2017 - 平和外交研究所 - Page 28
2017.05.04
蔡氏は先月29日には英語で、「台湾は今年のWHO総会から排除されるべきではない。保健分野の問題は国境では止まらない。台湾の役割は重要だ」などとアピールしていた。
WHOの年次総会は5月22日から開催されるが、招待状がまだ届かないからだ。台湾はWHO総会に2009年以来オブザーバー参加している。いまだに届かないのは中国が蔡英文総統に不満だからだろう。不満の原因は、蔡英文氏が「一つの中国」に関する中国の主張に従わないからだろうが、蔡英文氏は個人的好みで中国の主張に従わないのではない。台湾の民意を代表してのことであり、それは尊重されるべきではないか。。
台湾の法的な地位を認めよというのではない。台湾は東アジアで疫病対策などに重要な役割を果たしており、WHOの業務遂行にとって不可欠であることにふさわしい扱いをすべきだ。
蔡英文総統がこのように繰り返しアピールしているのは、よほど困難な状況に陥っているからなのだろう。日本は米国とともに、台湾のオブザーバー参加が例年通り実現するよう最大限支持し、協力すべきである。
日本は台湾のWHO総会への参加を支持すべきだ
台湾の蔡英文総統は3日、ツイッターに日本語で「台湾は国際医療活動を取り組んできました。医療環境の厳しい国々と共に頑張ってこられた台湾の世界に対する貢献です」とつぶやいた。蔡氏は先月29日には英語で、「台湾は今年のWHO総会から排除されるべきではない。保健分野の問題は国境では止まらない。台湾の役割は重要だ」などとアピールしていた。
WHOの年次総会は5月22日から開催されるが、招待状がまだ届かないからだ。台湾はWHO総会に2009年以来オブザーバー参加している。いまだに届かないのは中国が蔡英文総統に不満だからだろう。不満の原因は、蔡英文氏が「一つの中国」に関する中国の主張に従わないからだろうが、蔡英文氏は個人的好みで中国の主張に従わないのではない。台湾の民意を代表してのことであり、それは尊重されるべきではないか。。
台湾の法的な地位を認めよというのではない。台湾は東アジアで疫病対策などに重要な役割を果たしており、WHOの業務遂行にとって不可欠であることにふさわしい扱いをすべきだ。
蔡英文総統がこのように繰り返しアピールしているのは、よほど困難な状況に陥っているからなのだろう。日本は米国とともに、台湾のオブザーバー参加が例年通り実現するよう最大限支持し、協力すべきである。
2017.05.03
「 純粋に仮定の話ですが、北朝鮮から日本が攻撃された場合、日本は自衛のためにどのような行動を取れるか。まず、憲法の規定を確認しておきましょう。
1946年に発布された新憲法は第9条で、日本国は国際平和を誠実に希求すること、そのため戦争を永久に放棄すること、武力行使も原則しないことなどを定めました。当初はこの規定により、外国から日本が攻撃された場合でも武力で反撃できないという解釈が有力でした。
しかし、1950~53年のいわゆる朝鮮戦争を経て54年、日本国政府は「憲法は戦争を放棄したが、自衛のために他国からの武力攻撃を阻止することは憲法に違反しない」との解釈を打ち出し、自衛隊は憲法に違反しないと判断しました。今日、この解釈は大多数の日本国民によって受け入れられていると言えるでしょう。
なお、ここで言う「自衛」とはわが国を防衛することであり、「他国の防衛」である「集団的自衛権の行使」と区別して「個別的自衛権の行使」と呼ばれています。
実際には、「武力攻撃」と言ってもさまざまな形態があり、核兵器を搭載したミサイルによって極めて短い時間で圧倒的な破壊力のある攻撃が行われることも考えられます。ピョンヤンと東京の直線距離は約1200キロであり、発射後数分間で東京を全滅させる攻撃もありうるのです。
したがって、自衛行動は迅速にしなければならないのですが、早すぎると相手国から武撃が行われるより先にこちらが攻撃を仕掛けること、つまり、憲法上認められない「先制攻撃」になってしまいます。これは非常に微妙で、悩ましい問題ですが、日本政府は、従来、「武力攻撃の着手時をもって、武力攻撃の発生があった」と解し、「着手の有無は、諸般の事情を勘案し個別具体的に判断する」との基準を示していました。これでもまだ抽象的ですが、国内政局や安全保障上の考慮から、一定程度曖昧にせざるを得ませんでした。
この難問についての判断基準を明確化したのは、2003年に成立した「武力攻撃事態法」であり、これは2015年に行われた一連の安保関連法制の改正で「存立危機事態」が追加されました。
改正されたこの法律では、武力攻撃が発生する前の段階を「武力攻撃予測事態」とし、発生した後の事態をさらに「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(簡単に「武力攻撃事態」)」と「武力攻撃」に分けました。分かりやすくするためその違いをあえて単純化して言えば、「武力攻撃事態」は、たとえば砲弾が日本に向かって飛んでくる状況のことであり、「武力攻撃」は砲弾が実際に日本に到達してからのことです。以前の解釈では「武力攻撃の着手」とされていた事態を「武力攻撃事態」とし、その中に「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」を含めたのです。
では、「武力攻撃事態」または「武力攻撃」が発生した場合、日本はどう対応するのでしょうか。この法律は、武力攻撃を「排除する」および「速やかにそれを終結させる」とし、その場合にも「武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」と規定しました。要するに、必要最小限度の武力で、相手国からの武力攻撃を「排除、あるいは終結させる」としたのです。
この任務にあたる自衛隊は、朝鮮半島にまで行けるでしょうか。法律は何も明示していませんが、いわゆる集団的自衛権を行使する場合は外国へ行くことも想定されているので、個別的自衛権行使の場合でも自衛隊は朝鮮半島で必要な行動を取ることがあると解釈すべきでしょう。
具体的には、北朝鮮の核やミサイルの施設も自衛隊による「排除や終結」、分かりやすく言えば、「破壊」の対象になると思います。
日本国政府は、憲法および関連の法律に基づき、PAC3などのシステムを構築して防衛に努めていますが、核を搭載したミサイルにより巨大な破壊力のある攻撃が極めて短い時間で、また、また複数の施設から行われる恐れがあることにかんがみると、武力行使による自衛が常に有効か、限界があるのではないかと言わざるを得ません。
本稿を締めくくるに際して、外交的手段で問題を解決することが、迂遠に見えてもより安全な道であることをあらためて付言しておきます。トランプ大統領が5月1日に「金正恩委員長と会談してもよい」と述べたことは重要であり、米朝両国が対話による解決を模索することを期待しています。
武力攻撃されたらどこまで反撃できるか
日本が外国から武力攻撃された場合に自衛としてどこまで反撃できるか、以下の一文を「ザ ページ」に寄稿した。「 純粋に仮定の話ですが、北朝鮮から日本が攻撃された場合、日本は自衛のためにどのような行動を取れるか。まず、憲法の規定を確認しておきましょう。
1946年に発布された新憲法は第9条で、日本国は国際平和を誠実に希求すること、そのため戦争を永久に放棄すること、武力行使も原則しないことなどを定めました。当初はこの規定により、外国から日本が攻撃された場合でも武力で反撃できないという解釈が有力でした。
しかし、1950~53年のいわゆる朝鮮戦争を経て54年、日本国政府は「憲法は戦争を放棄したが、自衛のために他国からの武力攻撃を阻止することは憲法に違反しない」との解釈を打ち出し、自衛隊は憲法に違反しないと判断しました。今日、この解釈は大多数の日本国民によって受け入れられていると言えるでしょう。
なお、ここで言う「自衛」とはわが国を防衛することであり、「他国の防衛」である「集団的自衛権の行使」と区別して「個別的自衛権の行使」と呼ばれています。
実際には、「武力攻撃」と言ってもさまざまな形態があり、核兵器を搭載したミサイルによって極めて短い時間で圧倒的な破壊力のある攻撃が行われることも考えられます。ピョンヤンと東京の直線距離は約1200キロであり、発射後数分間で東京を全滅させる攻撃もありうるのです。
したがって、自衛行動は迅速にしなければならないのですが、早すぎると相手国から武撃が行われるより先にこちらが攻撃を仕掛けること、つまり、憲法上認められない「先制攻撃」になってしまいます。これは非常に微妙で、悩ましい問題ですが、日本政府は、従来、「武力攻撃の着手時をもって、武力攻撃の発生があった」と解し、「着手の有無は、諸般の事情を勘案し個別具体的に判断する」との基準を示していました。これでもまだ抽象的ですが、国内政局や安全保障上の考慮から、一定程度曖昧にせざるを得ませんでした。
この難問についての判断基準を明確化したのは、2003年に成立した「武力攻撃事態法」であり、これは2015年に行われた一連の安保関連法制の改正で「存立危機事態」が追加されました。
改正されたこの法律では、武力攻撃が発生する前の段階を「武力攻撃予測事態」とし、発生した後の事態をさらに「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(簡単に「武力攻撃事態」)」と「武力攻撃」に分けました。分かりやすくするためその違いをあえて単純化して言えば、「武力攻撃事態」は、たとえば砲弾が日本に向かって飛んでくる状況のことであり、「武力攻撃」は砲弾が実際に日本に到達してからのことです。以前の解釈では「武力攻撃の着手」とされていた事態を「武力攻撃事態」とし、その中に「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」を含めたのです。
では、「武力攻撃事態」または「武力攻撃」が発生した場合、日本はどう対応するのでしょうか。この法律は、武力攻撃を「排除する」および「速やかにそれを終結させる」とし、その場合にも「武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」と規定しました。要するに、必要最小限度の武力で、相手国からの武力攻撃を「排除、あるいは終結させる」としたのです。
この任務にあたる自衛隊は、朝鮮半島にまで行けるでしょうか。法律は何も明示していませんが、いわゆる集団的自衛権を行使する場合は外国へ行くことも想定されているので、個別的自衛権行使の場合でも自衛隊は朝鮮半島で必要な行動を取ることがあると解釈すべきでしょう。
具体的には、北朝鮮の核やミサイルの施設も自衛隊による「排除や終結」、分かりやすく言えば、「破壊」の対象になると思います。
日本国政府は、憲法および関連の法律に基づき、PAC3などのシステムを構築して防衛に努めていますが、核を搭載したミサイルにより巨大な破壊力のある攻撃が極めて短い時間で、また、また複数の施設から行われる恐れがあることにかんがみると、武力行使による自衛が常に有効か、限界があるのではないかと言わざるを得ません。
本稿を締めくくるに際して、外交的手段で問題を解決することが、迂遠に見えてもより安全な道であることをあらためて付言しておきます。トランプ大統領が5月1日に「金正恩委員長と会談してもよい」と述べたことは重要であり、米朝両国が対話による解決を模索することを期待しています。
2017.05.02
トランプ新政権は発足直後から北朝鮮問題に強い関心を向け、北朝鮮政策の再検討を行った。その結果、4月中旬につぎのような新政策が決定されたと言われている。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置も検討する。
この間、ティラーソン国務長官は「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」とも言っていた。3月16日、岸田外相と会談後の記者会見での発言だ。その後、ティラーソン氏は韓国で、「すべての選択肢がある」と述べたので、軍事行動もありうるという憶測を呼んだ。
北朝鮮においては、4月に金日成主席の誕生日(15日)をはじめ、いくつかの重要行事があり、その際に、第6回目の核実験やICBMの実験を行うかもしれないと騒がれていた。
そのさなかの12日、トランプ大統領はFox Business Channelのインタビューで、「空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を朝鮮半島に送っている。非常に強力な無敵艦隊」などと発言した。この発言は、少し前のシリアに対するミサイル攻撃やアフガニスタンでの世界最大の通常爆弾の使用とあいまって、米国が先制攻撃をも辞さない姿勢の表れとして大騒ぎになった。諸報道の見出しには「武力行使」「4月危機」などの言葉が躍った。
しかし、カール・ビンソンは、4月15日を過ぎても朝鮮半島付近に現れなかった。それどころか、実際には非常にゆっくり北上しており、北朝鮮の行動を警戒するとか、先制攻撃するとかいうような状況ではなかった。カール・ビンソンが日本海へ入ったのははるか後の4月29日、北朝鮮が危険な行動に出るかもしれないと警戒されたいた時を過ぎた後であった。トランプ氏の発言は「はったり」だったのだ。
トランプ政権はなぜ北朝鮮政策に力を入れるのか。核やICBMは米国にとってレッドライン、すなわち見逃すことのできない一線だとも言われているが、冷戦時代ソ連と対峙した経験を持つ米国は北朝鮮の核・ミサイルを恐れるはずがない。米国がインドやパキスタンの核は恐れず、北朝鮮を恐れるのは金正恩委員長という危険な人物が指導者になっているからだという説明しかありえないが、トランプ氏はそのように単純な見方をしていなかった。そのことは、後で述べる金正恩氏に対する評価ではっきりした。
一つ言えることは、トランプ大統領はオバマ氏がしてきたことを否定し、覆そうとしており、北朝鮮についてもそのような姿勢が表れていることである。ティラーソン国務長官もオバマ政権の「戦略的忍耐」は終わったと強調している。
しかし、トランプ政権の北朝鮮問題を重視する理由をオバマ政権否定だけで説明できるか。どうも我々にはよく分からない事情が働いているような気がする。
トランプ大統領が中国に対し北朝鮮への圧力を強めるよう強力に働きかけたことは明白である。その点では、オバマ政権と同じ手法を用いているのだが、トランプ大統領には習近平主席を抱き込む一種独特の手法があり、中国はオバマ時代より一味も二味も違ってきた。中国は北朝鮮に対して、「北朝鮮が再度核実験をすれば、中国は石油の禁輸を含む5項目の措置を取る」と伝えたのだ(米国に本拠がある『多維新聞』4月30日付)。
石油も含め、北朝鮮との取引は国連安保理の決議によりすでに原則としてできなくなっているはずであり、今頃、中国がそのようなことを言うのは奇妙なことだが、中国がこれまで決議をどこまで忠実に履行してきたかの問題には入らないでおこう。ともかく、中国がこのように北朝鮮に対して強い姿勢を取るようになったのはトランプ政権の成果である。
それは結構なことだが、なぜトランプ政権はかくも熱心に北朝鮮問題に力を入れるのか、やはり疑問である。トランプ氏が大統領になる前から言っていた中国の為替操作問題については、「中国の北朝鮮問題についての協力に鑑み為替操作指定しない」と言っているのだが、中国を為替操作国と指定することによって米国が得る利益と、北朝鮮問題で中国が協力することにより米国が得る利益とどちらが大きいか。為替問題の方が大きいのではないか。
こんな疑問が消えないなか、トランプ大統領はさらに驚きの発言を行った。5月1日、米ブルームバーグ通信のインタビューにおいて、「私にとって適切であれば金正恩委員長と会談をすることを光栄に思う」と語ったことである。「会談は適切な状況下で行われることになる」「ほとんどの政治家は絶対に口にしないだろう」とも言っている。
しかし、ホワイトハウスのスパイサー報道官は、トランプ氏のこの発言について、「米朝首脳会談が実現する条件は、現時点で満たされていない」と述べている。
また、米国の核戦略爆撃機編隊は、トランプ氏の発言とほぼ同時のタイミングで韓国の上空を飛行した。米国は今のところ硬軟両様かもしれないが、そうであってもトランプ氏の発言は重要だ。米国の大統領でこのような発言をした人は、トランプ氏が言うように、かつていなかった。1990年代の末、クリントン大統領が北朝鮮訪問を検討し、途中で沙汰やみとなったことがあったが、その時もクリントン氏はトランプ氏のように率直な発言をしなかった。
ともかく、北朝鮮の反応が重要だが、トランプ発言の真意を測りかねているだろう。トランプ氏は2~3週間前は武力攻撃も辞さないと言わんばかりの姿勢を見せていたのに、今度は直接対話を希望していると急に言いだしたのであり、北朝鮮としてはそのまま受け取れない、何か裏があるのではないかと思っていても不思議でない。
朝鮮中央通信は、トランプ発言と同時期に、前述の爆撃機の飛行を含め、米国と韓国の合同演習をいつもの調子で激しく非難しており、今後も北朝鮮は強面の対応を続けるだろう。
しかし、問題はその先である。トランプ発言は真意が測りかねるところがあろうが、米国大統領として初めての発言であることはたしかである。北朝鮮も一歩踏み込んで状況を確かめ、対話の道を探るべきだ。北朝鮮が今回のトランプ発言をうまく受け止め、次の一歩を踏み出していくことが期待される。
北朝鮮と米国-現実とイメージ(その2)
(米国)トランプ新政権は発足直後から北朝鮮問題に強い関心を向け、北朝鮮政策の再検討を行った。その結果、4月中旬につぎのような新政策が決定されたと言われている。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置も検討する。
この間、ティラーソン国務長官は「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」とも言っていた。3月16日、岸田外相と会談後の記者会見での発言だ。その後、ティラーソン氏は韓国で、「すべての選択肢がある」と述べたので、軍事行動もありうるという憶測を呼んだ。
北朝鮮においては、4月に金日成主席の誕生日(15日)をはじめ、いくつかの重要行事があり、その際に、第6回目の核実験やICBMの実験を行うかもしれないと騒がれていた。
そのさなかの12日、トランプ大統領はFox Business Channelのインタビューで、「空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を朝鮮半島に送っている。非常に強力な無敵艦隊」などと発言した。この発言は、少し前のシリアに対するミサイル攻撃やアフガニスタンでの世界最大の通常爆弾の使用とあいまって、米国が先制攻撃をも辞さない姿勢の表れとして大騒ぎになった。諸報道の見出しには「武力行使」「4月危機」などの言葉が躍った。
しかし、カール・ビンソンは、4月15日を過ぎても朝鮮半島付近に現れなかった。それどころか、実際には非常にゆっくり北上しており、北朝鮮の行動を警戒するとか、先制攻撃するとかいうような状況ではなかった。カール・ビンソンが日本海へ入ったのははるか後の4月29日、北朝鮮が危険な行動に出るかもしれないと警戒されたいた時を過ぎた後であった。トランプ氏の発言は「はったり」だったのだ。
トランプ政権はなぜ北朝鮮政策に力を入れるのか。核やICBMは米国にとってレッドライン、すなわち見逃すことのできない一線だとも言われているが、冷戦時代ソ連と対峙した経験を持つ米国は北朝鮮の核・ミサイルを恐れるはずがない。米国がインドやパキスタンの核は恐れず、北朝鮮を恐れるのは金正恩委員長という危険な人物が指導者になっているからだという説明しかありえないが、トランプ氏はそのように単純な見方をしていなかった。そのことは、後で述べる金正恩氏に対する評価ではっきりした。
一つ言えることは、トランプ大統領はオバマ氏がしてきたことを否定し、覆そうとしており、北朝鮮についてもそのような姿勢が表れていることである。ティラーソン国務長官もオバマ政権の「戦略的忍耐」は終わったと強調している。
しかし、トランプ政権の北朝鮮問題を重視する理由をオバマ政権否定だけで説明できるか。どうも我々にはよく分からない事情が働いているような気がする。
トランプ大統領が中国に対し北朝鮮への圧力を強めるよう強力に働きかけたことは明白である。その点では、オバマ政権と同じ手法を用いているのだが、トランプ大統領には習近平主席を抱き込む一種独特の手法があり、中国はオバマ時代より一味も二味も違ってきた。中国は北朝鮮に対して、「北朝鮮が再度核実験をすれば、中国は石油の禁輸を含む5項目の措置を取る」と伝えたのだ(米国に本拠がある『多維新聞』4月30日付)。
石油も含め、北朝鮮との取引は国連安保理の決議によりすでに原則としてできなくなっているはずであり、今頃、中国がそのようなことを言うのは奇妙なことだが、中国がこれまで決議をどこまで忠実に履行してきたかの問題には入らないでおこう。ともかく、中国がこのように北朝鮮に対して強い姿勢を取るようになったのはトランプ政権の成果である。
それは結構なことだが、なぜトランプ政権はかくも熱心に北朝鮮問題に力を入れるのか、やはり疑問である。トランプ氏が大統領になる前から言っていた中国の為替操作問題については、「中国の北朝鮮問題についての協力に鑑み為替操作指定しない」と言っているのだが、中国を為替操作国と指定することによって米国が得る利益と、北朝鮮問題で中国が協力することにより米国が得る利益とどちらが大きいか。為替問題の方が大きいのではないか。
こんな疑問が消えないなか、トランプ大統領はさらに驚きの発言を行った。5月1日、米ブルームバーグ通信のインタビューにおいて、「私にとって適切であれば金正恩委員長と会談をすることを光栄に思う」と語ったことである。「会談は適切な状況下で行われることになる」「ほとんどの政治家は絶対に口にしないだろう」とも言っている。
しかし、ホワイトハウスのスパイサー報道官は、トランプ氏のこの発言について、「米朝首脳会談が実現する条件は、現時点で満たされていない」と述べている。
また、米国の核戦略爆撃機編隊は、トランプ氏の発言とほぼ同時のタイミングで韓国の上空を飛行した。米国は今のところ硬軟両様かもしれないが、そうであってもトランプ氏の発言は重要だ。米国の大統領でこのような発言をした人は、トランプ氏が言うように、かつていなかった。1990年代の末、クリントン大統領が北朝鮮訪問を検討し、途中で沙汰やみとなったことがあったが、その時もクリントン氏はトランプ氏のように率直な発言をしなかった。
ともかく、北朝鮮の反応が重要だが、トランプ発言の真意を測りかねているだろう。トランプ氏は2~3週間前は武力攻撃も辞さないと言わんばかりの姿勢を見せていたのに、今度は直接対話を希望していると急に言いだしたのであり、北朝鮮としてはそのまま受け取れない、何か裏があるのではないかと思っていても不思議でない。
朝鮮中央通信は、トランプ発言と同時期に、前述の爆撃機の飛行を含め、米国と韓国の合同演習をいつもの調子で激しく非難しており、今後も北朝鮮は強面の対応を続けるだろう。
しかし、問題はその先である。トランプ発言は真意が測りかねるところがあろうが、米国大統領として初めての発言であることはたしかである。北朝鮮も一歩踏み込んで状況を確かめ、対話の道を探るべきだ。北朝鮮が今回のトランプ発言をうまく受け止め、次の一歩を踏み出していくことが期待される。
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