平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 58

2015.02.19

中国の「海上のシルクロード」 続き2

 海上シルクロードの建設においてギリシャと並んで注目を集めたのが、スリランカであったが、1月8日にスリランカの大統領選挙が実施され、予想を覆して野党候補が当選したことから雲行きがおかしくなってきた。この2週間後にギリシャの総選挙があり、港湾施設の建設が予定通り進まなくなる恐れが生じたことは前回に報告した。中国にとっては相ついで2つの重要拠点に黄色信号が点いたのである。
 
 スリランカが1957年に中国を承認して以来両国は緊密な関係にあった。
 中国は、インドとは歴史的、地理的に複雑な関係があり、また、ともに大国としてライバル関係にある。一方、スリランカは巨大な隣国であるインドの影響を強く受けやすいので、中国との関係強化は自主路線を貫くうえで重要である。このような事情から中国とスリランカはインドの存在を強く意識しながら友好関係を増進させてきた。
 中国とスリランカの協力は経済および軍事の両面に及んでおり、経済面ではすでに高速道路、高層ビル、劇場兼国際会議場などの建設が行われている。
 スリランカ南部のマタラでは、バンダラナイケ空港に次ぐスリランカ第2の国際空港マタラ・ラジャパクサ国際空港が2013年完成した。ラジャパクサは中国との協力関係に熱心であった前大統領の名前である。
 コロンボ国際コンテナ・ターミナル(Colombo International Container Terminal CTCT)は必要資金5億ドルの大部分を中国が賄い、これも2013年に運用を開始した。
 コロンボ港を埋立して建設するコロンボポートシティは、過去最大のプロジェクトであり、中国主導で進めることに合意している。2014年9月に習近平主席がスリランカを訪問した際定礎式に出席した。
 スリランカ最南端に近いハンバントタ(Hambantota)開発区は国際コンテナ港、倉庫、製油所および国際空港を含める一大プロジェクトであり、将来国際貨物輸送のハブになることが期待されている。その総経費の85%以上を中国が出資する。3年計画の建設第1フェーズはすでに着工しており、全体は10年で完成の予定である。
 軍事面での協力も進展している。中国はスリランカに対し、対戦車ミサイル、ロケット発射台、携行ミサイル、戦闘機、軍用船舶、レーダー、通信機器など各種の武器を提供し、スリランカ軍の近代化に貢献している。兵員の訓練にも協力している。航空機のメンテナンス・センターを建設する計画もあると言われている。
 中国のこのようなスリランカへの進出にインドは懸念を強めていたところ、2014年9月と11月(10月31日に入港した可能性もある)、中国の潜水艦がコロンボ港に寄港したのでインドは強く刺激された。インドとスリランカの間には現状維持に関する合意があるそうで、スリランカはインドに通報することなく中国の潜水艦の寄港を認めたとして強く抗議した。
 
 その数週間後に大統領選挙が行われ、野党統一候補のシリセナが予想に反して現職のラジャパクサを破ったのである。その背景には、ラジャパクサがあまりにも中国寄りであることに警戒したインドの影響があるとも言われている。その真偽はともかく、ラジャパクサの中国寄り姿勢は明らかであり、前述の新空港建設に関して不正があったとも噂されていた。シリセナは選挙キャンペーン中、中国との協力プロジェクトは債務トラップ(詭計)と批判したこともあった。その具体的な意味は必ずしも明らかでないが、シリセナ候補が中国との関係に一線を画そうとしていたことは疑いない。シリセナ大統領は当選後いち早くインドを訪問し、原子力協力協定を署名している。
 しかしながら、スリランカとして中国との関係を軽んじることはできないのも明白である。シリセナ大統領は中国を訪問したいという表明も行なっている。
 2月6日の新華社電は、次のように報道した。
「スリランカ新政権の報道官兼保健相は5日、「スリランカ新政権はコロンボ港湾都市の開発プロジェクトを承認した」と発表した。これまでにスリランカと中国の両国間の最大協力プロジェクトとなったコロンボ港湾都市開発プロジェクトは、環境影響の評価で再評価を要求された。
 スリランカ保健相によると、スリランカ新政権はこのプロジェクトの環境影響評価報告書に満足で、プロジェクト建設の第2弾で再評価を要求する可能性があるが、これまでに港湾都市の開発は停止しないという。
 コロンボ港湾都市の開発プロジェクトは中国交通建設集団とスリランカ港湾局が共同で開発する総合型投資プロジェクトで、商業、居住やレジャーを一体化するコロンボ港湾都市の形成を目指す。
 このプロジェクトは第1期の投資が14億ドルで、今までスリランカ最大の外国直接投資プロジェクトとなった。昨年9月、中国の習近平国家主席は当時のスリランカのラジャパクサ大統領と一緒にコロンボ港湾都市開発プロジェクトの定礎式に出席した。」
 これは、コロンボポートシティの建設に関する報道であり、南部のハンバントタ港のプロジェクトについて両国間でどのような話し合いが行われているか、今のところ不明である。中国系の新聞が、この問題について支障が生じているという内容の報道を行なったことは「海上シルクロード」に関する最初の報告で紹介したとおりである。
2015.02.18

中国の「海上シルクロード」 続き1

 中国はギリシャへ観光や不動産業などの分野でも進出しているが、COSCO(中国遠洋運輸集団)によるピラエウス(Piraeus)港への投資は突出して大きなプロジェクトである。その背景にはギリシャの財政困難があり、中国マネーはギリシャにとって魅力的である。COSCOは同港の貨物ターミナル部についてはすでに35%の株を保有しているが、さらにギリシャ政府が保有するピラエウス港の67%の株式を購入したいと手を挙げており、他にも希望者がいるが最終選考リストに残っているそうである。
 中国側では、COSCOによるピラエウス港の増改築はギリシャと地中海地域にとっても、また、中国が力を入れている「海上シルクロード」のためにも重要な意義があり、このプロジェクトは双方にとってウィンウィンになると官民を挙げて強調している。
 中国は「海上のシルクロード」建設の戦略目標の下に、近年ギリシャとの関係増進に力を入れており、昨年6月の李克強首相のギリシャ訪問に際しては、20以上の協力協定・契約に署名した。また、中国の投資銀行はギリシャの海運業を支援するため50億ドルの特別基金を設置した。
 なおギリシャ支援の関連で、中国はIMFへの拠出を増加させたいが、その前にIMFの改革が必要だとか、欧米の格付け会社がギリシャの評価を一段と下げたのは無責任だ、中国は独自の格付け会社Dagong(大公)を立ち上げ公平に格付けしているとか吹聴しているそうである(ロイターやウォールストリート・ジャーナル紙など)。

 しかし、1月25日に行なわれたギリシャの選挙で反緊縮を掲げる野党・急進左派連合(SYRIZA)が勝利し、3200ユーロの債務削減のためIMFとEUの強い圧力の下で始められていた民営化計画を白紙に戻すと発表したので、中国との関係もにわかに暗雲が立ち込めてきた。中国の新聞は一斉にギリシャの新政府を非難し、李克強首相はチプラス首相に電話をして中国は投資を増加する、つまりギリシャへ供与する資金を多くすることも検討するという姿勢を示すなどして牽制した。
 これに対しチプラス首相はCOSCOの利益を尊重すると説明したと報道されているが、電話内容について公式の発表は行われておらず実態は不明である。EUとの債務救済・財政再建についての再交渉で結論が出るまで、ギリシャとしては確定的なことを言えないだろう。チプラス首相はEUとの合意期限を6カ月延長することを要請する方針であると伝えられている。中国との関係もいましばらく不透明な状態が継続するであろう。
2015.02.16

中国による海上シルクロード

 中国は南シナ海からインド洋を経て欧州へ通じる「海上のシルクロード」を建設する構想を打ち上げている。貿易・輸送ルートの建設と、中継点として必要な拠点港湾の整備が主たる内容であり、この構想推進の中核となっている国家発展改革委員会の何立峰副主任は、2月11日、福建省泉州市で開催された「21世紀海上シルクロード国際シンポジウム」で「21世紀海上シルクロードの建設では、中国沿海の港湾から南中国海を経由してインド洋に至り、さらには欧州にまで延伸する輸送の大ルートと中国沿海の港湾から南中国海を経由して南太平洋などの方面に至る輸送の大ルートのスムースな運航に重点を置く。海上ターミナルとなる一連の港湾を共同で建設し、これを土台として、産業、エネルギー・資源、貿易・投資などさまざまな分野での協力を深いレベルで展開し、協力の中味を持続的に充実させていく」と説明している。
 この構想は2013年10月、習近平主席がASEANを訪問した際提案したものであり、内容はまだ固まっていない。そのことはシンポジウムを開いていることにも表れているが、政府の関係部門が検討を進めているところである。
 また、海上に限らず、このルートにつながる地域の経済発展を並行して進めようとする構想も打ち出されている。「一帯一路」と呼ばれており、「一路」が海上シルクロードであり、「一帯」がそれに関連する経済地域である。この構想はもちろん「海上シルクロード」と密接な関係があるが、当面は「一帯一路」と「海上シルクロード」を区別しておく必要があるようだ。前述のシンポジウムでは「海上シルクロード」が議論の対象であったが、次に説明する2月1日に北京で開催された国務院主催の会議では「一帯一路」構想が審議された。

 香港の『大公報』紙(2月2日付)は「一帯一路」会議について次のように報道している。
「 ○「一帯一路」のための指導小組が設置された。
  ○その代表者は張高麗政治局常務委員兼国務院副総理。
  ○「一帯一路」構想の設計者は王滬寧中央政策研究室主任。
  ○汪洋副総理は構想実現の主要責任者であり貿易および商務を担当。
  ○調整役は楊晶国務院秘書長。
  ○外交担当は楊潔篪国務委員。
  ○指導小組の弁公室は国務院の発展改革委員会内に置かれた。
  ○同弁公室の主任は発展改革委員会の何立鋒副主任。

 同会議で、「一帯」は順調であるが、「一路」については障害が生じていることが指摘された。中国と中央アジアおよび西アジアとの関係は順調に進展している。とくに中央アジアについては、ウクライナ問題のためロシアが深刻な経済困難に陥っている関係で中国と中央アジア5カ国との関係が進展している。アフガニスタンでは、中国は「戦果(斩获)」も得ている(注 欧米がアフガニスタンから撤退するのと入れ替えに中国とアフガニスタンとの関係が緊密化したことを指すものと思われる。カルザイ・アフガニスタン前大統領は数回訪中した)。
 しかし、海の方面では、多くの阻害要因が発生している。ギリシャでは中運集団による港湾拡張・私営化計画が新政府によって中止となった。これに先立ち、スリランカでは中国による港湾建設計画が白紙に戻された。さらにミャンマーなどでは中国による投資が妨害を受けている。」

「海上シルクロード」であれ「一帯一路」であれ、中国は非常に積極的に取り組んでおり、資金面では、「海上シルクロード銀行」を設立し、自ら400億ドル出資すると言っている。この銀行は政府出資だけでなく、民間の資本も受け入れる予定である。公的色彩を薄めるため、とも言われているが、要するに中国が中心となって各方面の資金をかき集めようとしているのである。
 中国がこのような構想を打ち上げたのは、海運においても、また国際金融においても米欧に牛耳られていることに不満だからであり、中国が影響力を存分に行使できる仕組みを作るのが理想なのであろう。それはわからないではないが、国家戦略としてそれを実現しようとしており、中国の海洋大国化戦略の一環である。
 経済的、技術的な問題にとどまらず、これらの構想を進めることにより中国の関係諸国に対する政治的な影響力が増大するのは間違いない。昨年11月23日付の台湾紙『旺報』(旺旺グループ 大陸関係の報道が比較的多い)が、「先のAPEC会議の際、中国は南シナ海で反中的姿勢を見せているフィリピンを「海上のシルクロード」構想から外す噂を流し、フィリピンを緊張させた。そのためフィリピンは南シナ海での反中的傾向を緩和するのではないかと見られている。また、フィリピンと同じく反中的傾向が強いベトナムも同様の圧力を受けている」と報道したのは象徴的である。
 これらの構想がどの程度実現していくか、これからは一層注意が必要である。

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