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2017.05.10

韓国の新大統領のもとで日韓関係はどうなるか

文在寅新大統領のもとで日韓関係はどうなるか、展望を試みました。THE PAGEに寄稿したものです。

「9日に行われた韓国の大統領選挙では、大方の予想通り文在寅「共に民主党」前代表が圧勝しました。新大統領の就任により韓国が一刻も早く正常な状態に復帰することが期待されます。
 しかし、新政権には難題が待ち構えています。日韓関係もその一つであり、文在寅政権の下で状況はさらに悪化するのではないかと多くの人が懸念しています。
 文在寅氏は、慰安婦問題については、ソウルの日本大使館と釜山の総領事館前の少女像の撤去に消極的な姿勢を取っており、少女像をいったん撤去した釜山市当局を批判したこともありました。また、2015年末の両政府間合意については再交渉を要求していました。文在寅氏の側近には、必ずしも「再交渉」に固執しない、なんらかの「追加的措置」でもよいという見方があるようですが、日本側から見れば「再交渉」とあまり違いはありません。
 文在寅氏はいわゆる「徴用工(「強制労働」とも言われる)」の問題や日本の歴史教科書などについても現状に不満であり、日本に対し賠償や書き換えを強く要求すべきだと発言したことがあります。
 竹島には2016年7月、上陸して韓国領であることをアピールしました。

 今後、どうすれば日韓関係を改善できるでしょうか。たしかに文在寅氏の主張は日本の立場とあまりにもかけ離れており、関係改善の道筋を描くことは困難ですが、まず、日韓双方とも状況を悪化させないことが肝要です。これは当然のように聞こえるかもしれませんが、実際には知らず知らずのうちに関係を悪化させることがあります。たとえば、日本側では閣僚による靖国神社参拝問題があります。これは本来日本自身の問題ですが、韓国、中国、さらには米国などの反発や批判を招く危険があります。
 一方、韓国側でも関係を悪化させない努力が必要です。韓国政府は韓国民に対し日韓関係の重要性を説明すべきだし、対馬の寺から盗取された仏像の返還も説得すべきです。
 慰安婦問題については、文在寅氏はいずれ日本に要求を持ち出してくるでしょう。これに対し日本側が要求を受け入れる余地は皆無のように思われますが、韓国側との話し合いを拒絶してはならないと思います。残念ながら、慰安婦問題については当面できる限りの意思疎通を続けていくほかないのかもしれません。
 日本はただ聞き役に回ればよいのではありません。韓国のように政権が代わると政府間の合意も変えたいというのでは、5年後、文在寅政権から次の政権になると、また変わるかもしれない、そのようなことでは日本として対応できないということも主張すべきでしょう。
 
 日韓関係の改善については当面の対応に工夫するとともに、中長期的な視野で臨むことが不可欠です。韓国人は「法律を順守する精神が薄弱だ。ゴールポストを動かす」という類の指摘がありますが、それには歴史的な理由があると思います。韓国民の間では、政府や法律は自分たちを守ってくれないという意識が強く、問題が大きくなると政府も法律を変えようとするのではないでしょうか。韓国では憲法が9回改正されました。そのうち5回は新憲法の制定でした。1987年に軍政を倒したのは民衆の力でした。今回も朴槿恵政権を倒したのは世論の力でした。
 日本としては、韓国側の順法精神が弱いことを批判するだけでなく、このような歴史的事情に由来する問題をいかに乗り越えるか、韓国とともに打開の糸口を探るべきです。たとえば、両国の若い世代の交流をさらに促進することなどは有力な方法でしょう。
 一方、日韓間では対立案件ばかりではありません。拉致問題については韓国も同様の問題を抱えていますし、この関係で両国はさらに協力を強化すべきです。
 
 安全保障面では、最大の問題は北朝鮮との関係です。この点では日韓両国、それに米国の立場は共通していますが、文在寅氏は朴槿恵氏と違って北朝鮮に融和的であり、最近韓国に配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADについても北朝鮮を刺激するので消極的だと見られていました。
 そんななか、文在寅政権が発足すればTHAADの配備を見直す可能性があることを示唆する説明を韓国国防部が行ったと報道されました(米国に本拠がある『多維新聞』5月8日付)。もしそうなると米韓両国政府で合意したことが守られなくなります。慰安婦合意と同じ問題が出てくるわけです。
 THAADの配備は米韓両国が決定することですが、朝鮮半島のみならず東アジアの安全保障のためには日米韓の密接な協力が不可欠です。韓国にとって北朝鮮は同じ民族の国家であり、特別の思いがあるでしょうが、文在寅氏が安全保障面でも日米との協力関係を重視することが期待されます。
 

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