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2021.06.03

菅首相の対ロ外交

 コロナ禍が長引く中、首脳同士が直接会って話し合う機会は非常に少なくなっている。日ロ間でも、2019年9月に安倍首相がプーチン大統領とウラジオストックで会って以来首脳会談は行われていないが、菅首相がプーチン大統領と初会談に臨む場合を見越しての観測が時折見かけられる。

 菅首相は2020年9月29日、プーチン大統領と電話会談を行った。わが外務省の発表では、「菅総理は、日ロ関係を重視している、平和条約締結問題を含め、日露関係全体を発展させていきたい」旨述べるとともに、「北方領土問題を次の世代に先送りすることなく終止符を打たなければならず、プーチン大統領と共にしっかりと取り組んでいきたい」旨述べたとされている。
 
 これに対しプーチン大統領は、「菅総理の就任をお祝いする旨述べるとともに、安倍前総理との関係を高く評価しており、菅総理との間でも二国間及び国際的な課題に関して建設的に連携する用意がある、平和条約締結問題も含め、二国間のあらゆる問題に関する対話を継続していく意向である」旨述べたとされている。

 そのうえで、「両首脳は、平和条約締結問題を含む対話の継続と共に、政治、経済、文化等幅広い分野で日露関係全体を発展させていくことで一致した」と外務省の発表は説明している。

 しかし、ロシア側の発表は平和条約にも領土問題にも全く触れていない。あたかも日ロ間の最大の懸案が存在しないと言わんばかりの姿勢なのである。もちろんロシアがそのような発表をしたからと言ってそれが正しくなるのではない。日本側としてはわが外務省の発表通り、ロシア側と平和条約締結問題を含む対話を継続していくだろう。

 以上の発表には含まれていないが、菅・プーチン電話会談においてはもっと深刻なことがあったらしい。「両首脳は、平和条約交渉をめぐり2年前に安倍前総理大臣とプーチン大統領が1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速すると合意したことを改めて確認した」と報道されたことである(たとえばNHK)。2013~17年、モスクワで勤務した朝日新聞の駒木明義氏は、「菅氏はプーチン氏と電話会談した際に、シンガポール合意を引き継ぐ考えを伝えた」と記している(『東亜』2021年6月号 No6489)が、同じ意味である。

 シンガポール合意の問題点は、日ロ間で歯舞、色丹、国後、択捉四島の帰属が未解決になっていることが確認された経緯を無視していることである。菅首相がプーチン大統領とあらためて平和条約・北方領土問題の解決を目指して交渉を再開する場合、過去の諸合意が有効であることをまず確認すべきである。それなくしては交渉は再び混乱に陥るであろう。

 安倍前政権では、過去の諸合意は領土問題を解決できなかったと言われたが、日ロ双方が合意したことであり、尊重するのは当然である。日本側の努力が足りなかったので領土問題は解決できていないというのは外交の基本を無視した暴論である。菅首相がプーチン大統領と交渉を再開する場合、まず、過去の諸合意を尊重・確認することから始めなければならない。

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