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2019.08.31

天皇の即位礼への韓国大統領の出席

 日韓関係がかつてないほど悪くなった中、10月22日の天皇の即位礼に韓国からだれが出席するか、注目される。

 韓国は李洛淵(イ・ナクヨン)首相が出席するらしいとソウル聯合ニュース(8月18日付)は伝えている。同首相は、昨年3月、ブラジリアで開かれた水フォーラムで徳仁皇太子(当時)と会い、「かなり深い話」をしたという。文在寅政権のなかで日本通として知られる人物であり、即位礼に出席されるのに最適の人物だと思われているかもしれないが、韓国の首相に新天皇の即位礼に出席させるのは官僚的な処理ではないか。

 日韓関係が厳しい状況にあるなか、文在寅大統領が出席するのが最も望ましい。李洛淵首相の出席はまだ本決まりでないと承知している。かりに、決まっていても文大統領が出席することへの支障にはならない。大統領が、自ら出席すると言えばよいのである。

 韓国側の事情ももちろん無視できない。韓国の世論は、輸出規制強化以来日本政府に強く反発している。国民感情の根底に植民地統治への強いわだかまりがある。

 そんなことにも注意を払う必要があるが、文在寅大統領の即位礼出席が実現すれば日韓両国にとって大きな意義がある。

 第1に、文在寅氏がみずから出席の意向を示せば、千年単位で日韓関係を考えていることを示すのに役立つ。日韓の友好関係は2千年近い歴史があり、天皇はその象徴でもある。天皇も上皇も韓国との関係を非常に重視している。韓国の大統領が即位礼に出席することはそのような日韓の長い友好関係を尊重する意味合いがある。

 第2に、天皇は政治にはかかわらない日本国民の象徴であり、目前の日韓関係(の悪化)と切り離して考えることができる。

 第3に、文在寅大統領が即位礼に出席することを日本国民は歓迎する。

 第4に、皮肉なことかもしれないが、文在寅氏は日本に対して厳しいだけに、日本に来やすいのではないか。日本に融和的な人であればさらに日本に礼を尽くすことは危険であろうが、その点、文氏は心配ないだろうし、また、それだけに日本側の評価も高くなるだろう。

 第5に、来年は東京オリンピックが開かれる。その際には、文氏が開会式に出席するか決断を迫られるだろう。安倍首相は平昌オリンピックに出席した。つまり、政治的なプレシャーが強く働くなかで日本を訪問するか決定を迫られるより、天皇の即位礼に出席するほうが、韓国内でも容易なのではないか。かりに、オリンピックに出ないとしても即位礼に出席しておけば大きな問題にならない。

 それに番外だが、米国を安心させるのに役立つ。米国は韓国によるGSOMIAの破棄に強く不満である。形式的には日韓両国に注文を付けているが、実質的には韓国に対する不満が大きい。文大統領が即位礼に自ら出席することは米国の不満を和らげる意味合いもある。

 なお、8月31日付の東京新聞に掲載されたインタビューでも以上の趣旨を語っています。ぜひそちらもご覧下さい。

2019.08.25

韓国によるGSOMIAの破棄

ザページに「韓国のGSOMIA破棄は「3年前に戻る」だけなのか?」を寄稿しました。
軍事面への影響よりも、日韓関係がさらに悪化することが懸念されます。
こちらをクリック

2019.08.17

文大統領は日本との関係改善を望んでいる

 8月15日は韓国が日本の植民地支配から解放された「光復節」。韓国の歴代大統領がこの日に行う演説で日本との関係についてどのようなメッセージを発するか、いつも注目されてきた。今年は日本が韓国への輸出規制を強化した直後で両国間の雰囲気は悪化していたので、大統領の発言にはいっそう注目が集まっていた。

 文在寅大統領は日本が輸出規制強化措置を取った直後、「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」とか、「日本の措置は両国関係における重大な挑戦だ。利己的な弊害をもたらす行為として国際社会からの指弾を免れることはできない」などと激しい言葉で日本を非難していた。

 ところが、今次光復節の演説ではこれと対照的に、激烈な言葉を使わず建設的な表現を多用した。例年より日本批判が少なかったとも言われているが、明らかな日本批判はまったくなかった。

 文氏は、日本政府が不満を募らせている慰安婦問題や徴用工問題には直接触れず、「韓国は日本と共に(植民地時代の)被害者の苦痛を実質的に治癒しようとしてきた」「今からでも日本が対話と協力の道に出れば、我々も喜んで手を握る」と述べた。この発言は激烈な韓国の運動家の主張とは一線を画するものであり、一方的に日本を非難することを差し控えたのみならず、日本政府のこれまでの努力を肯定的に評価する意味合いもある。こんな発言は初めてであったと思う。

 日韓関係の悪化を招いている根本的な原因は、1965年の日韓基本条約と請求権協定を韓国が必ずしも肯定的に見ていないことにある。とくにポピュリスト的政権にはそのような傾向が強く、同条約は無効だという立場を取りがちである。

 しかし、今次演説で、文氏は無効論の立場は見せず、国交正常化後「韓国は過去にとどまることなく、日本と安全保障や経済の協力を続けてきた」と述べた。1965年以降の日韓関係に肯定的評価を与えたのである。文氏の歴史問題についての立場はこの表明がすべてではなく、後述するように植民地支配から生じた問題は忘れないという姿勢も示しているので矛盾を含んでいるが、日本と建設的な関係があったことを明言することの意義は大きい。

 総じて文大統領の演説には日本との関係を改善したいという気持ちが処々に表れていた。「日韓両国が協力してこそ、共に発展し、発展が持続可能になる」と強調したこと、来年の東京五輪は「共同繁栄の道に進む絶好のチャンス」だと述べたことなども見逃せない。

 今年の10月22日は日本の新天皇の即位礼が行われる。この日までに日韓関係が改善する方向に向かっていることを期待したい。

 かつて、韓国は天皇を「日王」と呼んでいたが、文在寅大統領は4月30日に退位する明仁天皇に謝意を表明する書簡を送った。李洛淵(イ・ナクヨン)総理も、SNSに日本の令和時代の開幕を祝うメッセージを投稿し、「天皇様」と呼んだという。「平成の最後の日、文在寅政権と韓国メディアは、日本へ「一歩だけ」寄り添い始めたのだ。だが、これらのせっかくの努力も、韓国国民が爆発させた反日感情によって台無しになりかけている」と李正宣氏は述べている(JP press 2019年5月1日)。

 一方、文大統領は「日本の不当な輸出規制に立ち向かう」とも発言した。が、これは日本を非難するというよりも、韓国民を鼓舞しようとした言葉であったと思う。この言及以外にも、韓国はこれから発展し、日本に負けない国になるなどの趣旨も述べたが、同じ目的であったと思われる。

 韓国では日本に負けない国になることを「克日」という。その代表例が日本から半導体事業を学び、今や日本のメーカーを追い越しているサムスン電子である。韓国国民を鼓舞しようとした文氏演説の韓国メディアによる報道ではこの2文字が躍った。

 しかし、徴用工問題や慰安婦問題については今回の演説で解決への兆しが見えてきたとは言えない。韓国政府は光復節の前日の「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」にあわせて元慰安婦らを招いた式典を開き、また、ソウル市も同日、新たな慰安婦像の除幕式を行った。8月14日は、1991年に旧日本軍の慰安婦だった故金学順(キムハクスン)さんが初めて実名で体験を公表した日であり、文大統領の主導で2017年に国の記念日に指定された。文大統領は昨年は式典に出席したが、今年は出席を見送り、所感の発表にとどめた。これはどういう意味だろうか。
 
 また、文政権は、2015年の日韓慰安婦合意に基づき設立された「和解・癒やし財団」を解散し、元慰安婦らへの支援金支給が中断していた問題で、同財団の清算法人に受給を求める遺族側への支給手続きを再開させた。支給が遅れたことも謝罪したという。文政権が同財団に関する考えを変えたとまでは言えないが、同財団を解散したままで打ち捨てておくより現実的な対応であり、日本側から見ても注目してよいことの一つであった。

 最後に、文大統領が日本との関係について積極的、肯定的な演説を行った背景には、米国からの働きかけ、要するに「仲良くしてもらわないと困る」といった趣旨の申し入れがあったことが考えられる。事実ならば、日本にとって好都合の働きかけであったようだが、トランプ大統領「日韓両国はいつも争っている」などとも言っているようである。日本としても韓国との関係を改善する責務があるのは当然だ。

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