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2019.05.15

オーストラリアの中国化?

 オーストラリアでは5月18日に行われる総選挙を前に、中国の影響力の増大に関心が高まっている。

 オーストラリアに限ったことでない。中国系住民が増加している中小規模の国は、中国政府(共産党)、中国人、および中国マネーの三重の強い影響力に直面している。

 まず、中国人の影響力である。オーストラリアの人口中、中国系は3.6%であり、ダントツに多い英国系(67.4%)、アイルランド系(8.7%)に次いでイタリアおよびドイツとともに3位タイである。2016年の国勢調査によると、中国系豪州人は121万3903人で人口の3.9%に上った。この数字だけ見れば中国の影響力はまだ大した問題になっていないようだが、中国からの移民が増加する可能性はイタリアやドイツなどとは比較にならないくらい大きい。中国系がアイルランド系を超えて2位になるのは遠い将来でないだろう。

 中国はオーストラリアの50倍以上の人口があり、また、海外移住を望む国民の比率は高い。この点は日本人と全く異なる。英語圏であり、リベラルなオーストラリアやカナダなどには膨大な数の中国人が移住してくる可能性があるわけだ。

 しかも、中国系住民は都市に集中する傾向があり、シドニーの中心場はチャイナタウンと化しているという。シドニー郊外のチャッツウッドでは中国系住民が34%に達しており、古くからの住民が「ハリケーン来襲のようだ」といっているそうだ。

 中国系住民の急増はオーストラリア社会に複雑な影響を及ぼしている。いわゆる一世の中国系移民の多くは英語での意思疎通が困難であり、自然に中国人同士で中国語を話すことになる。中国語の新聞も必要になる。オーストラリアではすでに数種類の中国語新聞が発行されている。交通標識も中国語で表示されるようになっている。

 政治の面でもこれまでになかった現象が起こっている。今回の選挙では中国系同士が対決する状況が生まれている。彼らが中語系住民の票を重視するのは当然だが、中国系でない候補者にとっても中国系住民の票を獲得できるかが課題となり、片言の中国語も使って、当選した暁には中国系住民のための政策を実行すると訴えるという。

 モリソン首相は今年2月から中国人が使う無料通信アプリのWeChat(微信)で中国語での発信を始めた。そうすると労働党のショーテン党首も翌月、WeChat上で質問を受け付け、中国語で回答するなどのサービスを始めた。5月1日には中国語が堪能な同党のラッド元首相が中国語で政策を訴える動画を始めた。

 オーストラリアの政治では、これまでアジア系住民には「竹の天井」があると言われてきた。しかし、今回の選挙はこれに穴が開くきっかけになると言われている。

 欧州系住民の中にはオーストラリア社会の中国化と安全保障面での中国の影響の増大を懸念する人が出てきており、事態は深刻化しつつあることを示す事例が報告されている。

 チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授の新著「静かなる侵略―豪州での中国の影響」の出版にも、また、その発表会の開催にも中国系住民、あるいは市民団体などから反対の圧力があったという。

 2017年にはシドニー大学やニューカッスル大学などで、中国からの留学生が、「中国が国と認めない台湾を教員が「国」と言った」、「中国が領有を主張する地域がインド側に含まれた地図を授業で使用した」などを理由に教員を糾弾する事件が発生した。

 中国系住民の政治的要求は経済的な圧力を伴うことがある。多くの大学は、日本と同様、中国からの留学生がいなくなると財政面で困難に陥るそうだ。

 2017年11月には、野党・労働党のダスティアリ議員が中国人実業家から金銭を受とった見返りに、南シナ海問題で中国の立場を擁護する発言を行って物議をかもした。翌月、ターンブル首相(当時)は外国人からの献金を禁止すると発表した。

 オーストラリア政府は2012年、連邦債などに約5億円を投資すれば永住権の申請資格を与える制度を導入した。取得者の87%が中国人だという。

 中国政府の影響が及んでいるか、表面的にはなさそうだが、中国系住民も留学生も実際には中国政府の意向を体して動くことがよくあり、前述の南シナ海に関するケースを見ても中国系住民やその資力は事実上オーストラリア政府の外交にも影響を与え始めている。

 オーストラリアで起こっていることをまとめたのは、他国にとってもモデルとなるからである。カナダはオーストラリアとよく似た状況にあり、オーストラリアで起こっている現象はほぼすべてカナダでも起こっている。カナダが中国人や中国企業にとって魅力ある国であることはファーウェイの孟晩舟副会長の逮捕事件の際にも見受けられたとおりである。

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