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2022.05.24

バイデン大統領の台湾に関する発言

 バイデン米大統領は5月23日、岸田文雄首相との共同記者会見で、中国が台湾に侵攻した際に米国が台湾防衛に軍事的に関与するかとの質問に対し、「イエス。それが我々の約束(コミットメント)だ」と答えた。
 
 歴代の米政権は中国が台湾に侵攻した際、米国が軍事介入するか明言せず、バイデン氏の今回の発言は「あいまい戦略を踏み越えた」とも、「失言」であったとも評された。これらの評論は必ずしも間違いでないが、適切であったか疑問の余地がある。

 「あいまいな戦略」については、これは米政権自身が命名したことでなく、研究者やメディアが使ってきた言葉である。

 実は中国が台湾に武力侵攻した場合、米国が軍事力を行使して阻止するかについては法的には「あいまい」な面があった。米国と中国の関係を規定している2つの基本文献を以下に引用しておく。

 1つは1972年のニクソン大統領訪中時の「上海コミュニケ」であり、「米国は,台湾海峡の両側のすべての中国人が,中国はただ一つであり,台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は,この立場に異論をとなえない。米国政府は,中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する」とした。

 上海コミュニケの後米国で制定された「台湾関係法」は、「台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の能力を維持する」とし(台湾関係法2条B項6)、さらに「大統領は、台湾人民の安全や社会、経済制度に対するいかなる脅威ならびにこれによって米国の利益に対して引き起こされるいかな危険についても、直ちに議会に通告するよう指示される。大統領と議会は、憲法の定める手続きに従い、この種のいかなる危険にも対抗するため、とるべき適切な行動決定しなければならない。」と明記した(同法3条C項)。

 上海コミュニケと台湾関係法によれば、米国が「軍事力を行使することはありうる」が、「そうすることが義務である」とは述べられていない。法的には米国は武力行使するかもしれないが、しないかもしれないのであり、その意味では「あいまい」であった。米国の歴代政権は「あいまい戦略」を取ってきたといわれるが、米中の国交樹立の時点から「あいまい」だったのである。

 米国による武力行使については直接述べられていなかったが、「米国は台湾問題の平和的解決に関心を持つ」、「米国は、台湾人民の安全に危害を与えるいかなる武力行使にも対抗しうる能力を維持する」など間接的な言及はあり、中国が台湾に武力侵攻してきた場合、米国は武力で対抗するだろうというのが大方の解釈であった。

 では今回のバイデン大統領の発言は「あいまい戦略を踏み越えた」か。発言は武力を行使して対抗することを明言している点では踏み越えたように見えるが、バイデン大統領や政府は「武力行使の決定はしていない」という立場であろう。「政治的な意図の表明だ」と弁明するかもしれない。それも間違いとは言えない。実際に米国が武力行使に踏み切る場合、議会に報告し、了承を取り付ける必要がある。また、米国憲法では宣戦布告の権限は議会にあるので、その制約を超えるわけにいかない。つまり、バイデン大統領は「武力行使する」といったが、その前提になっている憲法などの制約に従うことは当然であり、バイデン氏が記者会見で「武力行使」の発言をしても直ちにとがめられることはないのだろう。

 米国政府は米国の対中政策は変わらないといち早く表明した。これもバイデン発言が問題になるのを抑えた。

 バイデン氏の発言は失言でなく、用意されたものであったと思われる。バイデン氏はロシアがウクライナに侵攻する前の2021年末に、「ロシアがウクライナに侵攻した場合に米軍をウクライナに派遣することは検討していない」と述べ、台湾をはじめアジアにおいても注目され、懸念された。今回の日米首脳会談では台湾が主要議題の一つとなるので当然関連の質問を想定し、準備もしていただろう。その結果が、今回の政治的発言になったと思われる。
2022.05.10

ウクライナ侵攻を冒したプーチン大統領の誤算

 プーチン・ロシア大統領は5月9日、1945年のナチスドイツに対する戦勝記念日において演説した。事前には、ウクライナでの戦況、戦争宣言、核の問題などについて言及するかもしれないと予測されていたが、行われなかった。もっとも、そのような問題点を騒ぎ立てた責任の一半は西側のメディアにあり、プーチン演説は意外なものでなかった。全体の印象は力強さが感じられない低調な演説であり、ロシアの身勝手な論理でロシア国内向けに発したプロパガンダであった。記念パレードが華々しいものでなかったことも指摘されている。

 ロシアによるウクライナへの侵攻状況は悪化している。首都キーウの攻略は失敗した。現在東部の要衝はウクライナ軍によって徐々に奪還されつつある。黒海艦隊はウクライナ軍の攻撃により深刻なダメージを受けた。ロシアに対する経済制裁はじわじわと効果を発揮しつつある。6月になるとウクライナへの支援兵器がすべて到着する一方、ロシアからの兵器供給は鈍化し、ロシア軍の装備不足は深刻な状態に陥るという見方が強くなっている。ロシア軍はそれでも市民への攻撃を続け、甚大な被害が生じているが、今後、軍事的にロシアが有利になるという見解は皆無と言える。

 プーチン大統領がウクライナへの侵攻という深刻な過ちを犯したのは、つぎのような問題を見誤り、ロシアに都合よく解釈したからではないか。
 
 第1に、ロシアは2008年のジョージア紛争ではオセチアとアブハジア、14年にはクリミアを武力を用いて強引にロシアの支配下に置くことに成功した。これが一種の成功体験となってウクライナの抵抗力を過小評価し、キーウを数日間で攻略でき、ゼレンスキー政権を倒せると考えた。

 第2に、日本を含む西側が一致してロシアに対する経済・金融制裁を実施、強化した。ドイツをはじめヨーロッパ諸国はロシアの天然ガス及び石油に依存する割合いが高く、ロシアからまったく購入しなくなるとは予想できなかった。ドイツなどはたしかにかなり困難だったようだが、それでも今後ロシアからの購入は中止する方向に転換した。
 一方、ロシア経済は、以前からのことであるが、天然ガスと石油の輸出に依存する体質を改善できないままできており、経済・金融制裁への対抗はままならない。

 第3に、ロシアの安全保障・軍事態勢が大方の予想を超えて弱体化していた。ウクライナ紛争でロシア軍は多数のウクライナ人を殺傷したが、戦闘能力には問題があることを露呈してしまった。海上でも、「モスクワ」をはじめ黒海艦隊の主要艦が数隻撃沈させられている。
 核だけは別で、いまでも米国に十分対抗できる戦力を維持しているだろうが、かりに戦術核であっても全面戦争に発展する危険は払しょくできず、もしそうなれば、米国だけでなくロシアも壊滅する危険が大きい。プーチンは核の脅しを口にするが、ロシアにとっても究極的には恐ろしいはずである。
 ともかく、通常兵器の面では、一部戦車や火砲は最先端のものを開発しているが、継続的に生産し、軍を近代化するに至っていない。兵器の供給状況は制裁の影響でますます悪化している。また、ウクライナでの戦闘においてロシア軍の士気は上がらない。
 
 第4に、NATOの未加盟国に対する影響も大きく、フィンランドとスウェーデンは第二次大戦後の安全保障戦略を見直し、NATOへの加盟の可能性を公言するに至っている。スウェーデンは5月15日に加盟申請を決定する。フィンランドも同じころのはずである。
 しかるに5月10日から12日まで、サンナ・マリン・フィンランド首相が訪日する。その目的は、同国がNATOへの加盟申請を決定した結果ロシアが強く反発しても、日本にフィンランドを支援するよう求めることではないか。これしか考えられない。

 第5に、中国はロシアによるウクライナ侵攻に一歩距離を置いており、経済支援は行っているが、軍事支援は控えている。ただし、この点は明確でない部分もあるので断定はすべきでないかもしれない。
 中国にとって最大の問題はウクライナ侵攻が台湾の統一にどのような影響を及ぼすかを見定めることであり、ロシアのウクライナ侵攻が成功しても、しなくても、台湾の統一に障害となる危険がある。
 ロシアは中国にとって、今後も米国との関係や国連での対応に必要な仲間であり、ロシアにすげなくすることはできないが、かといってウクライナ問題は中国の利益にどのように影響するか不明であり、当面中国としてはウクライナに関して旗幟を鮮明にすることは困難であろう。 

2022.04.14

尹錫悦氏の朴槿恵氏訪問などと日韓関係


 現在韓国の政界で起こっていることは理解に苦しむ。

 5月10日に次期韓国大統領に就任するのを前に、尹錫悦氏が朴槿恵前大統領を訪問し、謝罪した件である。尹錫悦氏は4月12日、2021年12月に特別赦免された朴槿恵前大統領の自宅(大邱)を訪れ、「面目がない。いつも申し訳なく思っていた」と謝罪した。謝罪の理由は尹氏が特別検察官の捜査チーム長として朴氏の疑惑を捜査・訴追し、結果、朴氏は国会では弾劾され、裁判では2件で計22年の懲役刑となり、収監されたことなのであろう。

 会談は約50分間。和やかな雰囲気で行われ、朴氏は「激務だろうが、良い大統領であってほしい」と尹氏を気遣った。

 尹氏は朴氏に、就任式の出席を要請した。また、尹氏は「朴氏の行った政策を継承し、広く知らせて、名誉を回復できるようにする」と強調し、朴氏は感謝の意を示したという。

 尹錫悦氏はなぜ謝罪したのか。朴槿恵氏に対し、してはならないことをしたかのような発言であるが、当時、検事として法に従い行動したのであり、そのことには疑義が呈せられていない。問題なかったわけである。

 朴氏との和解を演出して保守の結束をアピールする狙いだとする見方もある。しかし、そのためなら尹氏が朴槿恵氏の自宅を訪れ、会談することで十分だったはずである。謝罪することは必要でない。謝罪はどう考えても奇異な感じである。

 尹氏は会談後、記者団にも「人として、申し訳ないという気持ちを伝えた」と発言した。何が人として申し訳ないのか。この発言にも、尹氏は道徳的に反省すべきことをしてしまったような印象があり、奇妙である。

 検察官として法に基づき行った行為についても有罪と判断した、あるいは訴追したことについては謝罪するのが韓国の常識だというなら話は違ってくるが、万一そういうことであれば、それはそれで恐ろしいことである。日本人が韓国の裁判所で裁判されることもあろう。その場合に、法律に従うだけでなく、検察官は「人として申し訳ない」と思うほどのことを行うのか。

 朴槿恵氏の側も心得たものである。朴氏が感謝の意を表明したのは分かるとしても、「激務だろうが、良い大統領であってほしい」と尹氏を気遣ったことはどう理解すべきか。相手の尹氏は自分(朴氏)に対して「人として申し訳ない」というほどのことを行ったのだが、朴氏は鷹揚に、暖かく応じたことになる。それは立派な態度とみられるかもしれないが、過度に親切ではないか。

 現在、文在寅大統領の政権与党「共に民主党」側の大物や家族が血祭りに上げられている。検察改革を掲げて2019年9月に法相に任命され、当時検事総長だった尹氏と対立関係にあった曺国(チョ・グク)元法相の娘の大学院入学は取り消された。曺氏は「これでご満足いただけたか」と悲痛な叫びをフェイスブックに投稿し、「(娘にとって)人生を破壊する死刑宣告と何ら変わりません」とも訴えた。

 朴氏の友人で国政に関与した疑いで逮捕、起訴された崔順実(チェ・スンシル)氏の娘に不正入学疑惑が浮上した時、曺氏は崔氏を激しく批判したが、結局は自分と家族も同類だったのではないか。

 曺氏にはさらに、長男、実弟が嫌疑をかけられ、「曹国事態」と呼ばれる状況になっているという。

 退任を控えた文大統領には、不正な土地投機疑惑や市長選介入疑惑があるほか、妻の金正淑(キム・ジョンスク)氏には、衣装代を特殊活動費で購入した疑惑が持ち上がっている。「大統領府が『公費ではない』と主張するなら内訳を公開すべきだ」という声も日に日に強まっているという。

 今回の大統領選で尹氏に敗れた李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事の妻、金恵景(キム・ヘギョン)氏も捜査対象となっている。李氏が京畿道知事を務めていた当時、金氏が公務用クレジットカードを私的流用していたとして、4日に京畿南部警察庁が京畿道庁を家宅捜索している。当時の道職員に料理の配達など私的な雑用をさせていた疑いもあるという。

 李在明氏自身については、以前よりささやかれていた京畿道の土地開発を巡る不正、あるいは自身と反社会的勢力とのつながりとそれを利用して政治に介入していたことへ疑惑が向けられている。

 あるコメンテーターは、「尹氏の指示ではなく、権力に寄り添う姿勢をみせる検察などが積極的になっているのだろう。韓国独特の検察の体制に大きな問題があるが、今後、風(世論)を読んだ上で文氏や李氏を追い込むのではないか」とコメントしているが、これも気になる。

 尹錫悦氏は日本との関係改善に熱意を持っていると伝えられている。不肖私も日韓関係の改善を望む一人であるが、同氏の朴槿恵氏訪問と、文在寅大統領や曺国元法相、さらには李在明氏などに起こっていることからうかがわれる韓国の政治・司法事情は日本とあまりにもかけ離れている。日本は、慰安婦や元徴用工の問題に関しては条約や両国政府で合意したことを忠実に履行すべきだという立場であるが、韓国では、条約、両国間の合意、法律では問題は解決しないという立場に見える。尹錫悦氏が朴槿恵氏に対して誠意を示すことについて第三者としてとやかく言うつもりはないが、検事総長まで努めた人物であり、条約であれ、国内法であれ、法的に処理することの重要性をよく理解している大統領になることが期待される。

 日本でも最近、犯罪、あるいはその恐れが強いことが政治の世界の暗闇で行われ、権力の乱用が起こっている。そのことに目をつぶることは断じてできないが、2国間で合意したことを忠実に履行することは絶対的に必要である

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