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2017.12.20

北朝鮮問題をめぐる日米外交の不一致

 雑誌『世界』の2018年1月号に「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を寄稿しました。内容は、北朝鮮問題に関する日米両国の外交は「完全に一致している」と言われているが、実際には違っていること、トランプ大統領は「圧力をかける」と言いつつ、対話についても幅のある考えであること、安倍首相には軍事行動に賛成しないでもらいたいことなどです。ご参考まで。

 なお、『世界』の発売後に、ティラーソン米国務長官の、無条件で対話を始める用意があるとの発言がありました。河野外相が議長を務めた安保理の緊急会合ではその発言を修正し、対話については後退したと報道されましたが、同長官の考えは変わっていないと思います。
 同長官がトランプ政権にいつまでとどまるか不透明になっているなかで、国務省のアジア太平洋担当の次官補(日本の局長にあたる)としてスーザン・ソーントン氏が指名されました。同氏は中国語もできるアジア通のキャリア外交官で、トランプ政権(の一部)からにらまれていました。同氏が就任すれば、3月以来空席になっていた重要ポストが埋まることになり、トランプ政権として一歩前進です。
2017.12.13

前提条件なしの米朝対話

 ティラーソン米国務長官は12月12日、シンクタンク「アトランティック・カウンシル(Atlantic Council)」の政策フォーラムで、「われわれは前提条件なしに北朝鮮と第1回会合を行う用意がある。会うだけ会って、話したければ天気の話でもして、気分が乗れば、会合のテーブルを四角いのにするか円いのにするか話せばいい」と発言した。これは評価すべき発言である。
 米国の立場は、公式な場では、対話を始めるには、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」を実行しなければならないというものであり、この方針は日本も共有している。
 しかし、実際にはこの方針を維持したまま北朝鮮の非核化を実現できるとはだれも思わない状況になっていた。
 その中で、ティラーソン長官はかねてより、北朝鮮に対して圧力をかける方針を維持しつつ、対話についても前向きの姿勢を示していたが、今回の発言のように、前提条件を付けずに話し合いに応じる姿勢を示したのは初めてであり、非常に注目される。ティラーソン長官は北朝鮮との関係において一歩前に踏み出したと言える。

 当然、トランプ大統領の姿勢が問われる。同大統領は表面的には安倍首相と全く同じであり、「今、対話をすべきでない。あくまで圧力を強める必要がある」ということであるが、トランプ氏は対話について幅のある姿勢であり、一方で、圧力を強くすることだけを主張する安倍首相に同意しつつ、他方、文在寅大統領には、対話によって解決を図る可能性にも言及し、また習近平主席にも安倍首相とは異なる物言いをしていた(詳しくは『世界』2018年新年号「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を参照されたい)。
 ティラーソン長官が今回の発言を行うに際して、事前にトランプ大統領の了解を得ていたか不明であるが、トランプ氏と協議していなくてもトランプ氏の幅のある対応から判断すれば、了解してもらえると考えていた可能性がある。

 ただし、今回の発言だけでは事態がさらに前進するとはまだ言えないだろう。ティラーソン氏の国務長官としての地位は不安定であり、近日中に辞職するとも、しないともいわれている。
 そんな問題もあるが、北朝鮮は今回のティラーソン氏の発言を重く受け止めるべきである。北朝鮮が何らかの肯定的反応を示せれば、朝鮮半島、さらには東アジア全域におよぶ大惨事を回避するきっかけとなりうる。北朝鮮側では、核とミサイルの実験を控えることが考えられるが、積極的にティラーソン発言を受け止めていることを示すだけならば、他にも方法があろう。
 米国としてもさらになすべきことがある。北朝鮮は猜疑的な見方をするので、さらなるサインを出すことが望ましい。韓国との合同演習を暫定的であってもよい、停止することなどもあるが、トランプ大統領自身が前向きの姿勢を示すことができれば事態は大きく変わってくる。あるいはそこへ至る前に、ティラーソン長官が李容浩外相と前提条件なく話し合うのが現実的な方策かもしれない。

 米朝関係は1950年以来、あまりにもこじれ、複雑化しているだけに、今回の前提条件なしの話し合い提案は貴重である。緊張がかつてなく高まっている今日、双方が危険回避に向けさらなる一歩を踏み出すことを期待したい。
 日本政府には、緊張激化と偶発戦争の危険しか見えてこない「圧力一本やり」と、戦争許容を含む「すべての選択肢支持」をやめてもらいたい。

2017.12.11

トランプ大統領のエルサレム首都宣言

 トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスで演説し、公式にエルサレムをイスラエルの首都と認め、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する手続きを始めるよう国務省に指示したと表明した。

 これに対し、イスラエルを除く大多数の国は強く批判的な態度を取っている。英仏独などはトランプ大統領の決定に「同意しない」ことを明確に述べている。「認めない」とか、「支持しない」とか国によって表現の違いは若干あるが、今回の決定を明確に批判している点では同じである。

 一方、日本政府はトランプ大統領の決定に直接賛否を表明していない。菅官房長官は7日の記者会見で「国連安全保障理事会の決議などに基づき、当事者間の交渉により解決されるべきだ」とし、河野外相は同日、「中東和平を巡る状況が厳しさを増し、中東全体の情勢が悪化し得ることを懸念している」とコメントしているが、いずれも誰(どの国)に対して述べているのか分からない表明であり、他人ごとのように見ている印象が強い。要するに、トランプ大統領に対してものを言うことを避けているのだ。

 日本の中東外交に関する基本方針によれば、「エルサレムの最終的地位については,将来の二国家(注 イスラエル及びパレスチナのこと。我が国は2012年,パレスチナに非加盟オブザーバー国家の地位を付与する国連総会決議に対し賛成票を投じた。)の首都となることを前提に,交渉により決定されるべきである。我が国としては,イスラエルによる東エルサレムの併合を含め,エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しないことを強調し,パレスチナ人の住居破壊及び入植活動の継続等,東エルサレムの現状変更の試みについて深い憂慮を表明している。」(外務省「中東和平についての日本の立場」2015年1月13日)である。

 要するに、日本は「エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しない」はずであるが、トランプ氏の決定を正面からは批判しにくい。だから外務省幹部は、「鮮明な立場を表明しない玉虫色の姿勢しかない」と語っている(『朝日新聞』12月8日)のだろう。

 トランプ氏に反対しにくいのは分からないではないが、日本政府はトランプ氏の機嫌を損なわないことを外交の方針としているように聞こえる。さらに踏み込んで言えば、官邸を牛耳っている人たちは、複雑な外交において単純な方針を強要し、人事権を背景に外務省などに異を唱えることを許さないのではないか。加計学園問題をめぐって文科省で起こったことと同じ構図の問題が起こっているのではないか。

 安倍首相とトランプ大統領の特殊な関係はいずれ終わることも考慮すべきだ。今はどの国からも決定的な批判・攻撃をされないよう逃げ回ることが実益にかなっているように見えても、今回のトランプ決定に対する対応(の不存在)がもたらす中東外交への悪影響は計り知れない。
 トランプ大統領はイランの核開発に関しても、米国はもちろん西側の主要国、国連安保理のP5をも含めて決定したことを認めない姿勢である。しかも、トランプ大統領は今回のエルサレム問題にしてもイランの核開発にしても説得力のある判断理由を示したことがない。
 将来、トランプ政権は日本政府に対し自衛隊の海外派兵を求めてくる可能性がある。安倍首相は国会で、自衛隊を海外に派遣しないと答弁したが、2015年に改正された安保法制では可能である。今回のエルサレム首都宣言問題から始まって自衛隊の海外派遣問題にまで心配するのはいきすぎだろうか。
 今、日本政府に必要なのは、日本が築いてきた外交方針とそぐわないことがトランプ政権から出てくる場合、日本らしさ、日本の主体性を維持していくことである。今回のエルサレム問題はそのことを象徴しているように思われる。

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