平和外交研究所

ブログ

カレント

2014.08.20

教皇と中国

教皇が8月14-18日、韓国を訪問し熱烈な歓迎を受けた。中国との関係も注目されている。欧米の新聞やバチカンのニュースレターなどを集めてみた。

フランシスコ教皇と習近平主席はほぼ同時期に就任し(2013年3月 習近平は国家主席への就任)、その際両人は祝賀のメッセージを交換した。今回の韓国訪問に際して、教皇の乗機が中国の上空を飛行することを中国政府が許可したことも注目されている。許可を出す際の条件が問題だとする指摘もある(条件は発表されていない)。また、教皇は飛行中に祝福のメッセージを習近平主席に送った。

カトリックは中国政府が認める5つの宗教の1つであるが、中国では中国政府の監督下にある中国愛国カトリック協会がカトリック信者を管理しており、15百万人のカトリック信者のうち約半数はそれに従い、残りは政府に隠れて信仰している。司教の叙任(任命)は教皇の専権事項であるが、同協会は中国人司教の叙任も自分たちで行なっており、そのためバチカンとの関係はよくなかった。

フランシスコ教皇は中国に強い関心を抱いており、その一つの理由は、おなじイエズス会の宣教師で中国に眠っているマテオ・リッチ司祭の関係であり、また、ザビエルが訪問した日本にも行きたいそうである。

フランシスコ教皇は国務長官にPietro Parolin枢機卿を任命した。同人は、2002年から2009年まで国家関係担当の国務次官を務め、北京との関係改善に尽力し、最も困難な問題であった中国人司教の叙任は、バチカンと中国愛国カトリック協会双方の承認を必要とするという暗黙の了解を実現した。しかし、2010年、新しい司教の叙任の際に中国政府はバチカンの承認を取り付けなかったので、了解は破られた。2012年には、バチカンにより叙任された司教が中国愛国カトリック協会には参加しないとしたため拘束され軟禁される事件が発生した。
しかし、フランシスコ教皇の中国への関心は強く、その演説やイニシャチブは中国で好意的に受け止められている。
習近平にとって、教皇と親密な関係を築ければ、宗教の自由や人権擁護を重視する姿勢をアピールできるだろう。さる6月初め香港の『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』紙はバチカンと香港の教会に近い筋からの情報として、バチカンと中国の官員が年末以前にも会うかもしれないと報道した。
中国の宗教政策は中国のプロテスタントやチベットのダライ・ラマとの関係など多くの要因により左右されるので関係改善は簡単でないが、中国に強い関心を抱いているフランシスコ教皇の下でいずれ関係改善が進むだろう。

2014.08.07

ロシアの対抗措置

ウクライナ情勢との関係で米欧が7月、対ロシア追加制裁措置を取り、日本も8月5日、追加措置を閣議で決定した(閣議了解)。内容は7月28日に菅官房長官が発表していた通りである(当ブログ8月4日「日本の対ロシア追加制裁措置」)。クリミアとの貿易制限は双方にとってほとんど影響はないだろう。資産凍結は、日本はプーチンの側近等は外した。かりに米欧のように含めていても、日本には彼らの資産はあまりないだろうから実質的意味は小さい。ただ、資本取引の制限は、欧州と共同歩調を取るなかで、一定の影響はあるかもしれない。
予想されていたことであるが、ロシアは米欧諸国および日本に対して一連の対抗措置を実施している。日本との関係では、官房長官の発表の翌日、日本が発表した追加制裁を「非友好的で近視眼的な措置」と批判する声明を発表した。
また、ロシアは8月末に予定されていた日ロ次官級協議を日本の対ロ制裁を理由に一方的に延期した。官房長官が6日の記者会見で説明している。この協議はプーチン大統領の訪日問題などについて準備を行なう重要な機会になるはずであった。しかし、日本としては過度に反応することなく、情勢の推移を見守りつつ、日ロ関係の進展を図っていくのであろう。

一方、ロシアは欧米からの食料品輸入について検査を強化しており、禁止される食品も出てきている。ロシア国内で営業しているファストフード店なども影響を受けているらしい。これもおそらく対抗措置の一環であろうが、マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、コーラ、果物、野菜、豚肉などロシア人の生活に関わることはどこまで締めあげられるか。衛生状態を保つことなど当然であるが、下手をすれば自分たちにその影響が及んでくる。また、ロシア自身がクリーンでおいしい食料を十分供給できるかという問題もあろう。
ロシアの対抗措置は1987年に米国と合意した中距離核戦力廃棄条約(INF)を無視するのではないが、一定程度サボることにも及んでいる可能性がある。この条約によって米ロは射程310マイル(500キロ)~3400マイル(5500キロ)の地上発射核戦力の保持・実験・開発を禁止されている(船舶・航空機から発射されるものは除かれる)がこれに違反してミサイルの発射実験をしたことである。米国務省が議会に提出した各国の軍備管理条約の遵守状況に関する報告書に記載されている。
しかし、実験の事実を米欧の制裁と短絡的に結びつけることは危険である。米国もかつて違反したことがあったらしい。ロシアの違反は今回始まったことでなく、2008年以来続いており、米側からこの問題をロシア側に何回も提起したとホワイトハウスの報道官が述べている(Josh Earnest報道官 7月29日)。
米国では、ロシアの条約違反を問題視するあまり、条約を廃棄してしまえと主張する者もいるが、研究者のなかには、大事なことはロシアを条約順守に戻すことであり、以前にもそういうことはあったと指摘する意見がある。いずれにしてもINFは冷戦の末期に結ばれた画期的な意義のある条約であり、締結以来の歴史を踏まえて見ていく必要がある。

2014.08.04

日本の対ロシア追加制裁措置

マレーシア航空機撃墜事件などにより東部ウクライナ情勢が緊迫化するなか、菅官房長官は7月28日の記者会見で、日本はロシアに対しつぎのような制裁措置を新たに実施すると発表した。所定の手続きが完了した後、措置の対象となる個人および団体のリストが公表される。
第一に、クリミア併合またはウクライナ東部の不安定化に直接関与していると判断される個人及び団体に対して、日本国内に有する資産を凍結する。
第二に、EUが先般発表した欧州復興開発銀行(EBRD)におけるロシア向け新規案件への対応に関し、日本はEUと協調して対応する。
第三に、日本はクリミア産品の輸入を制限する措置を導入する。

今回の日本政府による追加制裁の発表は、マレーシア航空機の事故処理を含め東部ウクライナの状況が改善されること、また、ロシアがそのために強い影響力を発揮することを希望して行なったものであるが、7月末に米欧諸国が取った対ロシア追加制裁措置を日本としても支持し、またそれに協力するという側面があるのはもちろんである。
日本の国際社会における地位からして当然であるが、ロシアとすれば、日本が米欧に偏り過ぎているとみなし、反発してもなんら不思議でない。ロシアとしては、さらに、かねてから予定されていたプーチン大統領の訪日をできるだけプレーアップするためにも日本が米欧と違って抑制的に対応してほしいという気持ちがあるかもしれない。意地悪な言い方をすれば、ロシアは日本の対応を悪用して自己の立場を有利に運ぼうとするかもしれない。
ロシア外務省は29日、日本が発表した追加制裁を「非友好的で近視眼的な措置」と批判する声明を発表した。また声明は、日本政府がロシアとの関係拡大を図る姿勢を打ち出してきたのは「日本の政治家が米国への追随から脱却して、自国の根本的な利益にかなう独自の道を歩めない実態を覆い隠すためだった」と指摘した(共同電)。プーチン大統領の訪日問題は宙に浮いた状態になっている。

日本は、プーチン大統領の訪日が北方領土問題の解決につながることを期待してきた。クリミアでロシアが行なったことを是認できないのはもちろんであるが、日ロ関係には影響させないようにと願い、3月に取った最初の対ロ制裁措置も実態的には影響が及ぶのを最小限に抑えるよう工夫した。今回追加措置を取るに及んで、少なくとも局部的にはロシアとの関係が以前にも増して困難になるであろう。
しかし、ロシアに対して友好的な姿勢を示し続けなければ北方領土問題が解決しないと考えるのは危険な発想である。ロシアは、クリミア問題が発生するまでG8の一員であったが、民主主義と価値を共有できない面があるのは否定できず、ロシアの安保理での行動にはそのような性格が反映されることがある。中国と共同で行動することが多いが、保守的な対応をし、人道問題についても主権を振りかざして安保理の動きを止めることである。
北方領土問題は早く解決したい。ロシアとの友好関係は増進したいが、日本の基本的立場を犠牲にしてまでロシアを喜ばせるわけにはいかない。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.