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2018.12.14

ファーウェイ事件から露呈した国際問題

 カナダ当局によるファーウェイの孟晩舟CFOの逮捕は、直接的には中国、カナダ、米国との間の問題であるが、グローバルな意味合いもある。
 とくに、世界のスマートフォン市場で現在第2位にあり、5G(第5世代移動通信システム)においては遠からず世界一になるとみられているファーウェイ(華為)は、高性能のスマートフォンを通じて人間の行動にも影響しうる多彩かつ機微な情報をも取得することになる。そうすると、中国政府もファーウェイを通じて各国の情報を入手するという。

 米国政府と議会が危機感を高めているのは当然であろう。

 ファーウェイは民営企業だが、共産党の指導下にあり、また、設立者の任正非は元軍人であったことから政府との関係は緊密だとみられている(中国政府とファーウェイとの関係については、当研究所HPの2018.12.10付け「華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者の逮捕」をも参照されたい)。ファーウェイが得た情報は中国政府に流れないと断言できる人は、中国人を除けば事実上皆無であろう。

 当然、5Gスマートフォンの規格化、規制などが必要となる。本稿においてはその問題は論じないが、情報が中国政府に筒抜けになることは米国のみならず、世界全体の問題である。

 中国ではいわゆる「国進民退」の傾向が進んでおり、政府はそれに対する対策を強化しようと呼びかけているが、一方では私企業を政府の監督下に置いている。要するに、「国家資本主義化」が高じているのであり、今回の事件は、中国の国家資本主義的傾向と世界の自由主義市場経済の矛盾が激化しつつあることを示唆している。

 中国政府がカナダ人であるマイケル・コブリグとマイケル・スパバを逮捕したことについて、世界中の多くの人は孟晩舟の逮捕と関係があると考える一方、中国政府はそれを認めないが、どちらであれ、2名のカナダ人を逮捕したことは中国の声望に傷をつけている。そのような「仕返し」すること、いわば力で相手をねじ伏せようとすることは中国政府らしいと多くの人は思っているのではないか。
 中国で、官民を問わず孟晩舟に対する同情と支持の声が上がっていることは理解できるが、「仕返し」をしたり、力ずくで外交目的を達成しようとすることは認められない。

 習近平氏は「中国の特色ある社会主義」の旗印を高く掲げ、欧米の言いなりにはならないと強い姿勢を見せているが、このような方法は中国の利益とならないこと、国際法と国際慣習に従うことが結局は中国の利益になることに早く気付くべきである。

 カナダ当局は、孟晩舟の逮捕は米国の要請に基づいて行ったと説明しているようだが、そもそもカナダはどういう理由で米国の要請に応じたのか。米国がカナダに対して圧倒的な影響力があるのはだれでも知っているが、だからと言ってなんでも米国の要請に応じるのではない。カナダが米国の言いなりにならないことも広く知られている。

 カナダは米国の引き渡し要求に応じるか、また中国に拘留されている2名のカナダ人の運命はどうなるか、世界の注目を浴びているが、カナダの悩みは逮捕の要請を受けた時点からあったはずである。孟晩舟の米国への引き渡し問題がどのようなかたちで決着するか注目される。

 なお、今回の事件の背景にカナダへの中国からの移民問題があると指摘する声もある。カナダでは全人口の4.8%が東アジア系であり(その中で最も大きいのは中国系で4.5%くらいともいう)、とくにバンクーバーやオタワなどの都市では20%以上になっており、中国人にとって国際的な活動の拠点となっている。孟晩舟もバンクーバーに自宅を保有しており、今回、まずカナダへ渡航したのであった。
 中国からの移民が顕著に増加しているのは事実であり、カナダ政府は移民政策を修正した。以前は、政府関連事業に80万カナダドル(約7500万円)を5年間、無利子で融資した場合、永住権を獲得できるプログラムが有り、これを利用しているのは半数が中国系であったが、カナダ政府は2015年2月、このプログラムを打ち切った。その理由は中国人移民が急増したからだと言われている。 

 一方、米国政府が国家安全保障を理由にファーウェイなどの活動に神経をとがらせているのはもっともだが、トランプ大統領としても考え直すべきことがある。今回の事件ではカナダの協力が必要となった。トランプ大統領は就任以来わが道を行く感じで、一国ずつ、取引で外交目的を達成しようとしてきた。そして中国から「覇権主義」と批判された。ともかく、このような国別取引は短期的に見れば効果的かもしれないが、どこかで矛盾をきたすのは避けられない。IT関連の事業のように国際性の強い問題については各国との協力がとくに必要である。

 米国は国家安全保障のために、友好国と協力しつつ、複眼的で、かつ戦略性の高い外交姿勢で臨むべきである。

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