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2017.05.23
この間、米海軍は「航行の自由作戦」を継続しようとしたが、中国との協力関係を重視するトランプ大統領はそれを許可しなかったと伝えられた。トランプ大統領は「航行の自由作戦」を控えることを、中国から協力を引き出す取引材料の一つに使った可能性もある。
一方、フィリピンのドゥテルテ大統領は、2016年7月に国際仲裁裁判の判決が出た後、習近平主席との間で、南シナ海問題は平和的に解決することで合意した。判決の影響を最小化しようとする中国ペースに乗った感はあったが、ドゥテルテ大統領は中国から巨額の経済協力を獲得したし、また、前政権下で激しくなったスプラトリー諸島(南沙諸島)をめぐる緊張関係が和らいだのでフィリピン国内では高い支持率を維持した。
しかし、スプラトリー諸島付近ではその後もフィリピン漁船が中国の艦艇によって操業を妨げられる事件が発生しており、それに対する対応を不満とする勢力はドゥテルテ大統領としても無視できない圧力となっている。
そんななか、ドゥテルテ大統領は4月6日、フィリピン独立記念日(6月12日)に同国が実効支配するスプラトリー諸島のパグアサ島(比名。英語名はThitu Island。中国名は中業島)に自ら行き、「フィリピンの旗を立てる」と記者団に語ったが、1週間後の13日、「中国に、今は行かないでほしいと言われた。中国との友情を重んじて計画は改める」と前言を翻した。その際、ドゥテルテ氏は中国側が「(領有権を主張する)各国が旗を立てることになれば問題になる」と発言していたことも明かした。
しかし、4月20日、フィリピンの漁船が中国の艦艇によって追い払われる事件が起こり、フィリピンでは強い反発が起こったので、翌日、ドゥテルテ大統領はロレンザーナ国防大臣を同島に派遣・上陸させた。この経緯を見ると、南シナ海の問題は今でもかなりデリケートな問題であることがうかがわれる。
そして4月26日からASEANの年次会議がマニラで開かれ、29日の首脳会議の議長声明で「埋め立て工事と軍事化への反対」について言及するか否かが問題になった。声明の原案には含まれていたので、マニラの中国大使館は削除すべきだと猛烈に働きかけたと言う。これに対し、ベトナムやインドネシアなど4カ国が残すべきだと主張したが、最終的には、「状況の複雑化を招く行為は避けることが重要だ」とやんわり記すにとどまった。議長声明が会議終了の翌日に発表されたのはそのような紛糾があったからだ。
当然だが、ドゥテルテ大統領は議長として会議をまとめるのに苦労したのだろう。5月1日には、ミンダナオ島のダバオ市を親善訪問中の中国のミサイル駆逐艦「長春」に乗船した。久しぶりの中国艦船の寄港であったが、大統領が訪問するのは異例だ。ドゥテルテ氏の中国に対する気遣いがうかがわれる。中比両国の海軍は今後合同演習を行うそうだ。
しかし、それから2週間後北京で開催された「一帯一路」会議に出席したドゥテルテ大統領は習近平主席と会談し(15日)、その会談内容について、19日、ダバオ市で次の通り説明した(香港紙『明報』)。
「ドゥテルテは、「フィリピンはスプラトリー諸島のReed Bank(中国名は「礼乐滩」。フィリピン名は「Recto Bank」)で石油の掘削を行う予定である。同島はフィリピンの排他的経済水域内にある」と言った。
これに対し習近平は「それはすべきでない。そこは中国のものだ」と言った。そこで、ドゥテルテは「我々には国際仲裁裁判がある」と言ったところ、習近平は「我々には歴史的権利がある。あなたたちのは最近の法律に過ぎない」と言い、さらに「我々は友人だ。私はよい関係を維持したい。しかし、貴方がどうしてもそうするというなら、私も言わざるをえなくなる。我々は戦争するかもしれない、我々はあなた方と戦争するかもしれない」と言った。」
ドゥテルテ大統領の説明は国内向けに「自分は中国を相手に努力している」ことをアピールする意図が入っていた可能性はあるが、もし、事実そういうことだったのであれば、習近平主席はドゥテルテ大統領を露骨に恫喝したことになる。
このドゥテルテ発言は外電で広く報道され、このまま放置すると問題になることを恐れたカエタノ外相は22日、記者団に対し「ドゥテルテ・習会談は極めて率直に行われた。相互に尊重・信頼しあっていた。会話は戦争をすると互いを脅したのではなく、いかに対立を回避し地域の安定を実現するかという文脈で行われた」と説明した(ロイター22日など)。
今回のドゥテルテ発言はこれで一件落着となりそうだが、今後も同氏の言動には注意が必要だ。ドゥテルテ氏は適当と判断すれば仲裁裁判を持ち出す考えなのだと思われる。
南シナ海問題におけるドゥテルテ大統領の動向
南シナ海において最大の懸念は米中が軍事衝突することであるが、トランプ政権の成立後、両国は北朝鮮問題や経済・投資面での協力に注意を向けており、南シナ海が話題に上ることは少なくなっている。この間、米海軍は「航行の自由作戦」を継続しようとしたが、中国との協力関係を重視するトランプ大統領はそれを許可しなかったと伝えられた。トランプ大統領は「航行の自由作戦」を控えることを、中国から協力を引き出す取引材料の一つに使った可能性もある。
一方、フィリピンのドゥテルテ大統領は、2016年7月に国際仲裁裁判の判決が出た後、習近平主席との間で、南シナ海問題は平和的に解決することで合意した。判決の影響を最小化しようとする中国ペースに乗った感はあったが、ドゥテルテ大統領は中国から巨額の経済協力を獲得したし、また、前政権下で激しくなったスプラトリー諸島(南沙諸島)をめぐる緊張関係が和らいだのでフィリピン国内では高い支持率を維持した。
しかし、スプラトリー諸島付近ではその後もフィリピン漁船が中国の艦艇によって操業を妨げられる事件が発生しており、それに対する対応を不満とする勢力はドゥテルテ大統領としても無視できない圧力となっている。
そんななか、ドゥテルテ大統領は4月6日、フィリピン独立記念日(6月12日)に同国が実効支配するスプラトリー諸島のパグアサ島(比名。英語名はThitu Island。中国名は中業島)に自ら行き、「フィリピンの旗を立てる」と記者団に語ったが、1週間後の13日、「中国に、今は行かないでほしいと言われた。中国との友情を重んじて計画は改める」と前言を翻した。その際、ドゥテルテ氏は中国側が「(領有権を主張する)各国が旗を立てることになれば問題になる」と発言していたことも明かした。
しかし、4月20日、フィリピンの漁船が中国の艦艇によって追い払われる事件が起こり、フィリピンでは強い反発が起こったので、翌日、ドゥテルテ大統領はロレンザーナ国防大臣を同島に派遣・上陸させた。この経緯を見ると、南シナ海の問題は今でもかなりデリケートな問題であることがうかがわれる。
そして4月26日からASEANの年次会議がマニラで開かれ、29日の首脳会議の議長声明で「埋め立て工事と軍事化への反対」について言及するか否かが問題になった。声明の原案には含まれていたので、マニラの中国大使館は削除すべきだと猛烈に働きかけたと言う。これに対し、ベトナムやインドネシアなど4カ国が残すべきだと主張したが、最終的には、「状況の複雑化を招く行為は避けることが重要だ」とやんわり記すにとどまった。議長声明が会議終了の翌日に発表されたのはそのような紛糾があったからだ。
当然だが、ドゥテルテ大統領は議長として会議をまとめるのに苦労したのだろう。5月1日には、ミンダナオ島のダバオ市を親善訪問中の中国のミサイル駆逐艦「長春」に乗船した。久しぶりの中国艦船の寄港であったが、大統領が訪問するのは異例だ。ドゥテルテ氏の中国に対する気遣いがうかがわれる。中比両国の海軍は今後合同演習を行うそうだ。
しかし、それから2週間後北京で開催された「一帯一路」会議に出席したドゥテルテ大統領は習近平主席と会談し(15日)、その会談内容について、19日、ダバオ市で次の通り説明した(香港紙『明報』)。
「ドゥテルテは、「フィリピンはスプラトリー諸島のReed Bank(中国名は「礼乐滩」。フィリピン名は「Recto Bank」)で石油の掘削を行う予定である。同島はフィリピンの排他的経済水域内にある」と言った。
これに対し習近平は「それはすべきでない。そこは中国のものだ」と言った。そこで、ドゥテルテは「我々には国際仲裁裁判がある」と言ったところ、習近平は「我々には歴史的権利がある。あなたたちのは最近の法律に過ぎない」と言い、さらに「我々は友人だ。私はよい関係を維持したい。しかし、貴方がどうしてもそうするというなら、私も言わざるをえなくなる。我々は戦争するかもしれない、我々はあなた方と戦争するかもしれない」と言った。」
ドゥテルテ大統領の説明は国内向けに「自分は中国を相手に努力している」ことをアピールする意図が入っていた可能性はあるが、もし、事実そういうことだったのであれば、習近平主席はドゥテルテ大統領を露骨に恫喝したことになる。
このドゥテルテ発言は外電で広く報道され、このまま放置すると問題になることを恐れたカエタノ外相は22日、記者団に対し「ドゥテルテ・習会談は極めて率直に行われた。相互に尊重・信頼しあっていた。会話は戦争をすると互いを脅したのではなく、いかに対立を回避し地域の安定を実現するかという文脈で行われた」と説明した(ロイター22日など)。
今回のドゥテルテ発言はこれで一件落着となりそうだが、今後も同氏の言動には注意が必要だ。ドゥテルテ氏は適当と判断すれば仲裁裁判を持ち出す考えなのだと思われる。
2017.05.18
「一帯一路」とは2013年に習近平主席が打ち出した構想であり、中国と欧州を結ぶ陸上及び海上のルート(シルクロード)を中心に輸送インフラを整備し、沿線国での投資を活発化させることにより約70カ国にまたがる経済圏を建設しようとしている。
今次国際会議は初めての開催であり、具体的な問題について決定するのではなく、参加国間の協力について合意を形成していくプロセスの第一歩であったと見るべきだろう。次回会議は2019年に開催することになっている。
「一帯一路」と同じく中国の提唱により2015年末に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は「一帯一路」とペアであり、同構想を実現する手段となっている。
日本が米国とともにAIIBに参加していないことについてかねてから賛否両論があったところ、今次「一帯一路」会議に二階自民党幹事長が参加したので、AIIBについても政府は姿勢を変えるのではないかと一部で取りざたされているが、簡単に考えるべきではないと思う。
「一帯一路」は、中国が鉄道、道路、パイプラインなどの建設をこれまでの各国別協力から多数の国との協力事業として拡大するものであり、構想の発表からわずか4年でこのような一大国際会議の開催にまでこぎつけられたのは、中国が戦略的に持てる資源を集中的に投入したからであり、中国の新たな成功例だと言えるだろう。
一方、「一帯一路」も中国主導で進めたいという意図は見え透いていた。中国は各国の意見を聞かないのではなく、各国の参加を求めるし、意見も聞く。しかし、それはあくまで中国主導の妨げにならない範囲のことであり、極端に言えば、各国は中国主導に花を添えているのに過ぎない。
このようなやりかたは「中華思想」的であり、また、「冊封」、つまり中国が天であり各国はこれに従属するという清朝以前の体制と本質的には変わらないのではないか。
たとえば、貿易に関する議論において結論となる文書の草案が主催者たる中国側から提示されたが、ほとんど議論をする時間的な余裕がないのに「修正できない」と言われたので、EUの一部諸国は対応できず、最終文書に同意しなかった。中国が各国の意見に本当に耳を傾け、良い意見は採用する用意があるならもっと違った対応になっただろう。今回の会議が終了するまでに一定の結論を出さなければならない、それに異論を唱えることは許さないとするのは中国側の都合に過ぎない。
「一帯一路」についてはもっと根本的な疑問がある。すなわち、習近平主席は2015年3月末のボアオ・アジアフォーラムで、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要であり、「一帯一路」戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べていた。この中国と周辺諸国が運命共同体であるということは、協力しあうという範囲をはるかに超えているが、「一帯一路」構想の推進によりそこまで盛り上げていくというのが中国の考えなのである。その運命共同体の中心は当然中国なのであろう。やはり「中華思想」的な発想なのではないか。
また、そもそも中国がBRICs銀行とは別にAIIBを設立したのは、前者ではブラジル、ロシア、インドおよび中国は平等の立場にあり、中国の主導にならないからであった.中国はどうしても中国主導の開発銀行を作りたかったのである。
中国が中国風に振舞っただけでは今次会議は成功しなかったかもしれない。しかし、中国は巨大な資金を提供して会議に実を注入した。インフラ整備に使うシルクロード基金へ1千億元(約1兆6400億円)増資、参加国・地域へ600億元の援助を供与などである。
さらに、中国は今後5年で「一帯一路」の沿線国家・地区から2兆ドル(約226兆円)の商品を輸入するとも表明した。
これらの寛大なオファーはもちろん各国から歓迎された。しかし、一方で、各国の意思を軽視しておいて、他方で、恩恵を示して中国に引き付けようとするのは冊封体制と何ら変わりないではないか。
各国は今次会議にどのような姿勢で臨んだか。二、三の点が注目された。
米国は日本と同様AIIBに参加していないので「一帯一路」についても警戒的だと見られていたが、今回の会議にはマット・ポッティンジャー国家安全保障会議アジア上級部長を代表として派遣した。また、北京の米大使館は「一帯一路工作チーム」をつくって協力する方針だそうだ。これらは、去る4月のトランプ・習会談で合意された「100日計画」に基づいて実施されたことである。
一方、中国は6月にワシントン郊外で開催される投資サミット(Select USA 投資サミット。第4回目だが、トランプ政権下で初めて)に参加することに合意した。つまり、今次「一帯一路」会議への米国の出席は、米国投資会議への中国の参加とディールになっているのだ。米国の投資会議は中国の「一帯一路」会議ほど盛大なおぜん立てになっていないかもしれないが、両方とも投資を呼び込むための国際会議である。
インドが今次「一帯一路」会議に参加しなかったことも目立っていた。その海上ルート(「一路」)がインドに脅威となっているためである。つまり、インドはBRICs銀行のように、一方では中国と協力しつつ、海上では中国の行動を警戒しているのである。
「一帯一路(シルクロード経済圏構想)」国際会議
5月14~15日、北京郊外で「一帯一路(シルクロード経済圏構想)」国際会議が開催された。中国にとって今年最大のイベントであり、130以上の国が参加した。プーチン・ロシア大統領、エルドアン・トルコ大統領、東南アジア諸国の首脳なども出席した。「一帯一路」とは2013年に習近平主席が打ち出した構想であり、中国と欧州を結ぶ陸上及び海上のルート(シルクロード)を中心に輸送インフラを整備し、沿線国での投資を活発化させることにより約70カ国にまたがる経済圏を建設しようとしている。
今次国際会議は初めての開催であり、具体的な問題について決定するのではなく、参加国間の協力について合意を形成していくプロセスの第一歩であったと見るべきだろう。次回会議は2019年に開催することになっている。
「一帯一路」と同じく中国の提唱により2015年末に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は「一帯一路」とペアであり、同構想を実現する手段となっている。
日本が米国とともにAIIBに参加していないことについてかねてから賛否両論があったところ、今次「一帯一路」会議に二階自民党幹事長が参加したので、AIIBについても政府は姿勢を変えるのではないかと一部で取りざたされているが、簡単に考えるべきではないと思う。
「一帯一路」は、中国が鉄道、道路、パイプラインなどの建設をこれまでの各国別協力から多数の国との協力事業として拡大するものであり、構想の発表からわずか4年でこのような一大国際会議の開催にまでこぎつけられたのは、中国が戦略的に持てる資源を集中的に投入したからであり、中国の新たな成功例だと言えるだろう。
一方、「一帯一路」も中国主導で進めたいという意図は見え透いていた。中国は各国の意見を聞かないのではなく、各国の参加を求めるし、意見も聞く。しかし、それはあくまで中国主導の妨げにならない範囲のことであり、極端に言えば、各国は中国主導に花を添えているのに過ぎない。
このようなやりかたは「中華思想」的であり、また、「冊封」、つまり中国が天であり各国はこれに従属するという清朝以前の体制と本質的には変わらないのではないか。
たとえば、貿易に関する議論において結論となる文書の草案が主催者たる中国側から提示されたが、ほとんど議論をする時間的な余裕がないのに「修正できない」と言われたので、EUの一部諸国は対応できず、最終文書に同意しなかった。中国が各国の意見に本当に耳を傾け、良い意見は採用する用意があるならもっと違った対応になっただろう。今回の会議が終了するまでに一定の結論を出さなければならない、それに異論を唱えることは許さないとするのは中国側の都合に過ぎない。
「一帯一路」についてはもっと根本的な疑問がある。すなわち、習近平主席は2015年3月末のボアオ・アジアフォーラムで、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要であり、「一帯一路」戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べていた。この中国と周辺諸国が運命共同体であるということは、協力しあうという範囲をはるかに超えているが、「一帯一路」構想の推進によりそこまで盛り上げていくというのが中国の考えなのである。その運命共同体の中心は当然中国なのであろう。やはり「中華思想」的な発想なのではないか。
また、そもそも中国がBRICs銀行とは別にAIIBを設立したのは、前者ではブラジル、ロシア、インドおよび中国は平等の立場にあり、中国の主導にならないからであった.中国はどうしても中国主導の開発銀行を作りたかったのである。
中国が中国風に振舞っただけでは今次会議は成功しなかったかもしれない。しかし、中国は巨大な資金を提供して会議に実を注入した。インフラ整備に使うシルクロード基金へ1千億元(約1兆6400億円)増資、参加国・地域へ600億元の援助を供与などである。
さらに、中国は今後5年で「一帯一路」の沿線国家・地区から2兆ドル(約226兆円)の商品を輸入するとも表明した。
これらの寛大なオファーはもちろん各国から歓迎された。しかし、一方で、各国の意思を軽視しておいて、他方で、恩恵を示して中国に引き付けようとするのは冊封体制と何ら変わりないではないか。
各国は今次会議にどのような姿勢で臨んだか。二、三の点が注目された。
米国は日本と同様AIIBに参加していないので「一帯一路」についても警戒的だと見られていたが、今回の会議にはマット・ポッティンジャー国家安全保障会議アジア上級部長を代表として派遣した。また、北京の米大使館は「一帯一路工作チーム」をつくって協力する方針だそうだ。これらは、去る4月のトランプ・習会談で合意された「100日計画」に基づいて実施されたことである。
一方、中国は6月にワシントン郊外で開催される投資サミット(Select USA 投資サミット。第4回目だが、トランプ政権下で初めて)に参加することに合意した。つまり、今次「一帯一路」会議への米国の出席は、米国投資会議への中国の参加とディールになっているのだ。米国の投資会議は中国の「一帯一路」会議ほど盛大なおぜん立てになっていないかもしれないが、両方とも投資を呼び込むための国際会議である。
インドが今次「一帯一路」会議に参加しなかったことも目立っていた。その海上ルート(「一路」)がインドに脅威となっているためである。つまり、インドはBRICs銀行のように、一方では中国と協力しつつ、海上では中国の行動を警戒しているのである。
2017.05.14
北朝鮮はなぜこのタイミングでミサイル実験を行ったのか。核やミサイルの実験は、北朝鮮の祝日や記念日に合わせて行われるとも言うが、あまり関係はなさそうだ。北朝鮮はそのようなことに重きを置いていないのではないかと思われる。
技術的な問題だが、今回のミサイルは高度が2千キロを超えており、ICBMであった可能性もあると言う。800キロ飛ぶのに30分かかったということであれば、通常のミサイルよりかなり遅い。高く上げたためか、それともほかの理由によることか、よくわからない。
朝鮮中央通信は15日、「新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験を14日に行い、成功した。高度2111.5キロに達し、787キロ飛行した。金正恩朝鮮労働党委員長が発射に立ち会い、米国とその追随勢力が気を確かに持って正しい選択をする時まで高度に精密化、多種化された核兵器と核打撃手段をより多くつくり、必要な実験準備をいっそう推し進める」と報じた。
米国の「正しい選択」とは何か。対話あるいは交渉の開始か、北朝鮮の承認か、それともいずれでもない第三のことか。北朝鮮の承認は交渉の目標であり、現時点では対話あるいは交渉の開始のための条件とみるのが自然であろうが、同通信の短い発表だけではいずれとも判断しかねる。
北朝鮮はこの他にも挑発的な行動を行っている。4人の米人を拘束したし、11日には米国のCIAと韓国の国家情報院が北朝鮮に潜入させた「テロ犯罪一党」を摘発したとする声明を発表した。
一方、北朝鮮は5月8~9日、ノルウェーで米国と協議を行った。米朝双方とも意図的に目立たないようにしているが、北朝鮮からはチェ・ソンヒ外務省北米局長が出席した。米側は民間人が出席したので半官半民の対話だとも言われたが、米側の出席者も政府の元高官であった。要するに実質的には両国政府の非公式協議であった。
チェ・ソンヒ氏は元首相の娘であり、北朝鮮の人にしてはかなり率直に発言する人物だ。今回の協議では、北朝鮮に捉えられている4人の米人の釈放問題が主たる議題だという観測もあったが、チェ氏はその話はしなかったと明言している。
この協議に見られる北朝鮮の姿勢は、核やミサイルの実験とは違って普通の外交の常識にかなっていたようだ。
この協議は、5月1日、トランプ大統領が行った金正恩委員長との会談の可能性に関する発言を受けて行われたものだろう。米朝関係はこれまでの複雑な経緯のために一筋縄ではいかなくなっているが、北朝鮮としてはその実現に向けてさらに前に進めるか、米国の真意を探ろうとしているのではないか。
北朝鮮のミサイル実験は、韓国の文在寅新政権にとってまことに都合の悪いタイミングで起こった。文在寅氏が北朝鮮に融和的であることは自他ともに認めており、就任後も「条件がととのえばピョンヤンに行く」と表明していた。また、朴槿恵政権下で配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADを新政権は見直す可能性があると言われており、北朝鮮はこの点についても文在寅大統領の姿勢を積極的に評価しているはずだ。
しかし、今回の実験について文在寅氏は「深刻な挑発行動だ」と北朝鮮を非難せざるを得なかった。南北関係がかみ合わない状態は今後も続きそうだ。
北朝鮮はまたミサイル実験を行った
北朝鮮は5月14日、ミサイルの発射実験を行った。国際社会の抗議を無視し、国連安保理決議に違反し、挑発的であり、我が国に重大な脅威となる行為である。以上は、ミサイルの発射実験のたびに指摘されていることだ。前回のミサイル実験(失敗した)は4月29日であった。北朝鮮はなぜこのタイミングでミサイル実験を行ったのか。核やミサイルの実験は、北朝鮮の祝日や記念日に合わせて行われるとも言うが、あまり関係はなさそうだ。北朝鮮はそのようなことに重きを置いていないのではないかと思われる。
技術的な問題だが、今回のミサイルは高度が2千キロを超えており、ICBMであった可能性もあると言う。800キロ飛ぶのに30分かかったということであれば、通常のミサイルよりかなり遅い。高く上げたためか、それともほかの理由によることか、よくわからない。
朝鮮中央通信は15日、「新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験を14日に行い、成功した。高度2111.5キロに達し、787キロ飛行した。金正恩朝鮮労働党委員長が発射に立ち会い、米国とその追随勢力が気を確かに持って正しい選択をする時まで高度に精密化、多種化された核兵器と核打撃手段をより多くつくり、必要な実験準備をいっそう推し進める」と報じた。
米国の「正しい選択」とは何か。対話あるいは交渉の開始か、北朝鮮の承認か、それともいずれでもない第三のことか。北朝鮮の承認は交渉の目標であり、現時点では対話あるいは交渉の開始のための条件とみるのが自然であろうが、同通信の短い発表だけではいずれとも判断しかねる。
北朝鮮はこの他にも挑発的な行動を行っている。4人の米人を拘束したし、11日には米国のCIAと韓国の国家情報院が北朝鮮に潜入させた「テロ犯罪一党」を摘発したとする声明を発表した。
一方、北朝鮮は5月8~9日、ノルウェーで米国と協議を行った。米朝双方とも意図的に目立たないようにしているが、北朝鮮からはチェ・ソンヒ外務省北米局長が出席した。米側は民間人が出席したので半官半民の対話だとも言われたが、米側の出席者も政府の元高官であった。要するに実質的には両国政府の非公式協議であった。
チェ・ソンヒ氏は元首相の娘であり、北朝鮮の人にしてはかなり率直に発言する人物だ。今回の協議では、北朝鮮に捉えられている4人の米人の釈放問題が主たる議題だという観測もあったが、チェ氏はその話はしなかったと明言している。
この協議に見られる北朝鮮の姿勢は、核やミサイルの実験とは違って普通の外交の常識にかなっていたようだ。
この協議は、5月1日、トランプ大統領が行った金正恩委員長との会談の可能性に関する発言を受けて行われたものだろう。米朝関係はこれまでの複雑な経緯のために一筋縄ではいかなくなっているが、北朝鮮としてはその実現に向けてさらに前に進めるか、米国の真意を探ろうとしているのではないか。
北朝鮮のミサイル実験は、韓国の文在寅新政権にとってまことに都合の悪いタイミングで起こった。文在寅氏が北朝鮮に融和的であることは自他ともに認めており、就任後も「条件がととのえばピョンヤンに行く」と表明していた。また、朴槿恵政権下で配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADを新政権は見直す可能性があると言われており、北朝鮮はこの点についても文在寅大統領の姿勢を積極的に評価しているはずだ。
しかし、今回の実験について文在寅氏は「深刻な挑発行動だ」と北朝鮮を非難せざるを得なかった。南北関係がかみ合わない状態は今後も続きそうだ。
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