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2016.01.11

北朝鮮の核実験「水爆かどうか」より大事なことは

 北朝鮮の核実験について、水爆か否か、威力は大したことないなどという議論よりもっと大事なことがあります。なぜ北朝鮮は核兵器を持つのでしょうか。各国の取り組みが結果を出せないのはどこに問題があるかなどを意識して書いた一文です。THE PAGEに9日掲載されました。

 「1月6日、北朝鮮は水素爆弾の実験に成功したと発表しました。これは核実験としては4回目で、初めての水爆実験です。国際社会の反対を無視し、地域の安定を乱す暴挙であり、日本政府は重大な懸念を表明するとともに、放射能の拡散やその他の環境面での影響について調査・分析し、また米国や韓国などと連携して取るべき対応措置を検討しています。
 安全保障理事会(安保理)は、日本と米国の要請を受けて緊急の会合を開いて対策を協議しており、すでに報道声明は発出されました。従来より強い内容の制裁が科される可能性もあります。

 北朝鮮の核開発については、朝鮮半島の非核化、核兵器としての性能、軍事的な効果、米国や中国との関係、さらには金正恩体制など様々な側面から議論されています。今回の実験は本当に水素爆弾であったかなども注目されていますが、あまり技術的なことに関心を集中させるのは感心できません。「北朝鮮の水爆はレベルが低い」などと言うと、北朝鮮は一層ムキになるのではないでしょうか。

 大事なことは、北朝鮮の核実験を止めさせることです。そもそも北朝鮮はなぜ核兵器を保有しようとするでしょうか。
 実は、北朝鮮の地位は非常に不安定です。日本ではとても想像できないことですが、北朝鮮は下手をすれば国が滅亡してしまう危険にさらされています。そもそも1950年に勃発した朝鮮戦争は、現在休戦状態にあるだけで終了していません。冷戦が終わるときに危険が増大しましたが何とか乗り切りました。しかし、その後も状況は基本的に変わっていません。
 いったい、どこの国が北朝鮮を脅かすのかといぶかられるかもしれません。もちろん21世紀の現在、常識的には北朝鮮を攻撃するような国はなさそうですが、北朝鮮にとっての脅威は米国です。米国はかつて北朝鮮に軍事侵攻すべきか検討したことさえあります。その道ではよく知られていることです。
 かつて中国とソ連は北朝鮮の同盟国でしたが、ソ連は消滅し、ロシアとは軍事同盟関係にありません。頼りの中国についても、最近関係が悪化し、どの程度頼れるか怪しくなってきました。
 そのような状況において、北朝鮮は核兵器とミサイルを柱として軍事力を強化することに努めました。金正日総書記の時代には「先軍」という軍事優先主義をすすめ、金正恩第1書記は、経済成長と核兵器が二本柱の国策だとして力を入れています。
 核兵器もミサイルも国際社会にとっては大問題です。しかし、北朝鮮にとっては国家としての生死が掛かっています。北朝鮮が国際社会の意向を無視し続けることは誠に遺憾ですが、国際社会の言っていることを聞け、そうしないと制裁を強化すると言うだけでは解決困難な問題であると思います。
 北朝鮮が核兵器を開発しても米国とは比較にならないという軍事的指摘もあります。しかし、北朝鮮は、米国を攻撃するためでなく、米国が北朝鮮を攻撃すれば高い代償を払うことになることをアピールしようとしている可能性があります。
 
 では、今後どうすればよいかですが、カギを握っているのは米国だけです。しかし、米国と北朝鮮の間には大きなずれがあります。米国はグローバルパワーとして、世界各地で活動しており、とくに中東での対応に忙殺されており、北朝鮮問題は、同国を取り囲んでいる軍事、経済大国、つまり、中国、韓国、ロシア、日本で解決してほしい、という考えです。とくに中国に対しては期待が大きく、二言目には中国が北朝鮮に対する影響力を強化してほしいと言っています。理屈からはそれは可能なはずですが、北朝鮮は中国の忠告を聞き入れようとしません。北朝鮮の存続にかかわることだからでしょう。これは何回も繰り返してきたことで、中国が北朝鮮の核開発を止められないことは明らかです。
 北朝鮮の核問題を解決するには、米国、北朝鮮、中国の間で繰り返してきたこの奇妙な三角関係から脱却し、米国が北朝鮮と直接交渉し、北朝鮮の地位を保証するか、そのための条件いかんなどについて結論を出すことが必要です。米国は気乗りでないかもしれませんが、そうすることが結局はすべての国にとって利益であり、したがって日本としても、米国がそのような考えになるよう、側面から協力しつつ働きかけるべきだと思います。」

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