2016 - 平和外交研究所 - Page 34
2016.06.03
6月1日付の日本経済新聞は、次のような記事を掲載した(便宜上一部は割愛)。非常に参考になる
「「日本は南シナ海問題を大げさに騒ぎ、緊張を宣伝している。G7(主要国首脳会議)は世界経済を論議する場なのに、日本はそれを利用し、ケチなソロバンをはじき、小細工をした」
中国外務省の伊勢志摩サミットの成果に関する公式論評である。まるで北朝鮮の宣伝放送なのかと見まごう口調だ。
■日中外相会談での高圧姿勢
これで驚いてはいけない。4月30日、北京で開かれた日中外相会談では、外相同士の高尚な協議の場のはずなのに、これと同様か、それ以上に高圧的な言葉が外相の岸田文雄に浴びせられた。発言者は中国外相、王毅である。
「誠意があるなら歓迎する」。王毅は会談冒頭の握手場面でも厳しい表情を崩さず、けんか腰にも見える言葉を吐いた。会談のホストとしては極めて異例だ。ここから食事も挟んで4時間、激しい応酬が続いた。
会談の公式ブリーフには出ていない王毅の激しい言葉は、在京の外交関係者らに少しずつ漏れ、大きな話題になったほどだ。細かいニュアンスが分かるよう英語に訳した場合、聞くに堪えないやり取りになる。攻撃性を帯びた余計な一言も多い。岸田は冷静だった。「ミスター・キシダは、これでよく耐えましたね」。中国と距離のある国の外交筋からは、こんな感想まで出たという。
実は、温厚さで知られる岸田も反論はしている。「立場を述べるだけなら外務報道官でもできる。立場の違いを認識した上でどうするのかを考えるのが外務大臣だ」。その場に気まずい雰囲気が漂ったのは想像に難くない。
それでも岸田は激高はしなかった。年内の日本でのハイレベル経済対話(閣僚級)と日中韓首脳会談に道筋を付けたいと考えれば、当然だ。そして9月に中国・杭州で開く20カ国・地域(G20)首脳会議の際、首相の安倍晋三と、中国国家主席、習近平の首脳会談を実現する必要がある。
もう一つ、王毅が主導した「事件」が起きた。伊勢志摩サミットの初日だった5月26日。あえてその日に当てて、北京で記者会見を開いたのだ。G20の意義を強調し、G7に南シナ海問題を扱わないよう要求する中身だった。異例である。中国で外相が自ら記者会見するのは、年に1度、3月の全国人民代表大会(国会に相当)の時ぐらいしかないのだから。
この記者会見には国際的な影響力を持つ欧米メディアも出ている。いくら「G20の100日前」との理由を付けても、「G7を邪魔しようとする意図は明らか」と揶揄(やゆ)されるのは目に見えていた。逆効果だ。それでも王毅は、中国外務省の“気骨”を見せるため開催せざるを得なかった。
中国当局の矛先は、南シナ海問題を含めたG7の議論を主導する日本と、首相の安倍晋三に向いている。だが、米大統領、オバマには言及しない。オバマが5月25日の日米首脳会談後の共同記者会見で「南シナ海問題の解決は中国次第だ」と強くけん制したにもかかわらず、である。
「広島訪問で全世界の注目を浴びる米大統領を直接攻撃すれば逆効果だ、との計算が働いたのは確かだろう」。アジア外交筋の見方である。
■若き日から中国外務省のエース
日本政府内には王毅への不信感が漂う。だが、それだけでは生産性に乏しい。なぜ王毅がこんな態度をとるのか詳細な分析が必要だ。そこには、なかなか深い闇がある。
62歳の王毅は、1960年代終わりから黒竜江省でいわゆる「下放」を経験する。その後、25歳という年齢で北京第二外国語学院に入学し、日本語を専門に学んだ。29歳で中国外務省で仕事を始めたなかなかの苦労人である。その後は日本畑から順調に昇進し、駐日中国大使を務めた知日派である。
だからこそ注意が必要だ。中国共産党の内部、軍内には反日機運が残る。ともすると「日本びいき」と後ろ指をさされかねない。外相就任後、3年もたつのに対日関係の表舞台に出るのを慎重に避けてきたのはそのためだ。
他国に比べ中国での外相の地位は極端に低い。王毅は200人以上いる党中央委員の一人にすぎない。日本の場合、外相は重要閣僚で、中国で例えるなら「チャイナ・セブン」といわれる党政治局常務委員クラス。米国でも外交を担う国務長官の地位は極めて高い。記憶にある範囲で、中国の外交畑から副首相、党政治局委員にまで昇進したのは1990年代の銭其●(たまへんに探のつくり)の例くらいだ。
「王毅には外務省の地位格上げを狙って国務委員から副首相、あるいは党政治局委員まで狙ってほしい。本人も一段の出世のためには日本と関わらないほうがいい、と思っているのでは……」。こんな臆測まで中国内にある。」
おりしも王毅は5月31日から6月4日までカナダを訪問しており、日経新聞の記事と同じ1日(時差を無視する)、オタワで記者会見を行ったが、記者の質問に対して異例の対応を見せたそうだ。一言でいえば、「激した」といえるくらい感情的になったのだ。
以下はワシントン・ポストの2日付の記事である。
Emily Rauhala
“Wang Yi did not like the question.
At a press conference in Ottawa on Wednesday, Canadian journalists were granted the chance to ask the Chinese foreign minister a single query, plus a follow-up. They asked about human rights. Wang lost it.
“Your question is full of prejudice and against China and arrogance … I don’t know where that comes from. This is totally unacceptable,” said Wang, speaking through a translator.
“Other people don’t know better than the Chinese people about the human rights condition in China and it is the Chinese people who are in the best situation, in the best position to have a say about China’s human rights situation,” he said.
Wang asked if the journalist if she’d ever been to China. “Do you know that China has lifted more than 600 million people out of poverty?” he asked.
“And do you know that China is now the second-largest economy in the world from a very low foundation? … And do you know China has written protection and promotion of human rights into our constitution?”
The heart of what Wang said — that only China is equipped to understand China — is not new. The ruling Chinese Communist Party often expresses anger and frustration over what it considers the ignorance and hypocrisy of the West, particularly when it comes to human rights. They feel China is targeted unfairly, willfully misunderstood.
What’s surprising and revealing is that Wang let himself look rattled.
The question, which was broad, left plenty of room for Wang to articulate China’s position on specific issues of domestic and foreign policy. Given the restrictive format, he could have held the floor, fending off a follow-up by sticking to his notes. Instead, he lost his cool.
The outburst is a reminder of how rarely China’s top leaders face the press. At home, their public appearances are rare and tightly scripted. At Premier Li Keqiang’s annual press conference, for instance, a select group of local and foreign journalists are “invited” to ask screened questions on live television.
During Obama’s November 2014 visit to China, a journalist from the New York Times surprised President Xi Jinping with a question about journalists being denied visas based on their coverage. Xi paused, gazed across the room, then took a question from state media. Later, he returned to the Times reporter, awkwardly comparing journalists to broken-down cars.
Xi, unlike Wang, managed to look composed, but his words conveyed frustration and unease. “When a car breaks down on the road, perhaps we need to get off the car and to see where the problem lies,” he said.
“And when a certain issue is raised as a problem, there must be a reason. In Chinese we have a saying: The party which has created a problem should be the one to help resolve it.”
本稿も異例に長くなってしまったが、王毅を知る一人としていくつか思うことがある。もちろん「知る」と言ってもそれほど深く知っているのではないが、王毅の言動は重要であるだけに、あれこれ考えておく価値がある。
第1に、王毅は日本だけに強い主張をしているのではなさそうだ。もちろん日本との関係については言いたいことも多くなるだろう。しかし、中国における人権問題であっても、中国として不愉快なことについては同様に感情を表に出し攻撃的な態度で相手方を批判しているように思われる。
第2に、中国の外相として平均的な行動でない。他の中国人であればもっと違った対応をしたかもしれない。ワシントン・ポストの記事は”The question, which was broad, left plenty of room for Wang to articulate China’s position on specific issues of domestic and foreign policy. Given the restrictive format, he could have held the floor, fending off a follow-up by sticking to his notes. Instead, he lost his cool.”と指摘している。要するに、中国の外相として適当にはぐらかすことができたということだ。
わたくしも同感であるが、王毅が例外的なのか、王毅が例外的に強い態度をとっているのか。つまり、人の問題か、状況のためか、どちらもありうると思う。
第3に、推測を重ねることになるが、中国の外交は、外から見るときわめて積極的で、実績も上げているようだが、中国内ではそのように評価されていない可能性がある。南シナ海や台湾との関係などはとくに問題がある。内政面で困難な状況に直面している習近平政権としては、外に対して必要以上に強く出ざるを得ないのではないか。
ともかく、王毅の強い態度を正しく理解するには内政との関連は不可欠の観点だ。
王毅中国外相の強い姿勢の背後にある事情
王毅中国外相の言動が注目されている。6月1日付の日本経済新聞は、次のような記事を掲載した(便宜上一部は割愛)。非常に参考になる
「「日本は南シナ海問題を大げさに騒ぎ、緊張を宣伝している。G7(主要国首脳会議)は世界経済を論議する場なのに、日本はそれを利用し、ケチなソロバンをはじき、小細工をした」
中国外務省の伊勢志摩サミットの成果に関する公式論評である。まるで北朝鮮の宣伝放送なのかと見まごう口調だ。
■日中外相会談での高圧姿勢
これで驚いてはいけない。4月30日、北京で開かれた日中外相会談では、外相同士の高尚な協議の場のはずなのに、これと同様か、それ以上に高圧的な言葉が外相の岸田文雄に浴びせられた。発言者は中国外相、王毅である。
「誠意があるなら歓迎する」。王毅は会談冒頭の握手場面でも厳しい表情を崩さず、けんか腰にも見える言葉を吐いた。会談のホストとしては極めて異例だ。ここから食事も挟んで4時間、激しい応酬が続いた。
会談の公式ブリーフには出ていない王毅の激しい言葉は、在京の外交関係者らに少しずつ漏れ、大きな話題になったほどだ。細かいニュアンスが分かるよう英語に訳した場合、聞くに堪えないやり取りになる。攻撃性を帯びた余計な一言も多い。岸田は冷静だった。「ミスター・キシダは、これでよく耐えましたね」。中国と距離のある国の外交筋からは、こんな感想まで出たという。
実は、温厚さで知られる岸田も反論はしている。「立場を述べるだけなら外務報道官でもできる。立場の違いを認識した上でどうするのかを考えるのが外務大臣だ」。その場に気まずい雰囲気が漂ったのは想像に難くない。
それでも岸田は激高はしなかった。年内の日本でのハイレベル経済対話(閣僚級)と日中韓首脳会談に道筋を付けたいと考えれば、当然だ。そして9月に中国・杭州で開く20カ国・地域(G20)首脳会議の際、首相の安倍晋三と、中国国家主席、習近平の首脳会談を実現する必要がある。
もう一つ、王毅が主導した「事件」が起きた。伊勢志摩サミットの初日だった5月26日。あえてその日に当てて、北京で記者会見を開いたのだ。G20の意義を強調し、G7に南シナ海問題を扱わないよう要求する中身だった。異例である。中国で外相が自ら記者会見するのは、年に1度、3月の全国人民代表大会(国会に相当)の時ぐらいしかないのだから。
この記者会見には国際的な影響力を持つ欧米メディアも出ている。いくら「G20の100日前」との理由を付けても、「G7を邪魔しようとする意図は明らか」と揶揄(やゆ)されるのは目に見えていた。逆効果だ。それでも王毅は、中国外務省の“気骨”を見せるため開催せざるを得なかった。
中国当局の矛先は、南シナ海問題を含めたG7の議論を主導する日本と、首相の安倍晋三に向いている。だが、米大統領、オバマには言及しない。オバマが5月25日の日米首脳会談後の共同記者会見で「南シナ海問題の解決は中国次第だ」と強くけん制したにもかかわらず、である。
「広島訪問で全世界の注目を浴びる米大統領を直接攻撃すれば逆効果だ、との計算が働いたのは確かだろう」。アジア外交筋の見方である。
■若き日から中国外務省のエース
日本政府内には王毅への不信感が漂う。だが、それだけでは生産性に乏しい。なぜ王毅がこんな態度をとるのか詳細な分析が必要だ。そこには、なかなか深い闇がある。
62歳の王毅は、1960年代終わりから黒竜江省でいわゆる「下放」を経験する。その後、25歳という年齢で北京第二外国語学院に入学し、日本語を専門に学んだ。29歳で中国外務省で仕事を始めたなかなかの苦労人である。その後は日本畑から順調に昇進し、駐日中国大使を務めた知日派である。
だからこそ注意が必要だ。中国共産党の内部、軍内には反日機運が残る。ともすると「日本びいき」と後ろ指をさされかねない。外相就任後、3年もたつのに対日関係の表舞台に出るのを慎重に避けてきたのはそのためだ。
他国に比べ中国での外相の地位は極端に低い。王毅は200人以上いる党中央委員の一人にすぎない。日本の場合、外相は重要閣僚で、中国で例えるなら「チャイナ・セブン」といわれる党政治局常務委員クラス。米国でも外交を担う国務長官の地位は極めて高い。記憶にある範囲で、中国の外交畑から副首相、党政治局委員にまで昇進したのは1990年代の銭其●(たまへんに探のつくり)の例くらいだ。
「王毅には外務省の地位格上げを狙って国務委員から副首相、あるいは党政治局委員まで狙ってほしい。本人も一段の出世のためには日本と関わらないほうがいい、と思っているのでは……」。こんな臆測まで中国内にある。」
おりしも王毅は5月31日から6月4日までカナダを訪問しており、日経新聞の記事と同じ1日(時差を無視する)、オタワで記者会見を行ったが、記者の質問に対して異例の対応を見せたそうだ。一言でいえば、「激した」といえるくらい感情的になったのだ。
以下はワシントン・ポストの2日付の記事である。
Emily Rauhala
“Wang Yi did not like the question.
At a press conference in Ottawa on Wednesday, Canadian journalists were granted the chance to ask the Chinese foreign minister a single query, plus a follow-up. They asked about human rights. Wang lost it.
“Your question is full of prejudice and against China and arrogance … I don’t know where that comes from. This is totally unacceptable,” said Wang, speaking through a translator.
“Other people don’t know better than the Chinese people about the human rights condition in China and it is the Chinese people who are in the best situation, in the best position to have a say about China’s human rights situation,” he said.
Wang asked if the journalist if she’d ever been to China. “Do you know that China has lifted more than 600 million people out of poverty?” he asked.
“And do you know that China is now the second-largest economy in the world from a very low foundation? … And do you know China has written protection and promotion of human rights into our constitution?”
The heart of what Wang said — that only China is equipped to understand China — is not new. The ruling Chinese Communist Party often expresses anger and frustration over what it considers the ignorance and hypocrisy of the West, particularly when it comes to human rights. They feel China is targeted unfairly, willfully misunderstood.
What’s surprising and revealing is that Wang let himself look rattled.
The question, which was broad, left plenty of room for Wang to articulate China’s position on specific issues of domestic and foreign policy. Given the restrictive format, he could have held the floor, fending off a follow-up by sticking to his notes. Instead, he lost his cool.
The outburst is a reminder of how rarely China’s top leaders face the press. At home, their public appearances are rare and tightly scripted. At Premier Li Keqiang’s annual press conference, for instance, a select group of local and foreign journalists are “invited” to ask screened questions on live television.
During Obama’s November 2014 visit to China, a journalist from the New York Times surprised President Xi Jinping with a question about journalists being denied visas based on their coverage. Xi paused, gazed across the room, then took a question from state media. Later, he returned to the Times reporter, awkwardly comparing journalists to broken-down cars.
Xi, unlike Wang, managed to look composed, but his words conveyed frustration and unease. “When a car breaks down on the road, perhaps we need to get off the car and to see where the problem lies,” he said.
“And when a certain issue is raised as a problem, there must be a reason. In Chinese we have a saying: The party which has created a problem should be the one to help resolve it.”
本稿も異例に長くなってしまったが、王毅を知る一人としていくつか思うことがある。もちろん「知る」と言ってもそれほど深く知っているのではないが、王毅の言動は重要であるだけに、あれこれ考えておく価値がある。
第1に、王毅は日本だけに強い主張をしているのではなさそうだ。もちろん日本との関係については言いたいことも多くなるだろう。しかし、中国における人権問題であっても、中国として不愉快なことについては同様に感情を表に出し攻撃的な態度で相手方を批判しているように思われる。
第2に、中国の外相として平均的な行動でない。他の中国人であればもっと違った対応をしたかもしれない。ワシントン・ポストの記事は”The question, which was broad, left plenty of room for Wang to articulate China’s position on specific issues of domestic and foreign policy. Given the restrictive format, he could have held the floor, fending off a follow-up by sticking to his notes. Instead, he lost his cool.”と指摘している。要するに、中国の外相として適当にはぐらかすことができたということだ。
わたくしも同感であるが、王毅が例外的なのか、王毅が例外的に強い態度をとっているのか。つまり、人の問題か、状況のためか、どちらもありうると思う。
第3に、推測を重ねることになるが、中国の外交は、外から見るときわめて積極的で、実績も上げているようだが、中国内ではそのように評価されていない可能性がある。南シナ海や台湾との関係などはとくに問題がある。内政面で困難な状況に直面している習近平政権としては、外に対して必要以上に強く出ざるを得ないのではないか。
ともかく、王毅の強い態度を正しく理解するには内政との関連は不可欠の観点だ。
2016.06.02
5月31日、ドゥテルテが「長年の同盟国である米国に依存することはない」と述べると、「中国や南シナ海をめぐる問題への対応で米国からの自立を一段と図る姿勢を示した」と報道された(同日、ロイター電)。
ドゥテルテが対米依存に批判的なことはかねてから知られており、今回の発言も特に目新しいものではないが、新政権の対外姿勢全般にかかわることであり、このように報道されるのは自然なことだ。
一方、中国はドゥテルテに期待感を抱いている。ドゥテルテの祖先に中国人がいることも一つの要因かもしれない。
ともかく、習近平主席が5月30日に送った祝電には次の言葉が含まれていた。
「中国とフィリピンは友好交流の歴史が長く、両国民は伝統的な厚い友情を築いてきた。友好、安定、健全に発展する中比関係は両国と両国民の根本的利益に合致する。中比の近隣友好関係と互恵協力を維持・深化することが両国指導者の共同の責任だ。両国が共に努力し、中比関係を健全な発展の軌道に戻したい。」
しかし、フィリピンの米国からの自立は進むか。ことは簡単でない。ドゥテルテは国内向けには威勢のよい発言をしているが、中国に対しては、国際法の下で沿岸国に認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)を尊重するよう求めている。
また、南シナ海問題の解決のため、領有権を主張する国々だけでなく、米国や日本、オーストラリアを含めた多国間協議を支持しており、これは中国が嫌うことだ。
今回の記者説明の際に、中国との二国間協議を求めるのかと質問されたのに対し、「われわれが独自の進路を決めるということを皆に知ってもらいたい。米国に依存することはない。フィリピン人以外の人々を満足させようとはしない」などと述べている。これは微妙な発言であり、とりあえず一般論で交わしたとも解される。
アキノ大統領はスカーボロー礁での紛争をめぐって、米国に依存しつつ中国に対抗してきた。フィリピンの艦艇はそこから引き揚げ、中国船は居座ったままであるが、フィリピン領だと主張している。
ドゥテルテはアキノ大統領に批判的で、同礁は「中国にとられた」と批判してきた。
スカーボロー礁はマニラから300キロもない距離にあり、中国がここで南沙諸島でのように埋め立て工事などを始めるとフィリピンにとっては大問題になる。そうなるとドゥテルテとしても対米依存から脱却という感情論だけでは済まない現実に直面することになる。
また、国際仲裁裁判の結論はドゥテルテ政権が成立した後に公表される公算が大きいが、それが同政権の本当の姿勢を問う最初の試金石になりそうだ。
(短評)フィリピンのドゥテルテ新政権にとっての南シナ海問題
フィリピンではドゥテルテ新政権が6月30日に発足するのを控えて、南シナ海問題をめぐり中国や米国との関係がどうなるか、関心が集まっている。5月31日、ドゥテルテが「長年の同盟国である米国に依存することはない」と述べると、「中国や南シナ海をめぐる問題への対応で米国からの自立を一段と図る姿勢を示した」と報道された(同日、ロイター電)。
ドゥテルテが対米依存に批判的なことはかねてから知られており、今回の発言も特に目新しいものではないが、新政権の対外姿勢全般にかかわることであり、このように報道されるのは自然なことだ。
一方、中国はドゥテルテに期待感を抱いている。ドゥテルテの祖先に中国人がいることも一つの要因かもしれない。
ともかく、習近平主席が5月30日に送った祝電には次の言葉が含まれていた。
「中国とフィリピンは友好交流の歴史が長く、両国民は伝統的な厚い友情を築いてきた。友好、安定、健全に発展する中比関係は両国と両国民の根本的利益に合致する。中比の近隣友好関係と互恵協力を維持・深化することが両国指導者の共同の責任だ。両国が共に努力し、中比関係を健全な発展の軌道に戻したい。」
しかし、フィリピンの米国からの自立は進むか。ことは簡単でない。ドゥテルテは国内向けには威勢のよい発言をしているが、中国に対しては、国際法の下で沿岸国に認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)を尊重するよう求めている。
また、南シナ海問題の解決のため、領有権を主張する国々だけでなく、米国や日本、オーストラリアを含めた多国間協議を支持しており、これは中国が嫌うことだ。
今回の記者説明の際に、中国との二国間協議を求めるのかと質問されたのに対し、「われわれが独自の進路を決めるということを皆に知ってもらいたい。米国に依存することはない。フィリピン人以外の人々を満足させようとはしない」などと述べている。これは微妙な発言であり、とりあえず一般論で交わしたとも解される。
アキノ大統領はスカーボロー礁での紛争をめぐって、米国に依存しつつ中国に対抗してきた。フィリピンの艦艇はそこから引き揚げ、中国船は居座ったままであるが、フィリピン領だと主張している。
ドゥテルテはアキノ大統領に批判的で、同礁は「中国にとられた」と批判してきた。
スカーボロー礁はマニラから300キロもない距離にあり、中国がここで南沙諸島でのように埋め立て工事などを始めるとフィリピンにとっては大問題になる。そうなるとドゥテルテとしても対米依存から脱却という感情論だけでは済まない現実に直面することになる。
また、国際仲裁裁判の結論はドゥテルテ政権が成立した後に公表される公算が大きいが、それが同政権の本当の姿勢を問う最初の試金石になりそうだ。
2016.06.01
>
> **「中国環境規制対応コンサルティングを専門に行っている当社では数年前から、中国環境規制違反で処罰される日系企業が増えており、環境リスク対策が急務であり、そのポイントについて講演や寄稿などで再三強調しておりました。
>
中国では環境規制違反で処罰された場合、改善されるまで無制限の日数罰
金、通常罰金や改善命令はもちろん、社名・法人代表者名・処罰内容などがインターネット等で公表され、悪質な場合は経営者への個人罰金、行政拘留や刑事処罰(理論上は死刑もあり得る)、工場への閉鎖命令・公益訴訟にも直面することになります。経営者への処罰は当然日本人経営者も対象になります。*
> *他にも、中国で普及しつつある「環境信用制度」で信用ランクを下げられて取引に影響し、さらには立入検査の回数を増やされ、水道代・電気代にも懲罰価格が適用されることになります。自社のみならず、サプライヤーが環境規制違反で営業停止し、原材料や部品の調達が困難になるケースもあります。
> ** 前掲の文章では、過去1**年の上海市環境保護局の公開処罰案件だけで約20社の日系企業が見られると指摘しています。さらに地域を広げると、環渤海、長江デルタ、珠江デルタ等を中心に、さらに多くの日系企業が環境法令違反で処罰されています。分野を広げると、環境保護局担当外のエネルギー規制やCO2規制、製品環境規制もあります。中小企業のみならず、日本の大手企業・有力企業でも中国では環境法令違反が多いのです。
> ** 処罰企業の大半は中国の地元企業であり、日系企業は全体の割合からすればわずかですが、それでも処罰事例は結構あり、「日系企業は環境対策で優れている」イメージとは異なっています。中には、危険廃棄物不法投棄3トンで刑事案件扱いする方針がある訳ですが、遼寧省には不法投棄100トン以上という悪質な日系企業もありました(日本人幹部は帰国済み)。これは極端な例ですが、「環境対策に優れている」日系企業が中国で環境法令違反を犯す原因にはいくつかあります。
>
> **・工場の現場では環境管理をローカルスタッフに任せざるを得ないが、そのローカルスタッフの環境実務能力や環境実務の実態を把握しきれていない。
**・中国の環境法令は複雑、変動が激しく、担当者でも把握が難しい。
当局の立入検査で処罰されて初めて環境規制を知ったケースも多いです。
> **・地方行政の窓口機関からの環境法令情報も信用できるとは限らない。
> **・中国の環境規制は甘くてザルだという偏見。
> ** **※**現在中国の環境規制は日本より厳しい地方も多く見られます。
> ** **※**かつて運用は甘いこともありましたが、汚職対策の流れで運用も厳格になりました。
> **・日本人が監査しても言語問題や現地法令制度に疎い等のため実効性が上がらない。
> **・中国で外部監査する場合、顧客に厳しいことを言わないケースが多い。
> **・上位法にばかり注目し、下位法令や基準規格に注意を払わない。*
>
> ご相談などについてはセンターへ直接ご連絡ください。連絡先は以下の通りです。*
>
> *大野木昇司 onogi@jcesc.com**、onogish@yahoo.co.jp
> **日中環境協力支援センター有限会社 取締役
> **北京大野木環境コンサルティング有限公司 社長
> **東京商工会議所 中小企業国際展開アドバイザー
> **福岡アジアビジネスセンター 対中環境ビジネスアドバイザー
> **立命館、桜美林、奈良先端科学技術大学院大学 客員研究員
> **北京和僑会顧問 中国環境雑誌(3**社)編集委」*
>
中国の環境規制と日本企業
日中環境協力支援センター有限会社の「中国環境・化学品・エネルギーレポート」2016**年6**月1**日(水)号外のご指摘は大変有益なのでご許可を得て転載します。*>
> **「中国環境規制対応コンサルティングを専門に行っている当社では数年前から、中国環境規制違反で処罰される日系企業が増えており、環境リスク対策が急務であり、そのポイントについて講演や寄稿などで再三強調しておりました。
>
中国では環境規制違反で処罰された場合、改善されるまで無制限の日数罰
金、通常罰金や改善命令はもちろん、社名・法人代表者名・処罰内容などがインターネット等で公表され、悪質な場合は経営者への個人罰金、行政拘留や刑事処罰(理論上は死刑もあり得る)、工場への閉鎖命令・公益訴訟にも直面することになります。経営者への処罰は当然日本人経営者も対象になります。*
> *他にも、中国で普及しつつある「環境信用制度」で信用ランクを下げられて取引に影響し、さらには立入検査の回数を増やされ、水道代・電気代にも懲罰価格が適用されることになります。自社のみならず、サプライヤーが環境規制違反で営業停止し、原材料や部品の調達が困難になるケースもあります。
> ** 前掲の文章では、過去1**年の上海市環境保護局の公開処罰案件だけで約20社の日系企業が見られると指摘しています。さらに地域を広げると、環渤海、長江デルタ、珠江デルタ等を中心に、さらに多くの日系企業が環境法令違反で処罰されています。分野を広げると、環境保護局担当外のエネルギー規制やCO2規制、製品環境規制もあります。中小企業のみならず、日本の大手企業・有力企業でも中国では環境法令違反が多いのです。
> ** 処罰企業の大半は中国の地元企業であり、日系企業は全体の割合からすればわずかですが、それでも処罰事例は結構あり、「日系企業は環境対策で優れている」イメージとは異なっています。中には、危険廃棄物不法投棄3トンで刑事案件扱いする方針がある訳ですが、遼寧省には不法投棄100トン以上という悪質な日系企業もありました(日本人幹部は帰国済み)。これは極端な例ですが、「環境対策に優れている」日系企業が中国で環境法令違反を犯す原因にはいくつかあります。
>
> **・工場の現場では環境管理をローカルスタッフに任せざるを得ないが、そのローカルスタッフの環境実務能力や環境実務の実態を把握しきれていない。
**・中国の環境法令は複雑、変動が激しく、担当者でも把握が難しい。
当局の立入検査で処罰されて初めて環境規制を知ったケースも多いです。
> **・地方行政の窓口機関からの環境法令情報も信用できるとは限らない。
> **・中国の環境規制は甘くてザルだという偏見。
> ** **※**現在中国の環境規制は日本より厳しい地方も多く見られます。
> ** **※**かつて運用は甘いこともありましたが、汚職対策の流れで運用も厳格になりました。
> **・日本人が監査しても言語問題や現地法令制度に疎い等のため実効性が上がらない。
> **・中国で外部監査する場合、顧客に厳しいことを言わないケースが多い。
> **・上位法にばかり注目し、下位法令や基準規格に注意を払わない。*
>
> ご相談などについてはセンターへ直接ご連絡ください。連絡先は以下の通りです。*
>
> *大野木昇司 onogi@jcesc.com**、onogish@yahoo.co.jp
> **日中環境協力支援センター有限会社 取締役
> **北京大野木環境コンサルティング有限公司 社長
> **東京商工会議所 中小企業国際展開アドバイザー
> **福岡アジアビジネスセンター 対中環境ビジネスアドバイザー
> **立命館、桜美林、奈良先端科学技術大学院大学 客員研究員
> **北京和僑会顧問 中国環境雑誌(3**社)編集委」*
>
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