中国
2020.04.09
任志強は⑤のタイプの人物である。高橋博氏によると、任志強は不動産売買で巨万の富を築いた後、もっぱら「微博」〔中国版ツィッター〕を通して意見を発表するようになった。「微博」の内容は様々だが次第に共産党およびその施政に対する批判的な色合いを強くし、例えば、「中共と中国は同じでない」、「人民政府は何時党政府に変わったのだ?使っているのは党費か?」などと、あきらかに共産党の在り方に批判的な発言を続けた。
そのため、任志強は多くの支持者を集め、フォロワー数が三千七百萬に達して社会に大きな影響力を持つようになった。当然当局からは要注意人物とみられていたが、蔡霞中共中央党校教授などは、任志強は「意見発表の権利を持つ」、「党規約と党規則は任志強たちの党員の権利を保護している」などと論じて同人を擁護したので2016年春、大論争となった。
任志強がそこまで大胆な行動をとれたのは、習近平政権の反腐敗運動を指揮した王岐山と個人的に親しく、真夜中に電話して愚痴れるほどの間柄だったからであったが、北京市宣伝部、共青団中央、中央宣伝部中央部門、中共中央党校、中国社会科学院などの党機関だけでなく、中宣部管轄下の『人民網』、『東方網』など主要メディアも任志強批判を強め、結局、任志強はあわや党籍をはく奪されそうになった。それは何とか免れたが、表舞台からは退き、趣味の木彫りなどをやりながら隠遁生活をしていた(福島香織氏)。
しかし、任志強は新型コロナウイルスによる感染問題をきっかけに、ふたたび口を開き、2月23日、米国の華字サイト「中国デジタル時代」に習近平の新型コロナ肺炎対応を批判する文章「化けの皮がはがれても皇帝の座にしがみつく道化」を発表し、習近平の“文革体質”を再び激しい言葉で批判した。また、中国政府が言論の自由を封じていることが感染対応の阻害になり、深刻な感染爆発を引き起こしたと、批判した。
さらに、「あそこに立っているのは、自分の新しい衣服を見せびらかそうとしている皇帝でもなく、衣服すら脱ぎ捨てても皇帝の地位にしがみつく道化である。自分が丸裸であるという現実を隠すために、恥部を隠す布切れを一枚、一枚掲げてみせるが、自ら皇帝の野心にしがみついていることは一切隠さない。私が皇帝になるわけではないが、あなたを滅亡させる決心はしている」「遠くない将来、執政党はこの種の愚昧の中で覚醒し、もう一度“打倒四人組”運動を起こし、もう一度鄧小平式の改革を起こし、この民族と国家を救うかもしれない」などと攻撃した。
習近平主席は任志強を許さないことを決めたらしい。パトロンであった王岐山も見放したのであろう。雑誌への投稿後、任志強の動向が伝えられることはなくなっていた。そして、北京市規律監査委員会は4月7日、同人に対する調査が行われることになったと発表した。中国の常識では、この調査は決定的なものであり、今後同人が再浮上することはあり得ない。
任志強が一時的にせよ過激な発言で共産党の支配を批判できたこと、それには王岐山という実力者の後ろ盾があったからであったこと、中国内には習近平主席に批判的な人物がいることなどは今日の中国をみていくうえで参考になる。
本稿では詳述しないが、今回の新型コロナウイルスによる感染問題については中国政府はさまざまな手を使って共産党と習近平主席の権威を維持しようとしたのではないか。
任志強のケースからうかがわれる中国政治の一端
中国には、共産党の一党独裁体制に面と向かって歯向かうことはもちろんできないが、可能な限り客観的に見ようとする人たちが、少数ではあるが存在している。具体的には、①人権派の弁護士や学生などいわゆる民主派、②政府の経済政策に批判的な学者・研究者、③一部の新聞記者、④少数民族の活動家、⑤特定のグループに属さず、いわば一匹狼的に活動している人などに大別できるだろう。さらに今回の新型コロナウイルスによる拡大問題に関し、政府の隠ぺい体質に批判的になった人も少なくなかった。任志強は⑤のタイプの人物である。高橋博氏によると、任志強は不動産売買で巨万の富を築いた後、もっぱら「微博」〔中国版ツィッター〕を通して意見を発表するようになった。「微博」の内容は様々だが次第に共産党およびその施政に対する批判的な色合いを強くし、例えば、「中共と中国は同じでない」、「人民政府は何時党政府に変わったのだ?使っているのは党費か?」などと、あきらかに共産党の在り方に批判的な発言を続けた。
そのため、任志強は多くの支持者を集め、フォロワー数が三千七百萬に達して社会に大きな影響力を持つようになった。当然当局からは要注意人物とみられていたが、蔡霞中共中央党校教授などは、任志強は「意見発表の権利を持つ」、「党規約と党規則は任志強たちの党員の権利を保護している」などと論じて同人を擁護したので2016年春、大論争となった。
任志強がそこまで大胆な行動をとれたのは、習近平政権の反腐敗運動を指揮した王岐山と個人的に親しく、真夜中に電話して愚痴れるほどの間柄だったからであったが、北京市宣伝部、共青団中央、中央宣伝部中央部門、中共中央党校、中国社会科学院などの党機関だけでなく、中宣部管轄下の『人民網』、『東方網』など主要メディアも任志強批判を強め、結局、任志強はあわや党籍をはく奪されそうになった。それは何とか免れたが、表舞台からは退き、趣味の木彫りなどをやりながら隠遁生活をしていた(福島香織氏)。
しかし、任志強は新型コロナウイルスによる感染問題をきっかけに、ふたたび口を開き、2月23日、米国の華字サイト「中国デジタル時代」に習近平の新型コロナ肺炎対応を批判する文章「化けの皮がはがれても皇帝の座にしがみつく道化」を発表し、習近平の“文革体質”を再び激しい言葉で批判した。また、中国政府が言論の自由を封じていることが感染対応の阻害になり、深刻な感染爆発を引き起こしたと、批判した。
さらに、「あそこに立っているのは、自分の新しい衣服を見せびらかそうとしている皇帝でもなく、衣服すら脱ぎ捨てても皇帝の地位にしがみつく道化である。自分が丸裸であるという現実を隠すために、恥部を隠す布切れを一枚、一枚掲げてみせるが、自ら皇帝の野心にしがみついていることは一切隠さない。私が皇帝になるわけではないが、あなたを滅亡させる決心はしている」「遠くない将来、執政党はこの種の愚昧の中で覚醒し、もう一度“打倒四人組”運動を起こし、もう一度鄧小平式の改革を起こし、この民族と国家を救うかもしれない」などと攻撃した。
習近平主席は任志強を許さないことを決めたらしい。パトロンであった王岐山も見放したのであろう。雑誌への投稿後、任志強の動向が伝えられることはなくなっていた。そして、北京市規律監査委員会は4月7日、同人に対する調査が行われることになったと発表した。中国の常識では、この調査は決定的なものであり、今後同人が再浮上することはあり得ない。
任志強が一時的にせよ過激な発言で共産党の支配を批判できたこと、それには王岐山という実力者の後ろ盾があったからであったこと、中国内には習近平主席に批判的な人物がいることなどは今日の中国をみていくうえで参考になる。
本稿では詳述しないが、今回の新型コロナウイルスによる感染問題については中国政府はさまざまな手を使って共産党と習近平主席の権威を維持しようとしたのではないか。
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