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2017.05.08
マクロン氏の得票率は66.06%、ルペン氏は33.94%だったが、これは決選投票の結果であり、最初の投票では両者の差はわずか2・71%であった。
国民戦線の大統領候補が決選投票に進んだのは2002年にもあったが、その時は、フランス国民は極右の台頭に驚くとともに警戒を強めるようになり、結局、国民戦線への支持は後退し、党首はジャン・マリー・ルペンから娘のマリーヌに代わった。
今回の選挙結果はそれ以来国民戦線が回復し、移民・難民の制限強化、EUからの離脱、フランス第1主義などを掲げて支持を拡大してきたことを反映している。
マクロン氏は39歳。ロートシルト(ロスチャイルドのフランス名)銀行員からオランド大統領に抜擢され経済相に就任した。1970年代に「フランスのケネディ」と言われ、やはり経済通で鳴らしたヴァレリー・ジスカールデスタン氏が大統領になったのに比べられる。中道・保守の政治傾向でも共通点がある。
しかし、内外とも困難な状況の中でマクロン氏は有効な政策を打ち出せるか、成功の保証はない。5年後の大統領選挙では国民戦線がさらに力を増している可能性もある。
マクロン氏はEUとの関係を重視しているが、問題があることも事実である。EUは肥大化し、政策はEU官僚によって決められる。フランスの農民はEUの共通農業政策に不満である。その点では、フランス第一主義を掲げEUから離脱を主張するルペン氏は分かりやすく説得力がある。
しかし、フランスは歴史的にも、また現在も欧州の中心であり、欧州統合を進めてきた主要な原動力である。そのことについてフランス人は誇りを抱いている。
経済面でも欧州との関係は深く、フランスの貿易の6~7割はEU諸国との間で行われている。
ルペン氏はグローバリズムを攻撃するが、フランスはグローバリズムに押し流される一方ではなく、その恩恵も受けている。海外資産で見た世界の多国籍企業トップ20に、フランスはトタル(石油)、フランス電力公社、GDFスエズ(電気、ガス、水)の3社が入っている。ちなみに日本はトヨタと本田技研の2社だけである。さらに、フランスはいくつかのヨーロッパの協力会社や機構の本社を招致している。エアバスの本社はトゥルーズに、またアリアン・ロケットの欧州宇宙機関の本部はパリにある。フランスはこのような欧州協力のシンボルであり、看板だ。
また、フランスはグローバルな国際協力にも力を注ぎ、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、経済協力開発機構(OECD)など世界でもっとも権威のある国際機関がフランスに本部を置いている。
ただし、EUとの関係では、英国の離脱交渉の結果がどうなるかによってフランスにも影響が出てくる可能性がある。かりに英国が大きな損害を被ることなく交渉をまとめることができれば、EU離脱を主張する国民戦線にとって追い風になるだろう。英国とEUの交渉は今後2年間で行われる。
移民・難民問題についての状況は冷戦の終了後ほぼ一貫して悪化しており、欧州各国で排外傾向がひどくなっている。最近はそれにテロの問題が加わっている。フランスも例外でないが、逆にフランスは移民・難民を受け入れることによって発展してきたという認識はあるし、フランス革命以来の理想主義も脈々と生きており、極端な排外主義に陥るのを自制してきた。
今後はシリア情勢、過激派ISとの戦いがどのように展開するかが大きな問題である。かりに、情勢が落ち着いてくれば欧州諸国を悩ましてきた難民問題の重圧は解消していくだろう。
ただし、難民問題について欧州各国が能動的に対応できる余地は少なく、マクロン氏にとっても政策で問題を解決できるような状況でない。大量の難民の発生は欧州側でコントロールできないし、押し寄せてくる難民については欧州諸国が協力して対処するしかないからだ。
フランス経済の立て直しはマクロン政権に強く期待されるが、これも難問である。とくに問題になっているのはフランスの労働市場であり、規制が多くて硬直的だと言われている。具体的には最低賃金が高いこと、労働時間の制限が強いこと、一度雇用すると解雇は極めて困難なので企業側は非正規社員を好む傾向があること、などである。そのためフランスの失業率はドイツの2倍近くで、EU平均よりも高くなっている。とくに若年層においては高学歴でも就職できないなどミスマッチの傾向が強く、若年層の失業率は全年齢の2倍に上っている。
これには歴史的事情が絡んでおり、その改革は極めて困難だ。フランスの労働法は世界中でもっとも複雑と言われ、3千ページ以上に上る。もともと100年以上も前に作られた法規であり、その後何回もの改正を経てますます複雑になったのだが、そのような法律が今でも生きていること自体異例である。
オランド大統領は、社会党政権として本来労働市場の自由化には消極的であったが、その改革なくして経済状況の改善は困難であり、EUからも圧力を受け、やむを得ず2015年末から改革に取り掛かった。しかし、やはり反対が強く、2016年4月末から5月1日のメーデーにかけて起こったデモは暴動に発展した。
オランド大統領への支持率は下がり、史上最低を更新し続けた。世界で最も不人気な指導者だとも言われた。だから、オランド氏は今回の大統領選に出馬しないこととしたのだ。
マクロン氏は2009年まで社会党員であったが、大統領選に出るため無所属となり、16年8月に経済相を辞任し、自らの政治運動「アン・マルシュ(前進)!」を立ち上げた。その旗印はリベラリズムであり、また、「右でも左でもない」と自称している。広い支持を獲得しようと努めているのだが、それだけに立ち位置がはっきりしない。マクロン氏の、「私は、ナショナリズムの脅威に対抗する愛国者の大統領になる」とは国民戦線を強く意識した発言だが、自己矛盾していると言われても仕方がないだろう。
もしマクロン政権が失業問題の改善のため有効な対策を打ち出せないと、国民戦線の支持が増えるだろう。国民戦線はEUからもユーロからも離脱して自由にフランス経済を立て直すことを主張しており、その中で労働市場問題にも取り組む考えだ。「ユーロに縛られたままフランスが競争力を回復するのは難しい。フランスが自国通貨を有していれば、減価させることで輸出競争力を高めることができる」と述べるルペン氏の主張には一定の説得力がある。
今回の大統領選では、「前進」の勝利と国民戦線の善戦が目立ったが、従来フランス政治を動かしてきた右と左の2大政治勢力はどうなったか。この右派は戦後長らく安定せず、さらに細かく分かれ、必要に応じて連合を形成した勢力だが、ナチスに親近感を示す「極右」国民戦線はこの右派には含まれない。
従来の大統領選では右と左が票を大きく2分しつつ、多数となったほうが大統領を出していたが、今回の大統領選ではいずれの得票率も激減した。その原因は、左右どちらでもないことを標榜するマクロン氏の「前進」と国民戦線によって票が奪われたからである。今後もこの傾向が続けば、伝統的な左派も右派もフランスの2大政治勢力と言えない状況になっていく。
現段階では、「前進」と国民戦線がフランスの主要政治勢力になると判断するのは早すぎるだろう。左右の2大勢力の退潮は一時的な現象かもしれない。どうなるかはマクロン政権の5年間の状況を見ていく必要があろう。
「前進」はフランスの伝統的な価値観の上に立っているが、右でも左でもないため分かりにくいのが難点であることは前述した。
一方、国民戦線は、単純すぎるかもしれないが、分かりやすい。マリーヌ・ルペン氏は選挙後早速、国民戦線の「大転換に着手する」と宣言している。ルペン氏はかつて福祉政策を重視し、「左傾化」とまで言われたことがあるだけに今後の大転換が注目される。
フランスでは過去の忌まわしい歴史の記憶が鮮明に残っており、人種差別とは今も強く戦っている。フランス国民の他民族を受け入れる寛容度は欧州でも高いほうだが、グローバル化と欧州統合の進展はフランス政治の根底にある価値観と原則に微妙な変化を及ぼしつつあるのかもしれない。
フランス大統領選挙―さらなる変化の予兆が現れている?
フランス大統領の選挙は5月7日に決選投票が行われ、エマニュエル・マクロン氏が新大統領に選ばれた。マクロン氏の得票率は66.06%、ルペン氏は33.94%だったが、これは決選投票の結果であり、最初の投票では両者の差はわずか2・71%であった。
国民戦線の大統領候補が決選投票に進んだのは2002年にもあったが、その時は、フランス国民は極右の台頭に驚くとともに警戒を強めるようになり、結局、国民戦線への支持は後退し、党首はジャン・マリー・ルペンから娘のマリーヌに代わった。
今回の選挙結果はそれ以来国民戦線が回復し、移民・難民の制限強化、EUからの離脱、フランス第1主義などを掲げて支持を拡大してきたことを反映している。
マクロン氏は39歳。ロートシルト(ロスチャイルドのフランス名)銀行員からオランド大統領に抜擢され経済相に就任した。1970年代に「フランスのケネディ」と言われ、やはり経済通で鳴らしたヴァレリー・ジスカールデスタン氏が大統領になったのに比べられる。中道・保守の政治傾向でも共通点がある。
しかし、内外とも困難な状況の中でマクロン氏は有効な政策を打ち出せるか、成功の保証はない。5年後の大統領選挙では国民戦線がさらに力を増している可能性もある。
マクロン氏はEUとの関係を重視しているが、問題があることも事実である。EUは肥大化し、政策はEU官僚によって決められる。フランスの農民はEUの共通農業政策に不満である。その点では、フランス第一主義を掲げEUから離脱を主張するルペン氏は分かりやすく説得力がある。
しかし、フランスは歴史的にも、また現在も欧州の中心であり、欧州統合を進めてきた主要な原動力である。そのことについてフランス人は誇りを抱いている。
経済面でも欧州との関係は深く、フランスの貿易の6~7割はEU諸国との間で行われている。
ルペン氏はグローバリズムを攻撃するが、フランスはグローバリズムに押し流される一方ではなく、その恩恵も受けている。海外資産で見た世界の多国籍企業トップ20に、フランスはトタル(石油)、フランス電力公社、GDFスエズ(電気、ガス、水)の3社が入っている。ちなみに日本はトヨタと本田技研の2社だけである。さらに、フランスはいくつかのヨーロッパの協力会社や機構の本社を招致している。エアバスの本社はトゥルーズに、またアリアン・ロケットの欧州宇宙機関の本部はパリにある。フランスはこのような欧州協力のシンボルであり、看板だ。
また、フランスはグローバルな国際協力にも力を注ぎ、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、経済協力開発機構(OECD)など世界でもっとも権威のある国際機関がフランスに本部を置いている。
ただし、EUとの関係では、英国の離脱交渉の結果がどうなるかによってフランスにも影響が出てくる可能性がある。かりに英国が大きな損害を被ることなく交渉をまとめることができれば、EU離脱を主張する国民戦線にとって追い風になるだろう。英国とEUの交渉は今後2年間で行われる。
移民・難民問題についての状況は冷戦の終了後ほぼ一貫して悪化しており、欧州各国で排外傾向がひどくなっている。最近はそれにテロの問題が加わっている。フランスも例外でないが、逆にフランスは移民・難民を受け入れることによって発展してきたという認識はあるし、フランス革命以来の理想主義も脈々と生きており、極端な排外主義に陥るのを自制してきた。
今後はシリア情勢、過激派ISとの戦いがどのように展開するかが大きな問題である。かりに、情勢が落ち着いてくれば欧州諸国を悩ましてきた難民問題の重圧は解消していくだろう。
ただし、難民問題について欧州各国が能動的に対応できる余地は少なく、マクロン氏にとっても政策で問題を解決できるような状況でない。大量の難民の発生は欧州側でコントロールできないし、押し寄せてくる難民については欧州諸国が協力して対処するしかないからだ。
フランス経済の立て直しはマクロン政権に強く期待されるが、これも難問である。とくに問題になっているのはフランスの労働市場であり、規制が多くて硬直的だと言われている。具体的には最低賃金が高いこと、労働時間の制限が強いこと、一度雇用すると解雇は極めて困難なので企業側は非正規社員を好む傾向があること、などである。そのためフランスの失業率はドイツの2倍近くで、EU平均よりも高くなっている。とくに若年層においては高学歴でも就職できないなどミスマッチの傾向が強く、若年層の失業率は全年齢の2倍に上っている。
これには歴史的事情が絡んでおり、その改革は極めて困難だ。フランスの労働法は世界中でもっとも複雑と言われ、3千ページ以上に上る。もともと100年以上も前に作られた法規であり、その後何回もの改正を経てますます複雑になったのだが、そのような法律が今でも生きていること自体異例である。
オランド大統領は、社会党政権として本来労働市場の自由化には消極的であったが、その改革なくして経済状況の改善は困難であり、EUからも圧力を受け、やむを得ず2015年末から改革に取り掛かった。しかし、やはり反対が強く、2016年4月末から5月1日のメーデーにかけて起こったデモは暴動に発展した。
オランド大統領への支持率は下がり、史上最低を更新し続けた。世界で最も不人気な指導者だとも言われた。だから、オランド氏は今回の大統領選に出馬しないこととしたのだ。
マクロン氏は2009年まで社会党員であったが、大統領選に出るため無所属となり、16年8月に経済相を辞任し、自らの政治運動「アン・マルシュ(前進)!」を立ち上げた。その旗印はリベラリズムであり、また、「右でも左でもない」と自称している。広い支持を獲得しようと努めているのだが、それだけに立ち位置がはっきりしない。マクロン氏の、「私は、ナショナリズムの脅威に対抗する愛国者の大統領になる」とは国民戦線を強く意識した発言だが、自己矛盾していると言われても仕方がないだろう。
もしマクロン政権が失業問題の改善のため有効な対策を打ち出せないと、国民戦線の支持が増えるだろう。国民戦線はEUからもユーロからも離脱して自由にフランス経済を立て直すことを主張しており、その中で労働市場問題にも取り組む考えだ。「ユーロに縛られたままフランスが競争力を回復するのは難しい。フランスが自国通貨を有していれば、減価させることで輸出競争力を高めることができる」と述べるルペン氏の主張には一定の説得力がある。
今回の大統領選では、「前進」の勝利と国民戦線の善戦が目立ったが、従来フランス政治を動かしてきた右と左の2大政治勢力はどうなったか。この右派は戦後長らく安定せず、さらに細かく分かれ、必要に応じて連合を形成した勢力だが、ナチスに親近感を示す「極右」国民戦線はこの右派には含まれない。
従来の大統領選では右と左が票を大きく2分しつつ、多数となったほうが大統領を出していたが、今回の大統領選ではいずれの得票率も激減した。その原因は、左右どちらでもないことを標榜するマクロン氏の「前進」と国民戦線によって票が奪われたからである。今後もこの傾向が続けば、伝統的な左派も右派もフランスの2大政治勢力と言えない状況になっていく。
現段階では、「前進」と国民戦線がフランスの主要政治勢力になると判断するのは早すぎるだろう。左右の2大勢力の退潮は一時的な現象かもしれない。どうなるかはマクロン政権の5年間の状況を見ていく必要があろう。
「前進」はフランスの伝統的な価値観の上に立っているが、右でも左でもないため分かりにくいのが難点であることは前述した。
一方、国民戦線は、単純すぎるかもしれないが、分かりやすい。マリーヌ・ルペン氏は選挙後早速、国民戦線の「大転換に着手する」と宣言している。ルペン氏はかつて福祉政策を重視し、「左傾化」とまで言われたことがあるだけに今後の大転換が注目される。
フランスでは過去の忌まわしい歴史の記憶が鮮明に残っており、人種差別とは今も強く戦っている。フランス国民の他民族を受け入れる寛容度は欧州でも高いほうだが、グローバル化と欧州統合の進展はフランス政治の根底にある価値観と原則に微妙な変化を及ぼしつつあるのかもしれない。
2017.05.06
(米国側)
4月29日、トランプ大統領はCBSとのインタビューで北朝鮮についての考えを語った。日本では部分的に引用されたことはあっても全体的にはあまり注目されなかったが、トランプ氏の考えがよく表れていた。特に次の発言だ。
○金正恩委員長に対する評価
「人は金正恩を狂人と言うが、私は知らない。私がこう言うと多くの人が嫌うのだが、彼が父親の後継者になったのは26才とか27才の時だった。彼が相手にしているのは、軍の将軍など大変な人たち(very tough people)だ。多くの人が金正恩の権力を奪おうとしたのは確実だ。かれの叔父であったかも、あるいは他の人だったかもしれない。しかし、かれはそれをできた(He was able to do it)。彼はかなり賢い男(a pretty smart cookie)だと思う。しかし、長い間続いている北朝鮮の状況は放置しておけない。率直に言って、この問題は、オバマ政権、ブッシュ政権、クリントン政権によって処理されるべきだった。」
注 金正恩が困難な環境の中でしてきたことやその能力を理解する発言だ。また、叔父の張成沢を処刑したことについても頭から非難するのでなく、金正恩が指導者になる文脈の中で語っており、聞きようによっては肯定的に語っているとも解される話し方である。
トランプ氏のような発言をする人は他にいないと言っていることも注目される。よく計算した上での発言ではないか。
金正恩氏側の反応はまだないが、腹の中ではおそらく歓迎していると思われる。
○米朝直接対話について
5月1日のトランプ氏の「私にとって適切なものであれば、当然、会談をすることを光栄に思う」との発言は(その2)に記した。
それに引き続いて、3日、ティラーソン国務長官は国務省で、「米国は北朝鮮の政権交代を求めない。今後北朝鮮に対して話し合いを進める開放的な態度で臨む。一方、制裁をさらに進める準備も行っている」と発言(新華社電同日)。
○北朝鮮に対する強気の姿勢
米国は4月26日に続いて5月3日、ICBMの実験を行った。
同日、マティス国防長官は下院公聴会で、特殊作戦部隊を朝鮮半島に駐留させていることなどを証言。
同じく同日、ティラーソン国務長官は、米国が北朝鮮に課している制裁の強度は20~25%程度であると述べ、さらに強化する可能性もあることを示唆した。
4日、米議会下院は新制裁法案を通過、上院へ送付。内容は、北朝鮮の船舶が米国の水域に入ること、埠頭を利用することなどを禁止。北朝鮮で「強制労働」により製造された製品の米国への持ち込みを禁止。90日以内に、北朝鮮を「テロ支援国家」と指定するか否か、議会への報告を義務付けることなど。
注 米国は一方で米朝直接対話の可能性を示唆しつつ、同時に圧力をかけ続けるという硬軟両様の方針だと思われる。
○中国への期待
トランプ氏は中国が北朝鮮に対する圧力を強めるよう強く要請し、習近平氏との会談では当初中国が協力の姿勢を見せなかったので不満を表明していた。しかし、その後トランプ氏は1カ月もたたないうちに習近平氏の努力を認めるようになり、CBSとのインタビューでは「私は習近平氏を好きになり尊敬している。習主席は北朝鮮に圧力をかけている(And I will tell you, a man that I’ve gotten to like and respect, the president of China, President Xi, I believe, has been putting pressure on him also)」と表現を変えた。
注 この発言以降、トランプ氏は習近平氏が米国と協力して動いていることを何回か発言している。北朝鮮が孤立していることを強調する意味を込めていたのだろう。.
トランプ氏は中国についてCBSとのインタビューで次のようにも語った。「中国はかなり強い力を持っていると思う。しかし、究極の力ではないかもしれない(China does have reasonably good powers over North Korea. Now, maybe not, you know, ultimate, but pretty good powers)」。
注 究極の力(ultimate power)とは何か。北朝鮮がすでに保有している核兵器を放棄させる力のことだと思われる。つまり、北朝鮮の非核化を完全に実現する力は中国にはないことを認めている発言であり、興味深い。推測だが、それを実現させうるのは米国だけだということを自認しているのではないか。極めて正しい見方である。
(北朝鮮側)
硬軟両様の米国に対して、北朝鮮は一方で米韓演習や米国の軍事力の誇示に対し、「北朝鮮は恐れない。いつでも破壊できる」という趣旨のことを口汚くアピールしている。その批判は特に新味はないが、米国の行動の不当性を訴える狙いの論評を次々に出している。
「金哲」氏の3日付、「朝中関係の柱を切り倒す無謀な言行をこれ以上してはいけない」と題する論評は初めて中国を名指しで批判しており(5月3日朝鮮中央通信)注目された。
中国が北朝鮮に対する圧力を強めていることを示すものと考えられる。
北朝鮮と米国-現実とイメージ(その3)
(その1)では北朝鮮の、(その2)では米国の対応をとりまとめた。その後も注目すべき動きが続いている。(米国側)
4月29日、トランプ大統領はCBSとのインタビューで北朝鮮についての考えを語った。日本では部分的に引用されたことはあっても全体的にはあまり注目されなかったが、トランプ氏の考えがよく表れていた。特に次の発言だ。
○金正恩委員長に対する評価
「人は金正恩を狂人と言うが、私は知らない。私がこう言うと多くの人が嫌うのだが、彼が父親の後継者になったのは26才とか27才の時だった。彼が相手にしているのは、軍の将軍など大変な人たち(very tough people)だ。多くの人が金正恩の権力を奪おうとしたのは確実だ。かれの叔父であったかも、あるいは他の人だったかもしれない。しかし、かれはそれをできた(He was able to do it)。彼はかなり賢い男(a pretty smart cookie)だと思う。しかし、長い間続いている北朝鮮の状況は放置しておけない。率直に言って、この問題は、オバマ政権、ブッシュ政権、クリントン政権によって処理されるべきだった。」
注 金正恩が困難な環境の中でしてきたことやその能力を理解する発言だ。また、叔父の張成沢を処刑したことについても頭から非難するのでなく、金正恩が指導者になる文脈の中で語っており、聞きようによっては肯定的に語っているとも解される話し方である。
トランプ氏のような発言をする人は他にいないと言っていることも注目される。よく計算した上での発言ではないか。
金正恩氏側の反応はまだないが、腹の中ではおそらく歓迎していると思われる。
○米朝直接対話について
5月1日のトランプ氏の「私にとって適切なものであれば、当然、会談をすることを光栄に思う」との発言は(その2)に記した。
それに引き続いて、3日、ティラーソン国務長官は国務省で、「米国は北朝鮮の政権交代を求めない。今後北朝鮮に対して話し合いを進める開放的な態度で臨む。一方、制裁をさらに進める準備も行っている」と発言(新華社電同日)。
○北朝鮮に対する強気の姿勢
米国は4月26日に続いて5月3日、ICBMの実験を行った。
同日、マティス国防長官は下院公聴会で、特殊作戦部隊を朝鮮半島に駐留させていることなどを証言。
同じく同日、ティラーソン国務長官は、米国が北朝鮮に課している制裁の強度は20~25%程度であると述べ、さらに強化する可能性もあることを示唆した。
4日、米議会下院は新制裁法案を通過、上院へ送付。内容は、北朝鮮の船舶が米国の水域に入ること、埠頭を利用することなどを禁止。北朝鮮で「強制労働」により製造された製品の米国への持ち込みを禁止。90日以内に、北朝鮮を「テロ支援国家」と指定するか否か、議会への報告を義務付けることなど。
注 米国は一方で米朝直接対話の可能性を示唆しつつ、同時に圧力をかけ続けるという硬軟両様の方針だと思われる。
○中国への期待
トランプ氏は中国が北朝鮮に対する圧力を強めるよう強く要請し、習近平氏との会談では当初中国が協力の姿勢を見せなかったので不満を表明していた。しかし、その後トランプ氏は1カ月もたたないうちに習近平氏の努力を認めるようになり、CBSとのインタビューでは「私は習近平氏を好きになり尊敬している。習主席は北朝鮮に圧力をかけている(And I will tell you, a man that I’ve gotten to like and respect, the president of China, President Xi, I believe, has been putting pressure on him also)」と表現を変えた。
注 この発言以降、トランプ氏は習近平氏が米国と協力して動いていることを何回か発言している。北朝鮮が孤立していることを強調する意味を込めていたのだろう。.
トランプ氏は中国についてCBSとのインタビューで次のようにも語った。「中国はかなり強い力を持っていると思う。しかし、究極の力ではないかもしれない(China does have reasonably good powers over North Korea. Now, maybe not, you know, ultimate, but pretty good powers)」。
注 究極の力(ultimate power)とは何か。北朝鮮がすでに保有している核兵器を放棄させる力のことだと思われる。つまり、北朝鮮の非核化を完全に実現する力は中国にはないことを認めている発言であり、興味深い。推測だが、それを実現させうるのは米国だけだということを自認しているのではないか。極めて正しい見方である。
(北朝鮮側)
硬軟両様の米国に対して、北朝鮮は一方で米韓演習や米国の軍事力の誇示に対し、「北朝鮮は恐れない。いつでも破壊できる」という趣旨のことを口汚くアピールしている。その批判は特に新味はないが、米国の行動の不当性を訴える狙いの論評を次々に出している。
「金哲」氏の3日付、「朝中関係の柱を切り倒す無謀な言行をこれ以上してはいけない」と題する論評は初めて中国を名指しで批判しており(5月3日朝鮮中央通信)注目された。
中国が北朝鮮に対する圧力を強めていることを示すものと考えられる。
2017.05.04
蔡氏は先月29日には英語で、「台湾は今年のWHO総会から排除されるべきではない。保健分野の問題は国境では止まらない。台湾の役割は重要だ」などとアピールしていた。
WHOの年次総会は5月22日から開催されるが、招待状がまだ届かないからだ。台湾はWHO総会に2009年以来オブザーバー参加している。いまだに届かないのは中国が蔡英文総統に不満だからだろう。不満の原因は、蔡英文氏が「一つの中国」に関する中国の主張に従わないからだろうが、蔡英文氏は個人的好みで中国の主張に従わないのではない。台湾の民意を代表してのことであり、それは尊重されるべきではないか。。
台湾の法的な地位を認めよというのではない。台湾は東アジアで疫病対策などに重要な役割を果たしており、WHOの業務遂行にとって不可欠であることにふさわしい扱いをすべきだ。
蔡英文総統がこのように繰り返しアピールしているのは、よほど困難な状況に陥っているからなのだろう。日本は米国とともに、台湾のオブザーバー参加が例年通り実現するよう最大限支持し、協力すべきである。
日本は台湾のWHO総会への参加を支持すべきだ
台湾の蔡英文総統は3日、ツイッターに日本語で「台湾は国際医療活動を取り組んできました。医療環境の厳しい国々と共に頑張ってこられた台湾の世界に対する貢献です」とつぶやいた。蔡氏は先月29日には英語で、「台湾は今年のWHO総会から排除されるべきではない。保健分野の問題は国境では止まらない。台湾の役割は重要だ」などとアピールしていた。
WHOの年次総会は5月22日から開催されるが、招待状がまだ届かないからだ。台湾はWHO総会に2009年以来オブザーバー参加している。いまだに届かないのは中国が蔡英文総統に不満だからだろう。不満の原因は、蔡英文氏が「一つの中国」に関する中国の主張に従わないからだろうが、蔡英文氏は個人的好みで中国の主張に従わないのではない。台湾の民意を代表してのことであり、それは尊重されるべきではないか。。
台湾の法的な地位を認めよというのではない。台湾は東アジアで疫病対策などに重要な役割を果たしており、WHOの業務遂行にとって不可欠であることにふさわしい扱いをすべきだ。
蔡英文総統がこのように繰り返しアピールしているのは、よほど困難な状況に陥っているからなのだろう。日本は米国とともに、台湾のオブザーバー参加が例年通り実現するよう最大限支持し、協力すべきである。
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