平和外交研究所

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2017.01.25

(短文)南シナ海問題に関する米新政権の立場

 1月23日、新政権として初の大統領府記者会見でホワイトハウスのスパイサー報道官は、南シナ海問題に関する新政権の姿勢について、「中国がスプラトリー諸島などで国際法に違反して埋め立てや軍事施設建設の工事を行っていることは認められず、米国はしかるべき措置を取って対応する」という趣旨のコメントをしたのだと思うが、その具体的な説明ぶりには問題があり、「スパイサー報道官の説明通りであると紛争はエスカレートする恐れがある。それとも新政権の外交政策の説明ぶりとして不適切なのか」などと厳しく報道されている(ワシントン・ポスト紙1月24日付など)。スパイサー報道官が説明したのは、「米国は南シナ海の国際水域において中国が領土を取る(take over)のを防止する(the United States would prevent China from taking over territory in international waters in the South China Sea.)」ということであった。
 同報道官の記者会見に先立って、国務長官に指名されたティラーソン氏は米議会での審査において同様の問題意識から”The United States would not allow China access to islands it has built in the South China Sea, and upon which it has installed weapons systems and built military-length airstrips.”と述べており、その時は説明がよくなかったものとみなされ、大事にならずにすんでいた。
 しかし、スパイサー報道官の発言は同じ趣旨であり、ティラーソン氏の説明が稚拙だったのではなく、ひょっとしたら新政権の姿勢を忠実に説明しているのではないかと記者が色めき立ったのである。
 とくに注意をひいたのは、ティラーソンが「アクセスを許さない」とし、スパイサーが「中国が領土を取る(take over)のを防止する(prevent)」と述べたことであり、そんなことはいったい可能かと記者が問題視したのであった。本当にそうしようとすれば、かつてのキューバ危機のように海上封鎖が必要となり、そうなると中国と戦争になる恐れがある。だから「アクセスを許さない」などと軽々にいうべきではないと記者は思ったのであろう。厳密な論理的説明を求める米国人記者の姿勢にあらためて感心するが、ちょっと厳しすぎるのではないかという感じもある。
 それはともかく、米国紙が南シナ海の問題についてそこまで深く関心を持つのは印象的なことだ。南シナ海で米中両国がどのような姿勢で臨むかは、尖閣諸島にも強く、直接と言ってもよいが、影響する問題である。
2017.01.23

米新政権は世界のパワーバランスを変える?

 ドナルド・トランプ氏が1月20日、米国の第45代大統領に就任した。就任演説で謳った「米国第一」、それに米国企業を活性化し雇用を創出することは同氏が大統領選挙戦中から訴え続け支持を集めてきた持論であるが、それはともかく、米国の大統領としては視野の狭い演説だった。
 トランプ新政権はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱など新政策をいち早く打ち出している。行動を起こす速さは印象的だが、複雑かつ多面的な米国経済にとってトランプ氏が主張するような保護主義的方法が有効か。いわゆるラストベルトの不満労働者はともかく、だれもが疑問に感じているだろう。

 また、個々の政策を超える問題にも注意が必要だ。たとえば、米欧間に不協和音が生じている。これは単に米国と欧州だけのことでなく、欧州と立場が似ている日本としても注意が必要だ。
 不協和音の第一の原因は米ロ関係の改善である。しかも単に両国の関係がよくなるというだけでなく、トランプ氏は他の諸国よりもロシアを重視している。たとえば、オバマ大統領がロシアのサイバー攻撃について発表したのに対し、「ロシアがやったとは思わない」というのがトランプ氏の最初の反応であった。そして、情報当局から詳細な説明を受けた後、「ロシアがやったかもしれない」と修正した。要するに、「まず擁護、必要なら後で修正」という姿勢を見せたのだ。
 一方、西欧諸国や日本に対しては、トランプ氏は「まず攻撃、必要なら後で修正」という姿勢である。たとえば、米欧の安全保障のかなめである北大西洋条約機構(NATO)について、トランプ氏は、まず、「時代遅れ(obsolete)」だと切り捨てた。そのうえで、「欧州諸国が払うべきものをちゃんと払えば改善できる」とした。日米安保条約については「時代遅れ」とは言っていないが、財政負担についてはまったく同じ論法で日本を批判している。
 ドイツのメルケル首相に対しては、さらに、難民を受け入れたのは「悲惨な結果をもたらす誤り(very catastrophic mistake)」だと批判した。
 また、欧州統合(EU)の重要性を否定するような発言を繰り返している。ドイツやフランスにとっては難民問題以上に不愉快な批判だろう。

 トランプ氏が主張するような方向で物事が進めば、その先には西側対ロシアという冷戦以来の対立構造が変化して米ロ対西欧・日本ということになる危険が出てくるのではないか。その場合に中国がどのような地位に立つかということも大問題だ。
 もっとも、このように大きな歴史的変化は簡単に起こることでなく、米国の大統領といえども一人だけで変えることはできない。冷戦が終了したのも様々な要因が絡んでいた。トランプ氏もロシアとの関係を一人で変えることはできない。いずれしかるべきところに落ち着くという見方もある。
 
 しかし、西欧諸国は一時的であれロシアに甘い顔はできない。ウクライナの問題は依然として深刻である。
 総じてトランプ氏の発言は西欧の常識からあまりにもかけ離れている。メルケル首相は最近のインタビューで、「我々欧州人は我々の運命を我々自身で決める(We Europeans have our fate in our own hands)」と言ったし、フランスのオランド大統領も同様の発言をしている。要するに部外者が勝手なことを言わないでほしいということだが、彼らの心のどこかには、「民主主義と価値を西欧と共有してきた米国であったが、新政権はどうも違う」と思い始めているのではないか。
 
 米欧間の不協和音は日本にとっても他人事でない。日本の立場は西欧と共通しているところがあり、とくに安全保障の面では、トランプ氏は日本に対し西欧に対するのと同様に、「もっと財政負担せよ」と要求している。日米安保条約については「時代遅れだ」とは言っていないのは救いだが、トランプ氏が同条約の現状に満足していないことは明らかだ。新政権の国務長官や国防長官になる人は日米の同盟関係の重要性をよく理解しているだろうが、トランプ氏の考えは違っているところがあるのではないか。
 トランプ新大統領のロシアとの友好関係を重視する姿勢はこれまでの西側諸国間の政治理念の共有に変化を起こし、さらには世界のパワーバランスにも変化を生じさせる危険をはらんでいる。

2017.01.20

新千歳空港で起こった残念な出来事

 西本紫乃氏が1月17日付でWEDGE Infinityに投稿された一文は大変参考になるので転載する。
 
 中国人旅行者が新千歳空港で行き過ぎた行動に出たのは問題だ。しかし様々な原因が絡んでいる。西本氏は中国人に対する偏見が問題を大きくしたことを指摘している。それと、関係の航空会社、空港の関係者、中国の札幌総領事館にも非があったようだ。空港内に3日間も滞在を余儀なくされた旅行客には同情すべき点がある。

(以下が転載)
「新千歳空港で暴れた中国人乗客」騒動の真相 – 西本紫乃

 12月22日から24日にかけて大雪に見舞われた新千歳空港では航空便の欠航が相次ぎ、一時、1万6,000人もの人々が空港に足止めされた。空港ターミナル内で寝る場所や食料が十分にない中で3日間にわたって空港ビル内で滞在を余儀なくされた人も多く、空港は大混乱になった。
 この空港の大混乱で最も注目されたのが、中国人が飛行機が飛ばないことに抗議して警察が出動する大騒動になった、というニュースだ。しかしこの情報、事実の前後関係や現場の状況など詳しい情報がないままYoutubeに投稿された画像が独り歩きし、「すわ!中国人が!」とばかりに、多くの日本人の耳目を集めた何とも奇妙なニュースの拡散の仕方だった。中国でもこの話題は大きく取り上げられたが、日本での報道ぶりに対して中国側は、事実を極端に捻じ曲げて大げさに伝えていると抗議。なぜ騒動が起こったか具体的な理由が明らかにならないまま、この一件は後味の悪さしか残さなかった。一体、あの時、新千歳空港で何が原因で騒動が起こったのか。騒動になった中国国際航空の北京行きCA170便に予約していて混乱に巻き込まれた人から、現場が実際にどのような状況だったのかを聞いた。

大雪による遅延の発生とふりまわされた乗客たち
 22日午後から、新千歳空港では午後から雪の影響で航空便が軒並み欠航となった。13:50発予定の北京行の中国国際航空のCA170便も欠航となったが、欠航の決定は夜になってからだった。欠航が決まった後、中国国際航空は欠航便の乗客に対して翌日8時に、チェックインを再開する旨をアナウンスした。このため、翌朝のチェックイン再開に備え、同便を予約していた多くの人がターミナル内で一夜を過ごした。
 しかし、23日朝、前日に案内された時間にはチェックインをしても搭乗案内が一向になく、北京行きの乗客たちは空港内で待たされ続けた。23日午前には上海行きの中国東方航空、台北行きの中華航空など、22日欠航となった他の国際線の飛行機が次々に出発する中、北京行きのCA170便は午後になっても出発の目途が立っておらず、搭乗口で待たされ続ける乗客たちの不満とイライラは募っていった。

乗客の不満を招いた航空会社対応の不備
 23日16時頃、中国人観光客の50代くらいの男性が中国国際航空の日本人スタッフに事情の確認と要求をした。この中国人男性の声が大きかったことから、日本人スタッフが警察官を呼んだ。ただし、この時抗議をした中国人乗客の要求は理路整然としていて、出発を待っている人の中には高齢の人や病気を抱えた人がいる。空港内の売店では食べ物が売り切れていて手に入らないし、空港ターミナルは深夜、暖房が切られとても寒くなる。生後10か月の乳児を抱えた人もいて、ミルクをつくるためのお湯も手に入らない。もし、23日中に出発できず今晩も一泊しなければならないのなら、航空会社がホテルを手配してほしいという要求だった。警察官も丁寧に中国人乗客らの話を聞いたが、警察側はどうすることもできない。18時過ぎに中国国際航空の中国人責任者が現場に姿を現したが、結局、乗客が満足するような対応はしてくれなかったという。
 この時、空港内では国内線の欠航によって足止めされた多くの日本人もいたが、国際線の乗客は国内線の乗客に比べて多くの荷物を抱えている、外国人が大多数で言葉の壁もある。ましてや、北京行きの乗客たちは、他の国際線が飛んだのにどうして北京行は飛ばないのか、という不満も募っていた。
 中国人乗客の中には、新千歳空港での自分たちの窮状を、札幌にある中国総領事館に電話で助けを求める人もいた。この時に実際に領事館に電話をかけた人の話によると、中国総領事館の対応は冷たかったそうで、乗客たちにとって何ら問題解決にはならなかった。待っている中国人たちの中には、中国版Twitter「微博」を利用して中国政府の航空会社を統括する機関である民航総局に向けて「@民航総局」とハッシュタグをつけて、直接、中国国際航空の対応の不備を直訴する人もいた。
制限区域内に留まり続けた乗客たち
 夜、22時になって22日と23日のCA170便はついにこの日の欠航が決定した。この時になり、夜になって再び中国国際航空の中国人責任者が乗客の前に現れた。悪天候だから仕方がない、出国審査を済ませた制限区域内で待ち続けることはできないので再入国手続きをして空港内で待つように乗客たちを促した。乗客たちにとって中国人責任者の対応はとても冷淡に感じられたという。また再入国をすれば再度入国審査の列に並ばなければならないことを嫌って大部分の乗客、およそ200人が制限区域内にとどまり続けた。深夜、航空会社側は乗客たちの再入国を促すために、再入国した人には空港内のレストランで使用できるミールクーポンを配布したが、配られたのは23日のみ有効の日付のクーポンで乗客たちは一様に呆れた。
 天候理由での欠航は、航空会社は責任を負わないというのが一般的なルールだ。このため悪天候が原因で飛行機が出発しなかった場合に、乗客に食事やホテルを手配しないことになっている。ただし、実際にはイレギュラー時にどこまでサービスするかは、航空会社によって対応が異なる。実際に22日の台湾の中華航空も欠航となって出発できなかったが、中華航空側は乗客に対して食事やホテルを用意し、乗客たちはアウトレットモールでの買い物や温泉を楽しみ、2日間の余分な日本滞在にも満足をしていた。こうした他の航空会社との対応の違いも、この時の中国国際航空の乗客の不満の原因の一つになったのは間違いない。

日本人の中国人を見下した態度
 23日夜まで、22日と23日の欠航になったCA170便の乗客たちの不満の矛先は、主に中国国際航空の対応に向けられていたが、日付が変わって24日の深夜、乗客らの嫌悪感は日本側に向かうことになる。
 深夜2時、日本人の空港管理者と警察官6~7名が乗客たちの前に現れ、制限区域内にとどまっている乗客ら一人一人に、速やかに再入国手続きをして制限区域内から出るよう声をかけて回った。その場にいた乗客の話によると、この時の空港ターミナルの責任者らの乗客への接し方は非常に高圧的で、制限エリアから出ると寝る場所がないと乗客らが訴えても、「あなたたちの自業自得だ」と繰り返し、「自業自得」という言葉に多くの中国人が反発を覚えたという。深夜でみんな疲れていることから、中国国際航空の中国人責任者と日本人スタッフは空港管理者に配慮を求めたが、管理者の日本人は「あと1時間以内に全員を制限区域内から出すように」と厳しい口調で要求した。中国国際航空の日本人スタッフに対して乗客たちの見ている前で「(日本人なのに)どっちの立場なのだ」、「中国人に譲歩してはいけない」と咎めた。空港管理者側と乗客との板挟みになり、涙を流す中国国際航空の日本人スタッフを見て、乗客の数人が駆け寄って慰める一幕もあったという。乗客のほとんどを占める中国人たちは、空港側の対応に強い怒りを覚えたという。
早朝から再搭乗手続きのために8時間立ちっぱなし
 結局、24日早朝4時に全員、制限区域内から退去させられ、乗客たちは6時から再びチェックインのために長蛇の列に並ぶことを余儀なくされた。韓国行きやタイ行きなど、他の国際線の利用客らも出発ロビーにたくさん集まったため、CA170便の利用客らがチェックインと入国手続きを終えたのは昼を過ぎた時間になっていた。23日の欠航便の乗客たちは空港で寝泊まりした後、チェックインのために8時間以上も立ちっぱなしで待たされたのだ。
 以前より、北海道への外国人旅行客は過去10年で4倍近くに増加している。増加する海外からの観光客を受け入れる上で新千歳空港の国際線の設備や人員数のキャパシティが十分でないことが近年問題視されていたが、この時、3日間に及ぶ悪天候を受けて、完全に国際線出発ロビーがパンクしてしまっていた。空港内はあふれかえる外国人らで大混乱が発生した。

 安全検査場を待つ行列も、韓国人やタイ人など様々な国の人たちで長蛇の列となった。この場に居合わせた人の証言によると、ここでも利用者らを誘導する日本人スタッフがきちんと並んでいないのは中国人と決めつけ、韓国人の利用客を中国人と誤解して「中国人はいつも並ばない」と見下したような言い方をする場面もあったという。
 めったにない3日連続の空港の混乱によって、空港の各部門の人々の疲労やストレスもピークに達し、大勢の利用者を相手にイライラも募っていたことだろう。そういう状況だからこそ、普段から思っていることが口を突いて出たり、外国人に対する潜在的な反感がどうしても態度に出てしまうものなのかもしれない。ただ、そうした相手を見下すような言動は、受けた側の心には強く刻まれるものであることも忘れてはならないだろう。

38人の中国人女性研修生が起こした騒動
 24日、本来なら22日と23日のそれぞれ午後に出発する予定だったCA170便の乗客たちは夕方頃にようやくチェックインと安全検査、出国手続きを済ませて搭乗口までたどり着いた。制限区域内は遅れている国際線の便の乗客らでごった返していて、北京行き以外の乗客らのイライラも募っていた。20時前頃、春秋航空を利用する中国人乗客らが飛行機の遅れに対し、搭乗口カウンターの上に上がって騒ぐ一幕があった。そのすぐ後に春秋航空の便が出発したことから、CA170便の乗客らも「騒げば出発できる」と冗談ながらに言いあった。
 22日に欠航したCA170便は、24日20時過ぎに出発した。23日の欠航便の利用客らは引き続き、搭乗口で待たされたのだが、その中に中国人研修生38人の女性グループがいた。彼女らは北海道の農家で、外国人技能実習制度で研修生として3年間働き、帰国するところだった。都会の比較的裕福な人たちが多い中国人観光客とは違い、彼女らは田舎の貧しい地域の出身で年齢は18歳から25歳くらい、学歴は中学校までしか卒業していない。日本人には想像しにくいが、中国では農村と都市とで育つ環境や受ける教育があまりに違いすぎて、人々の素養の差がとても大きい。23日夕方に航空会社に大声ながらも筋の通った要求をした中国人観光客たちとは同じ中国人とはいえ要求の仕方は少し違う。中国の田舎の人たちは忍耐強いが、論理的に物事を訴えることが苦手だ。
 日本語もわからず、携帯電話も持っておらず、彼女らは何も情報がないまま3日間空港に待たされていた。北京に到着してもそこから更に列車やバスなどに長時間乗って、遠くのふるさとまで帰らなければならない。故郷で待つ家族に連絡もできないまま、帰国が遅れて彼女らもまたイライラを募らせていた。
 そのような中で、21時ごろ、23日のCA170便が24日も欠航となることが伝えられた。38人の研修生グループのうちの3人が、雪が降っていないのになぜ出発できないのか中国国際航空の日本人スタッフに詰め寄った。そこで言い争いになり、日本人スタッフが床に倒れ、航空会社側が警察に通報して警察官が駆け付けた。警察を相手にスタッフを押した、押さないの押し問答になった。警察官が1人の中国人研修生を連行しようとしたところ、昨夜から日本人に対する嫌悪感が高まっていた中国人乗客らが、騒動に加担し警察への抗議に加わった。警察官が研修生の一人を連れて行こうとしたところ、女性が悲鳴を上げて倒れ、倒れた2人の研修生ともう1人の研修生の3名が、警察によってその場から連れて行かれた。
 23日に欠航になったCA170便は、結局、25日未明にようやく、北京に向けて出発したのだった。中国メディアは25日、テレビやネットを通じて、札幌の中国総領事館のスタッフが、新千歳空港で足止めになっている中国人に食べ物を届けたと、政府のイメージをアップのための宣伝をしている。しかし実際は、領事館は中国人の騒動が警察沙汰になったことで、責任追及を恐れて腰を上げて、形だけの対応をしただけというのが実際のところではないだろうか。領事館のスタッフが空港に食べ物を届けたときには、本当にサポートが必要だった人たちは出発した後だった。

伝えられたことの誤解と誇張
 以上が複数の乗客の証言から浮かび上がった、大雪で混乱した新千歳空港で起きた中国人乗客の騒動の一部始終だ。
 今回の一件は、必ずしも中国人の「民度」が低いから起きたとは言い切れない。騒動の背景には中国国際航空の乗客配慮に欠けた国有企業体質的なサービス、新千歳空港の国際線キャパシティの問題、それと日本人と中国人双方が潜在的にもっている相手に対する不信感、といった要素があり、それらがビッグ・イレギュラーに直面して問題を噴出させたことが原因だ。
 今回の一件は、雪で閉ざされた空港の制限区域内で起きたもので、外に伝えられた情報が断片的なものしかなかった。日本の新聞・テレビ各社はYoutubeの動画などごく限られた情報しか伝えていなかったが、日本人の反響はあまりに大きかった。このニュースに関心を寄せた多くの日本人が、「だから中国はダメなんだ」という気分に浸ったのではないだろうか。
 2015年度の中国人観光客の日本旅行ブームを受けて「爆買い」が注目を集めたが、2016年は「爆買い」の減少や中国人観光客への期待や依存に警鐘を鳴らす動きが目立った。実際には、2016年は2015年に比べて日本を訪れる中国人観光客は対前年比28%増加(JNTOの2016年11月推計値)で依然として増加し続けているし、「爆買い」で安いものを大量に購入するよりも、より価値のあるものを求めたり、グルメや体験により多くお金を使う傾向にある。
 日本人の心の中には「だから中国はダメなんだ」と思いたい心理がある。中国は経済の先行きなど、リアルにネガティブ傾向を示し始めている部分もあるが、そこは理性的に分析や判断をすべきである。「だから中国はダメなんだ」という期待を肯定するための情報に安易に飛びついたりしないようにしたいものだ。

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