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2013.11.07

無人機による民間人犠牲者に関するパキスタン政府の発表

無人機の問題については、その非人道性(多数の市民が犠牲になりやすいことなど)のゆえに規制を加えなければならないという国際世論が高まりつつあるかにも見えたが、ちょっと冷水がかけられる格好になった。
2007年から2011年の間、パキスタン政府は米国から無人機攻撃に関して時折ブリーフィングを受け、しかもそれを了承していたという趣旨の記事を10月24日付のワシントンポスト紙が掲載したのである。
これが事実ならば大問題であり、同紙の記者は翌日、当時の首相であったギラニ氏に確かめたところ、同氏はパキスタン政府が無人機攻撃に同意していたことはきっぱりと否定しながらも、関係者同士の間でそのようなことが起こっていた可能性までは否定しなかったそうである。
パキスタン政府はさらに、2008年以来の米無人機による攻撃により死亡したのは全体の内3%であったと発表した。これまでNGOなどから発表されてきた推計数字よりはるかに低い数字である。この発表はパキスタン国防省が議会上院の質問に対して書面で回答した中に記されたもので、2008年以来これまで317回の攻撃によって2,160人のイスラム武装兵士が殺害された。民間人の死亡は67人で、その内訳は、2008年21人、2009年9人、2010年2人、2011年35人だった。2012年は民間人死亡者はなく、2013年も今のところ死亡者はいないとされている(30日付同紙)。
パキスタン政府の発表に批判の声が上がっており、また、国連の調査を担当したエマーソン特別報告者はパキスタン政府に数字の違いについて説明を求めたいと述べたそうである。

2013.10.31

パク・ハンチョル憲法裁判所所長の慰安婦関係発言

パク・ハンチョル韓国憲法裁判所長が10月29日、ハーバード大学ロースクールで講演を行なった。立場上、また、場所柄、法的な議論を期待したいが、パク所長の主張は日韓間の関係条約に照らし説得力があるか疑問である。
1965年の日韓請求権協定について、パク所長は「日韓間の民事債務、債権関係に限ったもので戦争犯罪は含まない」としている。また、パク所長は河野談話が日本政府による強制を認めているかのように言っているが、同談話が認めたことは「業者らがあるいは甘言を弄し、あるいは畏怖させるなどの形で本人たちの意思に反して集めるケースが数多く、さらに、官憲等が直接これに加担するなどのケースもみられた」「慰安婦たちは戦地においては常時軍の管理下において軍とともに行動を共にさせられており、自由もない、痛ましい生活を強いられていたことは明らかである」ということであり、それ以上のことではなかった。
日本として慰安婦をそのような状況においたことについて責任を負うのは当然であるが、法的に戦争犯罪と言えるか、その概念は最近明確化されてきたものであり、よく分からない。法的には、戦争犯罪の構成要件いかんなどは明確にした上で議論していかなければならないのではないか。
また、パク所長は、請求権協定が締結された時慰安婦問題は議論に出ていなかったと言っている。このこと自体は事実であるが、当時、交渉は請求権の問題で行き詰っており、協定締結を以って請求権問題は「完全、かつ最終的に解決された」と規定した(第2条)のは、そうしなければいつまでも解決できなくなることを両国政府が恐れたからである。この規定は、その時に表面化していないことについてもあてはまるというのが日本政府の理解であり、もし韓国側がそうでないと主張するのであれば、やはりその説明が必要である。
「謝罪」については、パク所長は講演のなかで矛盾したことを言っている。もっとも、これは報道に問題がある可能性もあり、実際の発言は、「日本政府はいったん謝罪したが、その後謝罪しないという態度に変わった」ということかもしれない。それなら明らかな矛盾はないが、事実には反している。日本政府は謝罪しており、橋本総理の謝罪書簡を被害者に直接届けている。そのことを無視してはならない。
一方、韓国政府は、憲法裁判所の慰安婦問題に関する「日韓会談では協議されていないので未解決であり、韓国政府が、日本政府と解決のための協議を行なわないでいるのは、政府に国民の人権を守る義務を課している韓国憲法に違反する」との決定(2011年8月30日)を受けて、9月15日、日本政府に日韓請求権協定第3条に基づく協議を求めたが、日本政府は、「日韓請求権協定で解決済み」として協議に応じていない。表面的には、3条で決められた協議に応じるべきだという議論も可能に見えるが、竹島問題はちょうど日韓の立場が逆になっており、日本政府が国際司法裁判所での解決を望んでいるのに対し、韓国政府は応じない。慰安婦と竹島は異なる問題であるが、政治的には関連があるかもしれない。
韓国政府が真に第3条の協議による解決を希望するなら、竹島問題についても同様の態度を取ることが一案である。
また、同じことが日本政府についても言える。日本が竹島問題のICJでの解決を望むならば、慰安婦問題についても請求権協定第3条にしたがっての解決を図るのが一案となろう。

2013.10.27

特定秘密保護法案

安倍政権が力を入れている秘密保護法案は閣議決定を経て国会へ提出された。
「特定秘密」に指定される基準が不明確である、一度指定されるとなかなか解除されない、国民の知る権利を阻害する、特定秘密にかかわる可能性のある公務員に対する適性評価(身元調査)の問題、など論点は少なくない。
とくに、つぎの諸点が気になる。
「特定秘密」として指定すべきか否か、問題が現実に発生する以前には明確でないことが多いので、自信が持てないときには指定をしてしまう。指定をしなかったことが後日問題になることはあろうが、し過ぎたために責任を追及されることはまずないので、そのような心理が働くことになる。このような例は霞が関に現実に存在し、各省庁ともその対策に頭を悩ませてきた。つまりそのような過剰指定はよくないと判断し、その対策を講じようとしてきたが、効果的な対策は打てないでいる。
もう一つは、米国から日本の秘密保護は不十分だと言われたのでこの法律を作ることになったのではないか。これは推測にすぎないが、どうもそう思える。しかし、米国自身がWikileaksやSnowdenにより情報漏えいで問題を起こしているのではないか。Wikileaksについては、表向き米国政府はコメントしないという立場であり、日本政府もそれに倣っているが、情報の管理については本音で語らなければならない。米国の情報管理に対する感覚には疑問を覚えることがある。イラク戦争の際の大量破壊兵器に関する情報の内容も、その伝達についても問題があったのではないか。米国がテロの標的になることが多いのは事実であり、それだけ対応に苦慮しているのはまことに同情すべきであるが、情報収拾についても問題がある。第二次大戦での敵国の暗号解読や、冷戦中のソ連のスパイに関する情報収集のように成功した例もあるが、どうもおかしいと思うこともある。最たる例が、メルケル首相の携帯電話盗聴である。同首相はオバマ大統領に「友人の電話を盗聴すべきでない」と抗議したそうである。国務省のスポークスマンは、現在および今後盗聴はないと言っているが、これまでしたかどうかについては口を閉ざしていたのではないか。
要するに、米国の情報収集と管理には米国のやり方があるが、同じ方法が日本に向いているとは思えない。内閣府は日本での情報漏えいのケースを具体的にあげているが、尖閣諸島海域での中国漁船の行動に関する映像をリークしたことにはメリットもあったのではないか。少なくとも、「特定秘密」に指定して国民が知る道を閉ざしてしまうのがよいケースであったか疑問である。

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