平和外交研究所

ブログ

ブログ記事一覧

2021.03.05

バイデン政権の外交・安全保障戦略

 バイデン米大統領は3日、外交・安全保障分野の基本戦略を発表した。「暫定国家安全保障戦略ガイダンス」と題する文書であり、その名のとおり本格的な戦略が確定されるまでの暫定的な文書であるが、各省庁に対してこの文書に沿って政策を遂行するよう指示している。

 同暫定戦略は、米国が「敵対的で権威主義的な勢力の挑戦を受けている」、「世界の力の分配の変化が新たな脅威をもたらしている」との認識を示したうえ、特に中国について「急速に自己主張を強めており、安定し開かれた国際システムに挑戦する能力がある、唯一の競争相手だ」と位置づけた。

 言葉はトランプ政権の時より穏やかな口調になっているが、このように位置づけされた中国は「米国の安全保障を脅かす可能性がある唯一の国である」と述べているに等しい。このような基本認識はトランプ政権と変わりない、厳しいものである。

 そして独裁などの権威主義によって脅かされている民主主義の再生課題に取り組むためには、同盟関係の再構築が必要だとして、北大西洋条約機構(NATO)、豪州、日本、韓国との同盟関係の強化を挙げた。同盟との関係強化はバイデン大統領が就任以来口にしてきたことである。また米国の国務長官と国防長官は3月中旬訪日し(韓国も訪問する)、日本側と2プラス2を行う予定である。実現すれば、2019年4月以来約2年ぶりとなる。

 今回発表された暫定戦略では台湾への言及はなさそうだが、米国務省はさる1月23日夜、「米国の台湾へのコミットメントは極めて堅固だ」、「米国の同盟国や友好国との協力に台湾との関係を深めることも含まれる」と明言済みである。この国務省声明は今回の暫定戦略を一体をなすものと考えられる。

 中国はバイデン政権の中国政策がどのようなものになるか、トランプ政権より中国との協力を重視するか注視してきた。そのため、台湾に関してはバイデン政権の方針がいち早く示されたのに対し反発したが、全面的な米国批判は控えてきた。しかし、今回発表された戦略によってバイデン政権の厳しい姿勢がはっきりしてきたのは間違いない。中国がどのように応じるか注目される。

2021.03.01

「海警法」と中国の海洋戦略

2月1日、中国は、沿岸警備隊(中国名は「海警局」。日本の海上保安庁に相当)に武器使用を認める権限などを定めた中華人民共和国海警法(以下、「海警法」)を施行した。
この法律は、必要になれば外国の公船に対しても武器を使用することを認めているが、国連海洋法条約(30条)では、領海内で法令に従わない軍艦に対しては「退去」を要求することができるとされているだけで、武器の使用は認められておらず、海警法は国際法に違反していると考えられる。

また、海警法は、武器使用など強制行為を取ることができるのは中国の「管轄区域」内の海や島においてであると規定しているが、「管轄区域」内か否かは中国が一方的に決めようとしており、そうであれば海洋法違反となる。

一方、日本の海上保安庁法は、国連海洋法条約に沿って外国の軍艦や公船に対する武器使用を禁止しており、武器を使用できないわが海上巡視船は、海警法の施行により武器を使用できるようになった中国の海警船に比べ不利な状態に置かれることになった。そのため、我が国では海上保安法を改正し、必要に応じ武器使用を認めることとすべきだとの声が上がっている。

海警法の根底にあるのは中国の海洋戦略である。中国は、我が国の九州南端から沖縄、台湾、フィリピン群島さらにボルネオへ連なる「第一列島線」と中国大陸との間の海域、つまり、東シナ海から台湾を経て南シナ海へ続く一大海域を中国の支配下に置くための戦略を立て、実行しようとしている。

1992年、中国が制定した「中華人民共和国領海及び接続水域法(以下、「領海法」)」が戦略の基本になっており、同法は台湾や尖閣諸島を含め、この海域内のすべての島嶼が中国の領土であると規定している。他国の領土を中国のものだと主張するとんでもない内容の法律である。

中国は同法の制定後、海警船を大型化し、また装備をグレードアップしてきた。そして今回は海警法を制定するなどこの戦略を進めてきた。

尖閣諸島については、周辺の海域へ何回も侵入を繰り返した。はじめのうちは中国漁船が主であったが、最近は海警船による領海・接続水域への侵入と、我が国の漁船を追いかけたり、追い払ったりするなどのハラスメントが増加している。

台湾については、中国は自国への統一を最大の課題としている。また南シナ海では、南沙諸島で人工島を造成し、軍事利用が可能な基地を建設し、さらにフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどの漁船にハラスメントを加えている。

中国のこうした行動が国際法に違反していることは、2016年の南シナ海についての、国際常設仲裁裁判所による「昔から自国の海だとする中国の主張は国際法上の根拠がない」との判断によって確定したと考えられる。この判断は、直接的には南シナ海に関するものであったが、中国の主張に根拠がないことは尖閣諸島についても、さらに台湾についても同様の事情にある。

しかし、中国は国際常設仲裁裁判所の判断を完全に無視した。残念ながら中国は国際法を尊重していないといわざるを得ない。

日本は、尖閣諸島海域への海警船による侵入を断固排除するのは当然であるが、中国の戦略を見据えた対応が必要である。
 
第1に、尖閣諸島に対して中国が行っていることは危険な行為であり、大規模な紛争に発展する恐れがある。そうなったばあい、海上保安庁だけでは対応できなくなることもあり得るので、海上自衛隊との連携・協力を引き続きよくしておく。
 
第2に、日本としての海洋戦略をつねに明確にしておく。その上で日本としては領土・領海に関する中国の一方的主張は到底認められないことを中国側に言い続けることが肝要である。

第3に、米国をはじめ各国との連携と協力をいっそう強化する。米国のバイデン政権は尖閣諸島、台湾、南シナ海について関係国と協力して対処する姿勢を明らかにしている。さる2月18日の日米豪印の4カ国(QUAD)による外相電話協議は米国の呼びかけにより行われた。その際、初の首脳協議を開催するという重要な合意が得られた。また日本が提唱する外交構想「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、より多くの国々と同構想を推進する重要性が確認された。

南シナ海については、さらに、英国、ドイツ、フランスなども最近関心を強め、艦船を派遣する考えがあると伝えられている。フランスはすでに潜水艦を派遣済みである。日本としてはこれらの国との協力を強化することも必要である。

バイデン政権の対中姿勢については、かつてのオバマ政権時代のように融和的になるのではないかと懸念する向きがあったが、尖閣諸島については日米安保条約が適用されること、つまり、第三国から侵略や攻撃を受けた場合、日米両国は協力して対処することをバイデン政権はすでに確認している。

台湾についてもバイデン政権は、米国の同盟国や友好国との協力に「台湾との関係を深めることも含まれる」と明言した。つまり、台湾を同盟国並みに扱うということである。またバイデン大統領の就任式には、台湾の実質的な駐米大使である台北駐米経済文化代表処の代表を初めて招待した。さらに南シナ海での「航行の自由作戦」を継続し、演習も行っている。ブリンケン米国務長官はフィリピンのロクシン外相と電話会談し、中国による南シナ海での領有権の主張について「米国は拒否する」と表明したという。バイデン政権の対中国政策の全体像はなお検討中であるが、尖閣諸島、台湾、南シナ海については明確な姿勢を示している。

2021.02.13

北朝鮮労働党大会と中央委員会総会ー経済の立て直しが急務

 北朝鮮労働党の大会が1月5日~12日、中央委員会総会が2月8日~11日に開催された。北朝鮮の経済状況は制裁、新型コロナウイルス防疫のための国境封鎖および自然災害の「三重苦」にあるといわれるだけに、経済発展をいかに進めるかが両会議を通じて最重要の議題となったのは当然であった。2020年の北朝鮮の対中貿易額は、厳格なロックダウン(都市封鎖)を受けて、前年比で80%以上減少したという。

 金総書記は複数回報告を行った。党大会冒頭(5日)の報告で、昨年までの国家経済発展5カ年戦略の目標はほぼ全ての部門で未達だったと認めることから始まった。
 総会では「自立度を高め、国内生産を増やすべきだ」、「(新たな5カ年)計画は党のイデオロギーと指針を正確に反映しておらず、イノベーションと賢明な戦略が欠けている」、「内閣は各省が提出した数値を機械的に合算しており、一部のセクターの計画は非現実的なほど壮大だ。他のセクターは、すでに容易に達成可能で、達成して当然の目標を引き下げている」、「官僚は保身と敗北主義に陥っている」などと強い批判を交えて発言した(引用は国営の朝鮮通信社)。

 総会では、首都平壌に今年1万戸の住宅を建設することが発表された。しかし、それは一部の問題であり、北朝鮮では金総書記の意を受けて新5か年計画の全面的練り直しが行われているものと思われる。

 総会に提出された新計画の原案はよほど出来が悪いと思われたのであろう。担当の経済部長は1月の党大会で就任したばかりの金頭日(キム・ドゥイル)であったが、呉秀容(オスヨン 元副首相)に交替となった。金頭日は党大会で政治局委員兼書記に選出されており、これだけの地位の者が1か月後に更迭となるのは異例の人事である。

 また、金総書記が、検察など法執行機関の役割を強め、「特に経済活動で現れる、あらゆる違法行為との法的闘争を強力に展開する」と述べたことも注目される。全ての部門において絶対的な服従が求められている北朝鮮であるが、不正が起こっていることが窺われる。

 なお、経済問題でないが、約1年前に李容浩に代わって外相になった李善権(リ・ソングォン)は今次総会で政治局員へ昇格となった。同氏は軍人出身であり、2000年代半ばから南北の軍事会談で北朝鮮側の代表を務め、16年12月には対韓国政策を担う祖国平和統一委員会委員長に就任していた。南北が対話を進めた18年には平昌冬季五輪に合わせて訪韓したほか、軍事境界線にある板門店で韓国統一相との協議に臨んだこともあった。韓国では対外強硬派として知られている。

 北朝鮮の対米姿勢は、現在のところバイデン新政権の出方を見守っている状態にあり、とくに目立った動きはないが、李善権新外相がどのような役割を果たすのか注目される。

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.