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2014.09.11

ぎくしゃくする中朝関係

9月9日、朝鮮中央通信社は朝鮮民主主義人民共和国成立66周年記念に習近平中国共産党総書記らが金正恩朝鮮労働党第1書記らに送った祝電(全文)を報道した。しかし、同日の大公報はこの祝電は恒例のことに過ぎないとしつつ、北朝鮮と中国の関係は一部に言われているように緩和の方向にあると見ることはできないと論じ、再度(8月19日の本ブログの記事「南北朝鮮・中国関係」の指摘に追加して)次の点を指摘している。
この大公報紙の論調は、中国の新聞の中には、同日の中国青年報のように北朝鮮の積極的な外交姿勢に注目する向きがあることを意識したものである。

○「中国が北朝鮮に冷淡ならば、こちらも冷淡にしてやる」というのが金正恩の考えであり、北朝鮮の外交姿勢は適切でなく、物事を分かっていない。
○先般のASEAN外相会議の際初めて登場した李洙墉外相は、慣例に従って中国の王毅外相と会談したが、中朝双方ともその報道ぶりはそっけなかった。中国側の新華社、中央テレビ、人民日報などは一言だけ報じ、北朝鮮の中央通信社は李洙墉の活躍ぶりを伝える一方、王毅との会談については何も報道しなかった。

2014.09.04

ウクライナ問題に関する9月5日の協議

9月5日、ベラルーシでウクライナ東部での戦闘に関し停戦協議が再開される。これに至る過程で関係諸国間ではフォローするのが困難になるくらいさまざまな動きや発言があった。停戦協議再開の前に多少」整理しておいた。

5月25日のウクライナ大統領選挙にまでさかのぼると、これに反対していた親ロシア派は前月から行動を活発化し、政府庁舎の占拠を始めていた。しかし、ウクライナ全体では大統領選挙は比較的円滑に実施され、ポロシェンコ新大統領が無事誕生した。

6月6日、ポロシェンコ・プーチン両大統領はノルマンディー上陸記念式典の際出会い、握手も交わした。この時は短時間であったのでとくに突っ込んだ話し合いは行なわれなかったが、ポロシェンコ新大統領にとっては上々の滑り出しであった。

6月27日、ウクライナはグルジアとモルドバとともにEUと連合協定に署名した。将来のEU加盟へ向けての準備の一環であるが、長年の懸案であり、ウクライナにとっては重要な前進であった。

7月17日、マレイシア機MH17便の撃墜事件が起こり、ロシアとウクライナおよび欧米諸国の関係は非常に悪化した。ウクライナ東部ではウクライナ政府の攻勢が強くなり、親ロシア派の武器、食料などが欠乏しかけており、それに対するロシアからの陸路補給が新たな問題となった。
米欧はロシアの姿勢がウクライナ東部の情勢を悪化させているとして対ロシア追加制裁措置を取り、日本も8月5日、追加措置を決定した。

8月26日、ベラルーシでポロシェンコ・プーチン会談が実現し、停戦協議の再開について合意された。その前からロシアによって支えられていた親ロシア派の攻勢が再び強くなり、ウクライナ政府軍は劣勢に立っていたので、この合意はウクライナ政府にとって救いであっただろう。

しかし、その後も事態は改善されなかった。8月28日、ポロシェンコ大統領は、ロシアの戦車部隊がドネツク州南部の国境を突破したとして、緊急声明を発表した。続いて、30日、ポロシェンコ大統領はEU首脳会談がおこなわれていたブリュッセルで会見し、ウクライナ東部の状況は「取り返しのつかない地点に近づいている」と訴え、停戦協議の重要性を強調した。

一方、停戦協議再開のための交渉は並行的に進められていたらしく、ベラルーシ外務省は30日、停戦協議が1日、ベラルーシの首都ミンスクで行われることを明らかにした。

ポロシェンコ大統領がEUなどに窮状を訴える間、ロシアのプーチン大統領は8月31日、「本質的な問題についての協議をただちに始める必要がある。ウクライナ南東部における政治組織、国家機構の問題だ」と述べた。親ロシア派が拠点としているドネツク、ルガンスク両州に、事実上の独立国に近い地位を与えるべきだという考えとみられた。

(9月1日のベラルーシでの協議は実現しなかった。)

NATOは9月4~5日に英国西部ニューポートで首脳会議を開催する。1日、北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長は記者会見で、ウクライナ危機を受け、即応体制の強化に向けて数千人規模の「先陣部隊」を新設する考えを明らかにした。この部隊は最短2日で域内に展開可能である。また、有事の際に機敏に対応するための「即応行動計画」がまとめられる予定となった。先陣部隊は同計画の柱である。

9月3日、オバマ米大統領はNATO首脳会議に先立つ3日、エストニアを訪問し、同国とリトアニア、ラトビアのバルト3国防衛へのNATOの支援を確約した。同時にオバマ大統領はウクライナでの対立激化についてロシア政府を非難し、ロシアの侵略姿勢に対する結束を呼びかけ、た。NATO事務総長とオバマ大統領の行動と発言はロシアにとって強い圧力となったものと推測される。

同日、ポロシェンコ・プーチン両大統領は電話で協議し、ウクライナ側の発表によると、「平和の確立に向けた段取りについて、相互理解が得られた」。
一方、プーチン氏は訪問先のモンゴルで、電話協議について「紛争の正常化に向けた道筋について、私たちの見解は非常に近いと感じた」と述べた。
プーチン氏はさらに、電話協議後モンゴルに向かう機中で書き上げたという、7項目からなる停戦計画案を発表した。(1)ウクライナ軍と親ロ派の即時停戦(2)ウクライナ軍の撤退(3)国際的な停戦監視(4)紛争地での一般市民に対する軍用機の使用禁止(5)捕虜の無条件交換(6)避難民の移動と人道支援物資運搬のための「人道回廊」の確保(7)破壊されたインフラの復旧である。親ロ派に対しても停戦を呼びかけた点が注目されたが、ウクライナ軍に対して東部から撤退するよう求める一方、親ロシア派による政府建物の占拠には触れておらず、ウクライナ側が受け入れない可能性もある。
プーチン大統領は以前、ウクライナ東部に事実上の国家ないし独立性の高い自治区を認める必要があると言っていた。そのような考えはすでになくなっているかという問題もある。

2014.08.31

ロシア兵の越境問題

ロシア兵が国境を越えウクライナ領内に入っていることがほぼ確実になった。ロシア政府は相変わらず否定し、ウクライナ側に拘束された兵士は誤って国境を越えたとか、上空から撮影された写真はねつ造であるなどと主張しているが、親ロシア派さえ記者会見でそれを認めているので否定の余地はなさそうだ。ただし、国境を越えているロシア兵はロシア政府が正規に命じた派遣でなく義勇軍のように兵士の個人的行動である可能性はある。それにしても車両を何十輌も連ねての行動なので、実質的にはロシア軍としての行動に他ならない。
8月26日にウクライナのポロシェンコ大統領とロシアのプーチン大統領が長時間会談した。会談すること自体事態の打開へ向けての前向きの行動になりうると期待されたが、どのような成果があったかよく分からない。この会談と並行して、ウクライナは前日の25日にロシア側から越境した装甲車群を攻撃した際に拘束したとするロシア兵士の映像を公開した。
ポロシェンコ大統領との会談についてプーチン大統領は29日、ロシアのトヴェリ州で開かれた青年との対話フォーラムで、ウクライナで拘束されたロシアの空挺隊員をロシアに返却することで合意したことを明らかにした。プーチン大統領はさらに、ウクライナ軍人も何度となくロシア領内に入り込んでおり、その数は何十人、いや何百人に上るが、彼らは単に紛れ込んだだけだと言っているとも語っている。事実関係は複雑なのだろうが、空挺部隊が国境付近にいたこと自体弁明にしようのない行為であると思う。

ロシアの立場はさらに悪化している。欧米諸国はさらなる追加制裁に言及し始めている。プーチン大統領は青年との対話で、ロシアは核兵器を持つ軍事大国であるなどとも発言したそうだ。青年を安心させるために言ったことかもしれないが、ロシアが各国に対して引けを取らないと胸を張れるのは軍事力だけになりつつある。ロシアは冷戦終了後G8の一員となり、安保理の常任理事国であることにさらに国際的看板が増えた。今や、その一枚ははがされてしまった。BRICsの一員であるが、影は薄い。国連では中国と同じく保守的な勢力として西側には厄介な交渉相手であるが、それも半分以上中国がいるからではないか。ロシアが中国に依存しているとは思わないが、中国に比べてロシアの政治力は弱い。
経済面ではロシアの石油と天然ガスは欧州諸国との相互依存関係を深める手段であるが、ドイツも含め欧州はそのことを見直さざるをえないだろうし、米国のシェールガス開発の影響も中期的には及んでくるだろう。ロシア経済はあまりにもエネルギー依存が強く、欧州諸国よりもロシア自身がロシアのエネルギーに依存している。オバマ大統領が、ロシアはかつてないほど孤立しているというのは重みのある発言である。

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