朝鮮半島
2017.07.24
THAADは朴槿恵政権時代の昨年7月、米韓両軍が韓国への配備を決め、2017年3月から装備の搬入が開始され、すでに2基が運用されている。発射台は全6基で運用される予定で、追加の4基の搬入が始まろうとしたときに、就任早々の文在寅大統領はそのことを事前に聞いていなかったと発言して、真相究明を指示したため配備が遅れ現在に至っている。
文在寅大統領は野党時代からTHAAD配備に反対していた。大統領に就任後はさすがにあからさまな反対は控えつつも、慎重な姿勢を示したのだが、米側としては、両国間の合意に従い配備の手続きを進めてきたのに韓国側から急に待ったがかかったので面白くなかった。
6月30日に行われた文在寅大統領とトランプ大統領の会談ではこの問題について率直な議論が行われたはずだが、会談後の共同声明では、このTHAAD問題と米韓自由貿易協定(FTA 米国は再交渉を求めていた)の2大難問は直接触れられなかった。文在寅氏はTHAAD問題に焦点を当てたくなかったのと、米側としては、この共同声明は米韓両国の軍事防衛面での協力を両首脳が再確認したことを詳しく述べており、その中でTHAADの配備についても読めるという考えだったと思われる。
THAADに対する韓国内の反対は、対米従属がさらに深まることと、中国が激しく反対しており、韓国への中国人観光客が激減していたことが原因である。文在寅大統領はトランプ大統領との会談後、CSIS(戦略国際問題研究所)での講演で、「THAAD配備は韓国の主権問題。韓国の主権的決定について、中国が不当に干渉することは正しくない」と述べ、韓国の大統領として胸を張った。
しかし、文大統領がどこまでそのような原則論を貫くことができるか。文在寅氏自身、「THAADの配備を決定する前に、中国と十分な外交的協議をしていないのは事実。韓国政府は、THAAD配備を最終決定するまでの手続き的な正当性を踏まえて進めていくことにしており、その過程で、中国とも十分に協議することができると考えている」と付け加えていた。文在寅氏には原則的立場か、中国への配慮か、どちらに重点があるか分からないところがある。
韓国内、とくにTHAADが配備されている慶尚北道星州郡ではTHAADに反対する活動家が、THAADの運用に必要な物資の搬入を阻止するため「検問所」を設けており、警察車両も検問を受けないと通れないそうである。韓国軍もやむなくヘリで物資を輸送している。強硬策によるべきだと単純に言いたくないが、それにしてもこのような状況は目に余るものである。韓国の新聞も「無法地帯」と呼んでいる。
ソウルでも反対デモが在韓米国大使館を取り囲み、これまで何回もレーザービームで「NO THAAD」と照射しているので、米大使館はウィーン条約に基づき抗議し、善処を求めているそうだ。この点でも慰安婦問題と類似の状況になっているのだが、レーザービームのことなどを聞くと、日本大使館よりひどいのかもしれない。
韓国政府は7月21日、さらに一歩後退した。国防部は突如、THAADの追加配備に関する調査の一環である、THAADからのレーダーにより発せられる電磁波の測定を取りやめたのだ。これでは、文在寅氏が米国に対して示している「米国との合意を尊重するが、追加配備の影響については調査する」という方針が貫けなくなるではないか。
当然米国は韓国が政府間の合意を守るよう求めるだろう。日本が慰安婦問題に関する日韓政府間の合意を尊重するよう求めるのと同じことだ。
文在寅大統領はこれからどうしていくのか。強い意見を持つ国民を大統領はじめ政府は正しく代表し、また指導できるか。国際社会の常識を尊重しつつ各国と付き合っていけるか。疑問はつきない。
さらに韓国政府は、朝鮮半島の平和を構築・推進するためロードマップの作成を計画しているという。その目的は立派だが、朝鮮戦争の恒久的処理のためにも、朝鮮半島の非核化のためにも米国は決定的な立場にある。韓国が朝鮮半島の統一を最大の国家目標とするのは当然だが、それについても米国との連携は欠かせない。また、東アジアの平和と繁栄に関し日本との連携は不可欠である。文在寅大統領は当面の政治課題の処理をそのようなことと矛盾なく行えるか。今見る限りは、このロードマップも浮ついたポピュリズムになってしまうのではないか。
韓国人は優秀だ。7月23日、国際数学オリンピックで韓国代表の6人の青年は全員金メダルを獲得し、国別でも1位となった。韓国民に比べ韓国政府には疑問がつくのだが、国民と政府との関係は片方だけの問題でない。双方に責任がある。両方で国際社会における韓国の在り方を考えてもらいたい。
文在寅政権の迷走の始まり?
韓米間のTHAAD問題は日韓間の慰安婦問題にますます似てきた。表面的に類似点を取り上げるのは控えなければならないが、韓国内の強い反対意見に対して文在寅政権が正しく対処できるか、日本としても注意してフォローしていく必要がある。THAADは朴槿恵政権時代の昨年7月、米韓両軍が韓国への配備を決め、2017年3月から装備の搬入が開始され、すでに2基が運用されている。発射台は全6基で運用される予定で、追加の4基の搬入が始まろうとしたときに、就任早々の文在寅大統領はそのことを事前に聞いていなかったと発言して、真相究明を指示したため配備が遅れ現在に至っている。
文在寅大統領は野党時代からTHAAD配備に反対していた。大統領に就任後はさすがにあからさまな反対は控えつつも、慎重な姿勢を示したのだが、米側としては、両国間の合意に従い配備の手続きを進めてきたのに韓国側から急に待ったがかかったので面白くなかった。
6月30日に行われた文在寅大統領とトランプ大統領の会談ではこの問題について率直な議論が行われたはずだが、会談後の共同声明では、このTHAAD問題と米韓自由貿易協定(FTA 米国は再交渉を求めていた)の2大難問は直接触れられなかった。文在寅氏はTHAAD問題に焦点を当てたくなかったのと、米側としては、この共同声明は米韓両国の軍事防衛面での協力を両首脳が再確認したことを詳しく述べており、その中でTHAADの配備についても読めるという考えだったと思われる。
THAADに対する韓国内の反対は、対米従属がさらに深まることと、中国が激しく反対しており、韓国への中国人観光客が激減していたことが原因である。文在寅大統領はトランプ大統領との会談後、CSIS(戦略国際問題研究所)での講演で、「THAAD配備は韓国の主権問題。韓国の主権的決定について、中国が不当に干渉することは正しくない」と述べ、韓国の大統領として胸を張った。
しかし、文大統領がどこまでそのような原則論を貫くことができるか。文在寅氏自身、「THAADの配備を決定する前に、中国と十分な外交的協議をしていないのは事実。韓国政府は、THAAD配備を最終決定するまでの手続き的な正当性を踏まえて進めていくことにしており、その過程で、中国とも十分に協議することができると考えている」と付け加えていた。文在寅氏には原則的立場か、中国への配慮か、どちらに重点があるか分からないところがある。
韓国内、とくにTHAADが配備されている慶尚北道星州郡ではTHAADに反対する活動家が、THAADの運用に必要な物資の搬入を阻止するため「検問所」を設けており、警察車両も検問を受けないと通れないそうである。韓国軍もやむなくヘリで物資を輸送している。強硬策によるべきだと単純に言いたくないが、それにしてもこのような状況は目に余るものである。韓国の新聞も「無法地帯」と呼んでいる。
ソウルでも反対デモが在韓米国大使館を取り囲み、これまで何回もレーザービームで「NO THAAD」と照射しているので、米大使館はウィーン条約に基づき抗議し、善処を求めているそうだ。この点でも慰安婦問題と類似の状況になっているのだが、レーザービームのことなどを聞くと、日本大使館よりひどいのかもしれない。
韓国政府は7月21日、さらに一歩後退した。国防部は突如、THAADの追加配備に関する調査の一環である、THAADからのレーダーにより発せられる電磁波の測定を取りやめたのだ。これでは、文在寅氏が米国に対して示している「米国との合意を尊重するが、追加配備の影響については調査する」という方針が貫けなくなるではないか。
当然米国は韓国が政府間の合意を守るよう求めるだろう。日本が慰安婦問題に関する日韓政府間の合意を尊重するよう求めるのと同じことだ。
文在寅大統領はこれからどうしていくのか。強い意見を持つ国民を大統領はじめ政府は正しく代表し、また指導できるか。国際社会の常識を尊重しつつ各国と付き合っていけるか。疑問はつきない。
さらに韓国政府は、朝鮮半島の平和を構築・推進するためロードマップの作成を計画しているという。その目的は立派だが、朝鮮戦争の恒久的処理のためにも、朝鮮半島の非核化のためにも米国は決定的な立場にある。韓国が朝鮮半島の統一を最大の国家目標とするのは当然だが、それについても米国との連携は欠かせない。また、東アジアの平和と繁栄に関し日本との連携は不可欠である。文在寅大統領は当面の政治課題の処理をそのようなことと矛盾なく行えるか。今見る限りは、このロードマップも浮ついたポピュリズムになってしまうのではないか。
韓国人は優秀だ。7月23日、国際数学オリンピックで韓国代表の6人の青年は全員金メダルを獲得し、国別でも1位となった。韓国民に比べ韓国政府には疑問がつくのだが、国民と政府との関係は片方だけの問題でない。双方に責任がある。両方で国際社会における韓国の在り方を考えてもらいたい。
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