平和外交研究所

ブログ

オピニオン

2021.08.13

核政策について日本に反対しないよう求める米国からの書簡

 さる8月9日、米政府が核兵器の「先制不使用」や「唯一の目的」を宣言することに反対しないよう日本政府に求める書簡が、米国の元政府高官や科学者から菅義偉首相や日本の主要政党の党首あてに送られた。これは日本にとって由々しきことであり、若干解説を加えておく。

 核兵器については、単純化して言えば、廃止すべきであるという意見と抑止力として必要だという意見がある。前者を「廃絶派」、後者を「抑止派」とかりに名付けておこう。このように名付けるのは簡単だが、廃絶派にも抑止派にもさまざまの異なるニュアンスがあり、それらを含めてみると核政策は枝がたくさんついている巨木のように複雑である。

 最近、話題になる核兵器禁止条約についても両派がある。たとえば、今年の広島および長崎の平和式典で広島市の松井市長も長崎市の田上市長も日本政府に条約への参加を求める発言を行ったが、菅首相は何も発言しなかった。

 米国の元政府高官や科学者が日本政府に対し、核兵器の「先制不使用」や「唯一の目的」宣言に反対しないよう求めるのは、米国政府はその宣言を行う用意があるが、宣言をすれば日本政府が反対する可能性があり、そうなると日本との関係を重視する米国政府として困るので、事前に反対しないよう要請するのである。
 
 核兵器の「先制不使用」とは、「核兵器を先に使わない」という意味の宣言であり、「唯一の目的」とは、「相手が核兵器を使用する場合にのみこちらは核兵器を使う」という意味である。

 つまり、米国政府は「核を先に使用することはしない」、「核が相手国により使用されない限り米国は核を使用しない」と宣言する用意があるが、日本は「核を先に使用する余地を残しておきたい」、「相手が核でない兵器で攻撃を仕掛けてくる場合にも核を使う余地を残しておきたい」との立場である。実際には日本政府はわが国民や相手国にそこまで説明してくれないだろうが、米国ではそのように思われている。

 米国はなぜ日本についてそのような考えを抱いているのかというと、日本は「先制不使用」宣言にも「唯一の目的」宣言にも実際に反対したことがあるからだ。オバマ政権と安倍政権の時であった。その際、ろくな議論は行われず、政権中枢だけで日本政府の方針が決められたと理解している。

 米国のバイデン大統領の核についての考えは、すでに原則明らかになっている。オバマ大統領の「核兵器なき世界」の目標を引き継ぐ考えであり、「先制不使用」も「唯一の目的」も前向きらしい。

 いずれ米国政府は日本政府に対し、そのような考えを示してくるであろう。その際、日本政府としては、米国以上に核を自由に使用できるようにしておく必要があるか、また、あまり核に頼りすぎると、結局こちら側も脅威にさらされることにならないか、日本全体にとって深刻な問題として、闇の中で処理するのでなく、国家として徹底した検討の上対応してもらいたい。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.