2021 - 平和外交研究所 - Page 2
2021.12.10
当時、米国には、日系人は戦争の展開いかんでは米国にとって危険な存在になるという考えがあった。同じ米国の敵であったドイツとイタリア系のアメリカ人たちは、短い期間だけ拘留された人はいたが、集団として強制収容されることはなかった。日系人だけが恐れられたのは、人種的差別的な観念にとりつかれた米国政府が日本人集団は危険だと誤解したからであった。
日系人同士でまとまろうとする傾向が多少あったかもしれない。しかし、大部分の日系人は歴史や伝統、政治状況、人種問題などが異なる米国ではあるが、溶け込むためにさまざまな努力を重ね、米国という社会に属していることを重視し、米国社会の一員であることに誇りを持っていた。要するに、日系人は米国という集団を大切にしていたのであるが、米国政府にはその点に対する理解が欠けており、日本人は敵国の日本に忠実であると誤解したのであった。米国では、個人主義的な考えから、そもそも「集団」について積極的意義を認めることが少なかったことが背景にあった。
一般論として「集団」は積極的にみられることもあれば、あまり評価されないこともある。米国人は、米国社会を大切にしたいとする意味では「集団」を重視していたのであるが、民族や言葉の違いのほうが大きな問題だと考える傾向があったのだ。ようするに人種差別的傾向が強かったのである。ドイツ人やイタリア人には同じ仕打ちをしなかったことはその傾向を明らかに示していた。
ただし、米国の政府・軍には日系人の義務遂行能力を高く評価する向きもあったらしい。これは強制収容とは真逆の考えであり、そのことも考え合わせれば、米国は人種差別一色で染まっていたわけではなさそうである。
ともかく、戦争終了後一定の期間は必要であったが、米国政府は日系人の強制収容は誤りであったことに気づき、レーガン大統領は1988年、日系人に謝罪し、「市民の自由法(強制収容補償法)」に署名した。また、それから78年後の2020年2月20日、米カリフォルニア州議会下院本会議は、第二次大戦中の強制収容など不当な扱いにより日系人の公民権と自由を守れなかったことを謝罪する決議案を可決した。米国には今でも強制収容について反省しない人もいるが、それは少数であり、連邦政府やカリフォルニア州議会は、過去の過ちをはっきりと反省した。立派な態度であり、米国の強さでもある。
米国のオースティン米国防長官は7日、日米開戦から80年の節目に当たり「かつての敵は今や親友になった」との声明を発表し、日米同盟の重要性を再確認した。
米海軍は同日、故イノウエ元上院議員の名を冠したイージス駆逐艦「ダニエル・イノウエ」が就役すると発表し、翌日には真珠湾のヒッカム統合基地で式典を開催した。日系人にちなんで名付けられた海軍艦艇の就役は初めてである。
米国は完璧な国でない。コロナ禍の影響で、ニューヨークなどではアジア人に対する攻撃が増えているという。
しかし、日本として米国から学ぶべきことは多い。
一方、日本では戦争の指導者を何とか復権させようとする人たちがいる。しかし、日本の権益を強引に拡張しようとして各国に侵略し多数の住民を殺傷し、日本人も約3百万人犠牲にしたことなどは隠すべきでない。真正面から反省すべきことである。日本が行ったことは侵略でなかったという歴史観を公然と口にする政治家を日本の指導者とするようなことはあってはならないことである。
日米開戦80年と日系人の奮闘
日米開戦から80年になる。戦争中、約12万人の日系人が砂漠や荒れ地などの強制収容所に入れられた。一方、日系人部隊の第442連隊戦闘団(442nd Regimental Combat Team)がヨーロッパ戦線に投入され、米国を守るために多大の犠牲を払いながらよく戦い、米国史上もっとも多くの勲章を受けた連隊となった。当時、米国には、日系人は戦争の展開いかんでは米国にとって危険な存在になるという考えがあった。同じ米国の敵であったドイツとイタリア系のアメリカ人たちは、短い期間だけ拘留された人はいたが、集団として強制収容されることはなかった。日系人だけが恐れられたのは、人種的差別的な観念にとりつかれた米国政府が日本人集団は危険だと誤解したからであった。
日系人同士でまとまろうとする傾向が多少あったかもしれない。しかし、大部分の日系人は歴史や伝統、政治状況、人種問題などが異なる米国ではあるが、溶け込むためにさまざまな努力を重ね、米国という社会に属していることを重視し、米国社会の一員であることに誇りを持っていた。要するに、日系人は米国という集団を大切にしていたのであるが、米国政府にはその点に対する理解が欠けており、日本人は敵国の日本に忠実であると誤解したのであった。米国では、個人主義的な考えから、そもそも「集団」について積極的意義を認めることが少なかったことが背景にあった。
一般論として「集団」は積極的にみられることもあれば、あまり評価されないこともある。米国人は、米国社会を大切にしたいとする意味では「集団」を重視していたのであるが、民族や言葉の違いのほうが大きな問題だと考える傾向があったのだ。ようするに人種差別的傾向が強かったのである。ドイツ人やイタリア人には同じ仕打ちをしなかったことはその傾向を明らかに示していた。
ただし、米国の政府・軍には日系人の義務遂行能力を高く評価する向きもあったらしい。これは強制収容とは真逆の考えであり、そのことも考え合わせれば、米国は人種差別一色で染まっていたわけではなさそうである。
ともかく、戦争終了後一定の期間は必要であったが、米国政府は日系人の強制収容は誤りであったことに気づき、レーガン大統領は1988年、日系人に謝罪し、「市民の自由法(強制収容補償法)」に署名した。また、それから78年後の2020年2月20日、米カリフォルニア州議会下院本会議は、第二次大戦中の強制収容など不当な扱いにより日系人の公民権と自由を守れなかったことを謝罪する決議案を可決した。米国には今でも強制収容について反省しない人もいるが、それは少数であり、連邦政府やカリフォルニア州議会は、過去の過ちをはっきりと反省した。立派な態度であり、米国の強さでもある。
米国のオースティン米国防長官は7日、日米開戦から80年の節目に当たり「かつての敵は今や親友になった」との声明を発表し、日米同盟の重要性を再確認した。
米海軍は同日、故イノウエ元上院議員の名を冠したイージス駆逐艦「ダニエル・イノウエ」が就役すると発表し、翌日には真珠湾のヒッカム統合基地で式典を開催した。日系人にちなんで名付けられた海軍艦艇の就役は初めてである。
米国は完璧な国でない。コロナ禍の影響で、ニューヨークなどではアジア人に対する攻撃が増えているという。
しかし、日本として米国から学ぶべきことは多い。
一方、日本では戦争の指導者を何とか復権させようとする人たちがいる。しかし、日本の権益を強引に拡張しようとして各国に侵略し多数の住民を殺傷し、日本人も約3百万人犠牲にしたことなどは隠すべきでない。真正面から反省すべきことである。日本が行ったことは侵略でなかったという歴史観を公然と口にする政治家を日本の指導者とするようなことはあってはならないことである。
2021.12.06
中国はこれに反発したのであろう。数日前から大々的な反民主主義サミット・キャンペーンを始め、中国外務省は2日、「何が民主で、誰が民主を定義するのか」と題する座談会を開いた。また各地の大学やシンクタンクも同様の討論会を開催。国営メディアも民主主義についての記事やインタビューを相次ぎ掲載した。
3日には王毅国務委員兼外相が、友好国パキスタンのクレシ外相との電話会談で、「米国の目的は民主主義ではなく、覇権を守ることにある」「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」などと対米批判を行った。
そして4日、中国政府は「中国の民主」と題する白書を発表し、「長い間、少数の国々によって民主主義の本来の意味はねじ曲げられてきた。一人一票など西側の選挙制度が民主主義の唯一の基準とされてきた」などと主張した。
中国は2019年に習近平主席が上海視察を行った時から「全過程人民民主」をとなえ、自国の現実や歴史に根ざして実践する民主主義を主張し、地方レベルの直接選挙や人民代表大会など、中国では政策の立案から実施まで様々なプロセスで民主制度が機能しているというが、中国の選挙が共産党の指導の下で行われており、選挙民が自由の意思で投票できないことは世界の常識である。
ただ、中国が米国を批判していることには賛成する国が多数あるだろう。世界中の2百弱の国々の中で、民主的な国家はその半数に満たないので、中国は非民主主義的な多数の国家が賛成するであろうことを見越して、米国批判を行っているのである。王毅外相の「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」との発言も「国の数では負けない」という意味である。
しかし、中国が米国を批判してもどのような効果が期待できるか、国際政治の実態が変わるわけでなく、宣伝に終わることは目に見えている。
一方、バイデン大統領による「民主主義サミット」の呼びかけについても唐突な感じはあったが、中国は最近わが道を行くと言わんばかりの姿勢を強め、また台湾に対して実力行使を示唆するともとられる言動を行っている。民主主義の諸国家が、専制主義の中国などと対峙するのも辞さないとの姿勢を示し、また台湾に対する支持を表明することは時宜にかなっている。
「民主主義サミット」と「中国の民主」白書
バイデン大統領は12月9、10日、110を超(こ)える国家・地域の指導者を招いて、オンライン形式で「民主主義サミット」を開催する。NGOや市民団体の代表らも招かれている。中国はこれに反発したのであろう。数日前から大々的な反民主主義サミット・キャンペーンを始め、中国外務省は2日、「何が民主で、誰が民主を定義するのか」と題する座談会を開いた。また各地の大学やシンクタンクも同様の討論会を開催。国営メディアも民主主義についての記事やインタビューを相次ぎ掲載した。
3日には王毅国務委員兼外相が、友好国パキスタンのクレシ外相との電話会談で、「米国の目的は民主主義ではなく、覇権を守ることにある」「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」などと対米批判を行った。
そして4日、中国政府は「中国の民主」と題する白書を発表し、「長い間、少数の国々によって民主主義の本来の意味はねじ曲げられてきた。一人一票など西側の選挙制度が民主主義の唯一の基準とされてきた」などと主張した。
中国は2019年に習近平主席が上海視察を行った時から「全過程人民民主」をとなえ、自国の現実や歴史に根ざして実践する民主主義を主張し、地方レベルの直接選挙や人民代表大会など、中国では政策の立案から実施まで様々なプロセスで民主制度が機能しているというが、中国の選挙が共産党の指導の下で行われており、選挙民が自由の意思で投票できないことは世界の常識である。
ただ、中国が米国を批判していることには賛成する国が多数あるだろう。世界中の2百弱の国々の中で、民主的な国家はその半数に満たないので、中国は非民主主義的な多数の国家が賛成するであろうことを見越して、米国批判を行っているのである。王毅外相の「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」との発言も「国の数では負けない」という意味である。
しかし、中国が米国を批判してもどのような効果が期待できるか、国際政治の実態が変わるわけでなく、宣伝に終わることは目に見えている。
一方、バイデン大統領による「民主主義サミット」の呼びかけについても唐突な感じはあったが、中国は最近わが道を行くと言わんばかりの姿勢を強め、また台湾に対して実力行使を示唆するともとられる言動を行っている。民主主義の諸国家が、専制主義の中国などと対峙するのも辞さないとの姿勢を示し、また台湾に対する支持を表明することは時宜にかなっている。
2021.11.19
その後、彭帥氏の所在・安否が分からなくなった。
現在、中国の検閲当局は、彭さんが投稿したとされる内容への言及をすべてブロックしており、どの検索エンジンを使っても何も出なくなっている。
彭さんを心配する声が各方面から上がり、女子テニス協会(WTA)のサイモン最高経営責任者(CEO)は14日、「深い懸念」を表明。性暴力は「最大限に深刻に」受け止められるべきだと主張し、「完全で、公正で、透明性があり、検閲のない調査が行われなければならない」と強い口調で訴えた。
彭さんの友人たちも相次いで懸念を表明した。大坂なおみ選手は「彭帥はどこにいるの」を意味するハッシュタグを付け、「いかなる場合でも検閲は許されない」と批判した(17日のツイッター投稿)。またノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)も15日、記者団に対し「消息不明は衝撃的。過去のツアー戦で顔を合わせていた人物ならなおさらだ」と語った。
一方、中国国営の英語放送CGTNは18日、彭さんがWTA宛てに、「(WTAの声明文は)根拠も実証もなく、自分の同意なく公表されたものだ」と述べ、「性的暴行の申し立てを含むニュースは真実ではない」「私は安全で、自宅で休んでいる」などと、協会側に伝えたとするEメールを公表した。
これに対し、サイモン氏は18日、「かえって彼女の安全と消息への懸念が高まった」とコメントし、メールが本物だとは信じられないとの見方を示した(18日、AFPなど)。
中国側と国際社会の見方が対立しているわけだが、CGTNの報道は国際社会の納得を得られないだろう。中国のメディアは政府・党の厳しい統制下にあり、その意に反した報道はできないからだ。
日本も含め各国のメディアは常に厳しいチェックを受けている。政府や党によるチェックでなく、世界の読者によるチェックである。具体的には、政治の影響を受けない自由な報道であること、客観的な証拠によって裏付けられていること、透明性が確保されていることなどであり、それらを満たして初めて世界に真実を伝えることができる。そのような要件を満たすことなく、政府や党の指示に従ったものは宣伝に過ぎない。
彭さんに関するCGTNの18日報道は、残念ながら、それらの要件を満たしていないのではないか。だから、世界の懸念を払しょくすることはできないのではないか。
今回の事件は、コロナ禍に関し、ウイルスの起源を調査した際のことも想起させた。中国当局は多大の努力を払ってWHOや各国専門家と合同調査を行った。しかし、中国側は世界を納得させることはできなかった。一部であるが重要な点について実態をさらけ出すことができなかったからである。
厳しい言論統制は中国政府・党が必要を感じて行っているのだろうが、果たして中国の利益になっているか、むしろ逆に不利益になっているのではないか。世界は、中国に対して宣伝でなく、客観的な報道を願っている。
彭帥選手の告白
中国テニス界の女子スター選手で、かつては世界のトップクラスであった彭帥(Peng Shuai)さんが、張高麗(Zhang Gaoli)前副首相兼共産党政治局常務委員から性的関係を強要されたとソーシャルメディアで告発した(11月2日、微博への投稿)。しかし、その情報は4日までに検閲対象となりインターネット上から削除された。ただし、削除される以前に10万回以上閲覧されており、その内容は一部に出回っていたという。彭さんが張氏に性行為を迫られたと訴える投稿のスクリーンショットとされる画像には、情感のこもった長文で「とても怖かった」とつづられていた。また、「たとえ岩に卵を投げつけるような行為にすぎないとしても、自ら火に飛び込んで身を滅ぼすガとなっても、私は事実を話す」と書かれていた。その後、彭帥氏の所在・安否が分からなくなった。
現在、中国の検閲当局は、彭さんが投稿したとされる内容への言及をすべてブロックしており、どの検索エンジンを使っても何も出なくなっている。
彭さんを心配する声が各方面から上がり、女子テニス協会(WTA)のサイモン最高経営責任者(CEO)は14日、「深い懸念」を表明。性暴力は「最大限に深刻に」受け止められるべきだと主張し、「完全で、公正で、透明性があり、検閲のない調査が行われなければならない」と強い口調で訴えた。
彭さんの友人たちも相次いで懸念を表明した。大坂なおみ選手は「彭帥はどこにいるの」を意味するハッシュタグを付け、「いかなる場合でも検閲は許されない」と批判した(17日のツイッター投稿)。またノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)も15日、記者団に対し「消息不明は衝撃的。過去のツアー戦で顔を合わせていた人物ならなおさらだ」と語った。
一方、中国国営の英語放送CGTNは18日、彭さんがWTA宛てに、「(WTAの声明文は)根拠も実証もなく、自分の同意なく公表されたものだ」と述べ、「性的暴行の申し立てを含むニュースは真実ではない」「私は安全で、自宅で休んでいる」などと、協会側に伝えたとするEメールを公表した。
これに対し、サイモン氏は18日、「かえって彼女の安全と消息への懸念が高まった」とコメントし、メールが本物だとは信じられないとの見方を示した(18日、AFPなど)。
中国側と国際社会の見方が対立しているわけだが、CGTNの報道は国際社会の納得を得られないだろう。中国のメディアは政府・党の厳しい統制下にあり、その意に反した報道はできないからだ。
日本も含め各国のメディアは常に厳しいチェックを受けている。政府や党によるチェックでなく、世界の読者によるチェックである。具体的には、政治の影響を受けない自由な報道であること、客観的な証拠によって裏付けられていること、透明性が確保されていることなどであり、それらを満たして初めて世界に真実を伝えることができる。そのような要件を満たすことなく、政府や党の指示に従ったものは宣伝に過ぎない。
彭さんに関するCGTNの18日報道は、残念ながら、それらの要件を満たしていないのではないか。だから、世界の懸念を払しょくすることはできないのではないか。
今回の事件は、コロナ禍に関し、ウイルスの起源を調査した際のことも想起させた。中国当局は多大の努力を払ってWHOや各国専門家と合同調査を行った。しかし、中国側は世界を納得させることはできなかった。一部であるが重要な点について実態をさらけ出すことができなかったからである。
厳しい言論統制は中国政府・党が必要を感じて行っているのだろうが、果たして中国の利益になっているか、むしろ逆に不利益になっているのではないか。世界は、中国に対して宣伝でなく、客観的な報道を願っている。
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