オピニオン
2015.12.31
12月30日、THE PAGEに寄稿した一文で、包括的なコメントを平易な言葉で書いています。
「12月28日、岸田外相と韓国の尹外相との会談で、これまで長らく両国にとって大きな問題であった慰安婦問題について合意が達成されました。さる11月の安倍首相と朴槿恵大統領との首脳会談で交渉を加速するとの合意に基づき、双方が努力を積み重ねた結果であり、今回の合意により慰安婦問題は両政府間で最終的に解決されることになりました。画期的な成果であったと思います。
交渉における最大の難問は、日本側は、慰安婦問題を含め請求権問題は1965年の請求権・経済協力協定で解決済みであるとの立場であったのに対し、韓国側は人道問題であるので解決していない、日本は国家補償をすべきであるという立場だったことでした。
日本側は、今回の合意に基づいて日本が行う予算措置や日本政府が責任を痛感していることの表明は法的な補償ではない、請求権問題は同協定で解決済みだということに変わりはないという立場だと思います。岸田外相の発言にはそのことについて直接の説明はありませんが、「日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」という表現がそれを間接的に物語っています。「心の傷を癒す措置」というキーワードについてはさらに分かりやすい説明がほしいところですが、この解釈は日韓それぞれにゆだねられているのでこれ以上の説明はしません。
一方、韓国側は、日本政府が元慰安婦のために拠出をすることは、かつての「アジア女性基金」の際にはなかったことで、今回日本政府が決断したのだと説明することができるでしょう。「アジア女性基金」の際に日本政府が拠出したのは事務経費など「アジア女性基金」事業を支援するためでしたので、今回、日本政府は確かに一線を越え、慰安婦のために拠出することにしました。
また、日本政府は「責任を痛感している」と岸田外相が明言しました。この点も「アジア女性基金」の場合の、橋本首相の元「慰安婦」にあてた書簡の「道義的な責任を痛感」とは微妙に違った表現です。今回は、「道義的な」という言葉がありませんので、韓国側は、日本側が「元慰安婦に同情しているだけでない。自ら犯したことに責任があると言っている」と説明できるでしょう。日本政府が国家責任を認めることにこだわってきた人たちに説得力が出てきます。
さらに、「安倍首相が心からおわびと反省の気持ちを表明する」は橋本首相の書簡と、細かい表現はともかく、同じです。
つまり、日韓両政府がそれぞれの立場を損なうことなく今回の合意に達したのであり、国家補償問題について非常に賢明な解決をしたと思います。
そして、今回の合意により、日韓両政府は慰安婦問題を最終的に解決することになりました。岸田外相と尹外相はともに「最終的かつ不可逆的に解決」と寸分たがわない言葉で明言しています。これはバタ臭い表現ですが、「最終的であり、かつ、後戻りしない」という意味であり、外交の場では時折使われます。韓国政府が将来この問題を蒸し返さないことになったのは明白です。もし蒸し返すと、後戻りしたとして世界中で批判されるからです。
今回の合意を達成するのに、日本政府が大きな譲歩をしたという見方があるようですが、そうとは限りません。両政府とも大きな努力を払ったと思います。日本側がアジア女性基金の際より踏み込んだ決断したことは前述しましたが、韓国政府は、これまでのように、日本政府に善処を求めるだけ、いわば評論家的な立場であったのと違って、慰安婦問題の解決のために自らもかかわり努力するという、いわば当事者の一人となりました。
この姿勢は、韓国政府が慰安婦のために基金を新設すること(アジア女性基金は日本の基金でした)、国際的な場で日韓がお互いに非難・批判しあうことはしないことを日本政府と約束したことにも表れています。
韓国政府が慰安婦問題解決の当事者となる決断をしたことは、慰安婦問題を最終的に解決することに勝るとも劣らない重要な意義があると思います。
今回の合意を各国は歓迎していますが、単なる歓迎だけでなく、「歴史的」「画期的」などという表現を使っています。非常に高く評価しているのです。
米国政府は28日、今回の合意を歓迎し、国際社会がこの合意を支持することを求める声明を発表しました。日韓の和解をどの国よりも強く望んでいた米国政府として、力強い励ましの言葉だと思います。
今回の合意は文書に記載されませんでした。その点はやや残念ですが、かつての両政府間の非公式合意とは異なり、共同記者発表の場で公に、世界に向かって表明されたので、その内容はだれにとっても明確になり、事実上文書化に近い効力があると見てよいでしょう。両政府とも今回の合意を順守していくことに疑いはありません。
元慰安婦からは、今回の合意に対する不満の声が上がっているようですが、今後、日韓両政府は協力して合意を実施し、元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしに努め、今回の合意が元慰安婦によっても理解され、支持されるよう努力が必要です。
また、将来、韓国の裁判所で日本政府にさらなる責任追及を求める判決が出る可能性はまったくないとは言えませんが、韓国政府が毅然として日本との合意を尊重する姿勢を示すことが望まれます。」
慰安婦問題「日韓合意」は本当に歴史的合意といえるのか
慰安婦問題について、3日連続で掲載します。12月30日、THE PAGEに寄稿した一文で、包括的なコメントを平易な言葉で書いています。
「12月28日、岸田外相と韓国の尹外相との会談で、これまで長らく両国にとって大きな問題であった慰安婦問題について合意が達成されました。さる11月の安倍首相と朴槿恵大統領との首脳会談で交渉を加速するとの合意に基づき、双方が努力を積み重ねた結果であり、今回の合意により慰安婦問題は両政府間で最終的に解決されることになりました。画期的な成果であったと思います。
交渉における最大の難問は、日本側は、慰安婦問題を含め請求権問題は1965年の請求権・経済協力協定で解決済みであるとの立場であったのに対し、韓国側は人道問題であるので解決していない、日本は国家補償をすべきであるという立場だったことでした。
日本側は、今回の合意に基づいて日本が行う予算措置や日本政府が責任を痛感していることの表明は法的な補償ではない、請求権問題は同協定で解決済みだということに変わりはないという立場だと思います。岸田外相の発言にはそのことについて直接の説明はありませんが、「日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」という表現がそれを間接的に物語っています。「心の傷を癒す措置」というキーワードについてはさらに分かりやすい説明がほしいところですが、この解釈は日韓それぞれにゆだねられているのでこれ以上の説明はしません。
一方、韓国側は、日本政府が元慰安婦のために拠出をすることは、かつての「アジア女性基金」の際にはなかったことで、今回日本政府が決断したのだと説明することができるでしょう。「アジア女性基金」の際に日本政府が拠出したのは事務経費など「アジア女性基金」事業を支援するためでしたので、今回、日本政府は確かに一線を越え、慰安婦のために拠出することにしました。
また、日本政府は「責任を痛感している」と岸田外相が明言しました。この点も「アジア女性基金」の場合の、橋本首相の元「慰安婦」にあてた書簡の「道義的な責任を痛感」とは微妙に違った表現です。今回は、「道義的な」という言葉がありませんので、韓国側は、日本側が「元慰安婦に同情しているだけでない。自ら犯したことに責任があると言っている」と説明できるでしょう。日本政府が国家責任を認めることにこだわってきた人たちに説得力が出てきます。
さらに、「安倍首相が心からおわびと反省の気持ちを表明する」は橋本首相の書簡と、細かい表現はともかく、同じです。
つまり、日韓両政府がそれぞれの立場を損なうことなく今回の合意に達したのであり、国家補償問題について非常に賢明な解決をしたと思います。
そして、今回の合意により、日韓両政府は慰安婦問題を最終的に解決することになりました。岸田外相と尹外相はともに「最終的かつ不可逆的に解決」と寸分たがわない言葉で明言しています。これはバタ臭い表現ですが、「最終的であり、かつ、後戻りしない」という意味であり、外交の場では時折使われます。韓国政府が将来この問題を蒸し返さないことになったのは明白です。もし蒸し返すと、後戻りしたとして世界中で批判されるからです。
今回の合意を達成するのに、日本政府が大きな譲歩をしたという見方があるようですが、そうとは限りません。両政府とも大きな努力を払ったと思います。日本側がアジア女性基金の際より踏み込んだ決断したことは前述しましたが、韓国政府は、これまでのように、日本政府に善処を求めるだけ、いわば評論家的な立場であったのと違って、慰安婦問題の解決のために自らもかかわり努力するという、いわば当事者の一人となりました。
この姿勢は、韓国政府が慰安婦のために基金を新設すること(アジア女性基金は日本の基金でした)、国際的な場で日韓がお互いに非難・批判しあうことはしないことを日本政府と約束したことにも表れています。
韓国政府が慰安婦問題解決の当事者となる決断をしたことは、慰安婦問題を最終的に解決することに勝るとも劣らない重要な意義があると思います。
今回の合意を各国は歓迎していますが、単なる歓迎だけでなく、「歴史的」「画期的」などという表現を使っています。非常に高く評価しているのです。
米国政府は28日、今回の合意を歓迎し、国際社会がこの合意を支持することを求める声明を発表しました。日韓の和解をどの国よりも強く望んでいた米国政府として、力強い励ましの言葉だと思います。
今回の合意は文書に記載されませんでした。その点はやや残念ですが、かつての両政府間の非公式合意とは異なり、共同記者発表の場で公に、世界に向かって表明されたので、その内容はだれにとっても明確になり、事実上文書化に近い効力があると見てよいでしょう。両政府とも今回の合意を順守していくことに疑いはありません。
元慰安婦からは、今回の合意に対する不満の声が上がっているようですが、今後、日韓両政府は協力して合意を実施し、元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしに努め、今回の合意が元慰安婦によっても理解され、支持されるよう努力が必要です。
また、将来、韓国の裁判所で日本政府にさらなる責任追及を求める判決が出る可能性はまったくないとは言えませんが、韓国政府が毅然として日本との合意を尊重する姿勢を示すことが望まれます。」
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