平和外交研究所

ブログ

朝鮮半島

2019.03.15

韓国は北朝鮮の説得に乗り出せ

 ハノイでのドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長との会談は合意に至らず終了した。双方に読み違いがあったようであり、その分析も重要だが、仕切り直しとなった非核化交渉は今後どうなるかが問題である。
 
 文在寅大統領は、昨年、シンガポールでの米朝首脳会談が実現するまで米朝間の意思疎通を助け、また、必要な助言を与えるなど、長らく敵対関係にあった米国と北朝鮮を結びつける積極的な役割を果たした。
 
 しかし、今や米国も北朝鮮も文大統領による仲介を必要としなくなっている。金正恩委員長が文在寅大統領に約束した韓国訪問をなかなか実行しないのはその表れではないか。

 韓国国会でも、文大統領の北朝鮮寄りの姿勢は野党から厳しく批判されている。
  
 北朝鮮は今次首脳会談において、寧辺の核施設を廃棄し、その見返りに制裁を緩和ないし全廃するという案で米国と合意できると踏んでいたが、その案は米国から峻拒された。北朝鮮がこの案を事前に韓国に見せたり、相談したりしたとは思わないが、そのようなことはしなくても北朝鮮の案は、韓国の考えでもあったのであり、韓国の考えも拒否されたのであった。

 しかし、北朝鮮は、首脳会談終了後の李容浩外相による異例の記者説明で、「米朝間では信頼関係の構築が必要であり、北朝鮮は信頼関係に相応する範囲内でしか非核化を実行できない」という方針であることを明言した。この説明は金委員長の指示によるものであったことは明らかであり、今後の交渉においてもこの考えは北朝鮮の基本方針として維持されるだろう。
 
 さらに、北朝鮮は新たな動きも見せ、北西部・東倉里のミサイル発射場で、撤去した施設の一部を復旧している。これに対しトランプ大統領は「もしそうなら、非常に失望する」と懸念を表明している。

 米朝間では、今後、一方では交渉を継続しつつ、他方では相手をけん制しあう状況が続く。

 今後、そんななかで韓国の役割が問われることになる。米国は文氏が今までとは逆に、北朝鮮を説得することを求めるであろう。
 
 米国は、もともと非核化は米朝間の問題であるという考えから、韓国が関与することを必ずしも歓迎していなかった。また、韓国は何かと言えば制裁の緩和を目論み、開城工業団地など北との協力を進めようとしていると警戒してきた。それはまさに文在寅大統領に対する警戒であった。今後も文氏があいかわらず北朝鮮のために発言し、米国を説得しようとすれば、韓国と米国とのギャップは大きくなる。

 困難を伴うことであろうが、文在寅大統領は北朝鮮に対する方針を転換し、非核化の実現を急ぐよう説得することを求められている。文氏が、米韓間のギャップの拡大を防ぐことは、米国にとってのみならず、結局は韓国にとっても利益となるのではないか。

2019.03.07

韓国における三・一大統領演説

 3月1日、韓国の独立運動記念日に文在寅大統領は恒例の演説をおこなった。同大統領は以前から反植民地主義傾向が強く、しかも日韓関係が近年最悪と言われる状況の中で行われる演説であっただけに特に注目されていた演説である。

 文大統領は演説の中で、「歴史を鏡とし」と訴え、日本が独立運動を鎮圧した際に多数の死傷者が出たことを、「蛮行」や「虐殺」といった言葉で表現した。また、「親日残滓の清算はあまりに長く先送りされた宿題だ。左右の陣営の敵対は、日帝が民族を分裂させるために使った。我々が一日も早く清算すべき代表的な親日残滓だ。われわれは日本と外交で葛藤要因を作ろうということではない。親日残滓の清算も外交も未来志向で進むべきだ」と、かねてから文政権が重視してきた「積弊清算」政策をあらためて強調した。

 一方、徴用工問題、慰安婦問題、レーダー照射問題、竹島などには直接言及しなかったが、「力を合わせ、被害者の苦痛を実質的に癒やすとき、韓国と日本は心を通じた本当の友達になるだろう」とも語った。文氏は日本との関係をこれ以上悪化させたくないという気持ちを表明しつつ、持論を語ったのである。

 なお、文在寅大統領は5日、南部の慶尚南道・昌原の海軍士官学校で開かれた海軍士官候補生の卒業・任官式に出席する前に、同校練兵場沖に待機していた揚陸艦「独島(竹島の韓国名)」に搭乗していた。三一演説では竹島に言及しないこととバランスを取ったのであろう。

 総じて文在寅大統領の三一演説は日韓関係のさらなる悪化は防ぎたいという気持ちが現れていたと評価できる。
 ただし、文氏の呼びかけには、植民地時代の影響の除去について韓国自身が判断してきたことも一部含まれている。
韓国における左右両陣営の対立は日本が植民地統治のために作り出したことであっても、その後70年以上もその流れが続いてきたのは韓国がそうしたからではないか。同じ論法を日本に当てはめてみると、日本にはGHQが指示した改革の影響は今もいくつも残っているが、それをGHQの責任にすることはできない。

 時間的には三・一記念日よりさかのぼるが、文大統領は2月15日、国家情報機関(国情院)・検察・警察改革戦略会議で演説し、「今年、我々は日帝時代を経てゆがめられた権力機関の影から完全に脱する元年にしないといけない」と、ここでも「積弊清算」政策を述べ、「日本の植民地時代の検察と警察は、日本の強圧的な植民地統治を支える機関だった」「独立運動を弾圧し(韓国)国民の生殺与奪権を握っていた恐怖の対象だった」と述べている。
 しかし、韓国の現在の権力機関が抱える問題点は日本統治時代に起因するとしても、その改革をしないできたのは韓国政府ではないか。さらに言えば、歴代の韓国政府は改革しないほうが都合がよかったのではないか。その問題を植民地統治のせいにするのはいかがなものかと思われる。
 
 日本側では植民地支配は70年以上も前に終わったことであるという認識が強く、そのため日韓関係を改善するのに植民地支配の影響を軽視する傾向があることは忘れてはならないが、文大統領には反植民地主義が強すぎるのではないかという問題も考察してもらいたいものである。
 

2019.03.04

米韓合同軍事演習の終了

 3月2日、米韓両国は毎年春に実施してきた合同軍事演習を終了することを決定した。野外演習の「フォール・イーグル」も指揮所演習の「キー・リゾルブ」も終了するが、指揮所演習についてはこれまでより小規模の合同演習「同盟」が3月4日から12日まで行われる。

 合同軍事演習を終了させた理由について、トランプ大統領は、コストがかかりすぎることを上げてきた。金正恩委員長との第1回首脳会談後の記者会見で言及して以来、韓国との合同演習を少なくとも9つ中止してきた。
 
 ハノイでの第2回会談後の記者会見でも「軍事演習はしばらく前にやめた」と述べていた。この発言と今回の決定は、矛盾しているようにも聞こえるが、トランプ大統領は会談以前から終了させる気持ちを持っていたことをこのような形で表現した可能性がある。演習の終了を金委員長との会談で伝えたかについては、米国だけで決定できないので明言はしなかったはずだが、大筋の考えは伝えたものと思われる。

 ともかく、米韓合同演習を終了する正式の決定は、今回の会談で成果を上げられなかった金委員長に対して大きなギフトとなり、また、今後の交渉継続に米国として本気であることを示す意味もあるるだろう。今回の会談の結果、金委員長の立場が弱くなったという趣旨の観測が現れている。北朝鮮の特殊事情にかんがみるとそのような観測が的を得ているか疑問の余地があるが、いずれにしても演習終了の意義は大きい。

 米朝間交渉にとってのみならず、長年続いてきた朝鮮半島の緊張を緩和する意義もある。画期的な決定である。

 米国と南北朝鮮の間では朝鮮戦争の終了宣言が話題になっている。それは政治的には意味はあるが、実質的には合同演習の終了のほうが重いことである。

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.