2017 - 平和外交研究所 - Page 22
2017.06.21
チェ氏は、米国との協議や核についての北朝鮮の立場をずばりと言える稀有な人物だ。以前は6カ国協議の際の米国との交渉で通訳をしており、英語は堪能だ。マルチの国際会議でも英語で発言できる。
昨年までは米州局の次長であったが、今回のノルウェー協議の際には「米州局長」に昇格していたことが判明した。彼女は次長の時から非常に率直な発言をしていたが、問題にならなかったどころかますます認められているのだ。
そのように振る舞えるのは養父のチェ・ヨンリム(崔永林)元首相の後ろ盾があったからだとも言われていた。チェ・ヨンリム氏は1929年生まれ(1930年生まれとの説もある)で、当然日本語もできるだろう。朝鮮戦争に従軍し、その後順調に党政の重要ポストについてきた人物だ。が、それだけでは保障にならない。チェ・ソンヒ氏は明らかに金正恩委員長の信頼を勝ち得ている。
チェ・ソンヒ局長はノルウェーでの協議から帰国途中の5月13日、北京空港で香港のフェニックステレビなどの取材に応じ、「条件が熟せば、トランプ政権と対話する用意がある。(事務的な協議については)今後も機会があれば、行う」と話した。今後についての方針や、米朝首脳間の会談についても平然と話したのはいかにもチェ・ソンヒ氏らしい。
少し古い話だが、2012年3月、ニューヨークで「北東アジアの平和と協力に関する」会議が開かれた。分かりやすく言えば、北朝鮮問題と米朝関係に関する会議であったが、これにチェ・ソンヒ次長が出席していた。当時は、金正恩氏が父正日氏の後継者となってから間がなく、新体制が安定的に動き出せるか微妙なときだったが、チェ次長はその際も歯切れがよかった。
たとえば、チェ氏は、北朝鮮の核について、「南が核の傘を放棄すれば北は核を放棄する」と言い放った。これに対し、韓国の学者が「本当か」と質問したが、それに対しても「本当だ」と緩まなかった。
私はその場にいて、チェ次長はよほど大胆な女性か、常識的には想像できない強いバックがあるなと感じた。また、チェ次長は、同席していたケリー上院外交委員長(当時、後に国務長官)に対し、「北朝鮮へ来てほしい。そこで議論しよう」とも言った。日本に限らず、他の国では外務省の一介の局次長がケリーのような大物に対して言えることでない。
それから5年以上が経過したが、チェ氏は順調に昇格して米州局長になり、また以前と同様率直な発言を行っている。今後も注目すべき人物だと思う。
北朝鮮外務省米州局長のチェ・ソンヒ(崔善姫)氏
最近、北朝鮮外務省のチェ・ソンヒ(崔善姫)米州局長の名前がメディアに再登場するようになった。きっかけとなったのはさる5月初め、ノルウェーで行われた米朝協議であり、チェ氏は北朝鮮の代表であった。チェ氏は、米国との協議や核についての北朝鮮の立場をずばりと言える稀有な人物だ。以前は6カ国協議の際の米国との交渉で通訳をしており、英語は堪能だ。マルチの国際会議でも英語で発言できる。
昨年までは米州局の次長であったが、今回のノルウェー協議の際には「米州局長」に昇格していたことが判明した。彼女は次長の時から非常に率直な発言をしていたが、問題にならなかったどころかますます認められているのだ。
そのように振る舞えるのは養父のチェ・ヨンリム(崔永林)元首相の後ろ盾があったからだとも言われていた。チェ・ヨンリム氏は1929年生まれ(1930年生まれとの説もある)で、当然日本語もできるだろう。朝鮮戦争に従軍し、その後順調に党政の重要ポストについてきた人物だ。が、それだけでは保障にならない。チェ・ソンヒ氏は明らかに金正恩委員長の信頼を勝ち得ている。
チェ・ソンヒ局長はノルウェーでの協議から帰国途中の5月13日、北京空港で香港のフェニックステレビなどの取材に応じ、「条件が熟せば、トランプ政権と対話する用意がある。(事務的な協議については)今後も機会があれば、行う」と話した。今後についての方針や、米朝首脳間の会談についても平然と話したのはいかにもチェ・ソンヒ氏らしい。
少し古い話だが、2012年3月、ニューヨークで「北東アジアの平和と協力に関する」会議が開かれた。分かりやすく言えば、北朝鮮問題と米朝関係に関する会議であったが、これにチェ・ソンヒ次長が出席していた。当時は、金正恩氏が父正日氏の後継者となってから間がなく、新体制が安定的に動き出せるか微妙なときだったが、チェ次長はその際も歯切れがよかった。
たとえば、チェ氏は、北朝鮮の核について、「南が核の傘を放棄すれば北は核を放棄する」と言い放った。これに対し、韓国の学者が「本当か」と質問したが、それに対しても「本当だ」と緩まなかった。
私はその場にいて、チェ次長はよほど大胆な女性か、常識的には想像できない強いバックがあるなと感じた。また、チェ次長は、同席していたケリー上院外交委員長(当時、後に国務長官)に対し、「北朝鮮へ来てほしい。そこで議論しよう」とも言った。日本に限らず、他の国では外務省の一介の局次長がケリーのような大物に対して言えることでない。
それから5年以上が経過したが、チェ氏は順調に昇格して米州局長になり、また以前と同様率直な発言を行っている。今後も注目すべき人物だと思う。
2017.06.19
改革の主要点は、大きく言って、制度再編と軍の浄化である。
制度改革の一つは、日本軍や国民党軍と戦っていたとき以来の軍の中枢機能を現在の必要性に応じて編成替えすることだ。具体的には、参謀、装備、兵站(兵員・物資の輸送などのロジスティックス)、および共産党の軍内支部(総政治部)が「四大総部」として並んでいたが、そのうち参謀(総参謀部)を特に強化した。他の三つは、「装備発展部」、「 後勤保障部」、「政治工作部」となった。格下げになったと言われており、これらの総部が持っていた機能のうち一部は11の他の機関に振り当てられた。
要するに新体制では、軍の中枢機能が15の機関に再配分されたのだ。そのような制度改正が軍の近代化と能力向上に寄与するか、不明である。中央軍事委員会のコントロールを強化する意味合いがあるとも言われている。
また、中国は7つの大軍区に分けられていたが、これを5大軍区に再編した。これも中央の力を強くするのが目的だろう。軍区はもともと軍閥や○○方面軍から発しており、独立性が強かった。
さらに、兵員数を30万人削減した。この結果兵員定数は約200万人となる。現在、新しい職場へ振替が行われている。
軍の浄化のために行われたのが「反腐敗運動」であり、これについては元中央軍事委員会副主席2名の摘発などすでにかなりの成果が上がっているが、軍内の状況は複雑で反腐敗運動はまだ継続されている。ごく最近も13の省において武装警察(国内の治安維持が任務)で摘発が行われており、さる6月1日には前政治委員の許耀元大将が拘束された。
軍における反腐敗運動については当研究所HPの2015年12月15日付「中国軍の改革」、2017年2月6日付「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」なども参照願いたい。
軍の浄化のためのもう一つの施策が「有償業務」の廃止である。「有償業務」は抗日戦争を戦っていたとき以来軍内で広くおこなわれてきた習慣である。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的であり法律の根拠もある。
中国では、具体的には、通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われていると言う。
「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいのか?
「幼児教育」とは一体何事か、という感じの問題である。
中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロの軍とは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。
習近平政権下で「有償業務」の廃止が決定されたのは2015年11月であった。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたと言う。
残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業など)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画が策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。
(当研究所HP 2017年4月15日付「中国軍における「有償業務」の廃止」)
軍の改革が完成するのは2020年とされている。つまり、今秋の中国共産党第19回全国代表大会(19全大会)以降も継続されるのである。
中国軍の改革
中国では現在軍の改革が行われている。核兵器の開発(初実験は1964年)、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発(配備は1980年代の中葉)、兵員の百万人削減(これも1980年代の中葉)などとも比べられる大きな出来事だ。習近平主席の肝いりで進められているが、今回の改革には複雑な問題が絡んでおり、期待通りの成果があげられるか。とくに軍事能力をどの程度向上させられるか、不確実なことも少なくない。改革の主要点は、大きく言って、制度再編と軍の浄化である。
制度改革の一つは、日本軍や国民党軍と戦っていたとき以来の軍の中枢機能を現在の必要性に応じて編成替えすることだ。具体的には、参謀、装備、兵站(兵員・物資の輸送などのロジスティックス)、および共産党の軍内支部(総政治部)が「四大総部」として並んでいたが、そのうち参謀(総参謀部)を特に強化した。他の三つは、「装備発展部」、「 後勤保障部」、「政治工作部」となった。格下げになったと言われており、これらの総部が持っていた機能のうち一部は11の他の機関に振り当てられた。
要するに新体制では、軍の中枢機能が15の機関に再配分されたのだ。そのような制度改正が軍の近代化と能力向上に寄与するか、不明である。中央軍事委員会のコントロールを強化する意味合いがあるとも言われている。
また、中国は7つの大軍区に分けられていたが、これを5大軍区に再編した。これも中央の力を強くするのが目的だろう。軍区はもともと軍閥や○○方面軍から発しており、独立性が強かった。
さらに、兵員数を30万人削減した。この結果兵員定数は約200万人となる。現在、新しい職場へ振替が行われている。
軍の浄化のために行われたのが「反腐敗運動」であり、これについては元中央軍事委員会副主席2名の摘発などすでにかなりの成果が上がっているが、軍内の状況は複雑で反腐敗運動はまだ継続されている。ごく最近も13の省において武装警察(国内の治安維持が任務)で摘発が行われており、さる6月1日には前政治委員の許耀元大将が拘束された。
軍における反腐敗運動については当研究所HPの2015年12月15日付「中国軍の改革」、2017年2月6日付「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」なども参照願いたい。
軍の浄化のためのもう一つの施策が「有償業務」の廃止である。「有償業務」は抗日戦争を戦っていたとき以来軍内で広くおこなわれてきた習慣である。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的であり法律の根拠もある。
中国では、具体的には、通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われていると言う。
「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいのか?
「幼児教育」とは一体何事か、という感じの問題である。
中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロの軍とは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。
習近平政権下で「有償業務」の廃止が決定されたのは2015年11月であった。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたと言う。
残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業など)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画が策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。
(当研究所HP 2017年4月15日付「中国軍における「有償業務」の廃止」)
軍の改革が完成するのは2020年とされている。つまり、今秋の中国共産党第19回全国代表大会(19全大会)以降も継続されるのである。
2017.06.14
また、いわゆる反腐敗運動を大々的に展開し、既得権益をむさぼっている連中を摘発してきた。その中には中共中央政治局の元常務委員や中央軍事委員会の元副委員長も含まれている。反腐敗運動は権力闘争だとも言われてきた。
一方、急激な改革により国内が不安定化するのは習近平としても困る。学生など民主化勢力が強くなる恐れもある。このようなことを防止するため習近平は言論を強く統制し、従わないものを投獄してきた。
習近平政権は2012年の末に発足したのだが、今秋には5年に1回の中国共産党全国代表大会(19全大会)が開催される。ここで、習近平がこれまで進めてきた諸改革は成功であったことが改めて承認され、習近平政権は第2期目に入ることになる。
そんななか、軍の改革と「国家安全」システムの強化が進行中である。「国家安全」とはいわゆる「公安」が中心と考えてよいが、その範囲はテロ対策、情報工作、インターネットの統制などにも広がっている。最近よく話題になる「スパイの摘発」もこの活動の一環だ。
習近平は2014年1月、中国共産党に「国家安全委員会」を設置し、みずからその主席となった。副主席には李克強および張徳江の2名を、事務局長には習近平の腹心の部下である栗戦書を任命した。
安倍政権の下で国家安全保障会議が設置されたのとほぼ同時期であったが、中国はとくに米国のNSC(National Security Council)を意識しているようである。
国家安全委員会が監督・指導するのは、国務院の国家安全部、全国の公安機関、武装警察、司法部門などであり、軍については総参謀部および総政治部が関係し、さらに外交部や中共中央宣伝部などもかかわっている。
国家安全委員会が設置される以前は、国家安全部が全国の国家安全システムの中心であったが、その実情はほとんど知られておらず、ホームページもなかった。国務院には25の部があるが、ホームページがないのはこの部だけである。
この他、中国軍、外交部、経済部などはそれぞれの安全部門を持っており、その活動はそれらの機関内部に限られていた。つまり国家の安全にかかわることでも特定機関の安全部が管轄の範囲内で処理するだけだったのであり、国務院の国家安全部は全体をよく統括していなかった。
しかし、国家の安全をおびやかす問題は最近多様化し、また、領域をまたがる事案が増加している。各国との関係も複雑化している。旧来のシステムではそのような状況に十分対応できない。軍は行政機関の問題に介入できないし、行政機関は軍に口出しできない。要するに各機関の間に高い垣根があるのだ。各機関の利害関係が衝突することもあるらしい。
2016年末、馬建前副部長が腐敗が原因で失脚した事件は国家安全の在り方を考え直すきっかけになったという。
新設の国家安全委員会はこれまでに、「国家安全法」「反スパイ法」「インターネット安全法」などが制定させ、さらに「国家情報法」を現在審議中である。これらを見ると一定の効果が上がっているようだが、法律の制定ではとても足りないらしい。米国に本拠がある『多維新聞』6月10日付や中国の関係文献は習近平が最近「国家安全観」を打ち出したことに注目するとともに、中国の国家安全システムは将来全面的に改革されるのではないかとの見方を伝えている。
習近平は国の内外、分野・部門を問わない総合的な取り組みの必要性を強調している。それは比較的明確だが、国家安全としては「政治安全、国土安全、軍事安全、経済安全、文化安全、社会安全、科学技術安全、情報安全、生態安全、資源安全、核安全」と11の安全があると指摘しており、これではあまりに広すぎて本当の狙いはよく分からない。
国家安全委員会を頂点とする新システムが期待通りの効果を上げることができるか、さらに事態の推移をみる必要があるが、部分的にはスパイ容疑の摘発増加など実績が上がっている。
しかし、このような状況は訪中する日本人にとって逆に注意が必要だ。環境問題についても同様だが、中国では短期間で対策が強化されることがあり、日本とは異なる国だという認識が弱いと手痛い目にあう危険がある。
習近平主席の国家安全対策の強化
習近平主席は既存の国家機構を動かすだけでは満足しない。行政各部(各省)の上に立つ委員会を次々に設置し、みずからその長となって既存の秩序を揺さぶり、あるいはその是正を図ってきた。また、いわゆる反腐敗運動を大々的に展開し、既得権益をむさぼっている連中を摘発してきた。その中には中共中央政治局の元常務委員や中央軍事委員会の元副委員長も含まれている。反腐敗運動は権力闘争だとも言われてきた。
一方、急激な改革により国内が不安定化するのは習近平としても困る。学生など民主化勢力が強くなる恐れもある。このようなことを防止するため習近平は言論を強く統制し、従わないものを投獄してきた。
習近平政権は2012年の末に発足したのだが、今秋には5年に1回の中国共産党全国代表大会(19全大会)が開催される。ここで、習近平がこれまで進めてきた諸改革は成功であったことが改めて承認され、習近平政権は第2期目に入ることになる。
そんななか、軍の改革と「国家安全」システムの強化が進行中である。「国家安全」とはいわゆる「公安」が中心と考えてよいが、その範囲はテロ対策、情報工作、インターネットの統制などにも広がっている。最近よく話題になる「スパイの摘発」もこの活動の一環だ。
習近平は2014年1月、中国共産党に「国家安全委員会」を設置し、みずからその主席となった。副主席には李克強および張徳江の2名を、事務局長には習近平の腹心の部下である栗戦書を任命した。
安倍政権の下で国家安全保障会議が設置されたのとほぼ同時期であったが、中国はとくに米国のNSC(National Security Council)を意識しているようである。
国家安全委員会が監督・指導するのは、国務院の国家安全部、全国の公安機関、武装警察、司法部門などであり、軍については総参謀部および総政治部が関係し、さらに外交部や中共中央宣伝部などもかかわっている。
国家安全委員会が設置される以前は、国家安全部が全国の国家安全システムの中心であったが、その実情はほとんど知られておらず、ホームページもなかった。国務院には25の部があるが、ホームページがないのはこの部だけである。
この他、中国軍、外交部、経済部などはそれぞれの安全部門を持っており、その活動はそれらの機関内部に限られていた。つまり国家の安全にかかわることでも特定機関の安全部が管轄の範囲内で処理するだけだったのであり、国務院の国家安全部は全体をよく統括していなかった。
しかし、国家の安全をおびやかす問題は最近多様化し、また、領域をまたがる事案が増加している。各国との関係も複雑化している。旧来のシステムではそのような状況に十分対応できない。軍は行政機関の問題に介入できないし、行政機関は軍に口出しできない。要するに各機関の間に高い垣根があるのだ。各機関の利害関係が衝突することもあるらしい。
2016年末、馬建前副部長が腐敗が原因で失脚した事件は国家安全の在り方を考え直すきっかけになったという。
新設の国家安全委員会はこれまでに、「国家安全法」「反スパイ法」「インターネット安全法」などが制定させ、さらに「国家情報法」を現在審議中である。これらを見ると一定の効果が上がっているようだが、法律の制定ではとても足りないらしい。米国に本拠がある『多維新聞』6月10日付や中国の関係文献は習近平が最近「国家安全観」を打ち出したことに注目するとともに、中国の国家安全システムは将来全面的に改革されるのではないかとの見方を伝えている。
習近平は国の内外、分野・部門を問わない総合的な取り組みの必要性を強調している。それは比較的明確だが、国家安全としては「政治安全、国土安全、軍事安全、経済安全、文化安全、社会安全、科学技術安全、情報安全、生態安全、資源安全、核安全」と11の安全があると指摘しており、これではあまりに広すぎて本当の狙いはよく分からない。
国家安全委員会を頂点とする新システムが期待通りの効果を上げることができるか、さらに事態の推移をみる必要があるが、部分的にはスパイ容疑の摘発増加など実績が上がっている。
しかし、このような状況は訪中する日本人にとって逆に注意が必要だ。環境問題についても同様だが、中国では短期間で対策が強化されることがあり、日本とは異なる国だという認識が弱いと手痛い目にあう危険がある。
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