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2015.05.01

(短文)ASEAN首脳会議で露呈された「一帯一路」構想の矛盾

 4月27日、クアラルンプールで開かれた首脳会議の結果発表された議長(マレーシア)声明は、南沙諸島のファイアリー・クロス礁などにおける中国の埋め立て工事に対し、「深刻な懸念を表明する」「このような工事は信頼を損なった(eroded)」「南シナ海における平和、安全、安定を揺るがす(undermine)恐れがある」などとかなり強い言葉でASEAN諸国の見解を表明した。
 この会議では、中国による埋め立て工事に関し激しい議論があったことが報道からうかがわれる。最初の議長声明案ではこの問題にまったく触れられていなかったが、フィリピンやベトナムなどが強い懸念を表明し、議長声明に書き込むことを主張した結果このような文言となった。中国との関係は国によって違っており、このような議論があったのは当然である。
 また、議長声明は埋め立て工事の中止を要求するに至らなかったのも、理解できることである。このようなASEAN内部の立場の不一致にもかかわらず今回の議長声明がこのような表明をしたことは注目すべきことであった。

 ASEANの10カ国はすべてアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備に参加している。IIBとペアで進められている「一帯一路」とくに「一路」は中国から地中海にまで伸びる海上交通ラインであり、南シナ海はその重要な一部である。中国はその建設を提唱し各国にそれに対する支持を呼びかけながら、その「一路」上で東南アジア諸国と紛争を起こしているのであり、それは、少なくとも東南アジア諸国の立場からすれば「一路」建設を阻害する行為と映るであろう。
 一方、中国はあくまで自己の主張を貫き、東南アジア諸国の懸念に耳を傾けない姿勢である。ASEAN首脳会議の議長声明に対して、中国外交部の報道官は「中国の主権の範囲内のことである」と突っぱねた。中国は今後もそのような主張を変えないだろう。要するに、中国の考えではそのような主張は「一路」建設と矛盾しないのである。
このように見てくれば、中国の提唱する「一帯一路」構想は各国と共通の言葉で語られていないという実態が浮かび上がってくる。そうであれば、中国が「一帯一路」構想と言っていることの意味は中国の立場で理解する必要がある。それは中国の国益に従うことを含んでいる。つまり、「一帯一路」は中国の国益に従うという前提に立っているのである。

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