オバマ大統領が安倍総理に促した対話と信頼醸成については、日本側に悩ましい事情がある。日本政府は、尖閣諸島について領土問題は存在しないという立場であり、したがって対話の必要もないという態度である。しかし、米国は、事態がエスカレートするのは何としても避けたいという気持ちであり、そのため、日本に対しても対話などの平和的方法で解決するよう求めている。日本側の、対話をする必要はない、しない、ということだけではそのような米側の期待にこたえることができない。
ではどうするかであるが、私は、日本が国際司法裁判所で解決を図る用意があることを米国はじめ関心を持つ諸国に対して説明し、中国もそうするよう説得を依頼するのがよいと考える。それも首脳レベルで直接話し合うのがよい。日本と中国の立場は違っており、国際司法裁判所には中国から提訴のための行動を起こす必要があるそうであるが、細かいこと、あまりに法技術的なことはあえて言わないこととする。日本はこれまで、中国が提訴するなら受けて立つとまでは言ってきたが、そのことは残念ながら知られていない。日本が積極的に国際司法裁判所での解決を求めていることを首脳レベルでも分かるくらい明確に態度表明したことはないのである。
オバマ大統領は日本の対応を強く促した後、We’re going to do everything we can to encourage that diplomatically、つまり、平和的解決のためには何でも協力すると言っている。米国は一般的に国際司法裁判所での解決を重視しており、あるとき中国の高官が不用意にハワイの法的地位を問題視するような発言をした際、ヒラリー・クリントン国務長官は「やれるものならやってみればよいでしょう。国際仲裁で決着をつけよう」と反撃したことがあった。国際仲裁と国際司法裁判は厳密には異なる手続きであるが、国際的に公平な解決を求めるという意味では同じことである。
日本として中国と直接対話する必要も意図もないという姿勢を貫くのは非生産的な非難合戦を避けるためにやむをえないかもしれないが、第三国が分かる形で日本として平和的方法で解決する用意があり、また、そのために積極的に行動しようとしていることを示すことが今後ますます必要とされる。
第1の点である、米国は第三国間の領土紛争に介入しないという基本方針については、米国は従来から一貫してそのことを主張しており、今回のオバマ大統領の発言も新しいものではない。
しかし、尖閣諸島に関する限り米国は特殊な立場にあり、通常の意味での第三国でない。尖閣諸島がサンフランシスコ平和条約の「琉球諸島」に含まれることを確立したのは、日本でなく米国と同条約の他の締約国であり、その際主導的役割を果たしたのは米国であった。これは1953年のことであるが、現在もその状態が継続している(キヤノングローバル戦略研究所ホームページのコラム「尖閣諸島の法的地位」参照)。このことを米国にリマインドし、米国がその立場にふさわしい行動をとるよう求めるべきである。
オバマ大統領の尖閣諸島に関する発言
オバマ大統領は訪日中(4月23日から25日まで)、尖閣諸島についてどのような態度表明を行なうか注目されていたところ、24日の安倍総理との会談後の共同記者会見で、「日米安保条約第5条は尖閣諸島を含め、日本の施政下にあるすべての領域に適用される」と明言した。これは米国の高官がこれまで何回も繰り返してきたことであったが、大統領として明言した意義は大きい。しかし、手放しで喜べるわけではない。オバマ大統領は尖閣諸島に関しこれ以外にも発言している。一つは、「尖閣諸島の最終的な主権の帰属について米国としての見解を表明するのでないが」と付言していることであり、もう一つは、オバマ大統領が日本側に対応を促していることである。この2点とも日本では十分伝えられていない。
順序は逆になるが、第2の点を先に見ていこう。オバマ大統領は、”As I’ve said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China. ”と言っていた。これは非常に強いメッセージであるが、報道ではあまり注目されなかった。まったく報道していない新聞もあるようだ。
通訳に問題があったためかもしれない。共同記者会見の通訳はa profound mistakeを「正しくない」と訳したと言われている。4月27日付の『琉球新報』はこのことを指摘している。もっとも、通訳による実際の訳は「正しくない」ではなく、「非常に好ましくない過ち」であった可能性もある(官邸のホームページで録音が聞けるが、私にはそう聞こえる)が、いずれにしても、オバマ大統領が安倍総理に対応を強く促したことは伝わってこない。
『琉球新報』は、a profound mistakeを「重大な誤り」と正しく訳し、オバマ大統領は「同時に私(オバマ大統領)は安倍首相に直接言った。日中間で対話や信頼関係を築くような方法ではなく、事態がエスカレーションしていくのを看過し続けるのは重大な誤りだと」と述べたと報道した上、オバマ大統領は「首相に平和的解決を強く求めた」と解説している。細かい点については訳に異論があるかもしれないが、基本的にはこの説明が正しい。
オバマ大統領が安倍総理に促した対話と信頼醸成については、日本側に悩ましい事情がある。日本政府は、尖閣諸島について領土問題は存在しないという立場であり、したがって対話の必要もないという態度である。しかし、米国は、事態がエスカレートするのは何としても避けたいという気持ちであり、そのため、日本に対しても対話などの平和的方法で解決するよう求めている。日本側の、対話をする必要はない、しない、ということだけではそのような米側の期待にこたえることができない。
ではどうするかであるが、私は、日本が国際司法裁判所で解決を図る用意があることを米国はじめ関心を持つ諸国に対して説明し、中国もそうするよう説得を依頼するのがよいと考える。それも首脳レベルで直接話し合うのがよい。日本と中国の立場は違っており、国際司法裁判所には中国から提訴のための行動を起こす必要があるそうであるが、細かいこと、あまりに法技術的なことはあえて言わないこととする。日本はこれまで、中国が提訴するなら受けて立つとまでは言ってきたが、そのことは残念ながら知られていない。日本が積極的に国際司法裁判所での解決を求めていることを首脳レベルでも分かるくらい明確に態度表明したことはないのである。
オバマ大統領は日本の対応を強く促した後、We’re going to do everything we can to encourage that diplomatically、つまり、平和的解決のためには何でも協力すると言っている。米国は一般的に国際司法裁判所での解決を重視しており、あるとき中国の高官が不用意にハワイの法的地位を問題視するような発言をした際、ヒラリー・クリントン国務長官は「やれるものならやってみればよいでしょう。国際仲裁で決着をつけよう」と反撃したことがあった。国際仲裁と国際司法裁判は厳密には異なる手続きであるが、国際的に公平な解決を求めるという意味では同じことである。
日本として中国と直接対話する必要も意図もないという姿勢を貫くのは非生産的な非難合戦を避けるためにやむをえないかもしれないが、第三国が分かる形で日本として平和的方法で解決する用意があり、また、そのために積極的に行動しようとしていることを示すことが今後ますます必要とされる。
第1の点である、米国は第三国間の領土紛争に介入しないという基本方針については、米国は従来から一貫してそのことを主張しており、今回のオバマ大統領の発言も新しいものではない。
しかし、尖閣諸島に関する限り米国は特殊な立場にあり、通常の意味での第三国でない。尖閣諸島がサンフランシスコ平和条約の「琉球諸島」に含まれることを確立したのは、日本でなく米国と同条約の他の締約国であり、その際主導的役割を果たしたのは米国であった。これは1953年のことであるが、現在もその状態が継続している(キヤノングローバル戦略研究所ホームページのコラム「尖閣諸島の法的地位」参照)。このことを米国にリマインドし、米国がその立場にふさわしい行動をとるよう求めるべきである。
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