朝鮮半島
2022.01.21
本件は2021年12月29日に当研究所HPですでに論じたことであるが、この際要点をあらためて確認しておきたい。特に、韓国が反対するからということが登録推薦を断念する理由であるとする報道が目に付くが、それだけでは最も大事な点が抜け落ちている。国際社会の意思を日本が無視したことになる恐れが大きいことが問題である。
韓国が反対しても、日本側に理があると確信しているのであれば、その旨を、登録を決定する世界遺産委員会において主張すればよい。しかし、日本の主張が通るかいなか明確でなければ妥協の道を探るべきである。
日本と韓国の間では類似の問題が長崎の軍艦島の登録について起こっている。詳しい経緯は下に引用する一文で述べているので繰り返さないが、要点は、2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が日本に来て関連施設を視察した結果、日本の対応は「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。日本側はこの決議を今日に至るも無視し続けているのである。
日本側がもし今後も同様の態度で臨むならば、いつまでも日本は「決議違反」あるいは「決議無視」の非難を浴びることとなり、将来類似のケース、つまり「徴用工問題」が関係するケースにおいては、世界遺産委員会、ひいてはユネスコで理解は得られない状況が続くことになる。
要は、世界遺産委員会において示された各国の意思を、日本が無視していることが問題である。このような事態は一刻も早く是正しなければならない。
2021.12.29 平和外交研究所ホームページ
佐渡金山遺跡の世界遺産登録問題
我が国の文化審議会は2021年12月28日、2023年の世界文化遺産登録の候補として佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)を選定すると答申した。ただしこの答申には、「日本政府は審議会の答申通りにユネスコ(国連教育科学文化機関)に推薦するかどうか、総合的に検討する」という趣旨の異例の注釈がつけられた。
日本の遺跡が世界文化遺産として登録されるのは喜ばしいことであるが、そのような注釈がついたのは、戦時中、佐渡の鉱山で朝鮮半島出身者が働いていたことが国際的に問題になりうるからである。世界遺産の登録を決定する「世界遺産委員会」は佐渡金山遺跡の登録申請に対して否定的な見解を示す可能性があるという。
旧朝鮮半島出身労働者に関して国際的問題が起こったのは「軍艦島」(長崎市の端島炭坑のこと)が先であった。日本政府は軍艦島を含む23の「明治日本の産業革命遺産」について、2015年に世界遺産登録を求め、これは認められた。その際世界遺産委員会は旧朝鮮半島出身労働者関連の歴史全体を理解できるような工夫を加えることを日本側に求める決議を行った。これに対し日本政府は、犠牲者を記憶にとどめるための措置をとると約束し、2020年、「産業遺産情報センター」を東京新宿区に設置した。
だが2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が同センターを視察した結果、旧朝鮮半島出身労働者らについての展示は、産業遺産の「より暗い側面」を見学者が判断できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者についての説明も「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。つまり、「明治日本の産業革命遺産」について、世界遺産委員会は全体的には日本政府が追加措置をとったことを認めたが、旧朝鮮半島出身労働者に関しては措置を取っていなと批判したのであった。
しかし世界遺産委員会の新たな決議に対し、日本政府は強気の態度を取り、約束は果たしていると突っぱねた。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「我が国はこれまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯(しんし)に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」と表明した。また、外務省幹部は「決議で日本の立場を変えることはない」と話したという。
そんな対応でよいのだろうか。国際的に問題を具体的に指摘されても、日本側に反論があれば主張すればよい。しかし専門家はセンター側の反論を聞き、実地に視察したうえで日本側の対応は不十分だと判断したのであり、また世界遺産委員会は強く遺憾に思うと全会一致で決議したのである。この状況は真剣に受け止めるべきであり、突っぱねるだけでは状況は悪化するのみである。世界の意思を無視した対応を取り続けると日本の汚点になる。
佐渡金山遺跡の世界遺産登録を試みようとすれば、軍艦島に関して生じた以上の問題はそっくり降りかかってくる。対応策は地元と日本政府が協議して決めるのだが、あえて言えば、「軍艦島の例を反面教師として、旧朝鮮半島出身労働者問題について、国際的に通用する内容の説明を加える。それができるようになるまで、佐渡金山遺跡の登録申請を延期する」のがよいのではないか。
本件のような問題については政治的なドロドロがつきものである。軍艦島問題も例に漏れないが、どんな泥泥臭いことが国内にあっても日本としての対応は世界に通用するものでなければならない。
佐渡島金山の世界遺産登録を断念すること
日本政府は、「佐渡島の金山」を世界文化遺産として2023年登録に向け推薦することを断念する方針だという。地元の人たちにとっては残念なことだろうが、政府の方針は正しい。本件は2021年12月29日に当研究所HPですでに論じたことであるが、この際要点をあらためて確認しておきたい。特に、韓国が反対するからということが登録推薦を断念する理由であるとする報道が目に付くが、それだけでは最も大事な点が抜け落ちている。国際社会の意思を日本が無視したことになる恐れが大きいことが問題である。
韓国が反対しても、日本側に理があると確信しているのであれば、その旨を、登録を決定する世界遺産委員会において主張すればよい。しかし、日本の主張が通るかいなか明確でなければ妥協の道を探るべきである。
日本と韓国の間では類似の問題が長崎の軍艦島の登録について起こっている。詳しい経緯は下に引用する一文で述べているので繰り返さないが、要点は、2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が日本に来て関連施設を視察した結果、日本の対応は「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。日本側はこの決議を今日に至るも無視し続けているのである。
日本側がもし今後も同様の態度で臨むならば、いつまでも日本は「決議違反」あるいは「決議無視」の非難を浴びることとなり、将来類似のケース、つまり「徴用工問題」が関係するケースにおいては、世界遺産委員会、ひいてはユネスコで理解は得られない状況が続くことになる。
要は、世界遺産委員会において示された各国の意思を、日本が無視していることが問題である。このような事態は一刻も早く是正しなければならない。
2021.12.29 平和外交研究所ホームページ
佐渡金山遺跡の世界遺産登録問題
我が国の文化審議会は2021年12月28日、2023年の世界文化遺産登録の候補として佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)を選定すると答申した。ただしこの答申には、「日本政府は審議会の答申通りにユネスコ(国連教育科学文化機関)に推薦するかどうか、総合的に検討する」という趣旨の異例の注釈がつけられた。
日本の遺跡が世界文化遺産として登録されるのは喜ばしいことであるが、そのような注釈がついたのは、戦時中、佐渡の鉱山で朝鮮半島出身者が働いていたことが国際的に問題になりうるからである。世界遺産の登録を決定する「世界遺産委員会」は佐渡金山遺跡の登録申請に対して否定的な見解を示す可能性があるという。
旧朝鮮半島出身労働者に関して国際的問題が起こったのは「軍艦島」(長崎市の端島炭坑のこと)が先であった。日本政府は軍艦島を含む23の「明治日本の産業革命遺産」について、2015年に世界遺産登録を求め、これは認められた。その際世界遺産委員会は旧朝鮮半島出身労働者関連の歴史全体を理解できるような工夫を加えることを日本側に求める決議を行った。これに対し日本政府は、犠牲者を記憶にとどめるための措置をとると約束し、2020年、「産業遺産情報センター」を東京新宿区に設置した。
だが2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が同センターを視察した結果、旧朝鮮半島出身労働者らについての展示は、産業遺産の「より暗い側面」を見学者が判断できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者についての説明も「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。つまり、「明治日本の産業革命遺産」について、世界遺産委員会は全体的には日本政府が追加措置をとったことを認めたが、旧朝鮮半島出身労働者に関しては措置を取っていなと批判したのであった。
しかし世界遺産委員会の新たな決議に対し、日本政府は強気の態度を取り、約束は果たしていると突っぱねた。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「我が国はこれまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯(しんし)に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」と表明した。また、外務省幹部は「決議で日本の立場を変えることはない」と話したという。
そんな対応でよいのだろうか。国際的に問題を具体的に指摘されても、日本側に反論があれば主張すればよい。しかし専門家はセンター側の反論を聞き、実地に視察したうえで日本側の対応は不十分だと判断したのであり、また世界遺産委員会は強く遺憾に思うと全会一致で決議したのである。この状況は真剣に受け止めるべきであり、突っぱねるだけでは状況は悪化するのみである。世界の意思を無視した対応を取り続けると日本の汚点になる。
佐渡金山遺跡の世界遺産登録を試みようとすれば、軍艦島に関して生じた以上の問題はそっくり降りかかってくる。対応策は地元と日本政府が協議して決めるのだが、あえて言えば、「軍艦島の例を反面教師として、旧朝鮮半島出身労働者問題について、国際的に通用する内容の説明を加える。それができるようになるまで、佐渡金山遺跡の登録申請を延期する」のがよいのではないか。
本件のような問題については政治的なドロドロがつきものである。軍艦島問題も例に漏れないが、どんな泥泥臭いことが国内にあっても日本としての対応は世界に通用するものでなければならない。
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