平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 33

2016.06.08

(短文)中国の蔡英文新政権に対するハラスメント

 5月31日のHPに「台湾の歴史と新政権-教科書問題」を掲載したが、中国の蔡英文新政権に対するハラスメントとしては以下の出来事も省けない。米国に本拠がある『多維新聞』5月25日付などが報道していることだ。

 24日、「蔡英文の正体(起底蔡英文)」と題する論文が新華社傘下の『国際先駆導報』に掲載され、新浪、網易、捜狐などの大手サイトもそれを転載した。新華網も一時転載した(順序は新華網が先だった可能性がある)。
 執筆者は台湾との関係の窓口である海峡両岸関係協会の理事、王衛星であり、その内容は、蔡英文が独身であることを理由にしてその行動と政策を論じるという非常識なものだった。それだけでもこの論文の程度の低さが分かるだろうが、王衛星は蔡英文を「女政客」と呼び、独身だから「愛情など情感で引き留められることがない」「家族の制約もない」「子供のケアをする必要もない」「その行動は偏っており、身勝手であり、また極端になる」などと暴言を書き連ねた。
 これにはBBCやVOAなど欧米のメディアは敏感に反応し、また、中国のインターネットも王衛生論文は女性蔑視であると厳しく批判して、「これまで読んだ中で最も愚かで人を傷つける文章だ」「むかつく」などと書き込み、王論文は炎上した。
 さすがに中国の当局もこの論文を問題視して削除し、翌日にはどのサイトでも見られなくなった。削除を指示したのは習近平主席であったとも言われている。

 さる1月、台湾の総統・立法院の選挙で民進党が大勝して以来、中国の台湾政策はどうなるか注目されていた。従来、中国は国民党との関係を重視し、民進党は強く警戒していたが、その方針は裏目に出たからである。
 しかし、中国は台湾政策を修正しようとしていないようだ。それどころか、蔡英文新政権に対しハラスメントを強化するようになっている。王衛生のこの論文など最たるものである。
 客観的に見れば、中国にとって政策変更が必要な状況が生じているが、そのような場合にどのように対応するか。現政権の柔軟度/非柔軟度が問われていると思う。
2016.06.07

(短文)ミャンマーの新国民会議

 ミャンマーでは今年の3月30日にティン・チョウ新大統領が就任し、国民民主連盟(NLD)の指導者であるアウン・サン・スー・チー氏は憲法規定により大統領になれないので国家最高顧問となり、外務大臣などを兼任している。
 以来、議会で憲法改正の試みが行われたが、4分の1の議席を持っている軍人が反対したため試みは失敗した。
 新しい試みとして、ビルマ族、各少数民族、武装グループがすべて参加する新パンロン(Panglong)会議を開催して憲法改正の突破口を開こうとする構想がNLDを中心に進められている。
 パンロン会議とは、1947年2月、ビルマ独立の指導者アウン・サン(ビルマ族の代表)と少数民族がシャン州のパンロンで行った会議で、合意に参加したのはシャン、カチン、チンの3民族だけであった。
 問題は少数民族の自治権をどの程度認めるかであり、パンロン会議では自治権を与えることが合意された。また、後に制定された1947年憲法で、シャン、カヤーについては独立後10年目以降の連邦からの離脱権を認める条項が加えられた。
 しかし、その後、パンロン協定で保障された諸民族の自治権も失われ、シャン、カレンニーに認められた連邦離脱権も剥奪された。
 この間(47年7月)アウン・サンは暗殺されるなど情勢は不安定であり、1948年1月4日のビルマ独立は諸民族間の完全な合意がないまま強行された感がある。
 もちろん、すべての少数民族の合意を待っていては英国からの独立自体が危うくなる恐れがあっただろうし、その時点でのビルマ連邦独立が時期尚早であったとは断定できないが、その時未解決であった問題が今日まで尾を引いていることは否定できないようだ。

 昨年10月に休戦協定が合意され、その後、Union Peace Dialogue Joint Committeeが設置された。民族間の対話を進めることが目的だが、7月に新パンロン会議を開催する準備の意味もある。
 また、休戦協定には一部少数民族は参加しなかったので、この委員会の下部委員会では非参加のグループとの対話を行うことになっており、6月中に初会合が予定されている。
 しかし、新パンロン会議が成功する保証はない。シャン族のリーダーは、休戦協定に不参加のグループを含めすべての民族が出席するようにならなければ会議の成功はおぼつかない、NLDは民族政党の合意なしに進めようとしていると批判的だ。
 すべての少数民族の合意を取り付けるのは簡単でない。ビルマの独立以来続いている難問だ。
 スー・チー顧問は議会に1人でも出している民族政党はすべて新パンロン会議に招待すると言っているが、議員が1人もいない少数民族はどうなるのかという疑問もある。
 一方、休戦合意に参加したグループの中には、国家顧問、軍の司令官と大統領との会談を求める声もある。

 いずれにしても、新パンロン会議の成功のためには、まだ合意に加わっていないグループ、とくに休戦協定に未参加のグループとの対話の成り行きが注目される。
2016.06.06

(短評)アジア安全保障会議(シャングリラ対話)

 恒例のアジア安全保障会議が6月3~5日、シンガポールで開催された。英国の国際戦略研究所(IISS)が主催しており、中国軍の高官と安全保障について意見交換できる場として貴重である。中国軍の実情については透明性が低く、また日本も含め各国の安全保障関係者との接触・交流は少ないからだ。
 この会議には軍と政府の関係者以外にもメディア、研究者などが多数参加し、全体の参加者数は数百人にのぼる。
 アジアの安全保障が会議のテーマであるが、実際には半分くらいが中国に関する話題である。今年の会議では昨年にも増して南シナ海での中国の行動に関心が集中し、カーター米国防長官は、中国の南シナ海での行動は「みずからの孤立を招き、孤立の長城を築くことになるだろう」と警告を発した。
 これに対し、中国の代表である孫建国・中央軍事委連合参謀部副参謀長(海軍上将)は、中国は孤立していないと反論した。
 また、フィリピンが申し立てている仲裁裁判について、孫副参謀長は「領土主権の問題は海洋法条約の範囲外である。フィリピンの一方的な仲裁申し立ては国際法違反で、中国は受け入れない」と中国の立場を繰り返した。
 この会議はよく「中国対その他の代表」という構図になり、多くの出席者が中国の行動について疑問を呈し、中国からの参加者が反駁するのだが、見方によっては、中国は被告人席に立たされることになる。
 しかし、中国としてもアジア安全保障会議にメリットを感じているのであろう。この会議が中国軍のPRになるとは思えないが、中国のいないところで中国が批判されるのは困るという考えはあるだろう。

 この会議と踵を接して6日から北京で、「米中戦略経済対話」が行われる。これは米中両国の政府間会議で、議題の半分は安全保障であり、当然南シナ海の問題が注目されるが、米側からはケリー国務長官とルー財務長官が出席し、カーター国防長官は出席しない。中国側は楊潔篪(ヤンチエチー)国務委員(副首相級)と汪洋(ワンヤン)副首相が出席する。昨年もおなじ顔ぶれであった。この対話に両国の軍のトップが出席しないことに特別の意味はないらしい。

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