平和外交研究所

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2018.01.15

中国は日本に何をしようとしているのか

 1月11日、中国海軍の潜水艦と艦艇が尖閣諸島(沖縄県)周辺の日本の接続水域に入った。小野寺防衛相は「両艦が同時に尖閣の接続水域を航行するのを確認したのは初めて」と述べており、今回の中国海軍の行動はかつて例を見ないほど悪質である。
 しかも、中国が力を入れている「一帯一路」構想へ日本が積極的に関わる姿勢を示し、中国側も日本の姿勢を評価しているときにである。日本に対する友好的な態度と非友好的な行動がこれほど同時に表れるのはまず記憶にない。
 
 中国海軍はなぜこのような行動に出たのか。この際考えられる原因を、仮説を交えることになるが、考えてみたい。

 まず、日本の海上自衛隊の行動に中国海軍は不満を抱いているか。とくに、防衛省が海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」を空母に改修し、航空自衛隊がステルス機能を持つ最新鋭戦闘機F35Bを導入して搭載する検討をはじめたことと関係があるか。
 中国紙は「いずも改修」を警戒して報道している。中国海軍としても注目しているだろう。しかし、そもそも「いずも」が導入された時は、報道はあったが、中国海軍が今回のようないやがらせの行動に出ることはなかった。
 中国海軍は早くから遠洋へ進出するのに力を入れており、空母の配備を始めた。中国が日本の「ヘリコプター空母」を問題にするなら、日本は中国の「正規の空母」を何倍も問題にできただろう。「ヘリ空母」は「正規の空母」に比べれば大人と子供くらい違う。中国はさらに2017年4月、2隻目の「正規の空母」を就航させた。日本よりはるかに先へ行っているのであり、巨大な正規の空母を2隻も持ちながら、空母と言えるかはっきりしない日本の「いずも」に難癖をつけられるわけがないのだ。

 海上自衛隊は北朝鮮に対する制裁措置の徹底のため、「黄海」での任務に就くことになった。「黄海」は中国と朝鮮半島の間に位置する公海であり、日本の艦船が活動するのに何ら問題はないが、中国は外国船が「黄海」を通行することを嫌う。それは国際法では認められない身勝手な主張に過ぎず、日本が行動を控える理由はないが、注意は必要である。

 もっとも可能性が高いのは、軍による習近平主席への牽制である。
 習氏による軍改革はかなり進展した。とくに制度面の改革は確かに進展した。しかし、まだ大きな問題が残っていることは、現役総参謀長房峰輝の失脚(2017年8月)、中央軍事委員会政治工作部主任の張陽の自殺(11月?)が示唆していた。前者は軍人のトップ、後者は中央軍事委員会において共産党の指示を受ける部門のトップである。
 習氏は、軍内の急激な改革に反発する勢力をまだ一掃できていないのである。また、退職した元軍人が待遇に不満であること、徴兵に従わない者が社会問題になるほど多くなっていることなどの問題も表面化している。
 軍人は表向き習近平に逆らうことはできないが、不満は軍内で広く共有されており、軍は、日本との緊張関係を作り出すことにより、自らの重要性をアピールしようとしているのではないか。

 さらに、台湾問題も絡んでいる可能性がある。台湾の統一は、習近平政権の第1期目に進展しなかったので、2期目に残された最大課題となっている。中国は尖閣諸島を台湾の一部とみなしているので、そこで問題を起こすことは台湾問題の解決のために軍の役割が重要であることを訴えるのに都合がよいのである。つまり、尖閣諸島で問題を起こすことは中国海軍にとって一石二鳥となるのである。
 最後の点は仮説に過ぎないが、今後時間をかけて検証していく必要がある。

2018.01.11

慰安婦合意、韓国は何に反発しているのか?日本の今後の対応

THE PAGEに寄稿した後に韓国政府は新方針を発表しました。以下は、そのことを踏まえ加筆したものです。

「 慰安婦合意とは、長らく両国間の懸案であった慰安婦問題について、2015年12月28日、当時の岸田外相と韓国の尹外相との会談で達成された合意です。主要点は次の通りでした。

(日本側)
〇安倍首相が元慰安婦であった方々に、「心からおわびと反省の気持ち」を表明。
〇日本政府は、「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」ために10億円を拠出(すでに実行済み)。

(韓国側)
〇韓国政府は日本政府に協力(後に、韓国政府は慰安婦のために基金を新設し事業を開始)。
〇在韓国日本大使館前の少女像については、尹外相が、「韓国政府は,日本政府が公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する」と表明(これはまだ実現していません)。

(両国)
〇この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認。
〇今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

 ところが、文在寅大統領は2017年5月に就任後、日韓合意の成立経緯を検証する作業部会を設置しました。韓国内の強い世論に押されたからです。具体的には、元慰安婦を支援する韓国挺身隊問題対策協議会などが中心になって対日批判の運動を広げ、形成された世論です。
 検証の結果は12月27日に発表されました。文在寅大統領はその翌日、日韓合意は「手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された」とし、「両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」などと表明しました。さらに、康京和外相は、1月9日、新方針を発表し、「2015年の合意が両国間の公式合意だったという事実は否定できない。日本政府に再交渉は求めない」としつつ、「韓国政府は10億円を基金に拠出し、日本政府が拠出した10億円の処理方法は日本政府と協議する」と説明し、さらに、「日本側が自ら、国際的な普遍基準によって真実をありのまま認め、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けた努力を続けてくれることを期待する。被害者の女性が一様に願うのは、自発的で心がこもった謝罪である」と述べました。

 このような韓国政府の対応は日本として承服できません。日本政府は韓国側に抗議するとともに、菅官房長官と河野外相は、合意の内容は変更してはならないこと、合意に従って解決を図るべきであること、国と国との約束は責任をもって実施しなければならないことなどをあらためて強調しました。

 韓国政府は、残念ながら、慰安婦問題に限らず前政権の決定を繰り返し批判・否定した過去があります。1965年の日韓請求権協定で両国民の請求権問題は解決されていたのに、元慰安婦に対する補償を求めてきました。また、米国との間でも、朴槿恵前政権が合意した高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備について変更を求めようとしたため米国を怒らせました。
 このようなことが起こるのは、韓国では世論の強い圧力を受けて政府が既定の方針を変更するからです。韓国政府は国民から信頼されていないと言わざるを得ません。

 韓国政府の新方針において、「日本政府に再交渉は求めない」と言いつつ、日本が拠出した10億円の取り扱いについて日本と協議するというのはまったく首尾一貫しない態度です。また、日韓合意で安倍首相が「心からおわびと反省の気持ち」を表明しているのに、さらに謝罪を求めています。このような韓国側の矛盾に満ちた態度に対して、日本政府としては、韓国政府がさらにどのような態度をとるか注目しつつ、合意に従って行動するほかありません。国家間の合意を順守するのは韓国の現政権にとっても利益であるはずです。

 慰安婦合意に関する韓国政府の対応には明らかに問題があり、日本は有利な立場にありますが、力で相手をねじ伏せるような姿勢は禁物です。慰安婦問題がある国は韓国だけでありません。また、米国などは直接の関係がなくても強い関心を抱いています。日本がバランスの取れた対応をしなければ、国際社会は一変して日本に批判的になるでしょう。
 日本では、かつてのように、駐韓大使を一時帰国させる考えが出てくる可能性もありますが、間違っている相手を正すのに何が最良か、国際的な感覚を失わずに慎重に検討する必要があります。」


 

2018.01.09

トランプ大統領の「対話」発言ーその3

 トランプ米大統領は1月6日、北朝鮮の金正恩委員長と直接対話をすることについて、「私は対話は良いことだといつも思っており、全く問題ない」と発言した。

 南北朝鮮間では、9日、ハイレベルの対話が行われ、平昌オリンピックへの北朝鮮の参加問題などが話し合われる。一般には非核化問題にも好影響を与えるかもしれないといった期待感が、どのくらい大きいかはともかく、広く持たれているようだが、南北対話から非核化問題が進むことはありえない。「南北対話」と「北朝鮮の非核化」は別の土俵で起こっていることであり、明確に区別して見ていく必要がある。したがって、また、米国の一部高官のように心配したり、韓国に警告したりする必要もない。

 トランプ大統領の発言は非核化に直接かかわってくる。しかも、日本の外交にとって深刻な問題になりうる。

 トランプ氏が、北朝鮮との対話について前向きの姿勢を大統領として語ったのは、今回で3回目である。最初は昨年4月末のCBSとのインタビューで、2回目はアジア歴訪中の11月、ベトナムでの記者会見であった。
要するに、トランプ氏は安倍首相に対しては「日本の立場を100%支持する」と言いつつ、他の場所では「対話」について前向きの姿勢を示しているのだ。しかも、今回は「対話は良いことだといつも思っている」と述べ、同氏の発言はその場限りのことでないことを明言した。

 一方、安倍首相は「圧力」一本やりであり、「対話は時期尚早」である。しかもこの立場は一貫している。
トランプ氏のように発言がコロコロ変わるのは決して褒められることでないが、外交のためには幅のあるほうが有利だ。状況に応じて臨機応変に動けるからだ。

 ともかく、トランプ氏は今後も北朝鮮の非核化問題に関する「対話」について発言するだろう。日米の立場は、日本政府の説明と違って、大事なところで違ってきつつあるのではないか。

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