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2018.01.11

慰安婦合意、韓国は何に反発しているのか?日本の今後の対応

THE PAGEに寄稿した後に韓国政府は新方針を発表しました。以下は、そのことを踏まえ加筆したものです。

「 慰安婦合意とは、長らく両国間の懸案であった慰安婦問題について、2015年12月28日、当時の岸田外相と韓国の尹外相との会談で達成された合意です。主要点は次の通りでした。

(日本側)
〇安倍首相が元慰安婦であった方々に、「心からおわびと反省の気持ち」を表明。
〇日本政府は、「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」ために10億円を拠出(すでに実行済み)。

(韓国側)
〇韓国政府は日本政府に協力(後に、韓国政府は慰安婦のために基金を新設し事業を開始)。
〇在韓国日本大使館前の少女像については、尹外相が、「韓国政府は,日本政府が公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する」と表明(これはまだ実現していません)。

(両国)
〇この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認。
〇今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

 ところが、文在寅大統領は2017年5月に就任後、日韓合意の成立経緯を検証する作業部会を設置しました。韓国内の強い世論に押されたからです。具体的には、元慰安婦を支援する韓国挺身隊問題対策協議会などが中心になって対日批判の運動を広げ、形成された世論です。
 検証の結果は12月27日に発表されました。文在寅大統領はその翌日、日韓合意は「手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された」とし、「両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」などと表明しました。さらに、康京和外相は、1月9日、新方針を発表し、「2015年の合意が両国間の公式合意だったという事実は否定できない。日本政府に再交渉は求めない」としつつ、「韓国政府は10億円を基金に拠出し、日本政府が拠出した10億円の処理方法は日本政府と協議する」と説明し、さらに、「日本側が自ら、国際的な普遍基準によって真実をありのまま認め、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けた努力を続けてくれることを期待する。被害者の女性が一様に願うのは、自発的で心がこもった謝罪である」と述べました。

 このような韓国政府の対応は日本として承服できません。日本政府は韓国側に抗議するとともに、菅官房長官と河野外相は、合意の内容は変更してはならないこと、合意に従って解決を図るべきであること、国と国との約束は責任をもって実施しなければならないことなどをあらためて強調しました。

 韓国政府は、残念ながら、慰安婦問題に限らず前政権の決定を繰り返し批判・否定した過去があります。1965年の日韓請求権協定で両国民の請求権問題は解決されていたのに、元慰安婦に対する補償を求めてきました。また、米国との間でも、朴槿恵前政権が合意した高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備について変更を求めようとしたため米国を怒らせました。
 このようなことが起こるのは、韓国では世論の強い圧力を受けて政府が既定の方針を変更するからです。韓国政府は国民から信頼されていないと言わざるを得ません。

 韓国政府の新方針において、「日本政府に再交渉は求めない」と言いつつ、日本が拠出した10億円の取り扱いについて日本と協議するというのはまったく首尾一貫しない態度です。また、日韓合意で安倍首相が「心からおわびと反省の気持ち」を表明しているのに、さらに謝罪を求めています。このような韓国側の矛盾に満ちた態度に対して、日本政府としては、韓国政府がさらにどのような態度をとるか注目しつつ、合意に従って行動するほかありません。国家間の合意を順守するのは韓国の現政権にとっても利益であるはずです。

 慰安婦合意に関する韓国政府の対応には明らかに問題があり、日本は有利な立場にありますが、力で相手をねじ伏せるような姿勢は禁物です。慰安婦問題がある国は韓国だけでありません。また、米国などは直接の関係がなくても強い関心を抱いています。日本がバランスの取れた対応をしなければ、国際社会は一変して日本に批判的になるでしょう。
 日本では、かつてのように、駐韓大使を一時帰国させる考えが出てくる可能性もありますが、間違っている相手を正すのに何が最良か、国際的な感覚を失わずに慎重に検討する必要があります。」


 

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